17-32. 証明
「我々は……今此処で魔王様への忠義を捨て、貴殿に忠義を誓い――――命を乞いたい」
坑道の最深部で遭遇した、魔王軍の生き残り。
遭遇するや否や、彼らが打った手は…………命乞い。
「えっ……」
「何ッ?!」
「…………どーゆーコト?」
「……っ」
予想だにしなかった反応に、思わず躊躇する。
「命乞いって……」
沸き立っていた僕の殺意にもブレーキが掛かる。
腰のナイフから右手が離れる――――
「……だめよ。ケースケ」
――――だが、アークの手は止まらなかった。
「絶対許しちゃだめ。……彼らはフーリエを襲った魔王軍よ」
そう言い、右手に握った槍を突き出すアーク。
「だから奴らは、一頭残らず……わたし達が今ここで倒すッ!」
「ちょっとまってアーク!」
コースが割り込み、アークの左手を掴む。
「どーして? ヒドイじゃんッ!」
「離してッ! コースは奴らの味方をするつもりなの?!」
「だってみんな先生についてくって言ってんだよ! せめて話くらい聞いて――――
「何言ってるんですかコース! 甘過ぎます!」
シンがコースを剥がしにかかる。
「コースはあんな出任せを信じるんですか?」
「そうだよ! なんか理由があるかもしれないじゃん!」
「もし理由があったとして、後々彼らが裏切ったらどうするんですか?! もし彼らが私達を襲い始めたら? 街を襲ったら? 人間を殺したらどうするんですか!?」
「そもそも奴らはフーリエの街を襲ったのよ! どうやって信じろって言うの?!」
「うっ、ソレは————
「だから奴らは今ここで仕留めなきゃだめなの。分かるでしょ!」
「大体、コースは楽観的過ぎるんです! 昔からずっと! ダンもそう思いませんか?!」
「……そりゃそうだが。シン、お前も考え過ぎだ」
「「なっ……!?」」
冷静なダン、ダンがシンの手を掴んで。
「コースが言ってた通り、話ぐらい聞いても良いじゃねえか」
「どうしてそんなに寛容で居られるんですか?! 相手は魔王軍……しかもフーリエの街を、フーリエの人々を傷つけた奴らなんですよ?!」
「別にソレは俺も許した訳じゃねえっての」
「いわば人間の殺人未遂犯と同じなのよ?!」
「……だったらアーク、王国法律で『殺人未遂』は問答無用で即極刑なのか? 領主の娘なら答えられんだろ」
「…………いえ。殺人はそうだけど、未遂は懲役刑」
「でしょ? だから、ヤるかヤらないかは後にして話を聞いてあげてもいーじゃん!」
「ですが魔物と人間とでは話が違います!」
「話を持ち出したのはアークの方じゃねえか!」
「それは悪かったわ……だけど奴らは魔王軍、今倒さないで捕り逃したら大事よ!」
「そうです! もし話を聞く時間を与えて、逆襲されたら? 逃げられたら? どうするんですか!」
「……こんな事を言いたかなかったけど、奴らの生殺与奪は俺らが完全に握ってんだぜ?! 俺らがどっしり構えねえでどうすんだよ!」
「いえ、だとしても不測の事態が起こったりでもしたら……――――
「アークもシンも、何をそんなに焦ってんだ……――――
『話だけは聞いてやる派』コース、ダン。
『問答無用・即刻処刑派』アーク、シン。
そんな両派は、平行線を辿り……――――
「先生!」
「先生ぇ!!」
「先生ッ!」
「ケースケッ!」
「……ん?」
4人揃って僕の方を向くと。
「「「「どっち?!」」」」
多数決の『最後の1人』を、僕に選ばせに来た。
――――けどまぁ、僕の意見は元から決まっている。
ブレる事も無い。
「……話を聞こう。奴らの言葉が本当かどうか、『証明』して貰う」
――――奴らが言った、命乞いの台詞。
『魔王への忠義を捨て、代わりに僕へ忠義を誓う』。
幾らでも疑いようのある言葉だ。口から出任せを言っているとしか思えない。
信頼度ゼロも良い所だ。
けど……もしコレが嘘偽りの無い真実だとすれば、ハッキリ言って異常。
裏切り。謀反。背信行為。魔王軍について僕はそんなに詳しくないけど、決して許されるモンじゃないのは確かだろう。
ただ、僕達にとってコレは悪い話じゃない。僕達の目的である『魔王討伐』、その助けにもなるかもしれないからな。
だから、僕は……あの言葉の真偽を知りたい。命乞いを許すかどうかはその後だ。
嘘であれば、アークとシンの言う通り即刻始末する。
けど本当ならば……なんで彼らがそんな決断に至ったのか、どれ程の覚悟なのかを知りたい。
――――という事で。
「「「「「…………」」」」」
「……それじゃあ」
僕達は、武器を構えたまま最深部の出口に陣取り。
最深部の広場に散らばる、狼達を見据えながら。
「さっきの言葉の『証明』、してもらおうか」
「「「「「…………」」」」」
とりあえず、奴らの話を聞くことにした。
ちなみに、対策は万全にとってある。
【冪乗術Ⅰ】で、5人全員を全ステータス2乗済み。
周囲に罠が無いかは、【見取Ⅱ】の透視で確かめた。隠し通路も存在しない。
敵兵が潜んでいないかも【判別Ⅲ】で確認した。
【定義域Ⅵ】・x≧2でバリアも張ったので、奴らは僕達の2m以内には入れない。万が一反撃してきても大丈夫だし、おまけに逃走も許さない仕様です。
ただ心配なのは、いつシンとアークが我慢の限界を超えて飛び出すかだ。……とりあえず話を聞いている間は堪えてもらえると良いんだけど。
……とまぁ、そんな事は良いとして本題に戻ろう。
『証明』の始まりだ。
まずは、『前提条件』から教えて貰おう。
「じゃあ最初に…………お前達はココで何をやっているんだ?」
そう尋ねると……少し間を置いて、先頭の狼が口を開く。
「……我々は、此処で傷の回復をしている」
「回復……?」
「左様。此処の地には潤沢な魔力で満ち溢れており、我々の体を治すには都合が良い」
……確かに、ココの更に地下深くには魔力溜まりが有るんだよな。見回してみれば傷を負った狼が結構居るし、ココは居心地が良いんだろう。
「……我々は、あの日の戦いで『貴殿には勝てぬ』と察した。そして、怪我を負いつつも命からがら戦場を脱し――――この魔力に惹かれるように此処へと辿り着いた。我々は此処を塒とし、魔王軍の救援を待ちつつ治癒に日々を費やしていた」
「成程な」
つまり……この狼達は戦場から逃げ延びて、助けを待ちながら回復中だったと。
「……ちなみに、他の奴らも逃げたのか?」
ハンマーを担いだ熊とか、草人形とか、色々な魔物が居たよな。……もしかしたら、想像以上に獲り逃した魔物が居るのかもしれない。
「存ぜぬ。我々と同様逃れた者もいるかもしれない」
「そうか」
「……ただ、我らが軍団長が逝去なされたことは察した」
軍団長……僕達が最後に仕留めた、あの赤鬼の事だな。
「……強かったな、アイツ」
赤鬼との戦いを思い出して呟きつつ、白衣の上から腹の爪痕をさする。
……ジンジンと痛む。
「……その言葉、敵なれど軍団長は喜ぶだろう」
独り言が拾われてしまった。
……まぁ、それは置いといて。
今ので彼らがココで何をやってたかは大体分かった。
さて、ココからが大事な所。
『根拠』を述べてもらおう。
「じゃあ次に……『魔王への忠義を捨てて僕へ忠義を誓う』ってのは本当なのか?」
「左様」
だとしたら、魔王様が凄い不憫だぞ。
勇者が言うのもなんだけど。
「……本気で『魔王様』の忠義を捨てるつもりなのか?」
「厭わぬ」
「本当に?」
「ああ」
「理由は?」
「…………」
そう突き詰めてみると、狼は少し考える素振りを見せ……再び、口を開いた。
「…………我々の妄想かもしれぬが、軍団長は直々に貴殿と戦って逝去なされた。それが我々には『白衣の勇者とは決して戦うな。無駄死にするぞ』というように聞こえてならないのだ」
……命を懸けたメッセージ、ってヤツか。
「我々はただ体を休めて治癒に徹しつつ、軍の救援を待っていた。しかし救援は来ず、我々は軍から捨てられたのかと考え始めていた。その矢先…………あろうことか貴殿らが現れた。それが運の尽きだった」
……なんだかそう言われると、僕達の方が悪者みたく聞こえるんですけど。
悪かったね、来ちゃって。
「我々は大きく数を減らし、未だに傷を負っている者も多い。中には子供も居り、策は無い。この状況で敵対すれど、一矢として報いる事は出来ぬと目に見えている」
「…………」
「……ならば我々は、魔王軍に背いてでも命を乞いて軍団長の御遺志をかなえたい。軍団長が命を懸けてお守りくださった、この命を無駄にせぬために」
「……だから、命乞いを」
「…………左様」
そんな理由があったのか。
……あの赤鬼、かなり部下に慕われてたんだな。
「貴殿に殺されるのならば、それは致し方ない。ただ、生かして下さるのであれば……この命、我らが軍団長にかけて貴殿に尽くしたい」
「……成程。分かった」
彼らの言いたい事は以上みたいだ。
……うん。
話を聞いた感じ、特におかしい所は無かったと思う。
『赤鬼は命をかけて戦ったのに、魔王軍は救援に来ない』っていう前提条件。
そこで、『"無駄死にするな"という赤鬼のメッセージ』と『魔王軍に見捨てられたかも』ってのが根拠になって。
だから結論『命乞いをした』。そんな流れだな。
『あろうことか』やら『運の尽き』には引っ掛かったけど、まぁ良いだろう。
「……皆、どう思う?」
一回狼達から目を背け、今の話について皆にも意見を聞いてみる。
「……嘘っぽくはなかったぞ」
「なんかちょっと感動しちゃったー……」
「……ですが、これ位の話なら幾らでも作れますよね」
まぁ……そうだな。
僕の国語能力は壊滅してるから無理だけど、頭が良ければそれなりの作り話を作れたっておかしくない。
「それに……証拠が無いわ。今の話を裏付ける、証拠が」
「はい。アークの言う通りです」
……確かに。
証拠が無い限り、幾ら口で言ったって信用は限られてるもんな。
「それが無い限り……わたしは奴らを許さないわ」
「……分かった」
4人の意見を聞いた所で、再び正面に向き直り。
狼達をジッと見回すと。
「それじゃあ……最後に、だ」
今までの話を踏まえて、最後の質問をすることにした。
――――コレの答えで、奴らの命乞いを許すかどうかを決める。
「お前達が『魔王軍を裏切る』という証拠……それを見せて欲しい」
……言った僕でも感じるけど、こんなの無理難題だ。
『魔王軍を裏切った証』なんて一体どうやって見せれば良いんだ。僕が狼達の立場だったとしても方法が思いつかないよ。
口約束や紙に書いた記録なんかじゃ絶対に通用しない。
じゃあ、前に社会でやった『踏み絵』? それとも何か他の手段か?
もしも『契約魔法』みたいなモノでも有るなら今こそ出番なんだけど、僕達にその使い手は居ない。残念ながら多彩を誇る【演算魔法】にも無い。
そして、それは狼達も同様だったようで。
「……証拠…………っ?!」
「「「「「…………」」」」」
それっきり、狼達も黙ってしまった。
……まぁ、それもそうだよな。仕方ない。
となると、これはもう――――
――――そう思った、瞬間。
ズウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!
「「「「「うッ!?」」」」」
「「「「「ガァッ!?」」」」」
地の底から突き上げるような、地震が…………僕達と狼達を襲った。




