4-9-1. 『系統魔法入門』
ガチャッ
「お邪魔しました」
「お邪魔しましたー!」
「失礼しました」
「はーい」
3人が僕の部屋から出て行く。
ふー、さて。じゃあ僕も何をしようか。
えーと……さっき何か一つ思い付いたのがあったんだけど……なんだっけ。
あ、そうだ、そうだった。
「あ、コース! ちょっといい?」
「はーい、なんですか先生ー?」
閉まりかけたドアからコースの声が返ってくる。
「さっき『魔法の教科書』って言ってたじゃん? もし問題無ければ、一晩貸して欲しいんだけど……」
「良いですよ! じゃあ持ってきますね!」
「済まん、ありがとう。よろしくね」
系統魔法の教科書、凄く気になるな。
僕は【演算魔法】を持ってるけど、折角この世界にやって来たのだ。系統魔法についても知っておきたい。
そう考えると水系統魔術師のコースが【演算魔法】を知りたがる気持ちも分かるな。
魔法使いは魔法に惹かれるってか。
これが魔法使いの性ってやつだろうか。
その晩。
少し早めに夕食を済ませ、風呂も入った。
普段ならこの後さっさと寝てしまうんだが、今日はコレだ。
机の上に置いてある『系統魔法の教科書』を手に取る。
先程、コースから借りた物だ。丁寧に扱わないとな。
この本は系統魔法について書かれているらしい。
コース曰く、『水系統魔法の項目はもう読みきりましたし、他の系統魔法についてはあまり使わないので、最近ほとんど開いてないんですよねー』だそうだ。
さて、早速読んでみるかな。
部屋備え付けのコップに水を汲んで机に置き、椅子に置かれたリュックを床に下ろして椅子に腰かけ、深呼吸を一つして本を開く。
『系統魔法入門』
●魔法について
この世界にはスキルとして魔法が存在するが、魔法は大きく三種類に分けられる。
それぞれ共通魔法、系統魔法、特殊魔法である。
共通魔法は【状態確認】に代表される物であり、職に依らず誰でも習得することが出来る。また、ステータスプレートには記載されない。
系統魔法は火・水・風・土・光・闇の6系統の魔法が当てはまる。習得には職がそれぞれの系統魔術師であるか、又はかなり高い適性を持つ場合に可能である。
特殊魔法とは、共通魔法にも系統魔法にも当てはまらない魔法である。【召喚魔法】等が有名だが、数が多く、全てを把握しきれてはいない。こちらも習得に関しては適した職か、高い適性が必要である。
共通魔法はステータス確認、鑑定等といった主に生活に関した汎用性の高い魔法である。
系統魔法は戦闘用の魔法が多く、攻撃・防御・回復等の魔法が豊富であるが、生活用として用いられる汎用の魔法も幾らか存在する。
特殊魔法は一部に特化した魔法が多い。これは職に就く上で必要な能力を補助する魔法が多いからである。そのため、戦闘用が多くを占めたり、また汎用が多かったりと物によって大きく異なる。
本書では、系統魔法の基本について述べる。
●系統魔法の『系統』について
系統魔法は以下の6種の魔法を纏めた総称である。
・火系統魔法
・水系統魔法
・風系統魔法
・土系統魔法
・光系統魔法
・闇系統魔法
それぞれの魔法で操ることが出来る物や概念は以下の通り。
火系統は火や溶岩、また『加熱』。
水系統は水や氷、また『冷却』。
風系統は風や空気、『圧縮』、また『真空』。
土系統は土や石、鉄、また『物理』。
光系統は光や『発生』。
闇系統は闇や影、『収束』また『吸収』。
また、属性同士には相性があり、効果が強くなったり、かえって弱まったりすることがあるので注意が必要である。
例えば、火を扱う魔物に対して系統魔法で攻撃する際、水系統魔法は効果覿面であるが火系統魔法は効果が薄い。
●系統魔法の『魔法』について
それぞれの系統には主に汎用、攻撃用、防御用、強化用、回復用、範囲攻撃用と様々な用途の魔法が存在している。
他にも、これ以外の用途であったり、特徴的であったり、また魔術師個人の作ったオリジナル魔法も存在するが、本書では上に挙げた基本的なものを扱う。
また、全体的な特徴として『魔法名は漢字2~4文字であり、字数が多いほど高度な魔法である』という点がある。
低度の魔法は初歩的かつ簡単な物であるが、多少の適性があれば習得でき得る。高度な魔法になるにつれて複雑かつ強力な物となるが、大きな適性を持っている、適正な職に就いている等習得条件が難しくなる。
●系統魔法の魔法一覧
以下に、各用途ごとに各系統の基本的な魔法を示していく。
・汎用
汎用魔法は、日常生活向けの魔法である。基本的に戦闘向けではないが、物によっては戦闘時に有用な魔法も存在する。
-火系統魔法
【火源】
火を作り出す。火種や照明として使用可。
【加熱】
物体を加熱する。
-水系統魔法
【水源】
水を作り出す。飲用可。
【冷却】
物体を冷却する。
-風系統魔法
【風源】
風を作り出す。
【換気】
空気中の有害物質を浄化する。
-土系統魔法
【土源】
乾いた土や泥を作り出す。
【石源】
手のひら程の大きさの石を作り出す。
-光系統魔法
【光源】
球状の光源を作り出す。
【暗視】
暗闇でも目が利くようにする。
-闇系統魔法
【闇源】
球状の引力源を作り出す。
・攻撃用
攻撃用の魔法は、火や水などの物を弾、ビーム、球状にして発射し、対象を攻撃する魔法である。
どの系統においても4段階存在し、魔法とスキル名には法則性が見られる。
1段階:『弾』
モノの弾丸を発射する。
2段階:『線』
モノのビームを発射する。
3段階:『放射又は放射』
強いモノのビームを発射・モノを乱射する。
4段階:『射又は射』
更に強いモノのビームや球を発射・乱射する。
以下に具体的な魔法を示す。各系統の魔法は1段階から順に並んでいる。
尚、発射する物がスキル名に含まれていることが多い。
-火系統魔法
【火弾】、【火線】、【炎放射】、【溶岩射】
-水系統魔法
【水弾】、【水線】、【氷放射】、【氷結射】
-風系統魔法
【風弾】、【風線】、【嵐放射】、【暴風射】
-土系統魔法
【土弾】、【土線】、【石放射】、【礫岩射】
-光系統魔法
【光弾】、【光線】、【光放射】、【極光射】
-闇系統魔法
【闇弾】、【闇線】、【闇放射】、【暗闇射】
・防御用
防御用の魔法は、火や水などの物を平面状や球面状に広げて作り出し、対象を防御する魔法である。
どの系統においても3段階存在し、攻撃魔法と同様に魔法とスキル名には法則性が見られる。
-火系統魔法
【火壁】、【炎壁】、【溶岩壁】
-水系統魔法
【水壁】、【氷壁】、【氷結壁】
-風系統魔法
【風壁】、【空壁】、【真空壁】
-土系統魔法
【土壁】、【石壁】、【鉄鋼壁】
-光系統魔法
【光壁】、【光網】、【光鏡面】
-闇系統魔法
闇系統の防御魔法は未だ詳細な観測がされておらず、
不明とされている。
・強化用
強化用の魔法は、各系統の扱う物や概念を利用して身体の動きの補助をする魔法である。
この魔法を使用すると身体を魔法の淡い光に包まれ、各属性ごとの効果が身体に起こり、ステータスが少し強化される。
-火系統魔法
【加温活性】
体温を上げ、筋肉や脳の働きを活性化する。
-水系統魔法
【抜熱活性】
体の熱を抜き、筋肉や脳の働きを活性化する。
-風系統魔法
【風纏活性】
行動を補助する風を纏い、素早くする。
-土系統魔法
【地駆活性】
地上で行動する際、地面が行動を補助する。
-光系統魔法
【照光活性】
活性効果のある光が身体を包む。
-闇系統魔法
【吸活活性】
周囲のエネルギーを吸収し、自身を活性化する。
●回復用
回復用の魔法は、各系統の概念を利用した怪我・病気の回復を補助し、治りを早くする魔法である。
気を付ける点としては、第一に飽くまで『回復させる』魔法ではなく、『回復を補助する』魔法であり、魔法の使用により絶対に回復するという訳ではない。第二に怪我や病気によっては相性の悪い系統がある。例えば、凍傷に対して火系統の【体温上昇】は相性が良いが、水系統の【体温低下】は相性が悪い。
このため、怪我や病気を完全に回復させる際には、これら回復用の魔法よりも特殊魔法の【回復魔法】や薬、手術などによる治療が良い。
-火系統魔法
【体温上昇】
体温を上昇させ、身体の免疫を向上させる。
-水系統魔法
【体温冷却】
体温を低下させ、身体の発熱を取り除く。
-風系統魔法
【体調回復】
呼吸を楽にし、気分や体調を良くする。
-土系統魔法
【血流増加】
血液中の鉄分の循環を向上させる。
-光系統魔法
【回復照射】
身体の回復を促す効果のある光を照射する。
-闇系統魔法
闇系統の回復用の魔法は確認されていないため、
不明である。
・範囲攻撃用
範囲攻撃用の魔法は、広範囲に火や水などの物を作り出し、多数の対象を攻撃する魔法である。
この用途の魔法は全てが高レベルであり、多量の魔力を消費するので、習得・発動には高いLvを必要とする。
また、各系統の共通点として名前に『領域』が付く。
-火系統魔法
【火炎領域】
領域内を炎で満たす。
【溶岩領域】
領域内の地面を溶岩で満たす。
-水系統魔法
【大波領域】
領域内に大量の水を作り出し、大波を起こす。
【氷結領域】
領域内の気温を下げ、凍らせる。
-風系統魔法
【暴嵐領域】
領域内を暴風で満たす。
【高圧領域】
領域内を下降気流で満たし、動きを重くする。
-土系統魔法
【地震領域】
領域内に地震を起こし、動きを妨げる。
【鉄棘領域】
領域内の地面を鉄製の棘で覆う。
-光系統魔法
【閃光領域】
領域内を超強力の光で満たし、目を眩ませる。
【炸裂領域】
領域内で光の爆発を起こし、攻撃する。
-闇系統魔法
【暗黒領域】
領域内を暗闇で覆い、目を利かなくさせる。
【引力領域】
領域内に通用する強力な引力源を作り出す。
以上が基本的な系統魔法である。
ただ、本書で扱っているのは飽くまで基本的なものであり、これが全てでない事についてはご留意頂きたい。
また、魔法の詳細や、オリジナルな魔法の創造等、応用的な内容については本書では省いているので、それらに関しては別の本を参照頂きたい。
「ZZzz……」
計介は残念ながら『汎用』の辺りで早々にドロップアウトし、ベッドダイブしていた。
 




