4-8. 自己紹介
コンコンコン
「先生ー、居ますかー!」
シャワーを済ませて散魔剤でコートを洗っている所で、ノックと僕を呼ぶ声が聞こえた。
これは……シンの声だな。
「鍵開いてるから、入ってきていいぞー!」
大声でこちらからも返事をする。
っていっても、ここまで大きな声を出す必要は無いんだけどね。
日本の物と比べると、こちらの世界のドアは防音性が高くないし。
「お邪魔します」
「お邪魔しまーす!」
「失礼します」
3人が続々と入ってくる。
「適当にその辺で寛いでいてくれー」
風呂場からそう告げる。
洗濯完了までもう少し掛かるからな。ベッドにでも腰掛けて待っていてくれ。
「先生、何やってるんですかー?」
って思ってたんだが、皆してこっちに来てしまった。
「せ、洗濯か? 青い色水に、この匂い……」
「あぁ、そうだよ。血に塗れた僕のコートを洗ってるんだ」
「さっきまで真っ赤に染まっていたのに、もう真っ白……。もしかして、途中で買った『散魔剤』ですか?」
「正解。マッチョ兄さんに教えてもらったんだけど、一瞬で真っ白に戻るからお気に入りなんだよね」
シンが「ナルホド!」と感心している後ろでは、ダンとコースが「マッチョ兄さんって誰ー?」とか言っている。
あぁ、彼らが分かる訳ないよな。僕がこう勝手に呼んでんだし。
てことで、さっきギルドで買取をやってもらった男の人だよ、と教えてやった。
いや、3人とも笑ってるけど、僕と行動を共にする限りマッチョ兄さんの呪縛からは逃れられないと思うよ。笑い事じゃないから。
まぁいいや。あとはすすいで干すだけだ。
「さて、今みんなに集まってもらったのは、改めての自己紹介、それとまぁ、最初の授業でもしようと思ってね」
3人に今日の恩は感じている。怪しいやつだと疑う気も全く無い。けれどやっぱり、ちゃんと自己紹介はしておくべきだよね。これから長い付き合いになるかもしれないし。
3人が頷いたのを見て、口を開く。
「じゃあ早速自己紹介からいこう。僕は数原計介。職は数学者。使う武器はこのナイフ。ここのオバちゃんから貰ったヤツだ。……んー、あと伝えるべき事はあるかなー。後はこれでも見てくれ。【状態確認】」
改めて自己紹介、とは言ったものの紹介する事がなかなか思いつかないので、プレート任せにしてしまった。
軽い電子音と共に現れたステータスプレートを3人に見えるように回す。
3人は顔を並べて僕のステータスプレートを覗き込む。
「ほぉー……え、【演算魔法】!?」
コースが【演算魔法】に早速気づいたようだな。
「先生の名前って、王国では中々聞きませんよね」
「そういえば、先生はどこの出身なんだ?」
あぁ、そうだよな。ケースケもカズハラも、こっちの世界じゃ馴染みの無い名前だよな。
しかし、飽くまで僕は日本から召喚されたいわば『異世界人』だ。異世界転移とか、そういう概念はこちらの世界で理解してくれるかな……
「えーと、僕の出身はだな……こう言って理解してくれるかどうかは分からないけど、異世界です」
結局、うまく言い換えられる言葉が見つからなかったのでそのまま異世界と言ってしまった。
「えっ……」
「異世界……それって」
「それってもしかして、神様の『勇者召喚』でこの世界に来たって事ですかー!?」
「あぁ、そうそう。実は僕、一応勇者なんですよねー」
神の遣い、か。なんだか烏滸がましい肩書きだこと。
『神様関係ないよ、本当はここの王女様が召喚したんだよ』と真実を言いたくなるが、これは絶対にダメだ。
王都を発つ前夜、可合が僕の部屋でカミングアウトした内容を思い出す。
【勇者召喚】は実際には、ティマクス王家の秘儀である光系統魔法の一つだ。
だが、一般国民には悪用されないように『勇者召喚』とは『神様がこの世界に勇者を召喚した』って事で通されているんだった。
そういえばあの時、可合は僕に向かってサラリと最重要機密事項を放出したからな。そんなんが世間に知れ渡っちゃあ、王国のみならず世界が大変な事になるだろう。
つまり、まだ国民が『神様の為せる業』って言っている間は、可合は秘密を守れているって事だな。
「まさか本当に勇者様に会えるとは……!」
「しかも勇者様の学生になれるなんて、なんたる幸運だよな」
「【勇者召喚】なんて単なる伝説だと思ってた!」
僕の勇者だった件がまだ冷めやらないんだが、そろそろ進めようか。次はシンにでも自己紹介してもらおうか。
「じ、じゃあ、そろそろ良いかな。次————
「ちょっと待って! この【演算魔法】ってどんな魔法なのー!?」
うぉっ。
コースの鋭い質問が入る。
まぁ、そうだよな。初めて会った時から、コースはずっと僕の使う魔法にしか興味を持ってなかったし。
「あぁ、【演算魔法】ね。コイツが無けりゃ、今頃僕は冒険者になれなかった。仕事も無く、金も稼げずに餓死してた」
「へー、これが狂科学者の原点……」
正にその通りだ。上手いこと言うね。
じゃあ、少しその力を見せてあげようか。
「まぁ、どんな感じかというとだな。ステータスプレートを見ててね。……【加法術Ⅲ】・DEF20!」
その瞬間、ステータスプレートのDEF欄、『14』にノイズが入る。
「「「おぉ……」」」
そして、ノイズが消えると『34』の数字が浮かび上がる。
「「「おおぉぉ!!」」」
僕からしたら見慣れた光景だが、こんなに驚いてくれると少し嬉しいね。
数学者、悪くないかもって思った。
「これは系統魔法のステータスを底上げする感じとは違って、『上書き』してるんだ」
「上書きとは……? 系統魔法のステータス強化魔法とは異なるのか?」
あー、そこね。系統魔法にもバフ魔法があるのは図書館で調べてたけど少し違うんだよなー。
「まぁ、ザックリ言うとだな、どっちも結果的には同じだ。系統魔法のステータス強化魔法は、魔力を『ステータス10ぶん、攻撃や防御の補助をする』のに使うって感じだ。これに対して【演算魔法】は、魔力を『僕自身をステータスが10上がった状態にする』のに使うって感じ。……これが上書きっていう考え方かな」
まぁ、結構頑張って分かりやすく説明したつもりだが、上書きの考え方は難しい。
分からなくても仕方ないかな。
「……ふむふむ、ナルホド!」
コースは理解しているようだ。さすが魔術師。
「後でコースに聞きます!」
「俺も」
そうか。まぁ仕方ない。僕もなんとなく分かってる感じだから。
「よし、じゃあそろそろ君達の自己紹介にしようか。まずはシンから」
「はい! えーと、名前はシン・セイグェンです。職は剣術戦士、長剣を使ってます。故郷は前にも話した通り、皆と同じトリグ村です」
故郷の件はさっき聞いたからな。
「私はコース・ヨーグェン! 職は水系統魔術師、武器は無いけど、この系統魔法の教科書と魔法の杖が相棒です!」
やっぱり魔術師は皆『魔法の杖』を使うんだな。
何か効果あるんだろうか? 火村に今度会ったら聞いてみよう。
「最後に俺だな。ダン・セーセッツ、職は盾術戦士。この鉄の大盾を愛用している」
「じゃあ、コース、ダン。私達もステータスプレートをお見せしましょう————
「あぁ、その必要はないよ。【解析】」
そう唱えると、3枚のステータスプレートが僕の前に現れる。
「え? それって……私達のステータスプレート!?」
「しかもATKからMNDまで一通り表示って……」
「【鑑定】とは異なるのか?」
ステータスプレートは半透明なので、裏からも内容が透けて見える。
あぁ、そういえば【鑑定】はATK以下が表示されないんだっけ。
完全上位互換だ、って感動したのを覚えてる。
「あぁ、これも【演算魔法】の一つでね」
「すごーい!!」
また少し先生としての株が上がりつつあるな。
さて、彼らのステータスはっと……




