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18-2. チェバ

「『チェバ』とか、どう?」



パッと頭に浮かんだ名前を口に出し、尋ねてみた。






「「「「「チェバ…………」」」」」


皆が小さく呟き、反芻する。


……どうだろう。

特に意味は持たせていないし、あくまで『チビ』をベースにそれっぽく仕立ててみただけの名前だ。

けど、その割には悪くないんじゃないかなって僕は思う。




……そんな事を考えていると、どうやら皆の吟味も終わったようで。



「なんか優しい名前になったねー!」

「響きもかわいいし、いいんじゃないかしら?」

「それなら後々改名する必要もありませんし」

「呼びやすいし良い名前じゃねえか!」

(わたくし)も素敵な御名前だと存じますよ、ケースケ様」

「おぅ」


皆揃って賛成みたいだ。

命名権を剥奪されたコースも納得している。




「ねーねーワンちゃん。先生(せんせー)が考えた『チェバ』って名前、どう?」

「きゃん!」


最後にコースが胸に抱いた子狼に尋ねてみれば、大きく吠える。

言葉が通じてるかどうかは定かじゃないけど……見たところ文句は無さそうだ。



「うん! オッケーみたい!」

「それじゃあ決まりだな」

「ええ。良いお名前ができたわね」

「コレでお前も俺らの仲間入りだぞ!」

「はい! 私達で大事に育てていってあげましょう!」


名前が決まり、皆に囲まれる子狼――――改め、チェバ。

ペロッと舌を出して笑っているみたいだ。……なんだかチェバ自身も嬉しそう。



「それじゃー……あなたの名前は『チェバ』! これからもずぅーっとよろしくね、チェバ!」

「きゃんきゃんッ!」






こうして、僕達のメンバーに新たな仲間――――フォレストウルフの子狼、チェバが加わった。











その後、僕達はトラスホームさんの領主屋敷へと戻り……使用人さん達のお出迎えを受けながら階段を上って最上階の5階へ。

ホテルみたいに綺麗な廊下を突き当たりまで進めば、一番奥にある左右のドアが僕達の角部屋。

左がアークとコース、右が男衆だ。



「男子部屋はコッチだな」

「ああ……やっとぐっすり寝られるぜ」

「こんな朝から二度寝だなんて……なんだか背徳感を感じますね」

「良いんだよ。大仕事を終えた僕達の特権じゃんか」


「わたしとコースはこっちの部屋ね」

「うん! チェバも一緒だよー!」

「きゃん!」


勿論、チェバはコースと一緒に女子部屋だ。



「じゃあなチェバ。コースと喧嘩すんじゃねえぞ」

「するワケないじゃん!」


部屋に入る前にダンがチェバと束の間の別れを惜しんでいる。



「ケースケ、夕食の時間は6時半よね?」

「おぅ。6時半になったらまたココに集合で」

「ええ。分かったわ」


今はまだ朝の10時過ぎ。今から寝れば夕食の時間までたっぷり8時間だ。

最高級にフカフカのベッドで昼寝を堪能しよう。



「それじゃあ……」

「「「「「おやすみなさい」」」」」


という事で、僕達は男女別々の部屋に分かれ。

朝っぱらから夕食の時間まで、思う存分に眠ったのでした。
















そして、気付けばあっという間に夕方の6時半。

陽は傾き、窓の外を空はオレンジ色。


昼食を抜いても尚ひたすら睡眠を欲していた僕達の身体も、さすがに夕食前の空腹には耐えられなかったようで。

夕方6時ころにモソモソッと目覚めた男衆3人は、シャワーに入ったり部屋着に着替えたりと支度を済ませ……。




「あー……腹減ったぜ」

「今日のメニュー何だろう?」

「領主屋敷の温かい食事、久しぶりですね」


現在時刻は18:20。夕食まではあと10分。

廊下で雑談しつつ、アークとコースの待ち合わせ中だ。




「そういえば……薄っすらバターの香りがしませんか?」

「んん…………確かに」


階段の方を向いてクンクンと匂いを嗅ぐシン。

……言われてみれば、廊下には香ばしいバターの匂いが溢れている。屋敷の厨房から階段を伝って漂ってきたんだろうな。

あと数分とはいえ夕食が待ち遠しいよ。



「……コンソメの匂いもしねえか、シン?」

「そうですね。という事は今晩はシチューでしょうか」

「「あぁ……」」


ホカホカと湯気を立たせ、ゴロゴロと野菜の入ったホワイトシチューを思い浮かべる。



「……シチュー良いな。シチュー最高」

「……俺、今なら何杯でも食える自信が有んぞ」


依頼中の食事をずっと缶詰や乾パンで済ませていた僕達からすれば、もう最高のご馳走だ。

想像するだけで涎が垂れちゃいそう――――






ガチャッ

「「「おっ」」」


そんな夕食想像会の最中、女子部屋のドアが開いた。

……来たみたいだな。




「ごめんねケースケ、シン、ダン。遅くなっちゃって」

「おっまたせー!」

「きゃんッ!」


まず出てきたのは、部屋着に着替えたアーク。

続いて同じく部屋着のコースと、そして彼女の胸に抱かれたチェバ――――なんだけど。




「あれ……?」

「チェバ、ちょっと雰囲気変わりましたか?」


シンの言う通り、さっきのチェバとは印象が違った。


毛並みの整えられた深緑色の毛皮には、艶が現れ。

お腹の白い毛は、見るからにフワフワ。

金色の瞳にはしっかり狼の精悍さが残ってるのに……なんだか可愛い。




「「「チェバがモフモフになってる!」」」


僕達が少し見ない間に、チェバはモフモフになっていた。




「そーなの! 一緒におフロ入って、シャンプーでゴシゴシしてあげたら……」

「こんなに可愛い姿になっちゃって」

「「「おぉ……」」」

「おフロ気持ちよかったねー、チェバ!」

「くぅぅん♪」


そう言いながらコースがほっぺをスリスリすれば、チェバもうっとりと目を細める。

可愛らしくなったチェバに、男衆も思わずみとれてしまっていた。




そんな子狼ならぬモフモフ子犬となったチェバは、領主屋敷の食堂に行っても大人気で。

コースとチェバが食堂に入るなり、僕達と同じく屋敷に泊っている子ども達に囲まれてたな。



「ワンちゃんだ!」

「うわーかわいい!」

「お名前なんていうんですか?」

「この子はチェバだよ!」

「「「へー!」」」


コースもチェバも嬉しそうだったし、配膳が始まるまでは僕達もその様子を眺めていた。











そんな事もありつつ、配膳が始まれば子ども達の群れも解散。

時間ピッタリにやって来たトラスホームさんも席に着けば、配膳が始まる。



「ケースケ様方の凱旋を祝しまして、今晩はフーリエ家秘伝のメニューにさせて頂きました」

「「「「「おー!!」」」」」


そんなトラスホームさんの有難いお言葉と共に、使用人さん達が運んできてくれたのは……――――




「帆立と野菜のシチューでございます」

「おぉ!」


さっきシンが予想してた通りのホワイトシチューだ。

ホカホカと湯気が上がる器の中には……じっくり煮込まれた野菜と、港町らしくホタテ!


…………あー、コレは最高だ。

ちょっと贅沢過ぎる気もするけど、これもトラスホームさんのお気持ち。美味しく頂こう。




「チェバ様のお夕食でございます。お口に合えば、と旦那様が」

「あっ、ありがとーございます!」

「きゃん!」


コースの足元でちょこんとおすわりしていたチェバには、お皿に盛りつけられた鶏のササミ肉が出された。

……トラスホームさんの粋な計らいだ。後でお礼を言っとかなきゃな。




そうして全員にシチューが行き渡れば……待ちに待っていたこの時がやって来た。

一週間ぶりの、温かい食事だ。


「皆様、御食事が行き渡りましたね。……それでは」

「「「「「いただきます!!」」」」」

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
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