23-18. サシ
こうして、神谷の協力も借りつつ事後処理は終了した。
爺やは南門詰所の牢屋に収監したし、アニキの亡骸は神谷の肩に担がれた麻袋の中に。
そして僕がギガモスの亡骸も麻袋に収容すれば……これで完璧だ。
「よし……コレで後片付けはお終いだな」
「その通りだ。南門まで戻ろう」
「おぅ」
麻袋を肩に担ぎ上げ、僕達は蟲兵の散らばる草原を南門へと戻った。
「……数原君」
「ん?」
足下のドクモスやモスキートを跨いで進む中、隣の神谷が僕を呼ぶ。
「……今度、2人で一緒に飯でも行かないか」
「おぉ、行こう行こう」
何かと思えば食事のお誘い。
折角王都にやって来たこの機会だし、こちらこそヨロシクです。
「え、でも『2人』って……もしかしてサシ?」
「ああ。駄目かい?」
「いやいや。少し気になっただけで」
「今回は敢えて、君とサシでいきたいのだよ」
「ほぅ」
神谷には幼馴染の可合・強羅がいるし、コッチにはシン達がいる。
彼ら彼女らをわざわざ誘わないって事は……。
「……何、何か秘密の話でもあんの?」
「……まあな」
「何々?」
「君の受勲式が開催されると聞いた時から、私はずっと考えていたのだよ。……『私からも君に、個人的な受勲祝いをしてあげたい』と」
「いやいやそんな」
わざわざ気を遣わなくてもいいのに。
「『この世界』に来てから、君は相当な苦労をしてきた筈だ。クラス委員として私が見守る事も出来ず、君は孤独だったが……しかしそれを乗り越え、強さを手に入れ仲間を手に入れ――――ついに君は功績を挙げた。それを私は労ってあげたい」
「……おぅ」
なおも熱く語る神谷の勢いに気圧されてしまった。
……やれやれ、相変わらずお節介で過保護なクラス委員さんだ。神谷の気持ち、しっかり受け取ることにしよう。
「……それと、実はもう一つ」
「といいますと?」
「色々と聞かせてほしいのだよ。君の……この、3ヶ月間の事を」
そう告げる神谷の目は、さっきまでの優しげな雰囲気とは打って変わって――――燃えていた。
「3ヶ月間……フーリエに滞在してる間の事か」
「ああ。教えてくれたまえ、君が一体何をしていたのか。如何に過ごしていたのか。そして――――如何に強くなったのかを」
「…………」
眼鏡越しにもかかわらず、口ほどに物を言う神谷の目。
真っ直ぐ僕を捉える彼の視線は……ひたすらに強さを求めていた。自身を苛む『自己嫌悪』に打ち勝たんと。
……となったら、僕も協力しなきゃな。
いや、僕で良ければ協力したい。同級生のため、神谷のためなら。
「分かった。……とは言っても神谷は戦闘職で僕は非戦闘職だし、そもそも僕の経験が役に立つかどうかは微妙だけどね」
「それは重々承知の上」
「なら是非」
そう言って互いに頷いた。
「店は私が決めておこう。また後日連絡する」
「よろしく」
なんて話をしながらも足の踏み場を探しながら戦場跡を進み。
気付けば南門まであと少しとなった頃。
「おぉーい! 勇太くぅーん! 数原くぅーん!」
「先生! カミヤさん!」
「「……ん?」」
南門の方から響く澄んだ可憐な声、それと聴き馴染みのある声。
そして外壁上で腕を振る2つの人影。
「……おっ。アレは」
「美優、それにシン君じゃないか」
可合とシンだった。
2人して僕達に何か訴えかけているみたいだけど……どうしたんだろう?
「シン! 可合! どうした?!」
「お二人とも早く戻ってきて下さーい!」
シンの声と同時に2人のジェスチャーが切り替わり、両腕を前でブンブンと扇ぐような仕草。
……帰ってこい、って事か。
「其方で何かあったのかい!」
「うん! 門番さん達が起きそーう!」
「「おっ!」」
門番さん達が目覚める……ということは、【眠鱗粉】の効果が切れるみたいだ。
コレでようやく王都も元に戻る!
「行こう、数原君!」
「おぅ」
寝不足と疲労でクタクタな身体に鞭を打ち、走る神谷の背中を追いかけた。
外壁上への階段を1段飛ばしで駆け上がると、そこには毛布を掛けて寝かせられた門番さん達。
その周りをシン達と同級生が囲み、意識が戻るのを待っていた。
「あ、おかえり。勇太くん、数原くん」
「ただいま。状況はどうだい?」
「こんな感じ。もうすぐ起きそうだよ」
【眠鱗粉】がかなり弱まっているようで、門番さん達がウンウン唸ったり手足を動かしたりしている。
今にも目覚めそうだ。
「……ですが、先生」
「どうしたシン?」
「もし、門番さん達がこのまま起きなかったらどうしましょう……」
「……何言ってんだ」
コイツもう笑っちゃうほどの心配性だな。全く。
目覚めなかったとしても、僕の【恒等Ⅱ】で強制的に睡眠解除してやるさ。
莫大なMPこそ必要だけど、王族から要人から、王都市民の一人残らず叩き起こせばいい。
「だから大丈夫。落ち着いて見とけって」
「はい……」
そうして待つこと数分。
ついに、その時がやってきた。
「……っ」
ふと気が付く1人目の門番さん、ゆっくりと瞼を開く。
「………………はっ」
ボーっとした一瞬の空白の後、思い出したようにビクッと身体を跳ね上げる。
「そっ……そうだ……魔王軍が!」
その声に呼応してか、他の門番さん達も次々と意識を取り戻し。
続々と立ち上がる。
「そうだ! 拙い!」
「魔王軍が攻めてきた!」
「早く応援を呼ん――――
しかし、門番さんの焦りと恐怖は程なく拭い取られた。
「――――大丈夫です。門番さん方」
「……はっ?」
門番さん達の目が捉える、ズラリと並んだ少年少女の姿。
総勢18人。
「あっ、あ、え……」
「貴方がたは……!」
少年少女とはいっても、タダの若い子どもじゃない。
僕達の顔触れを見て……門番さん達は察した。
「勇者様!?」
「しかもこんなに!?」
「勇者様が勢揃いだと!!」
「という事は……魔王軍は? 王都は?」
「安心して下さい」
「全部、僕達が倒しました」
東の空から完全に昇りきった朝陽は、外壁上の僕達を眩しく照らしていた。




