表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
387/548

18-1. 退院

挿絵(By みてみん)

「退院おめでとう、勇者様」

「ありがとうございます」

「お腹の傷が完全に治るまではもう少しだ。しっかり休んで完治させるんだよ」

「はい」


朝陽の射し込む病院のロビーで医師おじさんに挨拶する僕達。



「一晩、お世話になりました」

「なに、気にすることはないよ。……むしろ此方こそ『純ユークリド鉱石』のお礼を言わなければね。皆のお陰だよ。ありがとう」

「私達は当然の事をしたまでです!」

「どーいたしまして!」「きゃん!」

「気にする事は無えぞ!」

「いえいえ」


朝からスッキリ笑顔で返す4人……だけど、その顔にはうっすらと疲れが。

……今日は皆ベッドでグッスリ寝よう。



「ケースケ様、それでは(わたくし)のお屋敷に参りましょうか」

「はい。……それじゃあ」

「うん、お大事にね」


最後に医師おじさんとそう言葉を交わし、僕達は病院を後にした。











『純ユークリド鉱石』依頼から戻ってきた、翌日。


魔傷風に蝕まれていた僕の身体も、滅魔剤・ユークリドのお陰で一晩で回復。

今朝の診察で退院の許可をゲットした僕達は……朝イチからお見舞いに来てくれたトラスホームさんと一緒に、部屋を間借りしている領主屋敷へと戻ることにした。




「フゥー……。なんだか疲れましたね……」

「わたしも。変な体勢で寝ちゃったのか、身体が痛いし」

「今日は一日中寝れる自身が有るぞ、俺」


ピークを過ぎて人もまばらになったフーリエ朝市の中を歩きつつ、凝り固まった身体をグッと伸ばすシン。

アークとダンも首や肩をグルグル回している。



「……私たちも6日間がんばったんだし、今日こそはベッドで一緒に寝ようねー!」

「きゃん!」


コースは普段通りのテンションなのかと思いきや、目は若干トロンとしている。

子狼もコースの肩の上でぐったり。このコンビは2人揃って眠そうだ。


……まぁ、それもそうだよな。依頼の疲れも溜まってる上に、昨晩4人はベッドに寄り添いながら一晩明かしたのだ。もう皆クタクタなハズだ。



「ケースケ様、シン様、コース様、ダン様、そしてアーク様……本当にありがとうございました。そしてお疲れさまでした」

「「「「「はい」」」」」

「ギルドへの依頼完了報告は明日でも構いませんので、どうぞ本日はぐっすり御休みになってください」


トラスホームさんもそう言ってくれた事だし、お言葉に甘えて今日は皆でグッスリおやすみだな。

『純ユークリド鉱石の納品』は明日に回しちゃおう。






「……ケースケ様。これでまた、フーリエの街が皆様に救われました」

「いやいや、そんな大袈裟な」


……街を救っただなんて烏滸がましいって。

こう言っちゃなんだけど、この件で助けられた人と言えば『あの人』1人だけだ。それに僕自身も魔傷風だったし半分自業自得みたいなモンだ。



「確かに大袈裟と言えばそうかもしれませんね。……ですが、もしケースケ様方が居なければ『あの御方』を救える者は他に居りませんでした。数ヶ月と張り出し続けていた採掘依頼も、恐らくずっとあのままだったでしょう」

「んん……まぁ」


トラスホームさんの言う通り、今のフーリエの街は深刻な冒険者不足だ。僕自身で言うのもなんだけど……僕達の他に採掘依頼を受ける人はしばらく現れなさそうだもんな。



「……これからも、皆様にはお世話になるかもしれません。その際には何卒よろしくお願い申し上げます」

「「「「「こちらこそよろしくお願いします」」」」」


……僕達もトラスホームさんには色々とお世話になってるからな。

現に借家が復元工事中の今なんか、領主屋敷に部屋を借りてるんだし。ついでに朝食夕食もご馳走になってるし。

僕達に出来る事が有れば、これからも協力しよう。




「……そうですね。フーリエの復興が一段落ついた頃には、是非とも銅像をお造りしなければ――――

「それは止めて下さい。絶対」


それは丁重にお断りしておいた。

…………冗談でも嫌だからね、そんなの。











「……ところでですが、コース様?」

「ん? どーしたのトラスホームさん?」


フーリエ朝市を抜けた辺りで、トラスホームさんが口を開く。



「コース様の肩に乗られたそのウルフ……まだ、お名前が無いんですよね?」

「うん。名前はまだない!」

「では、この機会にお名前をあげませんか? でないと(わたくし)達もお呼びしづらいですし」


確かに。……ってかそもそも、かれこれ4日間も一緒に居ながら名前が無いなんてかわいそうだ。

この機会に名前をつけてあげよう。



……という事で、急遽。

領主屋敷へと向かって歩きながら子狼の命名大会が始まった。






「ではまず、コースはどんな名前が良いとか、考えてありますか?」

「うん! あるよ!」


……おっ。どうやら子狼の名前を考えてたみたいだ。

どんなのなんだろう。可愛い系かな? キラキラかな?



「どんな名前なんだ?」

「えーっと……それはねー…………」


そう言うと、少し思い出すような素振りを見せて――――コースは答えた。






「名付けてー……チビ!」



……見たままのネーミングだった。




「……何の捻りもねえな」

「如何にもコース様らしいネーミングですね」

「けど……ちょっと安直過ぎませんか、先生?」

「いや、そんな事は無いな」


見たままっちゃ見たままだけど、日本でもペットにチビって名前は良く聞く方だ。

決してシンが言う程悪くはない。



「愛情をもって呼んであげるのなら、それで十分じゃないかしら?」

「……確かに、アークの言う事も一理有ります」

「んん、そう言われりゃチビも悪くねえな」


ド直球のストレートな名前だったにもかかわらず、意外と反応は良かった。






……んだけど、問題は次だった。

その後の一言が、波乱を巻き起こしたのだ。




「んんー……でもチビが成長(せいちょー)したらチビじゃなくなっちゃうもんなー……」

「「「「「えっ…………」」」」」


……嫌な予感。



「じゃーあー……大きくなったら『ビッグ』に改名(かいめー)!」

「「「「「いやいやいやいや!!」」」」」


そのまさかだった。



「えっ、変えちゃうんですか!?」

「うん! 大っきいからビッグだよ!」

「名前への愛情ゼロじゃんか!」

「せめてチビのまま呼んであげた方がいいんじゃないかな……?」

「改名ありきの名前なんて可哀想だろ!」

「えー……でもでも『チビなのにデカい』っておかしくなーい?」

「「「「「おかしくない!」」」」」




そして――――それを見かねたシンが、呆れた様子で宣言した。



「ハァ……駄目です。コースにこの子の名付けはさせません。この子が不憫です」

「えー!」


コースの命名権、没収。



「私達で考えてあげましょう。コース以外のこの中で、良い名前が思い付いたら挙げて下さい」

「「「「はい」」」」


という事で、今度はコース抜きの命名大会が始まった。






「んー……」

「名前はこの子の一生を左右しますから、本気で考えましょう」

「そう言われると意外に難しいぞ……」

「何がいいかしら……?」


コースの両腕に抱かれた子狼をじっくり眺めつつ、考える。




……この子の名前かー。

案外、名前を考えるのも簡単じゃない。


深緑色の毛だから……『ミドリ』?

お腹の毛は真っ白だな。キレイだ。……『シロ』?

よーく見てみると瞳孔は金色だ。カッコいい。……『ゴールド』?

ん? 耳の毛は色が濃いな。黒っぽい。……『クロ』?

あっ、クロといえば……前脚にはウルフらしく鋭い鉤爪が生え揃っている。『クロウ』?




…………うーん、駄目だ駄目。

なんだかんだ言って、僕も見たままな名前しか思いつかない。しかもほとんど色縛り状態。

最後のクロウに至っちゃダジャレで思いつくとかいう悪質ぶりだ。




……よし。一旦考え直そう。


コースが最初に言ってた『チビ』、あれ僕は意外と悪くないと思うんだよね。

だからここは、コースの意見を尊重する意味も込めて……チビを少しもじった名前にしてみよう。



チビ……。

チビ…………。

チビ………………――――











うん、コレなら悪くないっか。






「……『チェバ』とか、どう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ