23-21. 転校
「……ふぅ」
さて。
最後に別れたテイラー迷宮合宿から3ヶ月、久し振りに同級生との再会。一通り顔を合わせ、挨拶を交わした。
お互いに色々と積もる話はあるけど……ひとまずソレはまた今度ってことで。
「いやー、皆元気そうで良かったな。なんか懐かしさすら感じちゃったよ」
「懐かしさ、か……分かるよ。数原くんの気持ち」
「確かに。私も同感だ」
神谷と可合に話しかけてみれば、しみじみと頷く2人。
「なんて言うのかなー。こう、その…………」
「こう言っては君に失礼だが、まるで転校した旧友と出会した……そんな心情だ」
「あっそれそれ! さすが勇太くん!」
「転校ですか……」
比喩とはいえ、神谷達の中では転校させられちゃってたんですね僕。
「まあ、私達はみんな王都住まいだから街中でもよく会うしね。なんなら食事会も結構やってるし」
「美優の言う通りだ。事実、『この世界』では幾度か心が折れそうになったが……その度にクラスメイトの存在に救われていた」
「へぇ……」
割と超人クラス委員の神谷でも弱気になるのか。
……ちょっと想像できないや。
「当然だ。私だって所詮人間、というか君はクラス委員を何だと思っているのだい?」
「身体もハートも鋼鉄にされちゃった鉄人」
「……間違ってはいない」
間違ってないのかよ。
いや間違いでしょ。
「しかし数原君、君もそれだ」
「ソレ……?」
と言いますと?
「私は、君もその鉄人に値する存在だと今認識しているよ」
「えっ、いやいやいやそんな! 僕の心なんて鋼鉄どころかガラスだよ? 豆腐だよ?」
「それは知っている」
「……」
……改めてそう言われると悲しい。
「だがしかし、だ。君は『この世界』に来てから知り合いも無く、頼る先人も無かった。その環境下でも十二分な活躍を見せているじゃないか」
「そうそう。受勲式に呼ばれるだなんて尊敬だよ!」
「……っ」
そう言われると嬉しい。
「まっ、まぁ……何より仲間が居てくれたお陰だよ。シン、コース、ダン、それにアークが」
だよな、皆?
――――返事がない。
あれ、すぐそばに居ると思ってたんだけど。
「……皆どこ行った?」
「シン君、ダン君ならばあの中に」
「コースちゃんも居るよ」
2人が指差したのは、いつの間にか新たに出来ていた同級生の人集り。
囲み取材のようにシン、コース、ダンがその中に閉じ込められていた。
「……シン達がいつの間にか有名人になってる」
「ハハッ。悔しいかい?」
「な訳」
別に目立ちたがり屋じゃないし、むしろ逆だからな。
「まぁ、シン達のお陰で僕は寂しくなかったよ。それに……フーリエには加冶くんとか轟くんとか、あと頻繁にアキもよく来てくれたしね」
「ああ」
「なるほど!」
そうそう。
加冶くんも相変わらず古いネタ満載だけど、工房にお邪魔してお喋りしてると楽しいし。
アキはよく出張ついでにCalcuLegaにお邪魔しに来てくれてたよな。
「彼からは君の動向をよく教えて貰っている」
「なんだかんだ、秋内くんも心配がってたんだよ。数原くんのこと」
「へぇ」
……さすがうちのアキさんですわ。
素敵な大親友を手に入れたモンだ。
「今度会った際には、是非とも彼には感謝の意を伝えてあげたまえ」
「勿論」
今この場にアキは居ない。……というのも当然、居るのは戦闘職の同級生だけだ。
戦士でも魔術師ですらないのに居るのなんて僕だけです。
けどまぁ、アキは王都には居るみたいだし。
神谷の言う通り、この機会にちゃんと『ありがとう』って伝えなくちゃな。
「ところで数原君、シン君達と共に居る赤髪の少女は何方様かい?」
「そうそう、私もそれずっと気になってた! 見た感じ、歳は同い年くらいだけど……」
「あぁ。アークか」
確かに神谷達は初見だよな。
僕がアークが出会ったのはテイラー迷宮合宿後の事だったし。
「アークさん、というのかい?」
「そうそう。折角だし、この機会に皆にご紹介して――――
「祝勝の同窓会とは。さぞ気持ち良いでしょうな」
「……っ」
当然に掛けられる、背後からの声。
蘇る数時間前の記憶。
……この声は。
「しまった、忘れてたッ!」
そうだ、爺や! 【外接円Ⅰ】で縛ったっきり放置してたじゃんか!
ヤツは今どこに……っ!
「神谷、可合! 1人だけ捕虜が居たんだけど――――
「数原君、安心したまえ」
「ちゃんと捕まえてるよ」
マジ?
「勿論。彼処に」
そう言って神谷が指差したのは、僕の背後。
2段に積まれた木箱と、その端っこに立て掛けられた……縄でぐるぐる巻きの爺やだった。
「爺や!」
「全く、若者の縛る縄の強さと言ったら容赦ないですぞ。1ミリたりとも動けませぬ」
体は【外接円Ⅰ】と縄に縛られてさながらミノ虫。辛うじて首から上だけが出ている状態だ。
「にしても白衣、随分と気持ちよく寝られておりましたな。拘束したとはいえ、敵の……それも軍団の指揮官を目の前にして」
「…………っ」
そこは反省事項です。しかもまさか敵方に指摘されるとは……何も言い返せません。
ごめんなさい。
「しかしだ、数原君。逆に言えば、最低限の安全を確保するまで君は意識を保ち続けられた訳だ」
「気絶する程の眠気の中、よく頑張ったね。ありがとう数原くん」
「……おう」
2人の言葉がちょっと心に沁みた。
……だが、そうずっとシンミリしている訳にはいかない。
「さて数原君」
「ん?」
「私達にはこれから、すべき事がある」
すべき事……。
あぁ、なんかピンと来たよ。
「……後片付けか」
「正解。この捕虜の取扱をはじめ、戦の後片付け、現状復帰、そして上への報告……いわゆる事後処理だ」
ですよねー。
あぁ、本当はまだ寝足りないんだけど。
もっと寝たいんだけど……まぁ、やるしかないっか。




