18-5. 何屋
その後。
我が家の引き渡しを終えた僕達は、トラスホームさんとオジサンとお別れすると。
我が家に入り、荷物を置きにそれぞれの自室へと引き込んでいっていた。
ドサッ
「ふぅー……」
階段を上がって2階の自室に入り、リュックを下ろす。
新品のベッドに腰掛けて一息つく。
……久し振りに帰ってきた。2週間振りの僕の部屋。
港町・フーリエに来てからは宿代わりに使っていた部屋も、コレからは『僕の部屋』か……。
「…………フカフカベッドだ」
そんな事を思いつつベッドに手を置けば、新品の羽毛掛け布団が優しく受け止めてくれる。
鉤爪でボロボロに引き裂かれたベッドも取り換えてくれたみたいだ。
他にも部屋をグルリと見渡せば、机や椅子や棚、照明や壁紙までしっかりと直されている。
フーリエ港が一望できる窓ガラスだって傷一つない新品だ。
……流石はオジサン、トラスホームさんも認める大工職人だ。今度会ったらお礼を言わなきゃ。
「……さて」
それじゃあ、自分の部屋が手に入ったって事だし……まずは荷降ろしだ荷降ろし。
拠点となるココに普段使わないモノを置いておけば、普段使いのリュックを軽くできるもんな。
「えーと…………」
床に置いておいたリュックに手を掛け、ガサゴソと中を漁る。
最初に出てきたのは……1人用テントセット。
フーリエに居る限りは使わないな。仕舞っておこう。
「【相似Ⅱ】・1/3!」
魔法を唱えるや否や、小さくしぼんでいくテントセット。そして押し入れに突っ込む。
僕オリジナルの収納術だ。
「……結構残ってるな」
次に出てきたのは未開封の缶詰が10数個ほど。
採掘依頼の食糧として沢山持って行ったけど、結構余っちゃったんだよね。
「【因数分解Ⅳ】!」
とりあえず1個に纏めて机の上に置いておいた。
……1階のキッチンにでも置いておけば良いか。後で持っていこう。
「……着替えだ」
続いて出てきたのは麻の服が数着。
コレはそのままハンガーに掛けておこう。
「コレもキッチンだな」
白のマグカップも出てきた。
さっきの缶詰と一緒に、後でキッチンへ持っていこう。
その次は……採掘に使ったピッケル。既に【因数分解Ⅳ】と【相似Ⅱ】で5本を1本に纏められている。
コレも使う機会はそうそう無いだろうから、そのまま押し入れにポイっと。
「あっ、返し損ねた」
旧事務所で手に入れたヘルメットも出てきた。
……そういえば、借りたままパクって来ちゃったじゃんか。
「【相似Ⅱ】・1/3!」
まぁいいや。結構便利なアイテムだし、このまま貰ってしまおう。
掌に乗っかるミニチュアサイズに縮めてから棚の中ににポイしておいた。
あとは……リュックの奥底の方から魔道ロウソクも6本ほど出現。
……あぁ、王都の組合本部で買ったヤツだ。
「【因数分解Ⅳ】」
とりあえず1本に纏めてから棚の中に入れておいた。
「……身軽になったな」
色々と部屋に収納したお陰で、割とパンパン気味だった僕のバッグもスカスカになってきた。
そう思いつつリュックから最後に出てきたのは……――――ゴツゴツと角ばり、パンパンに膨らんだ麻製の袋。
「……鉱石だ」
そう。純ユークリド鉱石が満杯に入った、大事な大事な麻袋。
1袋でも相当な価値だってのに、しかもソレを20袋ぶん【因数分解Ⅳ】したっていう計り知れない価値の麻袋だ。
さっさとギルドに納品しに行こう。
「……よし。こんな感じだな」
要らない荷物を仕舞い終えたら、身軽になったリュックと純ユークリド鉱石袋を持って1階へ。
皆がリビングに集合し次第ギルドに出発することになっているのだ。
ガチャッ
「……おっ、居た居た」
リビングの扉を開けば、ダイニングテーブルには既にシン、コース、アークの3人。コースの足元にはチェバも居る。
先に荷物整理を終えた3人で談笑していたみたいだ。
缶詰をキッチンに仕舞いつつ、聞いてみる。
「ダンはまだ居ないんだな」
「ええ。時間がかかってるみたい」
「彼は装備も多いですから」
「しょーがないねー」「きゃん!」
……成程。それじゃあもう少し掛かりそうだ。
そんな事を考えつつ、僕もテーブルに着いて話の輪に入る。
「……で、3人は何の話してたんだ?」
「あっ、そーそー! 『お店』の話だよー!」
「コースのかねてよりの夢ですし」
「わざわざ作ってもらったんだもんね。店舗スペース」
「うん。……だけど、まだ何屋さんにするか決まってなくてー」
あぁー。
その件か。
「じゃあ……コース、何屋さんっていうのは後にしてだ。まず『どんなお店にしたい』とかっていうイメージは有るか?」
「んー……そうだなー……」
悩むコース。
……かと思ったけど、案外答えは直ぐに返ってきた。
「私は、皆のニッコリが見たいって思うの」
「「皆のニッコリ……」」
「笑顔、って事かしら?」
「そーそー!」
すると、どうやらコースの内には秘められた思いが有ったようで。
彼女にしては珍しい熱さで夢を語り出した。
「嬉しくなると、皆ニッコリになっちゃうじゃん?」
「そうだな」
「でさー、人をニッコリにできると自分も嬉しくなっちゃうよね?」
「分かります」
「だけど……それだけじゃなくて、私は『ニッコリになると元気になる』って思うの!」
「そうね」
「そーすれば皆もっと強くなれる! 魔物にもぜったい勝てるって思うの!」
「「「成程」」」
……そんな深い事まで考えていたのか、コース。
意外だ。ちょっと見直してしまった。
「だけど……何屋さんにすればいいかが思いつかなくって……――――
「いや、そこまで考えてるんなら十分だよ。コース」
十分……いや、そこまでイメージを持っているのならむしろ凄いさ。
コースの気持ちは良く分かったよ。
「……となれば、今すぐお店を開かなきゃいけない訳じゃないし、焦らなくても大丈夫。何屋にするかゆっくり考えて決めれば良いじゃんか」
「店舗スペースだって、無くなる物じゃないしね」
「時間が経てば、きっとコースが『やりたい』って思う物が見つかりますよ」
「……うん! そーする!」
まぁ、何屋にするかは彼女のペースでゆっくり決めれば良い。
僕達も楽しみに待っていよう。
ガチャッ
「済まねえな皆。時間掛かっちまって」
「おっ、来たなダン」
「長かったわね」
「おっそいよー!」
「悪ぃ悪ぃ」
「それではダンも揃った事ですし、行きましょうか。先生?」
「おぅ」
それじゃあ、皆揃ったし……納品だ納品。
フーリエギルドに出発だ!




