4-7. 寝床
まぁ色々とあったが、僕は3人と一緒に買取金を受け取ってギルドを出た。
獲物の綺麗さをマッチョ兄さんに改めて褒められた上、そのお陰で先生株が少し上昇したので少し気分が上がっている。
「さーて、じゃあ宿に戻りますか」
「「「はい!」」」
途中でちゃんと散魔剤とご飯を買って行かなければな。
あぁ、そうだ。どうせなら買い物のついでにシン達の取っている宿まで送ってやるか。
「そういえば、君達は何処の宿に泊まってるんだ?」
「「「…………」」」
突然3人して黙り込む。
……あれ、何かヤバいこと聞いてしまった?
「……えーと、その……」
コースの目が凄い勢いで泳いでいる。
「……実はだな……」
「……毎日東門の直ぐ傍で野宿してるんです」
「マジかーい!!!」
一瞬僕ら4人の時間が止まった。
え、ちょっと理解が追い付かない。
つまり宿にも泊まれない貧乏生活ってことか?
「え、えーと……ちなみにそれって、修行と何か関わりが?」
「全く関係ないよー」
「ということは……」
「単なる金欠だ」
ダンが腕を組み、ドヤ顔でそう言う。
いや、金欠をビシッとキメられてもどう反応していいか分からない。
……しかし、マジか。野宿レベルか。
僕にも金欠な時があったが、流石に野宿までは行かなかった。ベッドには在りつけていた。
当時の僕を超えた金欠が今ここに。上には上が居るもんだ。
この場合だと下には下かも。
「先生、どうかしたの?」
「ん? あぁ、済まん、考え事をしてた。僕もそんな時があったなー、なんてな」
考え事をしている所に突然目の前にコースが現れたので、ちょっと驚いた。
「いやー、毎日狩りをやってるので食いっ逸れることは無いんですけどね」
「俺らの食事代とアイテム購入で殆ど金も溜まらないんだ」
あらまぁ。
3人のエンゲル係数はかなり高そうだな。
……うーん、この状況を聞いてなんだか可哀そうに思えてきた。
よし、今日は僕が3人を宿に泊めてやろう。
先生と学生になった記念すべき日だ。
しかも、さっきは危うく死ぬところだったのを助けてもらったのだ。
彼らはウルフを撃退したことについて特に口にしないし、僕を助けたことについても特に触れて来ない。
彼らからすればウルフの件も狩りのワンシーンなのかもしれないが、僕からすれば命の恩人が現れたレベルの出来事だ。
先生としての気持ちや感謝の意として3人の宿代を出しても、バチは当たらないだろう。
「よし、じゃあ今日は僕が君たちを宿に泊めさせてあげよう!」
「本当ですか!?」
「ヤッター! ありがとう!」
「済まんな、先生」
という訳で、4人で精霊の算盤亭へと向かった。
あぁそうだ、散魔剤とご飯の購入を忘れないようにしないとな。
「おかえりなさい――――あら、今日はお友達連れかい?」
精霊の算盤亭のドアを開けると、目の前の受付にはいつも通りオバちゃんが座っていた。
「ただいま帰りました。この子たちは…僕の教え子(?)です」
「「「こんにちは!」」」
「こんにちは。礼儀正しくて宜しいね」
そうそう、この子たちは礼儀や挨拶に関してはちゃんとしてるんだよな。
シンはもとより、コースは言葉が少し子どもっぽいし、ダンは中学生にしては少し大人びた感じではあるんだが。
きっと、トリグ村で良い教育を受けてきたのだろう。
「あぁ、あのー、今日3部屋空いてますか?」
「おや。もしかして、この子たちも此処に泊まってくれるのかい?」
「はい、そんな感じで」
「おぉー、それは嬉しいね! 実は、アンタの隣の部屋、202から206に泊まっていた冒険者のグループが今日王都を出発するって言って、丁度空いたところなんだよ」
おぉ、それはナイスタイミング。
折角なので僕の部屋の隣、202から204号室を取らせてもらおうか。
ちなみに僕の部屋は、王城を出た日以来ずっと201号室だ。
精霊の算盤亭には本っ当にお世話になっているな。
「じゃあ、202から204を一泊お願いします」
そう言いつつ、リュックを開いて硬貨を取り出す。
えーと、宿代は幾らかなーっと……
一部屋一泊銀貨3と銅貨50なので、イコール銅貨350。
三部屋とるので「350+350+350」を想像し、【加法術Ⅲ】と念じる。
魔力を消費すると同時に、1050という数字が頭に浮かぶ。
銅貨1050。つまり、銀貨10と銅貨50だな。
「はいよ。アンタの部屋代は一昨日貰ってるから、追加の3部屋分で銀貨10枚と――――
チャリンチャリンチャリン
「銀貨10枚と銅貨50枚、ですね」
「あら、正解。しかも随分と計算が速くなったね。つい前までは計算ミスばっかりだったのにねぇ」
「うっ。ま、まぁ、一応僕数学者なので」
「ハーッハッハ、そうだったそうだった。毎日血塗れで帰って来るもんだから、学者さんだって事忘れちゃってたよ。はい、じゃあこれが鍵ね」
そんな感じで受付完了。
いやー、つい勢いで『宿に泊めてあげよう!』とか言ってしまったが、もし精霊の算盤亭が満室だったりしたら危うく事故ってたな。
今度から気をつけよう。
さて、階段を上がって2階へ。
宿代の精算の辺りからずっとシンが頭ペコペコしている。『良いよ良いよ、気にすんな』って言っても止めてくれないので放置しているけど。
「はい、これが部屋の鍵ね」
2階の廊下で3人にそれぞれ部屋の鍵を渡す。
202から順にシン、コース、ダンだ。
あぁ、あと3人には話したい事があるんだった。
いわば作戦会議的なやつだ。
一応、これでも僕は彼らの先生役だ。それなりに教えようと思っている事はある。
というのは建前であり、本命は彼らから色々と教えてもらおうとも思っている。いや、ちゃんと教える事は教えるけどね。
シン達は2ヶ月前から王都に滞在して冒険者を始めている。こちらの世界歴2週間程という僕に比べりゃ、こちらの世界の事については彼らの方が先輩だ。
「じゃあ、荷物置いてシャワー浴びたりして、ひと段落したら僕の部屋に集合してね。少し話したい事があるから」
「「「はい」」」
「それが終わったら今日はのんびりタイムだ!」
「「ヤッター!」」
「久し振りの布団……!!」
ダンが泣きそうになってる。
うんうん、野宿の日々、辛かったよな。今日はぐっすり寝てくれ。布団でなくベッドだけど。
まぁ、さっき時計を見た所、まだお昼の3時過ぎだった。結構のんびりできるだろう。
3人が目を輝かせつつ部屋に入っていくのを見届け、僕も部屋へと入った。
ガチャッ
ふぅー、疲れた。
本当にこの部屋に帰って来れて良かったな。
生きてるって良い事だ。
白衣を脱いで風呂場の桶に投げ入れ、リュックを椅子に置き、ベッドダイブ。
はー、フカフカのベッドが気持ちいい……
あぁ、そうだ。3人が来る前に白衣の洗濯とシャワーを済ませとかないとな…………
って寝ちゃ駄目だ。
危ない危ない。
じきに3人がやって来るのだ。さっさとシャワーと洗濯を済まさねば。




