22-17. 圧倒Ⅱ
「【氷放射Ⅵ】!! くらえー!」
シュタタタタタタタタタタタタッ!!!
入れ替わるや否や、間髪入れず魔法を唱えるチェバ◦コース。
シンを弄んでいたハズのドクモスに氷礫掃射を浴びせた。
「「「「「ギャアアアァァァァ!!!」」」」」
「へっへーんだ! シンをバカにしたお返しだよー!」
調子づいていたさっきまでの様子など見る影もなく、ドクモスの群れはあっけなく散り散りになった。
「……なんすか今の声は!?」
「何が起きたんすか!?」
そんな仲間の悲鳴に、ダンを空中から嘲笑していたドクモス達も動揺。
ハッと声の方に振り向けば仲間の影は見当たらず……今しがた魔法を撃ち終えたチェバ◦コースと、破れた翅が宙を舞うのみ。
「あ……アイツらどこ行ったんすか!?」
「まさか――――
「ああなるんだぞ。お前達もな」
「「「「「なっ……!?」」」」」
ニヤリと笑うダンの言葉に青ざめるドクモス。
「ぼっ、ぼく達をバカにしようたってムダっすよ!」
「そんなウソは通用しないっすからね!」
「そりゃどうかな?」
彼らの必死の強がりも笑って流すダン。
……そしてココで僕が魔法を再発動する。
「【三角変換Ⅰ】・『tan²θ+1=1/cos²θ』!」
再び場所を入れ替え。
入れ替えた対象のは……勿論、ダンとチェバ◦コースだ。
「はいどーもー!」
「「「「「ギクッ!?」」」」」
選手交代、からの天敵登場。
ダンに絡んでいた彼らがどうなったかは……まぁ、言うまでもありませんでした。
「……ふぅん。凄い魔法じゃんか」
チェバ◦コースの2度目の氷礫掃射とドクモスの断末魔の叫びを聞きながら感触を確かめる。
……うん、コレは良い。
魔力消費もまぁまぁ高いが、戦局をガラリと変えるには十分な魔法だろう。
――――【三角変換Ⅰ】。
その名の通り、この前に勉強した『三角関数』の単元で手に入れた魔法である。
sinθ、cosθ、tanθ ……3つバラバラで別物のようにも思える三角関数を1つに結びつけるモノ。それこそが『sin²θ+cos²θ=1』 や 『tan²θ+1=1/cos²θ』 といった変換公式だ。
これがあれば、sinθ の値から残る2つの cosθ、tanθ を求められる。
cosθ の値からも同様。tanθ でも同様。
まるでsinθ、cosθ、tanθ の3者を繋ぎ留める友情、あるいは絆。
そんな変換公式の力を宿した【演算魔法】こそが、この【三角変換Ⅰ】だ。
――――そして、【三角変換Ⅰ】の効果はもう使っている通りの『シン・コース・ダンの場所を入れ替え』。
変換公式にあやかった『入れ替え魔法』なのだ。
===【三角変換Ⅰ】========
魔力を消費して、三角関数同士の値の変換を高速かつ正確に行える。
計算能力および使用可能な関数はスキルレベルによる。
※【状態操作Ⅸ】との併用による効果
本魔法の発動時に呼び出した三角関数の変換公式に応じ、シン・コース・ダンの現在地をそれぞれに変換する。
必要MP:25
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ステータスプレートの説明もそのまんまです。
……ただ、色々と気になる点は有るんだけどね。
なんで対象がシン・コース・ダンだけの名指しなんだとか、なんで僕とアークは入れ替えできないんだとか、折角なら他の物同士でも場所入れ替えさせてくれたら滅茶苦茶便利なのにとか、そもそもシン・コース・ダンと出会っていなかったらこの魔法はどうなってたんだとか、正直疑問は湧き出て止まらない。
けどまぁ、きっと【演算魔法】にも触れちゃいけない大人の事情ってのがあるんだろう。
そういう事にしておこう。
「……さて」
そんな事はいいとして、だ。
折角手に入れた魔法、使うに越したことはない。
しっかり利用させてもらおうか。
――――【恒等Ⅰ】の効果終了まで、あと11分。
なおも爺やの号令に従うドクモス。
地対空の相性を活かすべく、シン・ダン相手に集中的に攻め込むが……何度やっても結果は同じだ。
「【三角変換Ⅰ】・『sin²θ+cos²θ=1』!」
チェバ◦コースとシンが入れ替え。
シンに群がっていたドクモスが氷礫の餌食になり、チェバ◦コースと戦っていた黒カマキリがバッサバッサ斬り伏せられる。
「【三角変換Ⅰ】・『tan²θ+1=1/cos²θ』!」
続いてチェバ◦コースとダンが入れ替え。
ダンの頭上を飛び交っていたドクモスが一掃され、大盾に頭を打たれた黒カマキリが次々昏倒する。
「【三角変換Ⅰ】・『sinθ/cosθ=tanθ』!」
からの3人をそれぞれ入れ替え。
刻々と切り替わる戦況に蟲共もついていけない。
「くぅっ……駄目っす! あの白衣、また訳分かんない魔法を!」
「戦士を狙おうにも狼魔獣人に入れ替わるとか厄介極まりないっすよ……」
「じゃあぼく達どうすれば良いんすか!?」
「仕方ないっす! 爺やの言う通りにやるしかないっすよ!」
「って言われても! すぐ狼魔獣人に切り替わるっすもん!」
「「「「「どうすれば良いんすか…………ッ!!!」」」」」
誰を狙うでもなくドクモスが空中に立ち往生。
……勿論、そんな無防備状態を晒していたらウチの魔法組の的だ。
「【火弾Ⅲ】!!!」
「【氷放射Ⅵ】!!」
「「「「「なんでぇぇェェェェェェ!!!」」」」」
体を氷礫に貫かれ、翅を炙られてプスプスと煙を上げ。
また続々とドクモスが数を減らしていく。
「……だったら、最初から狼魔獣人の所に行けば良いんじゃないすか?」
「なるほど! 確かにっす!」
「そうすれば相手が入れ替わって戦士の男共と戦えるっすよ!」
「おまえ冴えてるっすね!!」
「ソレで行くしかないっす!」
なんとか生き残ったドクモス、頭を搾った作戦でチェバ◦コースの頭上へ。
からの僕が魔法を唱える。
「【三角変換Ⅰ】――――しないよ?」
「「「「「えっ?」」」」」
そりゃ当然だろ。
何を勘違いしてんだ。
「【氷放射Ⅵ】!!」
「「「「「ダメだああぁぁぁァァァァァァ!!!」」」」」
そして何事もなかったかのようにチェバ◦コースが処理。
まるで自滅、飛んで火にいる夏の虫もいいところなのでした。
――――そうして、【恒等Ⅰ】の効果終了まで残り10分を過ぎた頃。
ピュウウゥゥゥゥ……
「……ん?」
風の無かった夜の草原を、一陣の風が吹き抜けた。




