17-29. 結晶
「キラキラに囲まれちゃったー」
「本当に綺麗ですね…………」
「ああ。まるで満天の星みてえだぞ」
感動と興奮が未だ冷めやらぬ僕達は、思い思いの事を喋りながら青く輝く光のトンネルを歩いている。
「なんか……トリグ村の星空を思い出しちゃうよー」
「確かに。懐かしいですね」
「星空かぁ……。そういや、僕の住んでた首都圏じゃ星なんて全然見えなかったな」
「そうなんですか、先生?」
「おぅ、もう全然だよ。北極星とオリオン座しか見えないとかザラだし」
「「「「少なッ!」」」」
「ウッソだー! 先生オーゲサだよ!」
……別に星が見れない自慢じゃないけど、期待通りの反応が見られて嬉しい。
「いやいや、それが本当なんだな。夜でも街が明る過ぎて、星が全然見えないんだよ」
「ケースケの住んでいた街ってどれだけ大きかったのかしら? ……わたしのテイラーだって結構大きな街だけど、星はそれなりに見えたのに」
「あぁ、憶えてる憶えてる。僕達がテイラーに滞在してた時、毎晩宿の窓から風車と空を眺めては『キレイな星空だなー』って感じてたんだよな」
「フフッ、そう言ってくれると嬉しいかな」
「……なんか意外だぞ。先生、そんな趣味を持ってたとは」
「ねー。イメージに合わないよねー」
「ですね。先生のそんなシーン、想像出来ないです」
「黙っとけ」
良いじゃんか別に。放っとけ。
「……ってか、コッチの世界ってどこに居ても夜空が本当にキレイなんだよな。草原のド真ん中はともかく、王都とかフーリエとかの大きな街でさえ」
「それは勿論、『星座が2つしか見えない世界』と比べれば当たり前よ。そうよね、シン?」
「…………………………いいえ」
「……えっ?」
アーク、まさかの裏切りに遭う。
「そういうアークも、まだ『本当の星空』を知りませんね」
「…………嘘っ……?!」
「本当の星空を知らずして、星空を語ってはいけません」
「えっ…………?」
「そーそー。コレだから『都会人』はダメなんだよねー」
「「なっ…………?!」」
「ああ。まだまだ甘チャンだな、2人とも」
「「うっ…………」」
そして……3人のド田舎人による、2人の都会人への有難い説教が始まった。
「上京してきたド田舎出身の私達に言わせれば…………王都やテイラー、フーリエの星空は全然ダメです」
「「ダメ…………」」
「はい。こう言ってはなんですが、あんなので満足してちゃまだまだです。本当の星空を知りません。缶詰をご馳走だと舞い上がっているのと同じです」
「「成程……」」
「そーそー、トリグ村の星空は最強だからねー! 辺鄙の力ってスゴいんだよ!」
「辺鄙って……」
「どんだけ田舎なんだよ……」
「そりゃあもう、夜は引くくらい真っ暗になるからな! 辺鄙は!」
「「おぉ……」」
「辺鄙のチカラ、甘くみんじゃねえぞ!」
「「はい」」
『辺鄙』のパワーワードに押し負かされる、都会人の僕とアークなのでした。
「……ただ、そんなに言われたら一度行って見てみたいかな。コース達の故郷の、星空」
「あぁ。いつか僕達も行かなきゃな、トリグ村」
「うん! 来てよ来てよー!」
「勿論大歓迎です!」
「アークにも先生にも、かなり世話になってるからな! きっとジイさま達も喜ぶぞ!」
「おぅ」
「ええ」
うん。
いつか行かなきゃな、トリグ村。
そんな話をしている間にも、僕達の冒険は着々と進み。
気付いたら5階層の半分地点も過ぎて、最深部が近くなってきた頃。
「……ん?」
「あれっ? なんだか……」
先頭のシンとダンが、何かに気付いたみたいだ。
「どうしたの?」
「何があった?」
僕とアークが尋ねてみる。
「そういえば……光のトンネル、色が深い蒼っぽくなっていませんか?」
「……言われてみれば」
さっきからバリバリにブルーライトを摂取してたからか、違いに気付かなかったけど……青の輝きが深みを帯びてきているような気がする。
『青』じゃなく、『蒼』っぽい。
「……って事は!?」
「もしかして……ッ?!」
————そう。
色の違いは、不純物の違い。
魔力溜まりは近い。
きっともう僕達のすぐ足元に広がっているハズだ。
となれば、そんな環境下でしか産まれない鉱石が……。
超貴重で超純粋な、僕達の『お目当て』が————
「「「「「…………」」」」」
ここ一番の高まる期待に、足だけでなく心拍も急上昇。
ついつい無言になる僕達。
今までの雑談も何処へやら、ひたすら地図に従って足を動かす。
「……次を左。これが最後です」
そして……最後の十字路を、左に曲がると。
そこに、広がっていたのは。
「…………こっ、コレは………………ッ!!!」
————光のトンネル、ではない。
光のトンネルほど、華やかじゃない。
光のトンネルほど、煌びやかじゃない。
じゃない、けど。
太くて長い六角柱の、頭が六角錐に切り取られた……独特なその形。
深い蒼色に色づきつつも、いかに純粋かを語るその透明さ。
その内部から漏れ出す光は……眩しいくらいだった光のトンネルとは異なる、落ち着いた輝き。
まるで優雅で、まるで厳かな……深い蒼色の光。
そんな光が……左から、右から、上から、下から、無数に僕達へと降り注ぐ。
壁の、天井の、地面の岩肌から……ヒョコッと、その結晶の一角を見せて。
「あった…………」
「辿り着きました…………」
「やっと見つけたぜ…………」
採掘依頼を受けて、実に4日目。
砂漠をひた歩き、真っ暗な坑道をひた歩き、地下深く深くへと潜って……ついに見つけた。
コレが————コレこそがッ!
「「「「「純ユークリド鉱石だ…………ッ!!!」」」」」




