18-3. 逸品
「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」
フーリエ家の逸品シチューをペロリといただいた僕達は、皆でゴチソウサマをしたら解散だ。
家族ごとにバラバラと席を立ち、トラスホームさんや使用人さん達に感謝を伝えて食堂を出ていく。
……そんな中、僕達は。
「美味しかったな、シチュー」
「はい。さすがは領主家自慢のメニューでした」
「おなかいっぱいだー!」「きゃん♪」
「ああ、俺もだ。久し振りにこんな食ったぞ」
「ふふッ。2人とも凄いペースでおかわりしてたもんね」
席に着いたまま、食後ののんびり雑談タイムだ。
部屋へと戻っていく人々を見送りながら、久し振りにやってきた寛ぎのひとときを楽しんでいる。
「それにしても、まさかホタテをシチューに入れるとは……贅沢な逸品です」
「ええ。フーリエ朝市でもホタテは高級品だしね」
「『フーリエ家秘伝のメニュー』ッつーのが良く分かったぞ」
うんうん。
アレは他の街じゃ味わえない、港町ならではのご馳走だったと思うよ。
「あっ、そーそー。『秘伝のメニュー』なら私たちの村にも有るよね!」
「……あぁ。アレだな、コース?」
「アレしか有りませんね。秘伝のメニューと言えば」
「そー! アレアレ!」
コースがそう言うなり、村出身者が3人揃って頷く。
……『辺境の村の秘伝メニュー』か。
聞こえは良い。どんなメニューなんだろう?
「トリグ村の秘伝メニュー……どんなものなのかしら?」
「えーっと、それはね……――――
すると、彼ら3人は口を揃えて答えた。
「「「似非無味芋ピザ!」」」
「「えせ……むみ…………?」」
……なんだその酷い名前の料理は。
……ん?
ってか、ソレ聞いた事あるぞ。前に一度。
「アレだろアレ。確かトリグ村の村長が作ったー、みたいな」
「あっ、思い出したわ」
「そーそーソレソレ! アレは村のジイさましか作れないイッピンだよ!」
「違いねえ。誰がピザを作ろうとアレより不味いモンは作れねえな」
「まさに何度作っても変わらぬ味、トリグ村に伝わる逸品です」
……悪い意味で『変わらぬ味』、ってか。
本当どれだけ不味かったんだよ。
「……けど、そこまで言われちゃ逆に気になるな」
「ええ。ちょっと食べてみたいかも」
「ぜひぜひー! 先生もアークも食べてねー!」
「……私はオススメしませんが」
「まあ……一度食ってみりゃ分かるだろ、きっと」
……コレが怖いもの見たさってヤツなのかな。
まぁ、トリグ村に行く機会が有ったらぜひご馳走してもらおう。
「じゃあ、アークが住んでたテイラーには『名物』みたいなモンって有るのか?」
似非無味芋ピザの件はもう良いとして、今度はアークに話を振ってみる。
「テイラーの名物かぁ…………んんー、そうね。ソフトクリームとかは有名かな」
「「「「あー!」」」」
テイラーの街の郊外、牧場のお店で食べたソフトクリームを思い出す。
……そういや、アレが『こっちの世界』に来て初めて食べたアイスだったよな。
「みんな食べた事あるの?」
「ああ! 凄え美味かったぞ!」
「とてもなめらかでした!」
「クリーミーで口溶け最高だったよな」
「うんうん! 溶けんのが早くてデロデロになっちゃうくらいオイシかった!」
……デロデロって。
聞こえが悪すぎるよ。
「また食べたいなー!」
「ハハハ…………」
もはや悪口状態の感想に、アークも笑ってごまかすしか無かったようでした。
「皆様、ご歓談中のところ失礼致します」
「あっ、トラスホームさん」
そんな雑談をしていると、食後のティータイムを終えたトラスホームさんがやってきた。
「シーフードのシチュー、初めて頂きました!」
「凄えウマかったぞ!」
「わたし達のためにありがとね、トラスホームさん」
「メチャクチャ美味しかったです」
「ごちそーさまでした!」「きゃんきゃんッ!」
「いえいえ。喜んで頂けて何よりです」
そう言ってトラスホームさんは軽く一礼すると……続けて口を開いた。
「……ところで皆様、少しお時間よろしいでしょうか?」
「はい」
「実は、皆様に伝えておかなければならない話が2つ御座いまして……どちらからお話ししましょうか?」
「「「「「2つ?」」」」」
「左様です」
2個って……何だ? 何の話だろう?
…………なんだか嫌な予感が……。
何かを察した僕達、思わず背筋を伸ばして身構える。
「1つは良い話……――――そしてもう1つは悪くない話です」
えっ。
「……悪くない話なんですか?」
「左様です」
なんだよ。悪い話が来るのかと思った。
無駄に緊張した僕達がバカだったじゃんか。
「じゃあどっちが先でも良いです」
「承知しました。では良い話の方から参りますね」
「では、1つ目。……実は先程、皆様のお家の復元工事をしている知り合いの職人から『工事が終わった』との連絡が来ました」
「「「「「おお!」」」」」
ついに工事が終わったのか!
……やっと家に戻れるぞ!
「皆様の明日のご都合が宜しければ、一緒に参りましょう。彼が皆様に『お家の引き渡し』をしたいとの事でして」
「勿論です!」
「行こ行こーッ!」
「久しぶりの我が家だぞ!」
明日の予定はギルドに純ユークリド鉱石の納品をするくらいで、他には特に無い。
……もう今直ぐにでも行きたい気分だけど、もう夜だからな。明日の朝イチで行こう。
「じゃあトラスホームさん、お願いします」
「承知しました」
「で、悪くない方の話って何すか?」
「承知しました。それでは……」
それじゃあ『良い話』2個目、行ってみよう。
「皆様の借家の家主である不動産屋に、家の設計図をお借りしに行った際なのですが……不動産屋の店主から『家をお贈りしたい』との申し出が御座いまして」
「「「「……えッ」」」」
「……つッ、つまり…………」
お贈りする、って……?
「皆様に、あの家をお譲りしたいと」
「…………いくらで?」
下衆な質問だけど、念のため確認。
「無論、タダです」
「「「「「ええェェェッ!?」」」」」
……薄々分かってはいたけど、思わず叫んでしまった。
食堂に僕達の叫び声が響いた。
「タダでくれるのー!?」
「いやいやそんなタダだなんて!」
「幾ら何でも畏れ多過ぎます!」
「さすがに、わたし達の方が気が引けちゃう……かな」
「マジかよ?! 本当かよ!?」
「左様です」
人生最大の買い物と言われる家が……そんな簡単にやり取りされちゃって良いのか?!
「……ちなみに、どういった経緯でこんな話になったんですか?」
「はい。店主さん曰く、『街を救って頂いた勇者様にささやかながらお礼をさせて欲しい』との事でした」
いやササヤカなんかじゃないって全然!
ちゃんと毎月家賃払って住むって!
「『毎月毎月しつこく家賃を取るなんて烏滸がましい』と」
……だったら相場価格で買い取らせて頂くよ!
こう言っちゃ何だけど、僕達お金ならそれなりに持ってるしさ!
「『街の外れも外れ、値も付けられないような物件で金を取るのもとんでもない』とも」
「…………成程」
なんかもう、薄々感じた。
僕達がどれだけ何と言おうと、コレは平行線になるヤツだ。
「……きっとこれが、不動産屋の店主なりの『お気持ち』なのかもしれません。受け取っては如何でしょうか?」
「…………まぁ、そっか」
……お気持ち、かぁ。
トラスホームさんの秘伝のシチューがそうであるように、きっと不動産屋さんもそういう気持ちで『贈る』って言ってくれたんだろう。
規模が規模だし、ちょっと気が引けるけど――――決して悪い話じゃない。
トラスホームさんの言った通りだった。
「……分かりました。ありがたく頂きます」
「承知しました」




