21-6. 三角関数Ⅳ
では、ココから三角関数(その2)も後半戦!
その前にラスボスと打倒までの道を再確認してから、Point⑩に向かおう。
===ラスボス================
次の方程式を満たすθ(0°≦θ<360°)を求めよ。
-cos²θ - ½sin2θ + 1 = 0
===ラスボスへの道================
次の各問において、方程式を満たすθを求めよ。
但し、0°≦θ<360°とする。
例4)sin(θ+30°) = 0
例5)cos²θ - cos2θ = ½
例6)√3sinθ + cosθ = 0
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Point⑩
『三角関数を"展開"する――加法定理』
では、例題4。行ってみよう。
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例4)sin(θ+30°) = 0
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sinで指定された角度が『θ』じゃなく、『θ+30°』と少し角度が広がった形だ。
こういう問題はどうやって解けば良いかというと……実は例題1と全く同じ。sinの値が0になるのは、角度が0°か180°の時。つまり『θ+30°』が0°か180°であれば良い。
θ+30° = 0°, 180°
つまり、両辺からそれぞれ 30° を引けばθの値が得られるぞ。
θ = 150°, 330°
なお、0°は引き算すると『-30°』になっちゃうけど、今回は問題文中に『0°≦θ<360°』とあるので良くない。そういう時は1周回って330°と答えればオッケーだ。
……ところで、この例題の解き方は以上なんだが。
果たして貴方は、こんな事を考えた事は無いだろうか?
「sin(θ+30°) を計算するのは面倒なので、単純に sinθ + sin30° と答えた」
勿論、この命題は偽だ。この命題は常には成り立たず、単純な和にしちゃいけない。単位円を描けば明らかだろう。
ただ……「コレは偽だ」と証明する方法として、図を使うと速くて簡単だろう。では、数式的に証明するにはどうすれば良いだろうか。
そもそも数式的に証明なんて出来るのか?
……なーんてのを考えた事が有る人なんて、決して多くはないだろう。だがゼロでもないと思う。
もしくは、今の問題提起でそう感じてくれた人も居るんじゃないだろうか。
この命題の真偽を数式的に判定するにあたっては、ひとつ重要な公式が存在する。
それこそが――――加法定理。多くの数学苦手系学生を手に掛けてきた、美しくも畏れ多い公式だ。
そしてコレ、今のみならず例題5でも6でも使う。なんならラスボスに於いては2回使う事を予告しておこう。それだけ重要な公式なのだ。
この後も様々な公式を紹介するが、少なくとも基本中の基本であるこの『加法定理』だけは覚えていってほしい。
===加法定理========
(ⅳ)sin(θ+α) = sinθcosα + cosθsinα
(ⅴ)cos(θ+α) = cosθcosα - sinθsinα
両式においてカッコ内の±が逆転する時、右辺の±も逆転させる。
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三角関数の加法定理を一言で表せば、『角度が足し算・引き算になった三角関数を分割する』公式。
つまり、三角関数のカッコを開く『展開』みたいなモンだと捉えてくれればオッケーだな。
で、どんな時にこの公式を使うかというと……そうだな。代表的な問題として『sin75°』を挙げよう。
sinの値は角度が0・30・45・60・90°の時じゃないと分からないので、75°なんて答えようがない。……というのはついさっきまでの話で、加法定理を覚えた今なら解ける。
sin75°
=sin(30°+45°)
=sin30°cos45° + cos30°+sin45°
=½・(1/√2) + (√3/2)・(1/√2)
=(1+√3)/2√2
っていう感じだ。
同様にすれば、sin15°だってcos105°だって値を求められるぞ。気になったらやってみよう。
で、そんな加法定理だが……さっき紹介した2式は特に丸暗記をしてほしい。さっきの tan²θ+1 のようにその場調理で思い出せる公式とは違い、コレは忘れたら詰むからな。
それだけに、語呂合わせにも豊富なバリエーションが用意されている。『コスモスの花が咲くだの咲かないだの』とか『豪華衣装で有名な女性演歌歌手』とかが有名どころだろう。自分に合った語呂合わせをご利用ください。
……という事で、加法定理の簡単な説明は以上だ。例題4の『sin(θ+30°)=0』には使わなかったけれども、寝起きでも食事中でもテレビ視聴中でも「加法定理は?」と言われればパッと答えられる程度にしっかり覚えておこう。
Point⑪
『丸暗記 or その場調理、あなたならどっち?』
では、ここで一度『三角関数(その2)』で紹介した公式を一覧にしておこう。
===三角関数のベース公式========
(ⅰ)tanθ = sinθ/cosθ
(ⅱ)sin²θ + cos²θ = 1
(ⅳ)sin(θ+α) = sinθcosα + cosθsinα
(ⅴ)cos(θ+α) = cosθcosα - sinθsinα
===========
こんな感じだな。(ⅲ)は除外したが、それについては後程。
そこで、このPoint⑪では以上の4式から作り出せる様々な三角関数の公式を紹介しよう。
各公式は暗記すればラクだが、もし暗記が苦手だったり、もしくは試験中にド忘れしちゃったりした場合には『その場調理』で作ることも可能だ。
以下にそれぞれの公式の紹介と作り方をレシピ風に纏めていくぞ。
・sinとcosの倍角公式
sin2θ = 2sinθcosθ
cos2θ = cos²θ - sin²θ
【用 途】sinθ、cosθ から sin2θ、cos2θ の値を求める
【材 料】 (ⅳ) もしくは (ⅴ)
【作り方】(ⅳ)、(ⅴ)のαをθにして式を纏める
・sinとcosの半角公式
sin²θ = (cos2θ-1)/2
cos²θ = (cos2θ+1)/2
【用 途】cos2θ から sinθ、cosθ の値を求める
【材 料】(ⅱ)、cosの倍角公式
【作り方】cosの倍角公式に(ⅱ)を利用
その名の通り、sinθやcosθの値を知っていて倍角の sin2θ や cos2θ の値を知りたい時に使うのが倍角公式。逆が半角公式だ。
その場調理方法はシンプルで、加法定理を(θ+θ)にすれば良いだけ。難易度はお湯を注ぐだけのカップ麺級だ。
・角度を弄ったときの公式
sin(-θ) = -sinθ
cos(-θ) = cosθ
sin(90°-θ) = cosθ
cos(90°-θ) = sinθ
sin(180° - θ) = sinθ
cos(180° - θ) = -cosθ 等
【用 途】三角関数の角度を弄ったときの値を求める
【材 料】単位円
【作り方】単位円を見て、もとの三角関数との関係を調べる 等
三角関数はグラフが波型となるように、対称性を持つ。特に90°ではsinとcos、180°ではsin同士やcos同士の式が有名だ。
コレも勿論覚えれば有利だが、わざわざ覚える必要は無い。その都度単位円を描くなり、加法定理を使うなりすればカンタンにその場調理できるからな。
難易度はホカホカご飯とグツグツお鍋でできあがりのレトルトカレー級。
・tan ⇄ cosの変換公式 (ⅲ)
tan²θ + 1 = 1/cos²θ
【用 途】tanθ から cosθ の値を求める、もしくはその逆
【材 料】 (ⅰ) 、 (ⅱ)
【作り方】(ⅱ)の両辺を cos²θ で割り、sin²θの項に(ⅰ)
・tanの加法定理
tan(θ+α) = (tanθ+tanα)/(1-tanθtanα)
※(θ-α)の場合は、右辺の全±が逆転
【用 途】tanθ から cosθ の値を求める、もしくはその逆
【材 料】 (ⅰ) 、 (ⅳ) もしくは (ⅴ)
【作り方】(ⅰ)の分子に(ⅳ)、分母に(ⅴ)を使用
その後、分母分子の各項をcosθcosαで割る
更にその後、sinを含む項に再び(ⅰ)を使用
出ましたタンジェント。現れる機会はsin、cosに比べれば少なく、また別解で回避可能な事も多いが、それだけに一度必要になると厄介だ。
一応、tan加法定理には語呂合わせとして『タンバリンをタンタンタンタン叩きまくる』とかが存在する。暗記するか、その場調理に任せて割り切るかの判断は自分の記憶力ともご相談だろう。
難易度は本格手打ちそば級。
……ザッとこんなモンだな。
実際には他にも『3倍角の公式』とかが存在するが、どれも元の4式で対処可能だ。
また、どの公式においても定期試験までに一度自分で事前調理しておくと良い。頭に入りやすくなるし、万が一のその場調理のリハーサルにもなるぞ。
という事で、ラスボス打倒の道に戻ろう。
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例5)cos²θ - cos2θ = ½
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例題5は、そのままだと cos2θ と cosθ が別文字扱いで解けない。
そこで『cos倍角公式』を使って sinθ と cosθ に書き換えて解こう。
cos²θ - cos2θ
=cos²θ - (cos²θ - sin²θ)
=sin²θ
あとはxの2次方程式を解くのと同じ方法でsin²θを解くだけだ。
sin²θ = ½
sinθ = ±1/√2
θ = 45°, 135°, 225°, 315°
もしくは、別解としてcosの半角公式を使って cos2θ に合わせる方法もあるな。勿論答えは一緒になるぞ。
といった風に、三角関数は公式が多く複雑な代わりに自由度も高いのが特徴だ。解き方が1通りじゃなく、2つ3つある事も少なくない。
公式を覚えて、またはその場調理を極めて、めざせ三角関数マスターだ!
Point⑫
『"展開"があるんなら"因数分解"もあるよな』
では、ラスボスへの道・最後の例題だ。
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例6)√3sinθ + cosθ = 0
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この問題、そのままでは sinθ と cosθ が共存していて解けない。かといって今までの公式も使いようがないよな。
……まさか詰んだ?
いや、そんなことは無い。
最後の例題を解くにあたって必要な技術、それは『三角関数の合成』だ。
コレはいわば、sinとcosを1つのsinに纏める『三角関数の因数分解』。その名の通り『三角関数の展開』こと加法定理とは対になる存在だ。
ちなみに難易度は100年継ぎ足したタレが自慢の鰻丼級。
では、詳しい説明の前に解答例を示しちゃおう。
√3sinθ + cosθ
=2sin(θ+30°)
よって sin(θ+30°) = 0
θ+30° = 0°, 180°
θ = 150°, 330°
……はい。ご覧の通り、いきなり2個の三角関数が1つに融合しましたね。そのお陰で問題がスラスラッと溶けるようになった。これこそが『三角関数の合成』だ。
では、ココから具体的な三角関数の合成の計算方法をお教えしよう。
まず、x軸とy軸を書く。 ┃
グラフは小さめで結構だ。 1┠──●
┃ │
次に、sinの係数を ━╋━━┷━
x軸に打つ。今回ならば ┃ √3
√3だ。
同様にy軸にもcosの係数をx軸に打つ。ポイントは『高さ』を示すsinの係数を『x軸』、『横』を示すcosの係数を『y軸』と縦横が逆になることだ。
続いて、打った2点から縦横に直線を引き、交わった点と原点を繋ぐ。そうすれば斜め線が1本出来るハズだ。
その斜め線の長さrと、x軸の正方向と斜め線との角度αを計算。
そして『rsin(θ+α)』に代入すれば三角関数の合成完了だ。
今回の例題6の場合は、上のグラフのようになる。
原点と点●を結んだ長さは2、角度は30°になるから三角関数の合成結果は次のとおりだ。
√3sinθ + cosθ
=2sin(θ+30°)
勿論、この計算式は逆順で加法定理を使うと元通りになる。
正しく、展開と因数分解のように加法定理と合成は対の関係にあるのだ。
――――という事で、これでラスボス打倒への道は終点を迎えた。
途絶えた道の先に立ちはだかるのは……最初にも目にした、あのラスボスだ。
===ラスボス================
次の方程式を満たすθ(0°≦θ<360°)を求めよ。
-cos²θ - ½sin2θ + 1 = 0
===========
では、今までに学んだ公式をフルに使ってラスボスに立ち向かおう。
自分なりの答えが出してみるのだ。
……分かっただろうか?
では、答えだ。
-cos²θ - ½sin2θ + 1
=-cos²θ - sinθcosθ + 1 ←倍角公式
=(1-cos²θ) - sinθcosθ
=sin²θ - sinθcosθ ←二乗和が1
=(sinθ - cosθ)sinθ ←因数分解
=√2sin(θ-45°)sinθ ←合成
よって sin(θ-45°)sinθ = 0
これを満たすには、 sin(θ-45°)=0 または sinθ = 0
θ-45°=0°, 180° または θ= 0°, 180°
つまり、θ = 0°, 45°, 180°, 225°
コレが正解――――にして、これこそがラスボスへの必殺の一撃だ。
ちなみに例題5の別解と同様、半角公式経由でもラスボスを倒せる。
必殺の一撃が2通りもあるからって、決してラスボス脆いとか言っちゃダメだぞ。
……とまぁ、こうして問題を解かれたラスボスは断末魔の叫びを上げながら消え去った。
三角関数の世界には、再び平和が訪れたのだった。
「へぇー……」
いやー、ついにラスボスを倒せたのか。
ハッピーエンドだな。良かった良かった。
「……ん?」
いや、違う。三角関数の世界の話はまだ続いてるみたいだ。
この先どうなるんだろうか……?
Column
『打倒ラスボス記念に、新通貨を発表します』
こうして無事、平和を取り戻した三角関数の世界だったのだが。
そんな戦後のある日、そんな世界も驚きの大発表がなされたのだ。
「世界人類を苦しめたラスボスを倒した記念に、新たな通貨を発表します」
三角関数の世界ではこれまで共通通貨として『ド(°)』を使っていたのだが、どうやらリニューアルされるらしい。
「"ド"に代わる新たな通貨は、"ラジアン"であります」
声高に発表された新通貨名と共に、両手に掲げられた額縁に入っていたのは『π』の文字。
――――そうです! 実はこの高校数学の三角関数から、角度を表す際には『ド』じゃなく『ラジアン(rad)』を使うんです!
ラジアンとはどんなモノかといえば、角度を『丁度半周でπ』として表す方法。厳密な定義とはちょっと違うけど、実質的にはそう捉えてくれればいいだろう。
180°⇒π、 90°⇒π/2、 30°⇒π/4、 135°⇒3π/4、……といった感じだ。単位も要らないぞ。
『1周で360°』として表す今までの度とはまるで別物だろう。
……おっと、どうやらまだ発表の続きがあるみたいだぞ。
「皆様がお持ちである従来の"ド"は、市中の銀行にて"ラジアンに"交換します。その際のレートは『° = π/180』でありますから、受け取った際には分母の180を約分してご利用ください」
はい。
今の発表にもあった通り、°からπに変換する際には『° = π/180』のレートを代入すれば良い。あとは約分すればオッケーだ。
という訳なので、新通貨『ラジアン』を使うとさっきの例題と問題文、回答例だってこんな感じになるぞ。
===========
次の各問において、方程式を満たすθを求めよ。
但し、0≦θ<2π とする。
例4)sin(θ+π/6) = 0
解) θ + π/6 = 0, π
よって θ = 5π/6, 11π/6
===========
すっかり様変わりしちゃったな。
ただそれでも、表している意味は同じ。半周弱と半周の2倍弱、150°と330°を示しているぞ。
という事で、これからの三角関数の世界は平和になっただけじゃなく通貨も変わって心機一転だ。
慣れるまでは結構難しいし、苦労も多いだろうけど……新しい三角関数の世界、楽しんでいこう!
「成程」
そっか。色々とおめでたいんだね。三角関数の世界も。
そういえば僕の住んでた日本でも、元号の変わり目には日本全国レベルで大騒ぎしてたっけな。きっと今頃の三角関数の世界も、ラスボスを倒してあんな感じなんだろう。
「……さて」
三角関数の世界ではラスボスを倒して平和を掴み取ったみたいだ。
となれば、今僕が生きている『この世界』も魔王軍を倒して平和を掴み取らなくちゃだな!
そのためにどうすれば良いかは、もう分かりきっている。
僕は僕の出来る事をやるまでだ。
「待ってました練習問題!」
僕は勉強して力をつけるのだ!




