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18-11. 試し

「コレは……!」

「凄え……!」


シンとダンが今まで使っていた武器とは、大きさも形もデザインもほとんど同じ。

だがしかし……第一印象はまるで別物。

鉄鋼本来の銀色に、純ユークリド鉱石を思わせる蒼みがかったその輝きからは……落ち着きと強さを兼ね備えた風格さえ感じられる。



「それでも師匠の作った対魔物用の剣や盾には劣りますが……アッシ自身、過去最高の出来です! バッチグーです!」


彼自身の折り紙付きの、長剣と大盾が完成した。




「私達が使うのが烏滸がましく思えるくらいです……」

「こんな武器……俺らが貰っちまって良いのかよ?!」

「もちのろん! お2人のために作ったんですから!」


そう言われ、恐る恐る新品の武器に手を伸ばす2人。



「……おぉ! なんだか少し強くなった気がします!」


長剣を諸手で握るシン。表情が段々と明るくなっていく。



「気のせいですね。剣自体にはそんな機能付いてませんから」

「あ、ああ。……ですが少し振るのが楽になりました! この剣って軽量化されてますよね、カジさん?」

「気のせいです。特に変わっていませんよ」


……なんだよ。



「この盾も凄えな! まるで手に馴染むぞ!」

「それも気のせいですから」

「お、おう。そうか」


……そっちもかよ。



「シンさんとダンさんが仰っていたのはどれも気持ちの問題ですが……この武器が真価を発揮するのは、魔物相手に戦う時です」

「「魔物相手に戦う時……」」


そう呟き、ジッと手にした武器を見つめるシンとダン。

そこに加冶くんが自信を持って断言した。



「普通の鋼製の武器と、ユークリド鋼製の物とでは魔物相手に戦った感覚が段違いです。……しかもコレは純モノの結晶を混ぜ込んだ武器ですから、きっとシンさんもダンさんも驚きモモの木サンショの木なこと間違いなしです!」

「……そう言われちゃ期待するしかねえぞ!」

「是非使わせてもらいます!」


加冶くんの言葉に、期待を膨らませる2人も満面の笑みを浮かべていた。






「となったら、2人の武器の試し斬りに行かないとだねー!」

「はい! 勿論です!」

「すぐ行こうぜ!」


話も一段落すれば、今か今かとウズウズしていた戦闘狂(コース)も我慢の限界が来たようで。

魔物狩りついでに2人の武器の試し斬りに行くことになった。



……んだけど、工房を出る前にやる事がある。

対価の精算だ。


「加冶くん」

「何でしょうか?」

「2人の武器代は、お幾らぐらいに……?」


見るだけでも感動する程の逸品モノを作ってもらったのだ。

しっかり代金は支払わなきゃ。



「ああ、それなら要らないです。結構結構コケコッコーですから」

「いやいや。こう言っちゃなんだけど、僕達はお金ならそれなりに持ってるし――――

「むしろ数原くんから貰ったコレを考えれば、アッシの方がお釣りを払うくらいです」


そう言って加冶くんが取り出したのは、先端がほんの少し削られただけの純ユークリド鉱石。



「それに……アッシの中では数原くんがとても頼もしい存在なんです。あの困ったちゃんが旅立って独りぼっちになっても、数原くんが頑張ってると知ったからこそアッシも頑張ってこれた。蟻が10匹アリガトウなんです」

「……おう」

「そういう事なので、お代は不要。合点承知の助ですか?」

「……おう。合点承知の助」


相変わらず古い言葉だとは思ったけど……加冶くんの気持ちに僕も感謝しつつ、頷いた。











という事で。



「それではカジさん、ありがとうございました!」

「新しい盾で魔物狩りに行ってくるぞ!」

「加冶くん、また何か有った時にはよろしくな」

「もちのろん! 数原くんも皆さんも、いつでも大歓迎ですから!」

「おぅ。それじゃあ」

「ではアッシもドロンさせて頂きます」


僕達は加冶くんと別れ、フーリエ鍛冶工房を後にすると。




「……北門だな」

「「「「おぉー」」」」


やって来たのは工房からほど近い所にある北門。

今日はココから街の外に出て、試し斬りついでの魔物狩りだ!



「そういえば、北門に来るのって初めてですよね」

「うん。私たち、ずぅーっと西門でしか魔物狩りしなかったもんねー」

「どんな所なんだろうな」


そんな事を呟きながら北門トンネルを抜け、街の外に出てみれば……――――




視界に入るのは、お昼過ぎの雲一つない青空と見渡す限りのフーリエ砂漠。

それだけ。



「……一面砂漠ですね」

「西門と変わんねえじゃねえか」


初めての場所といえど、新鮮さなど微塵も感じないのでした。



「ただ、通行人は少ないな」

「そうね。西門よりちょっと寂しいかな……」


まぁ、強いて違う点を挙げるとすれば……出入りする人や馬車は格段に少ない。

王都やテイラーといった都会へ通じる西門とは異なり、北門は漁村や地方の小さな町にしか行けないからだろう。



「いーじゃんいーじゃん! むしろ良い狩り場だよー!」

「きゃんッ!」


そう言い、早速アテも無く駆け出すコースとチェバ。

……まぁ、確かに間違いじゃないな。狩り目的の僕達からすれば良い環境だ。




「それじゃあ、僕達も行こうか」

「ええ」

「新しい武器のお披露目です!」

「ハハハッ、久し振りに暴れんぞ!」


コースとチェバの背中を追って、僕達も獲物を求めて砂漠へと駆け出した。

……さあ、数日振りの魔物狩りだ。











「いたー!」

「おっ、リザードの群れじゃねえか!」

「早速現れましたね!」


北門を出てからわずか数分、視界の前方遠くにブローリザード3頭を発見。

本日最初の獲物にして記念すべき試し斬りの相手だ。



ズザザザッ

「1頭潜ったわ!」

「臨戦体勢に入ったみたいだな……」


結構な距離にもかかわらず、僕達の気配に気付いたのか1頭が砂の中に潜る。残った2頭もこちらに体を向ける。

ブローリザードの典型的な戦闘フォーメーションだ。



「ならコッチも戦闘準備(せんとーじゅんび)だよー!」

「どんだけタフな大盾なのか……試してみようじゃねえか!!」

「私の新しい(つるぎ)……お手並み拝見させてもらいます!!」


それを見たシンとダンも、新品の武器を手に構える。

……それじゃあ、僕も後衛らしく戦闘準備だ。




【冪乗(パワ)――――

「「先生!!」」


……っと。

魔法を唱えようとした矢先、2人に止められる。



「どうした?」

「すみませんが先生、最初はステータス強化無しでやらせて下さい」

「この武器が()()どれだけ強いのか知りてえんだ。頼む」


……成程、そういう事ね。



「あぁ分かった。必要になったら何時でも言ってくれ」

「ありがとうございます!」

「サンキュー先生!」


ステータス加算無し、こうすることで彼らの武器本来の力が見られるってワケだ。

それじゃあ……加冶くんの作ってくれた長剣と大盾、その実力を見せてもらおうか!



「戦闘開始だ!」

「「「「おう!」」」」











ドスドスドスドス

ドスドスドスドス


砂煙を蒔き上げながら、砂漠を四つ脚で駆ける1対のブローリザード。




「私は左です!」

「じゃあ俺は右だな!」


グッと武器を握り直すと、左右に分かれるシンとダン。

それぞれの獲物へと迫る。




「潜った奴はわたしに任せて! ケースケ!」

「あぁ! 【見取Ⅱ】(スケッチ)!」


その後ろを追いかけるアークに透視魔法を発動。



「居たッ! ……わたし狙いみたいね!」

ボゥッ!


砂に潜ったリザードの居場所もアークの眼には筒抜け。

一瞬で見つけるや否や、彼女の右手に握った槍に炎を纏わせると……足元に突き込んだ。



「ハァァッ! 【強突Ⅷ】(ストロング・スタブ)!!」

ザグッ

グゲゲゲゲェェェッ!!


首元に炎の槍が突き立ったリザードが、ザバッと砂中から姿を現す。



「これで邪魔者は居なくなったわ!」

「はい!」


アークの知らせを聞いて一言返したのは……真っ直ぐに剣を構えるシン。

ズンズンと頭突きの勢いをつけるリザード、その眉間に剣先を向けて集中している。


リザードの助走は段々と加速し、シンに迫る。




――――そして。




スタッ

「……来ました」



リザードが砂をグンと蹴り、シンの腹部目掛けて跳ぶ。

それにシンもしっかり反応し、一言小さく呟くと。


剣を右肩に振りかぶり――――袈裟斬りに振り下ろした。











【強斬Ⅸ】(ストロング・ブレード)ッ!!!」



シュッ






――――この時、シンが振るったその刃は……まるで無音だった。


音も無く、シンの長剣が振り下ろされ。

音も無く、剣の刃がリザードの体に吸い込まれ。

音も無く、リザードの体を真っ二つに斬り分け。

音も無く、シンの長剣が振り抜かれる。


微かに聞こえたのは、シュッという空気を切り裂く音だけ。

あまりの切れ味の良さに、リザードを斬った音すらしなかった――――





ズザザザッ!!


そんな一瞬の無音の世界に音が戻ったのは、斬られたリザードが砂漠に墜落した瞬間だった。

リザードの体を2つに分ける切断面も、まるで近づければくっ付くかと思う程に鮮やかだった。




「……恐ろしいほどに切れ味の良い剣です」


剣を持つ彼自身も、あまりの刃の鋭さに感動を超えて畏怖すら感じていたようだった。











「……凄えじゃねえか、お前の長剣」


さあ。

シンの剣の力が分かれば、今度はダンの大盾だ。


大盾を構えて腰を下げると、リザードを迎え撃つ体勢に入るダン。

彼に迫るリザードも、動かない彼を格好の的とばかりに助走をつける。




「流石にあの突進を受けりゃ、俺も耐えられねえ…………」


……いくら素のDEFが高いダンでも、僕の強化無しではリザードの突進を受ければ反動は免れない。

数歩よろけるか、下手すれば尻餅だ。


そんなダンへと、3頭目のリザードもグングンと距離を詰めると。

大盾もろともダンを吹き飛ばさんと跳び上がり……彼の盾めがけて頭突きの体勢に入る。




「けど……ッ!!」


ダンも自分自身気合を入れ、腹に力を入れると。




【硬壁Ⅹ】(ハード・シールド)ッ!!」


迫るリザードの衝撃に、両足で踏ん張り盾に力を込めた。






カァンッ!!

「……やっぱり重えな」



重量のあるリザードの頭突きがダンの盾に触れる。

思わず、頭突きの衝撃に負けてよろけるダンが頭に浮かぶ――――のだが。





ダンの構えた盾は、文字通りの壁のように微動だにせず。

弾き返されたのは、むしろリザードの方だった。




「……ふンッ!!!」

グゲッ!?


まるで何かに弾き返されるように、リザードの頭が後ろへと飛ぶと。

その衝撃で体全体を仰向けにしたまま、砂漠に墜落し。


四つ脚をジタバタさせて…………動かなくなってしまった。




「まるで盾が衝撃を吸収しちまったみてえだ。……コレが対魔物用の武器かよ」


シンのみならず、ダンまでも盾の見せた真価に驚きを隠せないようだった。











音も無く、そしてスッパリと魔物を一刀両断するほどの鋭さ。

衝撃を通す事なく、むしろ弾き返してしまうほどのタフさ。


加冶くんの作ってくれた武器……これまた凄まじいモノを手に入れてしまったみたいだ。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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