4-9. 講義
さて、3人のステータスっと…………
まるで学生の通知表を眺める先生のようだな。小中学校の担任もこんな気持ちだったんだ————
え、ちょっと待って。みんなステータス高すぎじゃない?
それとも僕が単純に低いから高く見えてるだけかな?
===Status========
シン・セイグェン 15歳 男 Lv.8
職:剣術戦士 状態:普通
HP 63/63
MP 38/38
ATK 28
DEF 27
INT 12
MND 13
===Skill========
【長剣術】【胆力II】
=============
===Status========
コース・ヨーグェン 15歳 女 Lv.8
職:水系統魔術師 状態:興奮
HP 37/37
MP 70/70
ATK 11
DEF 16
INT 30
MND 26
===Skill========
【水系統魔法】【MP消費軽減Ⅰ】
=============
===Status========
ダン・セーセッツ 15歳 男 Lv.8
職:盾術戦士 状態:普通
HP 86/86
MP 28/28
ATK 19
DEF 37
INT 8
MND 14
===Skill========
【大盾術】【守護Ⅲ】
=============
……単純に無理だ。僕じゃ勝てない。
ってか、皆装備をそれぞれ部屋に置いてきたから、本当ならもっと高いんだろ?
勿論僕がLv.4だから、Lvの差ぶんの実力差はあるだろう。だが、それにしても僕のステータスって低すぎる。
……まぁ、どうこう言った所で何か起こるわけでもないし、仕方ない。そういうもんだとしておこう。
「皆凄いステータスだな。よく修行を積んでるのが分かるよ」
悔しいけど、こう言っておく。
一応、これでも僕は彼らの先生なのだ。嫉妬心とかを出しては務まらない。
「「「ありがとうございます!」」」
さて、長くなったが自己紹介もこれくらいにして、記念すべき最初の講義といきますか。
「じゃあ、そろそろ本題その2、講義を始めようか」
そう言った瞬間、場の空気が変わった。
学生達の表情が真剣なものになり、僕をを見る目も緊張感を帯びる。
「えーとまず、…………」
ヤバい。
講義を始めるとは言ったけど、イマイチどんな感じでやるかピンと来ないな。
高校の授業も殆ど寝てたし。
しかし、学生達の眼はプラネタリウムの如く輝いている。今更タイムなんて掛けられない。
まぁ、とりあえず僕が僕なりに出来る事をやってみよう。
「君達の修行の目的は『狩りを覚え、強くなるため』だったっけな。けれど、僕が先生として行う講義の目的は『この世界で生きるため』って事にしようと思う」
「『生きるため』……?」
「そうだ、ダン。勿論、君達が強くなるために修行をしている事は分かっているし、僕なりに皆が強くなれる方法も出来る限り教えたいと思っている。けど、『強ければいつ何処でも生きていける』って訳じゃないんだよ」
「成程……」
「例えば、村から王都へと出てきました。王都で生活する上で、不可欠な物はなーんだ? 答えはお金だ。王都で暮らすなら金が無いとマトモな生活が出来ない。それこそ野宿生活になったり、最悪の場合は餓死だ。だから生活をするために金を稼ぐのだが、強さが無ければ狩りが出来ない。生きていけない」
「「「おぉ……」」」
「だからこそ、『生きていく』事を考えていれば、自然と『強く』なれるんじゃないか?」
「「「おぉ……」」」
あぁ、なんか喋ってる僕自身でも訳分かんなくなってきた。論理が崩壊してないか心配だ。
「という訳で、第1回。今日の講義は『効率の良いお金の稼ぎ方』をやろう」
そんな感じで講義は進んでいった。
意外と言葉ってスラスラ出てくるもんだな。
さて、今日、僕が教えようと思っている事。
僕が助けてもらった時に聞いたスキルは、どれもスキルレベルがⅤ前後のよく鍛えられたモノだった。威力も凄まじかった。
そして買取の時に見た、傷の酷い獲物。
これらから考えられる事と言えば……
「まず、さっきのギルドでの買取カウンターで起こった話。君達が魔物を大量に狩ったのにも関わらず銀貨28枚しか稼げず、逆に一人の僕がそこそこな獲物だけで銀貨30枚も稼いでいた。なんでこの差が起こるかな?」
「獲物のキレイさ、ですか?」
「正解だ、シン。さっきギルドの買取カウンターで皆が獲った獲物を見たが、どれも傷物ばっかりだったな。アレじゃあ、買取額が落ちる」
「でも、じゃあどうやれば良いんですか?」
僕が見た、彼らの獲物に付く傷の酷さ。
あれから分かる事といえば、彼らはきっと力づくで『獲物を殺す』ことしか考えてないんだよな。
「僕は、君達が狩りの最中には『魔物を殺す』事しか考えていないと思うんだが、どうだ?」
「……そう言われると」
「そうだね……」
「それなら『強さ』は得られるだろう。経験値も積めるし、Lvも上がるかもしれない。けど、『モノ』は得られないんだよ。毛皮や肉、爪、角、骨、その他色々なモノも、傷が付いちゃ使い物にならなくなる」
「確かに」
「ギルドの買取金額は、魔物の頭数じゃない。どれだけ『使えるモノ』が残ってるかで上下する。しかも、例えば君達がこのまま故郷に戻ったとして、全身傷だらけの獲物しか獲って来れないんじゃ自給自足なんて無理だよね」
そんなのは狩猟と言わない。駆逐や討伐と言うのだ。
狩猟ってのは飽くまで魔物を殺す事が目的じゃなく、肉を得て食う、毛皮を得て着る、骨を得て用いる。これがメインなのだ。
「で、じゃあどう攻撃すれば良いかというと、例えばディグラットは『首』を狙えば良い。体部分の毛皮や爪を避けて攻撃すれば良い素材が取れ、金額が高くなる。プレーリーチキンなら『刃物で傷つけない』かな。僕はナイフを使わず、蹴り倒してるよ。そうすれば羽毛が血で汚れないし、鶏肉もそのまま取れるし」
「成程、だからあんなに綺麗な獲物を獲って来れるのか」
「そこまで考えられて狩りをしていたとは……」
「という訳で、明日この実践をやろうと思う。やり方は今口頭で教えるより、僕のを見て覚える方が分かりやすいだろうしな」
「「「はい!」」」
よし、明日のやる事が決まった。
僕流の狩りの伝授だ。魔物の狩り方を王城図書館で学んだお陰で、僕の金銭事情はまるっきり変わったからな。
じゃあ、今日はもう色々あって疲れたし、これでお終いにしよう。
「よし、今日はこれくらいで終わり。って事で、明日の朝までお待ちかねののんびりタイムだ! 豪華なベッドで疲れを癒してくれ」
「ぃよっしゃぁー!」
ダンの歓声が部屋に轟く。
というか、もう雄叫びレベルだ。
まぁ喜んでくれるのなら、3人の宿代を出した僕も嬉しいね。
「という訳で解散!」




