23-17-1. 『号外! 号外ッ!!』
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さて。
少しその後の事を話しておこうか。
門番さん達が起きたのを皮切りに、続々と目を覚ました王都中の市民。
ゴーストタウンのような静けさだった王都に騒がしい生活音が戻り、煙突からは美味しそうな匂いを乗せた白煙が立ち上る。
バタンバタンと扉が開き、徐々に賑やかさを取り戻す大通り。
まるで何事もなかったかのように、王都の日常が始まろうとしていた。
けど、王都の日常はそう簡単には始まらなかった。
『なっ、何だコイツは!?』
『真っ黒な……昆虫の魔物なの!?』
『死んでいるのか? 生きてるのか?』
『とっ、とりあえず離れとけ! 王都騎士団を呼んでくる!』
街中には、同級生が倒した黒カマキリの死骸がぽつぽつと散在。
そんなのを見つけようものなら、市民も腰を抜かさずにはいられない。
『だっ……何、だこれ…………』
『まるで地獄だ……』
『…………何があったの』
南門から王都外に出ようとした冒険者が目にしたのは、広大な草原……ではなく壮絶な戦場跡。
戦い慣れしている冒険者でも腰を抜かさずにはいられない。
『そういえば、昨夜の記憶が曖昧だな……』
『そうそう。なんだか急に眠気を感じて……』
『おかしい……何か奇妙だ……』
そして、昨夜について何か違和感を訴える市民。
【眠鱗粉】で強制的に眠らされていたから何が起きたかは知るハズもないけど、何か異変には感づいているらしい。
タダならぬ気配に、王都の市民は恐怖を抱いていた。
しかし、そんな状況を変えたのが我らの誇るクラス委員・神谷だった。
『王都市民の皆様、聞きたまえ!』
南門の外が大変な事になっていると聞きつけ、市民が続々と集まる南門広場。門の外に広がる凄惨な状況を目にし、混乱の一色に染まる人々。
そんな王都市民に向かって、外壁の上から神谷が声を張り上げた。
『実は昨夜、魔王軍が襲ってきた! 第二軍団の夜襲だ!』
魔王軍という単語に反応し、市民の混乱に拍車がかかる。
そこかしこから『魔王軍』やら『襲撃』という不安げな声が上がる。
『だが……安心したまえ! 襲撃してきた魔物は、全て私達が討伐した!』
『これは事実だ! 門番兵一同も保証する!』
沸き上がる市民、安堵と興奮が入り混じる。
南門の戦場跡という物的証拠に門番さん方のお墨付きが加わり、神谷の言を疑う者は誰一人として居ない。
『よって心配は無用! 安心して過ごしたまえ!』
『『『『『ウオオオオオォォォ!!!!』』』』』
『『『『『勇者! 勇者! 勇者! 勇者!』』』』』
そして巻き上がる歓声、からの止まらない勇者コール。
ちょっと恥ずかしかったけど、しっかりと市民の気持ちを受け取ったよ。
また、この神谷のスピーチは程なくして王都の新聞業者が記事に起こし、緊急の号外新聞となって王都中を駆け巡った。
大きな文字で『勇者勢揃い 魔王軍の王都夜襲を撃退す』と銘打たれた紙面は新聞業者から市民へと次々に手渡され、南門からは程遠い王都北部の隅々までも浸透。
一方で同じ情報が門番さん方から王城へと伝えられ、そこから王城の上階へ上階へと伝えられ……そして国王様の耳にも届き。
一時は陥りかけた王都の混乱も、瞬く間に収束した。
『では、私達もここで解散しよう』
『あぁ。そうだな』
南門に集っていた僕達も、一旦お別れだ。
皆それぞれ任務があるハズだし、仕事に戻らなきゃいけないしな。
それに僕達といったら……もう疲労でクタクタ。
アドレナリンが切れた今、もう身体は鉛のように重くなってしまっていた。
『数原君、君達の宿泊先は確保済みだと伺っている。6日後の受勲式に向けて、王城内に5部屋分をと』
『それは助かる』
『ゆっくり休みたまえ』
『おぅ。ありがとう』
『…………それと、例の件。宜しくな』
例の件……あぁ、サシの食事か。
『おぅ。勿論』
『ゆっくり休めよ数原!』
『無理しないでね!』
『また会おうぜ!』
『……それでは皆、解散!』
他の同級生達からも温かい言葉を頂きながら、僕達も解散。
こうして、後に『王都夜襲事件』と呼ばれる第二軍団戦は後片付けも含め一件落着したのでした。
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「あぁー……疲れたぁぁぁ…………」
そして僕達は今、王城の個室の中だ。
解散するや否や、どこへも寄り道せず王城へ直行。この部屋まで通して貰ったのだった。
室内はまるでオシャレなホテルのようで、中々に豪華。
勿論、ベッドはフカフカ羽毛の掛布団つき。
最高だ。
「くぅぅぅっ…………」
眠気を堪えて温水のシャワーだけ浴び、そのままベッドに吸い込まれるように潜り込む。
「あぁー……気持ちいい…………」
横になる事の快感、疲れを癒すという気持ち良さを存分に噛みしめる。
閉じたカーテンの隙間からはまだ明るい陽射しが射し込むが、もうベッドに入ったが最後。
眠気には打ち勝てなかった。
受勲式まではあと6日。
時間はたっぷりある。
「あぁ……おやすみ…………」
溜まった寝不足を取り返すかのごとく、僕達5人と1匹は泥のように眠ったのでした。
読者の皆様、本年も大変お世話になりました。
私・ほいの方は、2021年は人生の中でも一つの大きな変わり目の年でした。色々とあったものの、無事に1年を終えることができました。
世間ではコロナ禍の収まらぬ大変な時期が続きましたが、皆様はどうでしたでしょうか。
本年が良かった方も、残念ながらそうではなかった方も居られるとは思いますが、ぜひ2022年は皆様にとって良い年となるようお祈りしております。
改めまして、本年もありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
良いお年を。
2021年12月31日 ほい




