4-1. 著名
「……フゥーッ、疲れた。今日もお仕事終了っ!」
腕を挙げて全身で伸びつつ、ギルドの建物を出る。
さて、じゃあこの後はいつも通り、散魔剤を買って宿に戻ろう。
そしたら血塗れのコートを洗濯だ。今日は良く晴れてるから、コートもすぐ乾くだろうな。
冒険者になって10日。
最近は毎日欠かさず狩りを行っていた。
まず、お金はまぁまぁ溜まってきた。1日に銀貨30枚は軽く稼げるようにはなって来たので、今既に金貨2枚弱の貯金がある。
これなら暫くは金欠になることも無いだろう。
次に、Lvが上がった。
残念ながらステータスの上がり具合は酷かった。HPとMPの上限は幾らか増えたが、それ以外は変わらず。
『Lvがアップしました。』というメッセージウィンドウで期待してしまった分、返してくれよ。
……まぁ仕方ないな。今のステータスはこんな感じだ。
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.4
職:数学者 状態:普通
HP 46/46
MP 41/42
ATK 4
DEF 14
INT 18
MND 19
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化I】
【演算魔法】
===========
あ、そうそう。
【加法術II】もスキルレベルアップして【加法術Ⅲ】になった。
まぁ、基本ステータス加算はATKもDEFも今まで通り10しか使ってないけどね。
そして一番大きな出来事。マッチョ兄さんに狂科学者の認定を受けたお陰で、僕は東門の冒険者ギルドでは一躍有名人になってしまった。
僕の『ひっそりとやっていきたい』願望とは裏腹に、派手に目立ってしまったのは残念ではある。
けれども名が売れたお陰か、周囲から変な目で見られる事は無くなったな。
周りの印象も『うわっ、ヤバい奴おるやん…』から『あー、また狂科学者が実験やってるよ』に置き換わったようだ。街道や王都ですれ違う人からも、そんな呟きを良く聞くようになったし。
街中でも草原で狩りをしてる時も、時々冒険者のグループが寄ってきて声を掛けられるんだよな。
でもこれが面倒で面倒で困ってるんだよな。
街中でならまだ良いが、草原で狩りの途中なんかに話し掛けられると気が散る。狩りも中断せざるを得ないし。
あぁ、そういえば今日も居たな。草原で狩り中に近寄って来る奴。
今日のは三人組だったな。
狩りを始めて2時間程経った頃だっただろうか。
今日も狩って狩って狩りまくって足元に大きな血の池を作っていた。
ザシュッ
「よし」
そう呟きつつ、気絶させたプレーリーチキンの嘴にナイフを刺し込んでドボドボと血を抜く。
そんな時だった。
「こんにちは!」
「狂科学者さんですかー!?」
遠くから三人組がそう叫びつつ、凄い勢いで走ってくる。
うわぁ……今日も来たよ。
しかも面倒臭そうなやつだ。
「さっきのグルグルの儀式は何なんですか?」
「狂科学者さんの魔法、教えて下さい!」
「なぁ、お前の職って本当に数学者なのか? その強さ、明らかに識者の分類の職じゃないだろ」
足元に血の池が広がっているのにも関わらず、三人組はどんどん僕へ近づき、質問責めを始めた。
今回は腰に剣を差したザ・戦士な童顔の男の子、水色のとんがり帽子とローブを着た魔術師らしき女の子、そして某猫型ロボットアニメのガキ大将よろしくガッシリとした体つきに全身鎧と大盾を持った男。
見た所、歳は全員中学生くらいだろうか。僕より少し若く見える。
あぁ、邪魔だ。
次のチキンがこっち来てんだけど。
早くその獲物を狩らせてくれ。
時間制限付きの【状態操作I】の効果が勿体無いんだよ!
……ハァ、だから僕は目立ちたくなかったんだよな。
絶対こういう面倒事が増えるって分かってたもん。
お陰様で中々狩りが捗らない。
「グルグルは王城図書館の魔物の本で読みました。魔法については……秘密です。職が嘘だと思うなら【鑑定】でどうぞ」
「「「おぉー!!」」」
この文章も何度唱えた事だろうか。
誰でも知ることが出来る情報はその元を伝える。
【演算魔法】は他人に教えると色々と面倒になりそうなので秘密って事で。
職を疑う人には僕を【鑑定】してもらうように伝える。
これが一番楽な答え方だ。
こうすれば、皆質問を止めてさっさと去っていくのだ。
ちなみに、この世界にはやはり【鑑定】というスキルがあるようだ。
【鑑定】は【状態確認】と同じくどの職でも習得できる共通魔法である。しかし、誰でも直ぐに習得出来る【状態確認】とは異なり、習得の難易度には大きく個人差があるらしい。
僕が前までずっと『オープン・ステータス』と呼んでいたステータスプレート呼び出しの魔法は、正しくは【状態確認】というらしい。知らなかった。
あと、共通魔法はステータスプレートのスキル欄に載らない。なので確認方法は実際に使ってみるか、習得時のメッセージだけだ。
ちなみにこの情報は、ある冒険者のグループから聞いた内容である。
他の冒険者達と変わりなく色々と質問責めに遭ったが『お礼に何か力になれれば』と言ってくれたので、【鑑定】について教えて貰った。
さて、冒険者撃退用の決まり文句を三人組に伝えたのだが。
なかなか去ってくれない。
水色魔術師が【鑑定】を習得しているようで、その結果を3人を覗いている。
ちなみに、魔物や人間相手に【鑑定】をする際には、次のようなプレートが表示されるようだ。
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.3
職:数学者 状態:普通
=============
【鑑定】で得られる情報量は少ない。HPからMNDは丸々見れない。僕のプライベートは守られるのだ。
スキル欄も見えないので、【演算魔法】の存在も隠せる。
こんな便利な魔法、やっぱり簡単に人に教えちゃいけないよな。これ目当てに人が寄ってきたり、これ目当てに犯罪に巻き込まれたりしたら面倒どころではない。嫌だ。
……ちなみに、ギルドの青い結晶や僕の持つ【解析】はステータスやスキル欄まで丸々全部見れる。
そう考えると【解析】すげーじゃん。
「本当に数学者じゃねぇか」
「数学者が使う魔法……気になる!」
そう呟きつつ、齧るように僕の【鑑定】結果を眺める3人。
あぁもういい。勝手に【鑑定】結果を見るだけ見てもらって、さっさと追い払おう。狩りを再開したい。
「その【鑑定】結果持って帰ってもいいんで、そろそろ狩りを続けさせてくれません?」
「えー、もう少し聞きたい事があるんですけど」
「今狩りで忙しいんで、後にして欲しいのですが」
……しつこいな。そろそろ本気で面倒になって来た。早く狩らせてくれよ。
「そんな事言わずにー」
「もう少しだけ、お願いしま————
「狩らせてください」
水色魔女と童顔戦士の甘い返しに対して少し低音でキツく言ってみる。少し口角を上げ、ナイフをチャキっとやってみる。
最近発明した、こういつ奴らに対する撃退法の最後の切り札だ。
完全に狂科学者の外見を利用した作戦。
最初は少し怖がってくれたらいいなって思ってやったんだが、割と効果があったので使い続けている。
「うっ……」
「た、大変失礼しましたっ!」
少し後ずさる3人。
そして直ぐ、逃げるように去って行った。
「……よし」
小声でそう呟く。
今回も作戦成功だ。
その後は一人じっくりと狩りを楽しんだ。
そんな今日の出来事を思い出しつつ、精霊の算盤亭へと向かって歩く。
今日の奴らは割と子どもだったし、そこまで面倒でなくて良かったな。
一番面倒なのが僕より少し早く冒険者を始めた奴らで、『テメェ生意気だな』的な奴らだ。
嫉妬じゃん。って思うんだが、まぁそれも血に塗れたナイフをチラつかせると少しビビるんだよな。
その反応の面白い事。
……まぁ、こんな事はもう日常茶飯事レベルになったので特に気にしていない。
さーて、疲れた。さっさと宿に帰ってのんびりしよう。
あ、そうだった。散魔剤とご飯も途中に買っておかないとな。
明日もまた狩り三昧だ!
 




