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18-10. 鍛冶

「まあまあ、外で話すのもなんだし入ってちょ!」

「「「「「お邪魔します」」」」」」


出会って早々死語のオンパレードで出迎えてくれた加冶(かじ)くん。

そんなに加冶くん連れられ、工房の中へと通された。



「ようこそフーリエ鍛冶工房へ!」

「「「「「おぉ……!」」」」」


暖簾を潜った先、工房の中は……アレだ。一言で言うと『町工場』みたいなイメージ。

天井がそこそこ高く、窓からは程良い陽光が入っている。

フロアには工具や機械がズラリと並び、赤い光の漏れ出す窯があり、中央には大きな作業台があり、そして資料棚や製図道具の並ぶ机。


まさに工房、って感じだ。



「ちょっとそこの椅子にでも腰掛けて下さんな。……はいコレどうぞ」

「「「「「ありがとうございます」」」」」


初めての工房をキョロキョロと眺める僕達に、席をすすめてくれる加冶くん。

作業台の椅子に座り、出してくれた温かい緑茶を頂く。




そして反対側の机に加冶くんが座れば……まずは自己紹介だ。


「それじゃあアッシの自己紹介から。……数原くんと同じく、異世界からやってきた加冶鉄平です。このフーリエ鍛冶工房で鍛冶職人をやってます。シクヨロです」

「「「「し……しくよろです?」」」」

「古いんだよ。皆困ってるじゃんか」

「おっとそれはメンゴメンゴ」

「「「「……めんご?」」」」

「だから古い」


加冶くんの死語は一度出ると止まらないんだよな。



「あと、アッシの他にこの工房には師匠が居るんですが」


へぇ、お師匠さんが居るのか! それなら是非ご挨拶しなきゃ――――



「実は師匠、先月『いい弟子が出来た』とか言ったっきり工房をアッシ1人に任せて旅に出ました」

「「「「「旅!?」」」」」

「そうなんですよ。『教えられる事は教えた。免許皆伝、後は任せた』という言葉を残して。……もう本当にコマッタちゃんな師匠なんですよ」

「「「「「………」」」」」


やれやれと腕を上げる加冶くん。

……彼も大変そうな日々を過ごしてるんだな。




とまぁ、彼の自己紹介が終われば今度はコッチだ。


「それじゃあ、今度は僕達の方からも。…………こっちの4人は一緒に冒険者をやってるメンバーだ。奥からシン、コース、ダン、それとアーク」

「「「「よろしくお願いします!」」」」

「こちらこそシクヨロです! ……いやー、皆さんにお会いできるとは!」


……ん、その言い方は?



「アーク達の事を知ってるのか?」

「もちのろん! 『例の件』以来、フーリエで皆さんを知らない人など居ません!」


例の件……フーリエ包囲事件か。



「シンさん、コースさん、ダンさん、アークさん、そして数原くん。5人はもう有名人ですから!」

「……そう言われるの余り好きじゃないんだよな」


そういう風に言われると……なんかこう、背筋がブルッとする感じがして嫌なんだよ。



「もう数原くん謙遜しちゃって!」

「謙遜なんかじゃないって」

「またまた冗談はよし子ちゃんです!」

「別に冗談ってワケでも――――

「まあとにかく、フーリエの人は本当に数原くん達に感謝してるんです。……勿論アッシも」

「……っ」

「だから、謙遜なんかしないでしっかり受け止めて下さい。蟻が10匹アリガトウです」

「……おぅ」


――――最後まで死語ばっかりでイマイチ締まらないけど、加冶くんの気持ちは十分に伝わった。

恥ずかしくて恥死しそうだったけど、彼の気持ちを素直に受け止めておいた。











さあ。

自己紹介も終われば……やっと本題だ。



「いやー、それにしても数原くんの方から訪ねてくれるとは。……アッシの方からも訪ねに行きたいと思ってたんですが、あのコマッタちゃんの所為で工房の手が離せなくて」

「まぁ、それは仕方ないよな。……僕も前々から加冶くんに会おうとは思ってたんだけど、今回たまたま加冶くんに用が出来て訪ねられただけだし」

「なるへそ。そういう事でしたか。…………ところでアッシに用ですか?」

「あぁ。そうそう」


ここでシンとダンに目配せ。

話の場も十分に温めたし、この辺で2人にタッチ交代だ。



「「…………」」


僕と目が合い、黙って頷くシンとダン。

背筋をピンと張ると……加冶くんに向かって口を開いた。



「……カジさん。私に長剣を1振り、打って頂きたいんです」

「……俺からも、大盾を1枚作って欲しいんだ」


単刀直入にそう告げる、シンとダン。

そして、ゆっくり頭を下げた。




「「お願いしますッ!」」






「もちのろんです!」



……加冶くんの返事は、気の抜けるようでありつつも即答の快諾だった。



「フーリエの英雄のお願い、断れる訳がありませんから!」

「「ありがとうございます!」」

「助かるよ、加冶くん」

「いやいや、数原くんのいつメンならば尚更ですから。チョベリグな長剣と大盾を作ってやります!」


……良い友達を持ったものです。

ありがとう、加冶くん。



「お二人とも、アッシに任せてちょ!」

「「はい!」」











そうと決まれば彼の動きは早い。

今までの雰囲気とは打って変わり、目つきが職人のソレに変わった。




「先日の戦いで折れてしまった、私愛用の剣です」

「こっちが俺の使ってた盾だ」

「……あらま、どっちもバッキリだ」


まずは特大サソリ戦で壊れてしまった、シンの長剣とダンの大盾の確認。

コレをベースに作る剣や盾の大きさ、デザインをイメージするようだ。


「シンさんもダンさんも、武器のサイズが一回り大きいようですが……仕立てる剣と盾の大きさはどうしますか?」

「同じで頼む」

「私もそのままでお願いします」

「合点承知の助です!」



すると加冶くん、今度は割れた断面をジッと見つめる。


「この破面、応力腐食割れですね。何か溶解液のような物に曝しましたか?」

「ああ、そりゃきっとデザートスコーピオンの仕業だぞ。その戦いを最後に折れちまったからな」

「なるへそ。サソリの溶解毒でしたか」


……専門用語が出てきてよく分からないけど、断面を見ただけでそこまで分かるみたいだ。

鍛冶職人って凄い。



【組成解析】コンポジション・アナライズ! ……炭素少なめの亜共析鋼ですか。シンさんとダンさんは王国北部の出身ですね?」

「正解です」

「なんで分かったんだよ?!」

「この材料組成、山岳地帯で使われている動物狩猟用の廉価版ですから」


……へぇー。材料だけで地域や用途までも分かっちゃうんだな。



「……ってか、シンもダンも動物用の武器で魔物相手に戦ってたのかよ」

「みてえだな」

「私も知りませんでした」

「それでは、材料は魔物狩猟用のユークリド含有鋼で作りますね」

「「お願いします」」


……ん? ユークリド?



「ユークリド含有鋼って、もしかしてユークリド鉱石を使うのか?」

「おぉ、数原くんご存知なんですね!」

「おぅ。知ってるも何も…………」


そう言って僕が取り出したのは……純ユークリド鉱石。

何かあった時のためにと思ってバッグに忍ばせておいたのだ!



「え!? コレって……純ユークリド鉱石じゃないですか!」

「おぅ。是非コレを」

「…………そんな超貴重品、使っちゃって良いんですか?!」

「勿論。余った分は加冶くんが取っておいてください」


家に帰れば大量にストックが有るしね。



「コレでよろしくお願いします」

「もちのろんです! サンキューベリマッチョ!」






という事で。

加冶くんの頭の中で構想が練り終わったようで、ついに本格的に製作開始だ。



「「「「「…………」」」」」

【調合Ⅵ】(コンパウンド)!」


僕達が静かに見守る中、加冶くんが材料の鉄塊と粉末にした純ユークリド鉱石を混ぜると。

ソレを真っ赤な光を放つ炉に入れ、熱する。



「「「「「…………」」」」」

「…………」


彼の顔中から汗が吹き出し、口ひげからポタポタと汗が滴る。

――――が、集中しているのか拭おうともしない。




「……ここからがタンマ無しの勝負です」


そう一言だけ呟くと、炉から取り出したのは真っ赤に熱された鉄。

遠くから眺める僕の顔さえもチリチリと焼くかのような、オレンジ色に輝く鉄だ。




【鍛錬Ⅳ】(フォージング)!」

カンッ!

カンッ!


そんな鉄に勢い良く金槌が打ち込まれる。

正しく『熱いうちに打て』そのものだ。



「ふんッ! ……ふんッ!」

カンッ!

カンッ!


金槌が打ち込まれるたびに、大量の火花と汗が工房に飛ぶ。


鉄が赤みを失うと、鉄を再び炉の中へ。




「ふんッ! ……ふんッ!」

カンッ!

カンッ!



そして再び鉄を取り出し、金槌を振り下ろす。

それを何度も何度も繰り返す。



すると……さっきまでは単なる鉄の塊だったモノが。

段々と、長剣と大盾のような形へ姿を変えていき……――――
















作業を続けること、2時間。




「……よし、コレで完成! パーペキです!!」

「「「「「おおぉ!!」」」」」




満足げな表情で、加冶くんが作業台の上に並べたのは――――純ユークリド鉱石の蒼色を薄っすらと帯びて輝く、新品の長剣と大盾だった。

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
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