4-6. 推奨
「お、狂科学者さん、おかえり。その返り血を見りゃ、今日もまた派手に実験してきたようだな」
「あぁ、門番さん、お疲れ様です。今日は色々とありましてね……」
「今日も、なんだろ。ハッハッハ」
「ハハ……」
さて、やっと東門に着いたんだが。
いつもの門番さんが往来の監視の合間に声を掛けてくる。
まぁ、毎日魔物の血に塗れて帰ってくるけどさ……
今日は違ったんだよ!
コイツらが居なければ死体になって帰ってくるところだったんだぞ! 笑い話にならないんだよ!
「そういえば、今日は1人じゃねぇんだな。グループでも組んだのか?」
「……あ、あぁ。これは————
「私達、計介さんの学生になったのー!」
なんて言おうか迷っていた所で、コースがストレートに言ってしまった。
「が、学生か。冒険者の世界じゃ聞き慣れねぇ言葉だなそりゃ。師匠と弟子、みたいなもんか?」
「まぁ、そんな感じです」
「そうか。オメェらも頑張れよ!」
「「「はい!」」」
まぁ、そんな感じで東門を通り、そのまま冒険者ギルドへ。
最近じゃあ僕も大分知られてきたので、建物に入った際に血塗れの姿に驚かれるような事も無くなった。
そのまま4人で買取カウンターへと並ぶ。
「いやー、今日はウルフが5体も入りましたからね」
「大漁だねー」
「今日の飯はちょっと贅沢するか」
そんな感じで雑談を交わす学生の3人。
ちなみに、ウルフの買取金額の取り分は全額彼らだ。
救ってもらった挙句お金まで頂くなんて絶対に出来ない。
しばらくして、僕らの番がやってきた。
「次の人どうぞ〜」
……この声、今日もか。
買取カウンターで手を挙げ、僕らを呼ぶマッチョ兄さん。
今まで2週間ほどであろうか。冒険者をやっているのだが、マッチョ兄さん以外の人に受付してもらった事がない。マッチョ兄さん以外の人に当たっても、気づくと結局マッチョ兄さんになっていたりもする。
なんでや。謎すぎる。
まぁ、こんな事を考えていても仕方ない。
というか、別にマッチョ兄さんが嫌だって訳じゃないので気にしない事にしよう。
カウンターへと4人でゾロゾロと向かう。
「はいこんにちは。今日も狂科学者さんが登場なされましたね————って、何これ。今日は随分と大所帯じゃん」
「あー、色々ありましてね」
「私達、計介さんの学生になったのー!」
コースのストレートが炸裂。
しかも話す文がさっきと全く変わってない。
「ほぅ、学生か。狂科学者さんは弟子をとるような系の奴じゃないって思ってたんだが」
「ま、まぁ色々ありましてね」
かくいう僕も『色々ありまして』と同じ事しか言ってなかった。
「ふーん、そう。色々あったのね。じゃあ獲物ここに出してって」
色々あった事はスルーしてもらえたようだ。
流石マッチョ兄さんだ。冒険者事情分かってる。
という事で、獲物をどんどんリュックから出していく。
今日の僕の収獲は大量のプレーリーチキンだ。
結局、大量のチキンが逃げ惑ってたのもウルフの襲撃のせいだったな。
しかし、買取価格の高めなプレーリーチキンが大量発生ってのは有り難かった。
ウルフに殺されそうになり、ウルフのお陰で財布が潤う。
果たしてウルフは敵なのか味方なのか……?
いや、言うまでもなく敵でした。
そんなどうでも良い事を考えつつ、チキンを出していく。
今日の僕の成果はプレーリーチキン15羽、ディグラット4匹。
僕の隣に立つ3人もゾロゾロと獲物を取り出す。
ラット、チキンがしばらく続き、最後に本日メインのウルフ5頭。
僕らの後ろ、買取カウンターからどよめきが起こる。
「ふーん。やるじゃん、お前ら」
「ありがとうございます〜」
シンが褒められて少し照れてる。
かわいいな、童顔戦士。
「えーと、お前らのLvは……全員8か。カーキウルフの推奨Lvは確か12なんだが、ケガ無かったか?」
「大丈夫ー!」
「そりゃぁ良かった。まぁ、推奨Lv未満でも3人居りゃあ大丈夫だわな」
ん? 聞き慣れない単語があった。
「あの、推奨Lvって何ですか?」
「ん? 狂科学者の兄ちゃん、そんなのも知らなかったのか?」
「推奨Lvとは、いわば魔物の強さの基準って事だ、先生」
ダンが教えてくれた。
先生が学生に教えてもらってしまったんだが、まぁ仕方ないよね。こっちの世界についての情報なら、むしろダン達の方が先生だ。
そして学生の3人とマッチョ兄さんから、推奨Lvについて教えてもらった。
はい、という訳で久し振りの説明タイム。
推奨Lvってのは、魔物の強さを冒険者ギルドが独自に定めた基準だ。
これを用いることで、冒険者がそれぞれのLvに合った狩り場を選べるようになっている。
ちなみに推奨Lvが出来る前は『中級者向け』とか曖昧な感じで言い分けていたようだ。しかし、その曖昧さ故に、実力を過信した無謀なチャレンジャーがあえなく散る事も絶えなかったんだって。
推奨Lvの意味は『冒険者1人が魔物と戦う際に、難なく勝つことができる時のLvの高さ』である。
ここでポイントなのが『魔物の数』。
普段から単体で生きている魔物なら『1対1』での推奨Lvとなり、群れを成す魔物なら『1対多』での推奨Lvとなる。
草原に現れる魔物で例を挙げると、ディグラットの推奨Lvは『単体でLv.4』、プレーリーチキンは『単体でLv.6』、カーキウルフは『4頭でLv.12』である。ウルフは群れの大きさが平均4頭なので、このような基準になっているようだ。
「……まぁ、飽くまで基準だからな。Lvが上回ってても気を抜きゃ死ぬし、Lvが低くてもスキルやグループでの連携、地の利とかによっては十分に勝てる。さっきもこの3人が上手くやったようだしな」
確かにそうだ。
3人は皆Lv.8であるのに対し、カーキウルフは『4頭でLv.12』推奨。しかも5頭だった。
にも関わらず彼らが勝てたのは3人の連携のお陰だろう。
まぁ、僕を狙っていた横から奇襲を仕掛けた感じだってのもあるかもしれないけど。
「よし、そろそろ話はこれくらいにして買取に移るか」
「よろしくお願いします」
あぁ、やばい。目的を忘れていた。
シンがすかさず頭を下げる。礼儀正しくて宜しい。
そして数分して硬貨入りの袋が2袋持って来られる。
「はいじゃあ買取金額です。3人の方はどれも酷く傷付いてるからな、銀貨28枚。狂科学者さんは相変わらずの完璧な質、値下がり無しの銀貨30枚だ」
よっしゃ。今日は丁度銀貨30枚。
最近は一日銀貨30枚稼ぐのが僕の中での目標なのだ。
「え……銀貨30枚だと!? 俺らより多いのか!」
「一頭銀貨8枚のウルフを5頭も狩ったのに!?」
「なんでなんでー!」
銀貨2枚分勝ったぜ。イェーイ!
なーんて子供な考えは頭のゴミ箱にポイしておいて。
「ただ狩れば良いって訳じゃないんだなー、君達」
「そうだな。お前らも狂科学者さんの見事な狩り方を覚えるんだな」
「「「はい!」」」
うぉ、僕の先生株が少し上がってしまったようだ。
 




