4-10. 実地
翌朝9時。
僕らは朝食を済ませ、装備を整えて精霊の算盤亭を出発し、東草原に来ていた。
昨日話した僕流の狩り方を実践し、覚える。
東草原での実地講義だ。
「さて、じゃあ始めようか。まずは君達の狩りがどんな感じかを見てみたいから、僕の事は気にせずにいつも通り狩りをしてみてくれ」
「「「はい!」」」
さて、どんな狩りをするんだろうか。
お、今日一体目の魔物、ディグラットに遭遇。
まだ距離がある所でシンが何か言うと、コースが前に出る。
「【水弾Ⅴ】!」
コースがそう唱えると、彼女の目の前に小さな水の玉が現れる。
次の瞬間、水の玉は凄い勢いでラットへと飛んでいった。
そしてラットの腹に命中。腹に空いた穴からは血と水が噴き出す。
コースの高いINTによってラットは一撃で絶命した。
3人が獲物に走り寄り、シンが両手で持ち上げる。
ん、そのままリュックへと入れちゃうのか? 血抜きはしないのか?
そう思っていると、その時コースが再び魔法を唱える。
「【水源Ⅵ】」
すると、シンの持った獲物から血がどんどん流れ出す。
10秒ほどして、水の色が薄くなっていき、そして無色透明になった。
なるほど、血抜きか。そういえばこういう、水を使った方法もあるって聞いたことがあるな。
そして水も一通り出し終えると、リュックへと仕舞う。
……なるほどね。
続いてプレーリーチキンに遭遇。
ダンが盾を構える。
チキンはダンを見つけ、嘴突きの姿勢に移る。
そのままチキンは接近。
お互いの距離が縮まり、ゼロになった。
盾と嘴が接触する。
その瞬間、ダンが叫ぶ。
「【硬叩Ⅲ】!」
その掛け声と共に盾が凄い勢いで押し出される。
プレーリーチキンは全身で衝撃を受け、嘴が砕け、一瞬で意識を落とす。
その勢いのまま、2m程空を飛んで草原に落ちた。
まさか鶏が空を飛ぶとは。
少し笑ってしまった。
3人が顔を合わせて笑い、回収へと向かう。
おぉ、今回は傷を付けずに倒せたな。よしよし、これは良い値がつきそうだな。
ダンがチキンを持ち上げると、ナイフを取り出す。
どうやら血抜きを始めるようだな。
首元にナイフを向ける…………!?
いやいやいや、そんな事しちゃ————
血が噴き出し、首元を周りの羽毛を赤く染める。
あー、ダメだこりゃ。羽毛がもう使えないじゃんか。
そして結局、体の半分程の羽毛が血で染められた。
さっきの『良い値がつきそう』はキャンセルしておこう。
さて、最後はシンの出番だろうかね。
相手はプレーリーチキン、2体目だ。
腰から剣を抜き、中段に構える。
プレーリーチキンも、殺気を感じてシンの方を向く。
チキンは先程と同じく嘴突撃の姿勢だ。
シンも剣を右に引く。
そのままお互いに走り寄る。
徐々に距離が縮まる。
シンが刀を振り始める。
右上から左下へ斬り下げる軌道だ。
「【強斬Ⅴ】!」
その瞬間、剣のスピードが加速する。
次に見た光景は、剣の跡が残像として残った白い帯と、勢い良くチキンから飛ぶ血飛沫。
そこに残ったのは、もはや獲物ではなかった。
無惨に殺されたチキンの死体と言った方が正しい。
羽毛はもう使用不可だな。鶏肉も殆どダメだろう。
まぁ、良い点を挙げるとするなら血抜き不要って所だけか。
…………はい、彼らが普段どんな感じで狩りをやってるか大体分かった。
金が貯まらない理由も分かった。昨日の講義で言った通り、『狩り』じゃなくて『駆逐』やってるからだったな。
「じゃあ、一回集合!」
「「「はい!」」」
3人がぞろぞろと集まってくる。
「普段の狩りを見させてもらったけど、やっぱりATKや、INTの高さに任せて魔物を倒してるよね」
「やはりそうですか……」
「じゃあ、次は僕が狩りをやろう。見ててね」
そんな感じで、僕の模範練習だ。
「【加法術Ⅲ】・ATK10、DEF10!」
ステータス加算完了。
3人から「オォーッ」という歓声が湧いたが、そのくらいは今更気にならない。
よし、やろうか。
少し歩き回った所でディグラットに遭遇する。
「よし。まずディグラットだ。ディグラットの狙う場所は昨日も言った通り『首』だ。出来る限り腹とかは狙わない方が良いな」
そして、ディグラットに対してグルグル戦法。
ラットが出てきたらナイフを抜いて襲いかかる。
狙うは首元。
ラットは地上に出てきて目が眩んでいるのか、動きが止まっている。
そこを的確に攻める。
ザシュッ
「「「オォー」」」
よし、当たりどころは完璧。一撃で倒せた。
最近はだいぶ慣れてきたので、一撃で倒せるようになってきたな。
「こんな感じだ。あと血抜きは後脚を持ってぶら下げれば自然と完了するよ。水を使ってもOK」
「はーい!」
「じゃあ次はプレーリーチキンかな。チキンは羽毛が良く売れるから、羽毛を血で染めないように傷を付けない方が良い。という訳でシンのやり方は駄目だな。ダンの倒し方はとても良かったぞ」
「うぅ……」
「そ、そうか……ありがとう、先生」
ダンが照れる。
普段の落ち着いた雰囲気では見られない表情で、カワイイね。
「あとは血抜きの方法だな。これはまぁ、知らないと無理だよな。とりあえず見ててね」
プレーリーチキンを探す。
中々見当たらず、5分くらい歩き回ってようやく見つけられた。
いつもの通り、殺気見せない戦法でチキンに接近して蹴り倒す。
これも大分慣れたもんだな。
「さて、チキンの血抜き方法は……こうだ!」
ナイフを腰から抜き、嘴に突き刺す。そして刃を口内でかき回すように、ナイフを左右に振る。
チキンは痛みで覚醒するが、僕が脚を握り、頭を下にしているので為す術も無い。
ナイフを嘴から抜くと、その途端に血がドボドボと流れ出る。
やがて僕が握っている脚から、抵抗が消える。
チキンは出血多量で絶命したようだ。
「こうすれば、体に傷を付けることなく、血抜きを行える」
この方法ならば体に血が付くことは無い。頭部には嘴から若干血が流れるが、頭部の羽毛は基本使わないので問題ない。って魔物図鑑に書いてあった。
「……ムゴい」
「先生も、意外とそういう面あるんですね」
学生達が引いている。
なんでだ? 特におかしい事してないけど。
「嘴にブッ刺してグリグリって……先生怖いよー」
「狂科学者と呼ばれる所以が分かりました」
なんだお前ら。ズケズケ言ってくれるな、おい。
「まぁ、これは僕が発明したんじゃない。王城の中にある図書館で読んだ方法だよ。というか、皆僕がこんな事を進んでやるとでも思ったの?」
「はい」
「おぅ」
「一応狂科学者さんですしー」
……そうかいそうかい。
まぁ血塗れの白衣着て、鶏の嘴をナイフでグリグリやってれば怖いもんな。
狂気だわ、そりゃ。
そう思われても仕方ないか。
「ハァ……まぁいいや。じゃあ、この後は暫く君達も今のみたいな感じで狩ってみてね。
「「「はい!」」」
そんな感じで、僕のデモンストレーションは終了。
あとは実地練習あるのみだね。
 




