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1-1. 後悔

挿絵(By みてみん)

魔方陣の放つ真っ白な光の中、浮遊感が全身を襲う。



「…………ッ」


何が起きてるのかが気になるけど、眩しくて目を開けられない。

後悔や自己嫌悪も忘れ、ただギュッと目を瞑る――――






ズンッ

「うっ」


そんな時間が続いたのも束の間。

グッと全身に衝撃を受けたのを最後に、瞼越しの光がフッと消え……地に足をつけている感覚が戻る。



「…………」


……終わったのか?

そう思い、恐る恐る瞼を開くと――――






「……ここは…………」


そこは、今まで居たハズの自室じゃない。

僕は見た事もない空間に立っていた。



円形の天井に、それを支える柱、そして足元までが白い大理石でつくられた大きなホール。

柱の上側や壁にも大理石の装飾があしらわれ、どこを見ても白一色。


……こういうの詳しくないけど、神聖な空間だって事だけは感じる。




「こっ、ココは……」

「私達は一体……」

「本当に転移しちゃった!」


後ろから響いた聞き覚えのある声に振り向けば……さっき高校で別れたハズの同級生達がすぐそこに。

彼らも驚きを隠せないようで、この神聖ホールをキョロキョロ見ている。




「……マジか」


教室で顔を合わせたばっかりの面々と再び会えて少し安心した。独りじゃなくて良かった。

……けど、同時に実感もする。


今まで自室だったハズなのに、気付いたら見知らぬ神聖ホール。

今まで一人だったハズなのに、気付いたら同級生と一緒。



「本当に異世界転移しちゃったんだ…………」


そう、信じざるを得なかった。






「王女様、勇者召喚は無事完了したようですね」

「はい。御力を貸して下さり、ありがとうございます。光の精霊様」


すると……部屋の隅から、女性の声が神聖ホールに響く。




「……あぁ、我らが神イークスは今ここに勇者を召喚なされました。神への感謝と祈りを」

「神への感謝と祈りを」


そう呟くと2人は目を瞑って上を向き、祈りを捧げる。……何かの儀式かな。


ちょっと遠くからだけど……2人のうち、片方は昨晩の夢に出てきた精霊様だ。髪も服装も同じだな。

もう片方の人は……初めて見る人だ。歳は僕達と同じか少し若めかな。

白いドレスを着て、金髪にちょこんと乗せられたティアラ。『王女様』って精霊様は呼んでたけど。




そんな様子を見ていると……祈りを捧げること数秒、2人は目を開いてこちらを見ると。

ゆっくりと、口を開いた。



「……皆さん。昨夜は突然夢の中にお邪魔してしまい、申し訳ございませんでした。どうかご無礼をお許しください」

「そして、そんな無理なお願いにも関わらず……私達の世界を救うためにお越しくださり、本当にありがとうございます」


そう言うと、2人は静かに深々と頭を下げる。



「「「「「…………」」」」」


見るからに神聖な場所に、相手は知らない人。

完全アウェーな空気に呑まれた僕達も、とりあえず会釈程度に頭を下げてみる――――




「いえいえ。困っている方を助ける事は当たり前です。どうか我々の事はお気になさらず」


この声は……神谷ッ!

こんな雰囲気の中でも、彼だけはいつも通りクラス委員をやっていた。



「……そう仰って頂けると、私達も助かります」

「いえいえ。困った時はお互い様ですから」

「……はい、ありがとうございます」


神谷の喰い付きが強いからか、王女様も若干引いてるじゃんか。

ってか、神谷もよく平常心で居られるな……。






「それでは、僭越ながら自己紹介をさせて頂きます」


気を取り直して、王女様は改めて口を開く。



「私はティマクス王国の王女、アファル・ティマクスと申します。どうぞお見知りおきを」


そう言うと、ドレスをつまんでヒラリとお辞儀。

……そうか。彼女は本当に王女様のようだ。



「そして、私の隣に居られるのが光の精霊様です。皆様を勇者召喚するため、御力を借りておりました」

「どうぞ、改めてよろしくお願いしますね」


そう言い、今度は精霊様も軽く頭を下げる。

僕達も精霊様に会うのは2度目なので、ちょっと距離感は近い。




「では、今度は此方から自己紹介を。……神谷勇太・17歳、男子高校生を務めております! 好物はほうじ茶です!」

「………………あぁ、はい。ありがとうございます」


神谷に至っては距離感がゼロだった。……ってか距離感が近過ぎて王女様が引いちゃってるよ。完全に。

あと好みが渋い。



「では私達も各自自己紹介をしよう。ではまず拳児、君からだ!」

「えっ、おっ俺から!?」

「ああそうだ! 何か問題あるかい?」


そして強羅まで巻き込んであげるな。

幼馴染同士とはいえ、突然の無茶振りに戸惑ってるじゃんか。




「……とっ、とりあえず、こんな儀式の間で立ち話もなんですから移動しませんか。ね、王女様?」

「…………そ、そうですね」


ここで精霊様のナイスフォロー。

呆気に取られていた王女様も、なんとか再起動したみたいだ。




「それでは、勇者様方もお疲れでしょうから、王城の食堂へとご案内しますね」

「カミヤ様方の自己紹介も、そちらで致しましょう」


そう言うと、2人は振り返り。

神聖ホール改め、『儀式の間』の出口の方へと向かう。



「そうですね。それが良い!」


そんな2人へと、走ってついていく神谷。




「……君達も早くきたまえ! 迷子になってしまうぞ!」


足を止めて振り返り、まるで生徒集会に向かうかのノリで僕達を呼ぶ神谷。

……神谷の気持ちには誰一人ついて行けなかったけど、なんとか僕達は神谷の背中を追ってついて行ったのでした。











そんな人の波に乗って儀式の間を出ようとした、その時。



ガラガラガラッ…………

「おい計介!」


後ろから響く聞き覚えのある音と、僕を呼ぶ声。

……この声はッ!



「アキじゃんか!」

「よぉ。夕方以来だな。無事で何よりだぜ」


振り返れば、後ろからはキャリーケースを引き摺ったアキが駆け寄っていた。



「アキこそ、また会えて良かったよ。……それにしても本当に僕達、召喚されちゃったんだな」

「みてぇだな。……俺も信じられねぇけど」


そう言いながら、僕の隣に追いつくアキ。

黒の大きいキャリーケースを引き摺り、キャスターをゴロゴロ言わせながら一緒に歩く。



「それがアキの言ってた、重要物(キーアイテム)のキャリーケース?」

「おぅ。秋内家の旅行用に持ってるデッケぇのを拝借して、色々と詰め込んで来たぜ」

「そっか。…‥で、例の作戦はどうだった?」


『中身パンパンのキャリーケースにする』とか言ってたけど、結果はどうだったんだろう?




「あぁ、成功したみたいだぜ。ぃよっと……」


すると、キャリーケースを持ち上げるアキ。

……見るからに重そう。



「フゥー……」

ガタッ


勢い良くキャリーケースを着地すると、キャスターが大きな音を上げる。



「ちゃんとずっしり重てぇからな。女神様はちゃんと中身も送ってくれたようだ」

「おぉ、目論見成功じゃんか。キャリーケースだけにならなくて良かったね」

「ハハッ、それな」


あぁー、良かった良かった。コレでもし僕に何かあっても、最悪アキを頼りにできそうだ。






そんな会話を交わしつつ、周囲の同級生に目を向けると……皆、日本から持ってきたであろう重要物(キーアイテム)を手にしている。

アカラサマに武器だったり、そうじゃなくてもサバイバルっぽい物だったり、中には『えっそれ?』的なモノも有るけど。



「ふーん、重要物(キーアイテム)は人それぞれなんだな」

「あぁ。…………ところで、計介の重要物(キーアイテム)って、まさかそれにした訳じゃ……ねぇよな?」



アキが僕の右手を指差し、そう言う。

……なんだろう?



「ん?」


そう思いつつ、右手に目をやると――――






「……!? ……………………ッ!?」


召喚されてからずっと手に持ってたんだろうけど、僕自身でも今気づいた。

そして思わず二度見してしまった。



「いや、俺があげたヤツを大切にしてくれてんのは嬉しいが……今回は違ぇだろ…………」

「……おぅ」




――――そう。

僕が手にしていたモノ。


それは…………()()()()()』だった。

どうやら、転移時に持っていたこの『数学の参考書』が僕の重要物(キーアイテム)になっちゃったようだ。




……マズい。マズいぞ。

これでどうやって戦えばいいんだよ。





転移直前に起こった事が頭の中に蘇る。

……またパニックに陥りそうだ。


「…………………アキ……」

「何だ?」

「…………僕、やっちゃった…………………」

「……知ってた」



そして、僕は再び後悔と自己嫌悪に苛まれるのでした。

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以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
[良い点] Twitterのヘッダーみたいなのはかっこよかった [気になる点] なぜ文章に大きな間があるのか [一言] まだ数話しか読んでないので今後に期待
2021/02/10 13:14 風吹けば名無し
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