18-13. 店
そんな楽しい楽しい魔物狩りの時間もあっという間に過ぎていき、ふと気付けば時刻は午後4時。
空もオレンジ色に染まり始めていた頃……暴れに暴れていたシン達も流石に疲れてきたようで。
「ふー、疲れたー…………」
「そろそろ撤収にしますか、皆さん?」
「おう、そうしようぜ」
今日はこれにて引き揚げ。
来た道を引き返し、フーリエの北門から街へと戻ってきた。
「今日もいっぱい狩ったねー!」
「はい。リザード大猟です!」
「俺も満足だぞ!」
狩りの余韻に浸りつつ、足元に影を伸ばしながら家路を辿る。
「ケースケ、今日の成果は如何ほどだったのかしら?」
「あぁ、確かリザード38体とかだったな」
「……いつの間にわたし達、そんな数を狩ってたのね」
「まぁ、多いに越したことは無いし。これだけの獲物を買取に出せばマッチョ兄さんも喜びそうだ」
「そうね。フーリエでもまだまだ皮の需要があるみたいだし」
38体、半日分の成果とはいえど十分過ぎるくらいだ。
ちなみに獲物はすべて【因数分解Ⅳ】【相似Ⅱ】の収納上手コンビで処理の上、背中のリュックに入れてある。お陰様で運搬もラクチンです。
「そういえば、チェバも今日はいっぱい闘ったね!」
「きゃん!」
コースの足元をてくてく着いていくチェバも、今日はなんだか気分が良さげだ。
沢山動いてスッキリしたんだろうな。
「スネークおいしかった? いっぱい食べた?」
「きゃん♪」
「そっかー。良かったね!」
……そうそう。
あの後チェバはスネークの味を覚えちゃったのか、ひたすらスネークを狩りまくってたんだよな。そして1匹残さずキッチリ平らげていた。
皆が『狩り』に興じる中、チェバだけはもはや『捕食』だった。野生を感じたよ。
「……よくあんな気味悪りぃモン食えるよな、チェバ。どうせなら俺の近くに居てくれよ」
「チェバ、次は私に着きませんか? 私の周りならスネーク食べ放題ですよ」
「くぅん?」
シンとダンがチェバを勧誘。
……蛇が嫌いだったり何かと蛇に咬まれたりと、うちの男衆は蛇にまつわる悩みが多いからなー。
果たしてチェバは彼らの救世主になれるのでしょうか。
「ダメだよ! チェバは私と一緒だもん。ねー?」
「きゃんきゃん!」
……ダメそうだ。
段々と陽が傾いてくる中、夕方のフーリエの街はまだまだ人で賑わっている。
朝市はとっくに閉じているけれど、この時間帯は晩ご飯の買い物を済ませるお客さんが多いようで。
街中のお店もここからが書き入れ時と盛り上がっているようだ。
「色々なお店が有るんだな。……そういやコース、どんなお店を開くか決めたのか?」
「んーん。まだなの」
「そうか。……まぁ、じっくり決めれば良いさ」
「うん」
こういう街を眺めながら歩いていれば、何か良いアイデアが閃くかもしれないしね。
通り沿いの建物に目をやれば、魚屋をはじめ肉屋や八百屋は買い物客で賑わっている。
お店の人も忙しなく動き回っているな。
ケーキ屋に入っていくのは子ども連れの4人家族。誕生日パーティーでもやるんだろう。
パン屋の前ではコック帽を被った方が声掛け中。夕方のタイムセールみたいだ。
花屋はそろそろ店じまいのようだ。片付けを始めている。
そんな中、逆にココからが本番のお店もあるようだ。暖簾の架けられた居酒屋には仕事終わりの男達が続々と吸い込まれていく。
旅先や出張の人々が宿屋へと入っていけば、徐々に部屋の灯りが増えていく。
「お店かぁー」
そんな街並みを眺めながらコースが一言呟くと、腕を組んで黙り込む。
彼女にしては珍しく真剣に考えてるみたいだ。
「みんなをニッコリにできるお店……――――
ぐうぅぅ……
「あっ」
そんな静寂の中、ダンの腹が鳴る。
恥ずかしがるように腹を押さえるダン。
「もー! せっかくマジメに考えてたトコだったのにーッ!」
「済まねえ済まねえ。美味そうな匂いでつい――――
ぐうううううぅぅ……
「さっきより音デッカくなってんじゃん!」
「本当済まねえって。もう腹減っちまって止まらねえんだよ……」
「フフッ。それじゃあ、早く家に帰って鉄火丼にしましょう」
「「「「ヤッター!」」」」
アークの鉄火丼はいつ食べても最高だけど、狩りの後の鉄火丼は特に美味しいからな。
……コレは楽しみだ。
そんな話をしつつ、僕達は家へと夕暮れのフーリエを歩いていったのでした。
そんな、翌朝。
「ねーねーみんな!」
朝食を食べ終わったところでコースに声を掛けられる。
「決まったよー! お店!」
……おっ、ついに決めたみたいだな。
席を立っていたシン・ダン・アークの3人もコースの周りに戻ってくる。
…………さあ。コースは店舗スペースにどんなお店を開くのでしょうか?
「それじゃあ教えてもらおうじゃんか」
「コース、どんなお店にするのかしら?」
「それはねー……――――
すると……コースの一言目は、思いもよらない衝撃的な物だった。
「ぶっちゃけ言っちゃうと……お店開くの、やっぱりやめよっかなーって思っちゃって」
「「「「なっ!?」」」」
……マジかよ。
「どっ、どうしてそんな急に!?」
「実はー……昨日のお店見てたら、なんだか思ったより大変そーだったなって思っちゃって」
「小さい頃からの夢だったんじゃねえのかよ?!」
「そうだけど、なんか面倒くさくなっちゃった」
……将来の夢への熱が完全に冷めちゃってる。温度差が激しい。
「あと、もう1つ理由があって……」
「と言いますと?」
「こんな空き家通りのド真ん中でお店やったって、人集まんなくない?」
「「「「……確かに」」」」
意外と現実的だった。
……けど、そうなると折角作ってもらった店舗スペースが無駄になっちゃうな。
どうしようか――――
「でもねでもね、そのかわりに1つアイデアがあるの!」
……アイデア?
「うん! お店スペースを使って、私たちが皆をニッコリさせられるもの……1つだけ閃いちゃったんだー!」
ほぅ、気になるな。
「へへェーン…………知りたい?」
「おぅ。知りたい」
「知りたいです」
「俺らに教えてくれよコース!」
「どんな案なのかしら?」
「もー。しょーがないなー」
……僕達にそう言わせると、『しょうがない』どころかみるみる笑顔になるコース。
そして待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「それはねー」
「「「「それは……――――
「お店スペースを、秘密基地にするの!」




