17-25. 破裂
魔力溜まりにもかなり近付いてきた、坑道の4階層。
その分、魔物の大きさも強さも目に見えて上昇している。
「おっ……?」
「アレは……リザードの群れですね」
前方からは、体つきの妙に良いトカゲ3頭がドスドスと接近。
「……ケースケ、後ろ!」
「っ! スネークか!」
後方からは、極太のカースド・スネークがニョロニョロと忍び寄る。
「うわッ! コウモリちゃんも飛んできたよー!」
そんな騒ぎに乗じるかのように、バサバサと集まるデカコウモリ。
「進路も退路も魔物ですか」
「皆揃ってデケぇな、コイツら」
「挟まれちゃったねー……」
前にも後ろにも、ガタイの良い魔物達が坑道を立ち塞ぐ。
――――だけど。
そんなんで今の僕達を止められると思ったら大間違いだ。
「……行くぞ、皆」
「「「「おう!!」」」」」
魔物達だけじゃなく、僕達も強くなってんだからな!
「【冪乗術Ⅰ】・ATK2! 行けシン!」
「はい! 【強突Ⅵ】!」
グサッ!!
「【冪乗術Ⅰ】・INT2!」
「まるごとヤッちゃうよー! 【氷放射Ⅲ】!」
グサグサグサッ!
グサグサグサッ!
「【冪乗術Ⅰ】・DEF2!」
「ふんッ! 【硬叩Ⅷ】!!」
カァァン!!
「【冪乗術Ⅰ】・ATK2、INT2!」
「甘く見ないでよね…………【強刺Ⅶ】ッ!!」
ブスッ!
ジュウゥゥゥ……
……そして、程なく。
「【強斬Ⅷ】!」
ザシュッ!
シンが最後のデカコウモリを斬り伏せると……魔物達は皆、動かなくなった。
「……コレで全員でしょうか」
「ええ。もう居なさそうかな」
「なんか一瞬だったねー」
パワーアップしたステータス加算……累乗の力を前に、魔物達は一瞬で片付けられてしまったのでした。
「それにしても……ケースケの【冪乗術Ⅰ】、えげつないわね」
「はい。コレでスキルレベルⅠだなんて信じられません」
「力が漲るッつーか、もう身体から溢れて破裂しちまいそうだぞ」
破裂って……まぁその表現、分からなくもないけど。
「じゃあ……レベルⅩの『パワー』を受ければ、ダンの身体はコッパミジンだねー!」
「ハッハッハ、違いねえ。先生の【冪乗術Ⅹ】を受けた途端、身体が粉砕して血ぃ撒き散らして爆死……なんてな!」
「キャハハハッ、血だらけじゃん! おもしろー!」
「2人とも笑いながら怖いこと言うなよ」
嫌だよ僕、味方を爆死させるステータス加算とか。
それこそガチの血に塗れし狂科学者になっちゃうよ。
「……まぁまぁ、爆死の件は良いとして。先に進むぞ」
なんだか凄いバカにされてるような気がしてならなかったので、ヒートアップする2人を止める。
「時間もそう無いんだし、最深部までどれくらい掛かるか分からないし。行こう」
「……あっ、ああ。先生」
「うん、そうだねー!」
よし。それじゃあ————
「……ッ!?」
————何かの気配ッ!!
……何だ?!
何かが近くに居るぞ……!?
ココに居る魔物は、僕達が全て倒したハズだ。
なのに……ッ?!
「【判別Ⅲ】!」
すぐさま感知の【演算魔法】を使い、周囲の魔物数を調べる。
帰ってきた答えは……2。
確実に、周囲に2体居るッ!
気配は間違いじゃなかった!
「【見取Ⅱ】!」
そうと分かれば、今度は透視の【演算魔法】で周囲を見回す————
「……ッ!!」
居た!
坑道の先・かなり遠くの闇の中、白い点線が2つ浮かび上がっている!
「……見つけたァッ!!」
そう叫ぶと……2つの輪郭は、僕達から逃げるように駆け始めた!
あの形は……四つ脚の獣。猫か?
いや、違う。狐……それとも犬?
まぁ良い、とりあえず追いかければ————
「……あっ」
そう思った直後、白い点線がフッと消えた。
「クソッ……」
しまった。
【見取Ⅱ】の範囲から逃げられたみたいだ。
チッ、撒かれたか……。
「ど、どうしたんだよ先生、いきなり?!」
「……何か居たの、ケースケ?」
「まさか盗賊!?」
「……ん、あぁ」
ふと我にかえると、皆が心配げに僕を見つめていた。
「…………いや、何でもない。気のせいかも」
「……そうですか?」
「おぅ」
……正体が掴めなかったので、とりあえずそう答えておいた。
……何だったんだろう、今のアイツら。
まぁ……僕達から逃げるように動いてたんだし、僕達に危害を加えないようなら放っておいても良いか。
アイツらが襲って来たら考えよう。
ジンジン痛む腹をさすりつつ……そう考える事にした。
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
「ハァ、ハァ………………此処まで逃げれば、さすがに奴の感知にも入らないか」
「ハァ、ハァ、ハァ…………相当距離を取ったからな、此処なら大丈夫だろう」
「……なあ。あの侵入者、先の偵察部隊が言っていた通り『彼奴ら』で間違いないよな?」
「同意、間違いない。あの所々を血に染めた、白の上着……『白衣の勇者』だ」
「やはりか……」
「顔は憶えておらぬが、身なりは我が記憶と完全に一致した。付き人の得物や格好も同様」
「くッ……見間違いであってくれれば良かったのに!」
「それは我も感じている。他の同胞達も、長でさえも間違いなく同意であろう」
「…………なんとか出来ないのか、奴らを?! このままでは一族揃って奴の残党狩りだ! 先の『包囲作戦』でも完敗だったというのに、今の我らで奴に太刀打ちなど無理だ!」
「我も分かっている! だが……手は無い…………」
「……逃げよう。入り組んだ洞窟を使い、奴らに察されぬよう脱出すれば良い!」
「無理だ! 奴の感知能力を見たであろう?! あれ程の距離を取っておきながら、奴は我らを感知した! 『見つけたッ!』という叫び声が何よりの証拠である!」
「……ならば、かなりの迂回にはなるが、奴らから遠い道を選んで逃げれば良い————
「それも無理だ。子供や怪我の治りきっていない同胞達には、駆けるだけでも相当な苦労。迂回する余裕など我らには無い」
「……となれば…………戦うしか————
「無理に決まっている! 第三軍団の総力を以ってしても、たったの5人の奴らに完敗したのだぞ! 我らだけで戦うなど無謀も良い所だ!」
「ならばどうすれば良い?! 我らの拠点は洞窟の最奥、逃げ遅れれば其処で終いなのだぞ!」
「………………っ」
「…………ああ……我らは、どうすればッ……」
「……一先ず、拠点に戻ろう。長ならば何か良案を……それこそ、『白衣の勇者』をも跳ね除ける策をお持ちかもしれぬ」
「………………同意」




