18-6. 在庫
「次の人どうぞー」
「「「「「こんにちは」」」」」「きゃん!」
昼前でガラガラのフーリエギルドに入り、依頼報告カウンターへと向かう。
「はいこんにちはー。って勇者様ご一行じゃん」
「お久しぶりです。マッチョ兄さん」
「……先生、やっぱり今日もこの職員さんでしたか…………」
「相変わらず強烈ね。ケースケの呪いは…………」
勿論、カウンター越しに待ち受けているのはマッチョ兄さん(フーリエ)だ。
シンとアークが呪いだの何だの言ってるけど、僕はもう諦めてるから気にしない。
「待ってたぜ勇者様。お前達が帰ってきたって事は……アレの納品だな?」
「……はい。アレの納品です」
「……たんまり採って来たんだろうな?」
「…………それはもう、沢山」
ヤバい物の取引みたいな口調だけど、決して怪しいブツの取引ではございません。
「……沢山ってどんくらいだよ?」
「うーん……マッチョ兄さんが卒倒するくらい?」
「ハッハッハ! 言うじゃねえか。……なら早速見せて貰おうじゃないの」
「はい」
そう言ってリュックから取り出したのは、袋一杯の白い粉……ではなく純ユークリド鉱石。
微妙に締まり切ってない袋の口からは蒼透明に輝く鉱石が覗いている。
「おぁ。この輝き……間違いねえ。久し振りに見たぜ」
「これで問題ないかしら?」
「ああ全くだ。本当に品切れの所だったし、こんな袋いっぱいの納品は助かるぜマジで」
「いえいえ」
久し振りに納品された純ユークリド鉱石の輝きに、マッチョ兄さんも思わず見とれているようだ。
「……そんじゃあ早速納品作業に移りたいんだが――――お前達の場合、まだ続きが有るんだよな?」
「はい。実は」
「……まさか、この1袋で終わる訳が無いもんな?」
「はい」
「…………増えるんだろ?」
「はい」
流石はマッチョ兄さん、その辺は分かっていたようだ。
という事で【因数分解Ⅳ】の収納術を解除した。
「【展開Ⅳ】!」
ボフボフボフッ!
ボフボフボフッ!
魔法を唱えるや否や、麻袋の周りからモクモクと溢れ出す白煙。
「凄え煙……ゴホッ、ゴホッ」
カウンターの椅子でマッチョ兄さんが咽ている間にも、白煙の中からはカウンター上にドサドサと積まれていく音。
そして、白煙が晴れると……――――
「ゲホゲホッ――――うわっ、こりゃまた…………」
カウンターの上には、僕達とマッチョ兄さんを遮るように麻袋の山が積まれていた。
兄さんの表情は隠れて見えないけど、驚く様子が容易に想像できる。
「……まさかこの袋、全部純ユークリド鉱石かよ?」
「はい」
「1、2、3、……何袋だ一体?」
「20袋です」
「20!!? マジで言ってんの!?」
「マジです」
「…………………………コレは参った」
そうポツリと呟いたっきり、マッチョ兄さんからしばらく返事は無かった。
どうやら頭がフリーズしてしまったようでした。
……『参った』は頂いたものの、卒倒までは至らなかったみたいだ。
残念。
とまぁ、そんな冗談は置いといて。
「いやぁー……本当に全部純ユークリド鉱石だわこりゃ」
なんとか復活したマッチョ兄さん、袋を開けて中身を確かめている。
「1袋ぐらいダミーでも混ざってると思ったんだが」
「入れませんから」
そんなしょーもない詐欺、僕はしません。
「何だよ。つまんねえの」
……混ぜて欲しかったの?
「冗談だよ冗談。……にしてもこの量、想定外だわ本当に。ギルドの想定なんか小股で超えられた」
「ふんッ、コレが俺らの本気だぞ! なぁコース?」
「うん! 私たちスゴいでしょー!」
「ああ凄えよ。相変わらず凄過ぎるよ」
マッチョ兄さんに褒められ、胸を張るコース。
僕達も達成感で思わず嬉しくなっている。
――――のだが。
「凄すぎて大問題だよ全く」
「「「「「えっ」」」」」」
……だっ、大問題?!
マッチョ兄さんの一言に状況が一変する。
「いやー、勇者様ご一行。こりゃ完全にやってくれちゃったね。マズいわ」
「「「「「えっ……」」」」」
更に追い討ちを掛けるマッチョ兄さん。
……なんかコレはヤバいぞ。嫌な予感がする。
どういう事だよ『やってくれちゃった』って!?
「まさかダメだったの……?」
「採り過ぎちまったのかよ、俺ら!?」
「法に触れてしまったんでしょうか……?」
背中を冷や汗が流れる感覚。
シンの言葉に牢獄の思い出が蘇る――――
「いやいや、別に違法とかじゃねえよ。採れるだけ採っちゃって良いんだけど」
「「「「「ふぅー……」」」」」
……なんだ、大丈夫だったみたいだ。
良かった。
「……と言いますと、大問題ってのは……?」
「お前らじゃなくてコッチだよコッチ、大問題が起こんのは」
そう言いながら、親指を立てて後ろを指すマッチョ兄さん。
「ギルド側の問題、って事ですか?」
「ああ、もう正直に言っちまうとだな。…………お前らに『今これを全部買い取れ』って言われたらウチは破産します」
「「「「「えっ」」」」」
潔く断言するマッチョ兄さん。
「はっ、破産?」
「いやいや、そんなギルドが破産するだなんて――――
「それがマジで破産なんだわ。これが」
そう言うと、マッチョ兄さんはパンパンの麻袋を3つ取り分ける。
「ぶっちゃけ、ギルドではこの位採って来てくれりゃ十分だったのよ。コレで金貨50枚分」
「成程。3袋分ですか」
「それだってのに、いざ蓋を開けてみりゃこの山だよ。全部で金貨何百枚分だっつの」
「……333枚」
「真面目な答えは要らねえんだよ。勇者様」
「ごめんなさい」
しまった。
ついつい【乗法術Ⅷ】が発動して口走っちゃった。
けど……コレを全部買い取りに出すと金貨333枚か。
大き過ぎて想像もつかない額、そりゃあギルドも危うくなるわけだ。
「とまぁ、流石にギルドでも金貨300枚なんて一気に持ち出されちゃ大問題なんだわ。分かったか?」
「「「「「はい」」」」」
「だからお前ら採り過ぎなんだよ」
「「「「「ごめんなさい」」」」」
「俺らの勤務先を潰さないでくれや」
「「「「「ごめんなさい」」」」」
「もう少し俺らの給料の事考えて採掘しろバカ」
「「「「「ごめんなさい」」」」」
「くぅ~ん……」
……マッチョ兄さんの口から珍しく暴言が飛んだけど、きっと愛のムチってやつなんだろう。
こういうのも何だけど、なんだか贅沢な怒られ方だなって思った。
結局、今回は3袋分だけの納品って事で依頼完了に。
残りの17袋は我が家に持ち帰って保管することになった。
……まさか、採った分のほとんどが在庫に回るハメに遭うとは。
依頼の最後は想像もしないオチだったのでした。




