18-9. 意味深
『集合』の勉強を終わらせた、その翌朝。
我が家1階のダイニング。
「ねーねー先生! アーク!」
「ん?」
「なに、コース?」
朝食を食べ終わったところで、コースに声を掛けられた。
……なんだろう?
「どうした?」
「私今日行きたいトコがあるの! シンとダンには昨日話したんだけど、先生とアークも一緒に来るかなーって思って!」
「ほぅ」
コースの行きたい所か……。
1箇所しか思いつかない。
「「魔物狩りか」」
「ちがうよーッ!」
「「えっ?!」」
……違うの!?
「いやいやまさか……嘘だろ?」
「あり得ない。あり得ないわ…………」
「そんなに驚くコトないじゃん! 私のこと何だと思ってんのー?!」
……そんなの言うまでもない。
「「戦闘狂」」
「ヒドいッ! 私戦闘狂じゃないもんッ!」
「「はいはい」」
「なんでよー! うわぁぁぁぁん!」
……まぁ、気を取り直してだ。
本題に戻ろう。
「でだ。コース達は行きたい所があるんだったよな」
「どこかしら?」
「それはねー……鍛冶屋さんだよ!」
「「鍛冶屋……」」
……あぁ、そうか。
「そういやシンとダンの武器を買い替えるんだったな」
「そーそー!」
坑道の最奥部で遭遇した特大サソリとの戦いで、シンの長剣とダンの大盾はブッ壊れてしまったんだった。
いつ不測の事態が起こるとも分からないし、こういうのは早めに済ませとかないとな。
「武器を新調しに行く2人に、私も付いてこーと思ってるの!」
「成程な」
「特に用は無いけど、とりあえず付いてくだけだよ!」
……この3人は本当に仲良しだな。
さすがはトリグ村の幼馴染だ。
「あと、新調した武器の試し斬りついでに魔物狩りができるかもって思って!」
「……やっぱり魔物を狩りたいだけじゃんか」
「違うもん!」
結局、コースは相変わらずの戦闘狂だったのでした。
……まぁ、それは良いとしてっと。
コース達が行こうとしている鍛冶屋さんだけど……実はそこ、僕も一度行きたいと思ってたんだよね。
丁度良いタイミングだ。
「折角だから僕も一緒に行こうかな」
「あ! 先生も一緒に魔物狩りしよーよ!」
「しないから。……僕には別の用が有ってさ」
「ふーん。どんな用事?」
「それはだな…………実はその鍛冶屋に『同級生』が居るらしくて」
そう。
王都の組合本部に置いてあった見本刀、その製作者が彼だったんだよな。
アレが間違いじゃなければ、彼はその鍛冶屋に居るハズだ。
「同級生!?」
「ケースケの同級生、ってことは……勇者様ね?」
「そうそう。加冶くんって言って、そこで働いてるらしいんだよな。シンも前々から『彼に刀を打ってもらいたい』って言ってたし」
「へぇ、カジさんって言うのね」
「鍛冶屋のカジさん、面白い名前だね! 会ってみたーい!」
「おぅ」
……『この世界』に召喚されて同級生とバラバラになってから、約3ヶ月。
王都の組合本部で加冶くんの居場所を知ってから、約1ヶ月半。
やっと時間がとれたことだし、シン達の用事ついでに僕も会いに行こう。
という事で。
ガチャッ
「「「「「行ってきます」」」」」
「きゃんっ!」
装備を身に着けた姿のシンとダンに、これまたバッチリ水色のローブに着替えたコース。彼女の足元にはチェバも一緒だ。
僕も一応白衣を羽織り、彼らと共に我が家を出発した。
「アークは槍を見て貰いに行くんですね?」
「ええ。シン達の武器新調ついでに、わたしの槍もプロの目にお願いしようって思ってね」
「成程」
ついでにアークも一緒に来る事になった。
結局、5人と1匹全員揃ってのお出掛けだ。
「……ああ、やっとこの機会が来ました! カジさんに刀を打ってもらえるだなんて……!」
前々から加冶くんに刀を打ってもらうのを楽しみにしていたシン、足取りが軽い。
「ところでケースケ。さっきからシンが呟いてる『カジさん』って、どんな方なのかしら?」
「あぁ、加冶くんかー……」
アークに加冶くんの事を尋ねられる。
……そうだな。彼はちょっとクセのあるヤツだからなー。
「……彼について2つだけ、言っておこう」
「なになにー?」
「それじゃあまず、1つ目。……彼の言う事を深く考えてはいけない」
「「「「深く考えてはいけない………………」」」」
復唱する4人。
そして首を傾げる4人。
……早速、深く考えてしまった。
「ってどういう意味ですか?」
「そういう所だよシン。彼の言う事に意味を求めてはいけないのだ」
「…………分かりました」
そして、2つ目。
「さっきコースが言ってた『鍛冶屋のカジさん』、それを彼に言ってあげれば彼はきっと喜ぶ」
「「「「鍛冶屋のカジさん…………」」」」
復唱する4人。
そして再び首を傾げる4人。
……また深く考えてしまった。
「…………訳分かんねえよ」
「しょーもなッ!」
「……ますます意味深ね」
「深く考えるな。そういう事だ」
「「「「はい」」」」
……まぁ、後は会ってからのお楽しみって事にしとこう。
そんな話をしつつも西門坂を下り、海岸通りに突き当たったら左へ。
午前中の賑わいを見せるフーリエ朝市を通り抜け、街の北側へと向かう。
「病院ですね」
「『あの人』、元気になったかなー?」
「だと良いな」
先日お世話になったフーリエ北部病院も通り過ぎ、更に北へ。
市街地を過ぎて道も上り坂になり、周囲に建つ家も段々まばらになってきた頃。
「あの煙……間違いねえ!」
「近づいてきました!」
道を進めば……モクモクと空へ上っていく煙が見えてきた。
あそこが鍛冶屋さんだ!
「『フーリエ鍛冶工房』、着きました」
「あぁ」
「歴史を感じる佇まいだな」
鍛冶工房の建物は、淡い黄色の砂岩レンガ造りでそこそこ大きめだ。
所々角が削れて丸くなった砂岩レンガが長い歴史を感じさせている。
開けられた扉に架けられた暖簾、文字の薄くなった看板、黒く煤けた煙突も工房のリアルさを引き立たせているとともに――――工房の格の高さ、近寄り難さを醸し出している。
「本物の工房、ドキドキだぞ…………」
「わたしも。緊張するわ……」
「ガンコオヤジが出て来たりしたら嫌だなー」
「冗談でもそれ絶対言っちゃダメですからね。コース……」
工房の入口を前に、僕達もここに来て少しビビる。
『職人』という堅いイメージに、思わず足が止まる。
……けど、ココまで来たからには行くしかないじゃんか!
「御免ください!」
意を決した僕は、暖簾の掛かった玄関に向かって……声を掛けた!
程なく、中から返ってきた返事は……――――
「なんじゃらほい」
気の抜けるような、独特な返事。
……コレは間違いない! 彼だ!
「……加冶くん?」
「ん、その声は!」
思わずストレートに聞いてみれば……どうやら彼も僕に気付いたようだ。
カランカランと何かを置く音に、ドタドタという足音がこちらへと近づいてくる。
そして、暖簾をパッと掻き分けて出てきたのは……――――
「やっぱり君だったのな! 数原くん!」
「どうも」
身長も体格も一般男子高校生なのに、顔だけが50代。
口ひげが特徴的な、超老け顔の男の子……加冶鉄平くんだった。
そんな加冶くんの最大の特徴と言えば……。
「もう3ヶ月ぶりだもんな。久し振り、加冶くん」
「おうおう! お久しブリーフ!」
「……相変わらず古いな」
「そんな事言わんでちょ!」
「……古いな」
「そんなバナナ!」
「古いな」
――――言葉遣いが何かと古い事なのです。




