20-22-1. 『頼もしき彼らと共に』
√√√√√√√√√√
――――私はもう、死ぬ覚悟でした。
『津波』がフーリエに迫っている、そう知らされた時から。
領主と云う者は、生まれながらにして権力を持ちます。
別に、私自身が元来特別な何かを持っている訳でもない。
私自身が特別な何かを成し遂げた訳でもない。
この街に住まう大多数の民と同じ、至って普通の人間です。
ただしかし、それでも私が権力を持つのは……フーリエ家に生まれたから。
その事実のみが、私を領主たらしめております。
そんなフーリエの領主には、決して欠かしてはならない物が一つ御座います。
『民の信頼』です。
力も無くば功績も無い、そんな民と相違ないフーリエ家が代々領主家を務め続けているのは……民の信頼があってこそ。
万が一にも信頼を失えば、一瞬とはならずとも次第にフーリエ家は没落することでしょう。
民を尊び、民を敬い、何よりも民を護る。幼き頃から亡き父に散々叩き込まれた、領主としての心構えです。
フーリエに危機が及ぶ際には死ぬ気で民を守らなければなりません。いざとなれば――――この身を投じてでも。
だからこそ……私はもう死ぬ覚悟でした。
『津波』がフーリエに迫っている、そう知らされた時から。
大津波が街を襲う瞬間まで民の避難誘導に全力を尽くし、そして殉職した20年前の亡き父の様に。
フーリエの民の為に命を捧げた、エスパーダ・フーリエの様に……私も同じ道を辿る心算でした。
ですが――――いつの間にか、物故へと向かう筈の私の歯車は狂っておりました。
『津波』に殺されるどころか、いつしか『津波』が圧倒されてゆくこの戦況……信じられません。
街の損壊は不可避、下手をすれば街が丸ごと流される天災だと云うのに。
相応の犠牲を払ってこそ、なんとか撃退できる敵だと歴史が証明しているのに。
そして、今。
頼もしき彼らは……そんな人類の積み上げてきた歴史を、真っ向から全否定しました。
一人の死者を出すことも無く。
街への被害も、ほんの僅かばかりに抑えて。
元凶であるサファイアホエールを、撃退するどころか――――討伐してしまいました。
塔の様に大きく長い剣を以って、雌雄は今決しました。
……父上、エスパーダ・フーリエ。聞こえておりますか。
どうやら私は……息子のトラスホームは、まだ其方へと逝くには少々早かったようです。
どうかもう少々お待ち下さい。
私はもう少しばかり、領主として港町・フーリエを見守ります。
フーリエの街と、民と。
そして、『頼もしき彼ら』と共に――――
∋∋∋∋∋∋∋∋∋∋
こうして、港町・フーリエを巡るサファイアホエールとの戦いは決着したのであった。




