4-11. 向上
4人でそれぞれ狩りを行うこと数時間。
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【状態操作I】が【状態操作II】にスキルレベルアップしました。
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先程、あるチキンを狩った所で【状態操作I】様がスキルレベルアップなされた。
この後ステータス加算を行うと、計算結果の維持時間が15分から20分に伸びていた。
これは助かる。
強くなっているのは学生達だけじゃないのだ。先生も少しずつ強くなっているんだよ。
そして現在。
僕の手持ちのMPポーションが残り少なくなってきたし、丁度良いタイミングだ。そろそろ狩りを終わりにしようかな。
って事で3人を集めた。
さて、ちゃんと『駆逐』ではない『狩猟』が出来るようにはなったかな?
「皆お疲れ様。結構疲れてるようだね」
「はい……やっぱり、慣れない事をやると精神的に来ますね」
「的が小さ過ぎて、中々うまくいかなかったー……」
そうだろうよ。
今までただ体に当てれば良いって思ってた人からすれば、そりゃ疲れるわな。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。どれだけ狩りが上手くなったか、今日の買取が楽しみだね」
「おぅ、俺らの成長に驚くなよ、先生!」
おぉ、頼もしいじゃないかダン。
「おぉ、そうか。今日の買取金額が楽しみだな」
そんな訳で軽く雑談を交わしつつ、街道に向かって草原を歩く。
この間にもチキンが2羽ほど現れたが、ダンが速攻で倒した。
……っていうか、ダンの【硬叩Ⅲ】いいなー。もはや作業プレイだ。
僕が普段使ってる、殺気見せない戦法からの蹴り上げは結構時間掛かるからな。
僕も盾買おうかな。
そういえば、僕には防御手段が無いからな。不要では無いだろう。
ナイフの動きに邪魔にならない、小さな盾くらいならアリだろう。
暫く歩くと、いつもの街道に到着。
ここまで来れば魔物に襲われることも無いので、あとはのんびり帰るだけだ。
今の時刻は、日の高さから見ておそらく昼過ぎって感じだろうか。
街道の往来の中には、港へと向かう馬車の中でサンドイッチっぽい物を食べる商人、丸いおにぎり風の物を食べながら王都へと歩く冒険者が見える。
僕らも腹が減ったな。早く王都に戻って遅めのお昼を食べたい。
さて、やっと王都に到着した。
正直、かなり腹が減ったので早くお昼にしたい。
したいのだが、彼らの雰囲気を見ると冒険者ギルド以外には行けない。
いや、皆どれだけ買取が楽しみなんすか……
でもまぁ、この気持ちは分からなくも無い。
僕も冒険者初日の買取はこんくらいドキドキしてたっけな。
さて、買取が待ちきれない学生達の後に続いて冒険者ギルドの建物へと入り、買取カウンターの列に並ぶ。
……シンが列の先頭を気にしてキョロキョロしてる。
僕の隣でそう動き回られると、僕もなんだか落ち着かない。
「シン。もう、そんなにソワソワしないの。じきに順番は回ってくるから」
「あ、すみません」
「まぁ、シンの気持ちは分かるけどな」
「落ち着いて落ち着いてー」
ダンとコースのフォローがすかさず入る。
いや、改めて思うけどこの3人は本当に仲が良くて宜しいね。
あ、そうだそうだ。
「今日狩った獲物は、普段なら幾らくらいで売れる?」
「えーと、今日なら……銀貨15枚って所ですかね」
「……マジか」
「昨日はウルフが獲れた分、30枚弱まで行けたがな」
「でも、全く狩れなかった日もあるので結局金が貯まらないんですよね……」
普段の買取金額が予想以上に低かった。
その量で銀貨15って……どんだけ減額されてるんだよ。僕がこの量狩れば、多分銀貨50は行く。
「目標は……銀貨25枚かなー」
「それだけ稼げれば私達の生活も変わるかもしれないですね」
「そうか、じゃあ目標銀貨25枚、頑張って」
って、今更頑張れる事は無いけどな。
買い取ってもらうだけだし。
そして、僕らの順番が回ってきた。
「はいじゃあ次の人どうぞー」
空いた買取カウンターで手を挙げて僕らを呼ぶのは、本日もマッチョ兄さんであった。
「お、狂科学者の兄ちゃんと学生さん達か」
「どうも」
「こんにちはー!」
マジで本当に呪いだねコレ。マッチョ兄さんの呪縛からは逃れられないのか。
まぁ、別に困り事は無いのでいいけど。
「はいじゃあ獲物置いってって」
それぞれのリュックから獲物を取り出して行く。
僕はいつも通りの成果だな。まぁ、目標の銀貨30枚前後は行くだろうな。
さて、じゃあ隣の学生達の獲物はというと……
うん、まぁまぁだな。
少し攻撃が控えめになったようにも見えるが、全体的にまだ傷や血が目立つ。
「あ、でもこのラットは上手いな。しっかり狙いが定まってる」
「数匹だけだけど、ちゃんと首元に当てられたよー!」
「ダンの取り出すチキンはどれも完璧だな。流石だ」
「お、おぅ。サンキュー、先生」
ま、まぁ……シンの出す獲物については触れないでおこう。彼は彼なりに頑張ったんだろうな。
首の無いチキンがシンのリュックから続々と出てくる。
まぁ、前の鶏肉も羽毛も使えない状態から羽毛だけ使えない状態にはなった。
さて、皆獲物を出し終わったかな。
カウンターの上には獲物の山が造られていた。
まぁ、そりゃそうだろうな。4人分なのだ。
「はいじゃあ買取金額の計算してくるから、少し待ってろ」
そしてマッチョ兄さんは「よっと」の掛け声と共に山を両手で持ち上げ、少し後傾しつつもそのまま奥へと持って行った。
「いつも思うんですけど、あの量を一度に持って行けるのって凄いですよね」
「確かにそうだな。毎日マッチョ兄さんにはお世話になってるけど、獲物をこぼしたりするのは見たことが無いな」
そんなどうでも良い会話を交わしていた所で、マッチョ兄さんが帰って来る。
手には買取金額の入った袋が2つ。
「はいじゃあ買取金渡します」
3人が唾を飲む。
「まず狂科学者さんの方から。今日は銀貨31枚ね。最近じゃ、狂科学者さんが羽毛のシェア70%を占めてるからな、こっちも毎日助かってるわ」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
そう礼を言って袋を受け取る。
さて、次は3人の番だ。
果たして講義の成果は出るだろうか。幾らで買い取ってくれるかな?
「じゃあ次は学生さんの3人な」
3人の緊張がマックスに届く。
彼らの心臓の拍動が聞こえてきそうだな。
「今日は銀貨27枚の銅貨70枚だ。いつもより綺麗に狩れてたな。もしかして狂科学者さんに何か教えてもらったか?」
「「「ヨッシャーー!」」」
3人がハイタッチして喜ぶ。
突然の叫び声に建物中の皆が驚き、こちらを見ているんだが……
まぁ、良いだろう。彼らも今日は頑張ったし、少しくらい騒がせておこう。
講義の結果としては、普段よりも銀貨12、銅貨70ぶん買取金額が増えた。
凄いな。増えた分で宿代払えるじゃんか。
今日からは自力で宿に泊まれるな。おめでとう。
この調子で彼らの金銭事情や生活も変わると良いね。
「……狂科学者先生、良かったっすね。教え子達は成長してますよ」
「教え甲斐があります」
さてと。
冒険者始めてまだ2週間程なのだが、気付いたら先生になってしまっていた。まぁ、なんとかなるだろ。
現在の服装は麻の服に血塗れのロングコート。
重要物は数学の参考書。
職は数学者。
目的は魔王の討伐。僕自身も強くならないとな。
準備は整った。さぁ、皆で成長していきますか!




