17-28. イルミネーション
「【乗法術Ⅶ】・-1。はい」
「ありがとうございます先生」
シンが再びスネークに咬まれてしまったので、僕達は再びヘルメットを被ってランプを点灯。
詛呪の治療にあたりました。
「……何度も何度も申し訳ないです」
「良いよ、気にすんなって。……それにしても本当にシンばっかりだよな、咬まれるの」
「はい……」
ついでにその流れで、アークの謎現象……通称『怒ってない怒りモード』の解明もお預けに。
原因を探ろうにも、彼女自身は全く身に覚えが無いんじゃ……ってか、そもそもついさっきまで自覚すら無かったのだ。原因解明とかいう以前の問題です。
だけど、身体にも精神にも目立った不調は無いようだ。普段の怒りモードよろしく暴走する様子もゼロ、挙句の果てには「むしろ気分がちょっと良いかも」とか言っちゃう始末なので……コレは放置で良いよな。
よし、保留だ保留。
解明はまた今度時間がある時にして、今は純ユークリド鉱石に集中しよう。
「それでは皆さん。程良い休憩時間にもなった事ですし……出発しましょう」
「「「「オー!」」」」
という事で、僕達は5階層への坂道を再び下り始めたのだった。
――――すると。
再び下り始めてから数分、坑道に変化が現れる。
「……あれっ?」
「んん?」
魔導ランプが照らし出す光景に、思わず立ち止まる僕達。
「ここで坑道の補強が終わってるわ……」
「あっ、本当だ」
ランプを壁や天井に向けると……照らし出されたのは、『坑道の切れ目』。
天井と壁を補強していた木材がココを境に姿を消し、代わりに剥き出しの岩肌が現れたのだ。
「まさかココで坑道おしまいなのー?」
「……いや。まだ坑道自体は下に延びてるみてえだぞ」
「はい、地図上にもちゃんと描かれてますし」
一抹の不安が頭を過るけど……魔導ランプを前に向ければ、見えるのは真っ直ぐの坑道。
まだまだ行き止まりは見えない。
「……あっ、ホントだ。良かったー!」
「どうやら、補強だけがここで途切れてるみたいね」
「ココから先は手掘りか……」
ただし、その代わり……『切れ目』から先は、補強されていない手掘りの坑道が続いていた。
ゴツゴツとした岩石そのまんまの壁に、ところどころ凸凹の残る地面。坑道の大きさだって今までより一回り小さい。
坑道の隅に転がる大小多くの石ころに、無数の壁に刻まれたピッケル痕。…………その近くをよーく見れば、まるで埋まっていた何かが取り出されたような穴がポッカリ。
ずっと前に閉鎖された鉱脈なのに、ありありと伝わる『たった今まで採掘してました』感。
「……コレが、本来の坑道の姿…………」
「おぅ。バリバリ現役真っ只中の採掘現場だな」
今までは補強の木材に隠れて見えなかったけど……コレこそが、『本当の坑道』。
採掘に命を燃やした男達の、戦場だ。
一時は『景色が変わらない』とかウダウダ言ってた僕達のテンションだって、コレじゃあ上がらない訳がない。
「なんだか一気に『最深部』に近づいた気がするぞ!」
「はい。今まで坑道の景色が変わらなかった分、尚更です!」
「うん! 坑道のゴールまでもーちょいだ!」
「いよいよね! 行きましょう!」
「おぅ!」
急上昇するテンションに足の回転も速まり、僕達は下り坂をグングンと下って行き――――
そして。
「着きました……5階層です!」
「「「「おおおぉォォ…………ッ」」」」
坂を下りきって5階層に辿り着いた僕達は――――坑道の姿を目にして、震えた。
壁や天井に魔導ランプを当てれば、補強もされていないゴツゴツの岩肌。
四方を味気ない岩石に覆われただけの、殺風景な坑道。
だが、一度ランプを逸らせば…………暗闇の中に現れるのは、青白く光る粒々。
青白い輝きを強めたり弱めたりを繰り返す粒々が、壁や天井にビッシリと散りばめられている。
「…………この青い光って……?」
「こっ、コレは…………」
こう言っちゃ失礼だけど……散々お世話になった魔導ランプの光もココでは邪魔だ。
そう感じた僕達はヘルメットを脱ぎ、魔導ランプを消すと――――目の前に広がったのは。
単なる真っ暗闇――――ではなく。
「おぉ………………」
「すっ……凄え…………!」
「光のトンネルだぁー……!」
「初めて見ました…………」
「キレイね…………」
文字通り正真正銘の――――青く輝く、『光のトンネル』だった。
「まさか、これって…………全部、ユークリド鉱石なのかな?」
「あぁ。この色、多分そうだろう……」
冬のテーマパークでは定番の『光のトンネル』ってヤツ、僕は何度か見た事がある。無数のLEDが白や黄色に輝く夜のイルミネーションだ。
だけど……コレは、比にならない。
今までに見たどれよりも比べ物にならないくらい、綺麗な――――輝く鉱石が創り出した、天然のイルミネーション。
「「「「「………………」」」」」
まるでファンタジーや異世界のような光景に、思わず僕達は言葉を失い。
しばらく、黙って見とれていたのでした。
「…………それにしても、5階層の入口でこんな沢山のユークリド鉱石があるなんて……」
「あぁ。……だけど、この辺のは色が青白いな。結晶も小さいし」
坑道の壁に近寄り、輝く粒々をよーく見ると……水色の粒々が岩肌に沢山くっ付いている。
ビーズを更に粉々に割って……その欠片ぐらいのサイズ感かな。
「確か、水色の結晶は不純物が多くてダメなんですよね?」
「そうそう。蒼透明なのが純ユークリド鉱石らしいな」
出発前、トラスホームさんが言ってた。
『水色がダメ、蒼透明の鉱石』。【暗唱】でバッチリ記憶したもんねー。
「なら……奥に行きゃあ、きっと純ユークリド鉱石が待ってるかもしれねえぞ!」
「うん! デッカーい結晶もいっぱいだったりして!」
「ああ、そうだな!」
という事で。
幻想的な風景惜しみつつも、僕達は再びヘルメットを被って魔導ランプを点け。
53番坑道の、5階層…………キラキラと青く輝く『光のトンネル』へと入った。




