23-17. 図形と方程式Ⅰ
読者の皆様、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
それでは、2022年一発目の投稿をどうぞ!
翌朝。
受勲式まであと5日。
ひたすらに眠り続けたのもあり、寝不足の祟っていた身体はだいぶ復活してきていた。
「んっ……」
意識が覚醒した……と同時に感じる、えもいわれぬ気持ち良さ。
身体の隅々からは疲労感が抜け、頭の中もまるで全てをリセットしたかのようにスッキリとしている。
「くはぁ……よく寝た」
そんな快感をを味わいつつ、パチリと瞼を開く。
照明の消えた部屋、しかしカーテンの隙間からは白い陽光が差し込んで薄暗い。
おぼろげながらも壁時計に目をやれば、2本の針が丁度90°の角をなしている。
「……9時か」
どうやら、昨日の午前中からかれこれ二十ウン時間と寝続けていたようです。
……そりゃあ快眠の気持ち良さもひとしおなワケだ。
ただし、、飲まず食わずで眠っていたその反動もあった。
「……腹減った」
グウゥゥ
僕の独り言を聞いていたかのように食糧を要求するお腹。
……睡眠が満たされたら次は食事、僕の身体はしっかり本能に忠実なようです。
「さて。朝食に行こうか」
活動を始めて音の鳴り止まないお腹を押さえつつ、毛布をどかして起き上がる――――
と同時、丁度扉からノックが響いた。
コンコンッ
「ケースケ。起きてるかしら?」
扉を叩く音が2回と、立て続けに僕を呼ぶ声。
アークが来たみたいだ。
「はーい。起きてるよー」
「先生、一緒に朝ごはんに行きませんか?」
今度はアークじゃない声が返ってきた。
……どうやらシンも居るみたいだ。
「おぅ行く行く! ちょっと待ってて!」
「わんっ!」
……わん。
返答が人間の声じゃないんですけど。
「えっ、チェバ?」
「そーそー! チェバも私もお腹ペコペコだよー!」
「俺も腹減って死んじまいそうだぞ!」
うわっ、コースもチェバもダンも居たのかよ。
もう皆揃ってるじゃんか!
「なので早く出てきて下さい!」
「ケースケ、わたし達待ってるからね」
「オッケー! すぐ行く!」
そう短く答えた僕は、慌ててベッドを飛び降り。
扉越しのプレッシャーをひしひしと感じながら身支度を済ませるのでした。
部屋を出て4人と合流した僕は、「おそーい! 先生チェバに食べられちゃうよー!」「わん!」との恐ろしいお叱りを受けつつも王城内の食堂へと向かった。
王城の宿泊者には食事サービス付きだそうで、2階の食堂へ行けば朝昼晩いつでも温かいご飯を頂けるとのこと。
遅く起きた朝でも安心だ。
「うおぉ……懐かしい」
王城2階、一際大きな扉を開けばそこは懐かしの食堂だ。
異世界転移した直後、『この世界』の右も左も分からなかった頃を思い出すよ。
「ココにしようか」
遅めの朝食で人もマバラ、席は選び放題だ。
適当な机の一角に5人と1匹が並んで座る……と、ほどなくして厨房から朝食が配膳されてきた。
パンにサラダにコンソメスープに、そしてメインの胡椒が効いたグリルチキン。
出来たてで湯気もホカホカな洋風朝食。素朴なメニューとはいえ、空腹の限界まできてしまった僕達にとっちゃ最高のご馳走だ。
匂いだけでも……堪んない。
「じゃあ!」
「「「「「いただきます!!!」」」」」
「ねえ、ケースケ。1ついいかしら?」
「ん?」
食事の最中、スープの器を置いてアークが尋ねる。
「受勲式までの5日間、何か予定はあるの?」
「予定か……全くないな」
ってか、そもそも第二軍団の夜襲が無ければこんなに早く王都入りする必要なかったしね。
「……もう面倒だから自由行動、って感じにしちゃおうか。それで良い?」
投げやりに言ってみたが、誰からも反論は出なかった。
……はい。決定しました。
「それじゃ各自自由行動で。……ちなみにアーク、何かやりたい事でもあったのか?」
「ええ、ちょっとね。個人的な用事があって」
「そっか」
まぁ、折角王都に来た機会なのだ。色々行きたい所とかあるよね。
僕だって神谷とのサシ食事会が控えているし、アキとも一度会っておきたいし。
皆思いのままに5日間を過ごしてもらおう。
その後、食事を終えた僕達は再び各々の部屋へと戻った。
今日何をするか帰り際に尋ねてみたところ、ダンとシンは自慢の武器を手入れ。アークはこれから決めるそう。
コースとチェバは今日も寝て過ごすらしい。【合成Ⅱ】の狼魔獣人モードでは大暴れだったし、果ては天気や雷をも操るほどだったし、相当身体にも効いているみたいだ。ゆっくり休んでね。
では、僕は今日何をするかというと……。
「……あったあった」
部屋の壁に立て掛けておいたリュックから取り出したのは、青い表紙の参考書。
そして計算用紙とペン。
――――そうです!
皆さんもお分かりの通り、数学の勉強だ。
「数学やっちゃうかー」
【恒等Ⅱ】の状態異常無効化といい、【合成Ⅱ】の狼魔獣人モードといい……あれだけ強い魔法を見させられた僕は、『もっと色々な魔法が欲しい』と感じちゃったんだよね。
もっと強い【演算魔法】を、もっと沢山の【演算魔法】を。
そんな気持ちが、僕を数学の勉強へと導いてくれるのだ。……あれだけ数学嫌いだった僕が、何とも不思議な気分です。
「さて」
気を取り直して、リュックから取り出した三点セットを部屋の机に並べる。
カーテンをシャーッと開き、陽光を取り入れる。
明るくなった部屋、天井の照明は無くても十分……だが、机の手元はちょッと暗いのでデスクライトを点灯。
そして椅子に座れば準備完了だ。
「えーっと……」
参考書を手に取り、目次ページを開く。
今回やる単元は――――コレだ。
「図形と方程式、その1…………」
あっと、コレはまた難しい単元がやってきた。
難しすぎて何が何だか理解できないまま通り過ぎていった単元だ。
ただ一つ憶えている事といえば……結局この単元は図形問題なのか計算問題なのか分からなかった事だろうか。
けどまぁ、いずれにせよこの単元を乗り越えなければ新たな【演算魔法】も無いのだ。
……やるしかない。
「それじゃあ……勉強、始めますか!」
パンと手を叩いて気合を入れ、パラパラとページを捲って『図形と方程式(その1)』へと飛んだ。
●図形と方程式(その1)
x、yで書かれた方程式には、x-y平面に描くと直線や円など特徴的な形状のグラフを示すものがある。
これを活かしてグラフを図形と見立てれば、図形的処理を要する問題について図形的処理と計算処理の両面から解を求めることが出来る。
……はい。今回は特に難解な文章から始まりました。
何から何まで理解できないし、『そもそも今回は何を覚えればいいの?』ってトコロだろう。
ただ、今回は割と複雑。なんたって今まで別々だった『図形問題』と『計算問題』が合流する単元なのだ。
参考書を編集する側の此方も、どう解説すれば分かりやすく伝えられるか大変でした。
ということでそんな『図形と方程式』の単元を、三角関数と同様に2単元・全12ポイント構成でお届けするぞ。
それでは行ってみよう!
Point①
『縦横しかない世界で"斜め"の長さを測るには』
――――突然ですが、想像してみてください。
目を覚ましたあなたは、見知らぬ白い立方体の部屋の中に閉じ込められていました。




