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3-11.台頭

6/28

締めの文を書き間違えていたので修正。

【解析】(アナライズ)を手に入れてからもしばらく狩りを続けていたのだが。

僕はちょっと調子に乗っていたようだ。


……MPポーションの減りが異常に早い。

魔力消費が多すぎて、【MP回復強化I】でも対応しきれなかった。


まぁ、そりゃそうなんだけども。

【加法術II】(アディション)・ATK20、DEF10を自分自身に使い、相手という相手に【減法術I】(サブトラクション)・DEF10を使うという贅沢仕様だ。


いやー、とても楽しかったよ。スッキリした。

相手のDEFがまるで紙だ。

一撃で薙ぎ倒せる。

チキンを蹴り倒す時は、脚を振り抜かなくとも軽いトーキックで十分だったしな。


……しかし、今思えば【減法術I】(サブトラクション)は無駄遣いだったなって思うんだよなぁ。

はっきり言ってこんなザコ魔物一体一体に減算をする必要は無かった。

確実にオーバーキルだったしな。


そんな感じで久し振りの後悔に苛まれつつ、最後のMPポーションを飲み干す。


「はぁ……これでラスト一本だし、そろそろ帰るか」


街道から離れるように移動しつつ狩りをしていたから、街道に着くまでも結構掛かる。


よし、とりあえずMPも十分にあるし、ヤバい状況に陥る、なんて事は無いだろう。

周りを見回せば、遠くには僕と同じように狩りにいそしむ冒険者のグループも居る。

最悪、あぁいう方々に助けて貰えばいいよね。


モンスタートレイン行為になるかもしれないが、僕はまだ2日目の新入りだ。僕よりは皆ベテランだろう。






なーんて思ってはいたんだが、どうやらその心配は杞憂に終わったようだ。

無事街道に到着。

街道へ戻る途中にラットとチキンが1体ずつやって来たが、難なく討伐。


そして街道に合流した。

あとは、そのまま遠くに小さく見える王都まで歩いて行けば良いのだが。


なんだか周りの視線が痛い。


商人は驚いた顔をしていた。

護衛の冒険者はニヤけてたり。

冒険者のグループは皆でこっち見て喋ってるし。


……えぇー。なんなんすか。

まさか、もう面が通ってしまっているのか?

目立つのは勘弁なんだけど。


ま、まぁいい。とりあえず王都まで戻ろう。


「あぁ、あれがマッドサイエンティストか」

「血塗れの白衣姿、間違いねぇな」

「恐ろしや恐ろしや……」


……なんだか時々、すれ違う人の呟く声が聞こえるんだけどさ。


完全にマッドサイエンティストの渾名(あだな)が広まっちゃってんじゃねぇか!


血塗れの白衣姿ってのは仕方ないとしてさ。

『恐ろしや恐ろしや』って、人間に対しては何もやってないから! 狩ってるの魔物だけだから!


……もういいや。こんなん気にしてたらいつまでも王都に帰れない。

こういう時は無視だ無視。さっさと帰って今日の収獲を買い取ってもらおう。






あー、やっと王都に着いた。

昼過ぎになり、往来もやや混んでいる東門を潜る。


周りの呟きを無視するのにも、結構精神使うもんだな。

芳川と斉藤のお陰で無視スキルは中々育ってるとは思ってたんだけど、やっぱり疲れるものは疲れる。


さて、街中の時計を見る。

現在午後3時だ。

今日の狩りは朝8時頃から午後3時までなので、大体5時間労働。僕的には結構働いたな。

【MP回復強化I】のお陰もあって、ポーション6個でも結構長い時間もったな。


よし。今日の労働は終了だな。

収獲を買取してもらって宿でのんびりコースにしよう。


そう考えているうちにギルドに到着。

さーて、今日の収獲は一昨日の比じゃないぞ。

果たして幾らになるかなー。


ルンルン気分でギルドの建物に入ると。

一瞬皆がこっちを見て、凍りついた。


「……あぁ…………」


またこれか。

もう完全に有名になってんじゃないか、僕。


ザザザッ


そして僕から出た声に反応し、二歩後ずさる冒険者達。


いやいやいやいや、皆怖がりすぎでしょ。

体が大きい訳でもないし、防具も着けてない。

血塗れの白衣を着ただけの単なる人間なんだぞ。


腰に剣を差した騎士様とかデカい斧を背負った大男とかの方がよっぽど怖いよ?


……まぁ、無視だ無視。さーてと、買取カウンターの列に並ぶか。


いや、列に並んでた方々も僕に前を譲る必要ないから。

お願いだから魔法使いのお姉さん、プルプル震えないで。






そんな訳で、僕もなんだか落ち着かない気分で買取カウンターに並んでいたんだが。

ようやく僕の番が来たな。


「次の方、どうぞ…————


カウンターで座ってたギルドのお姉さんが手を挙げて僕を呼んだ。

のだが、僕と目が合った瞬間、一瞬怯えた表情を浮かべたのと共に建物の奥へと走って行ってしまった。


なんだろ。何か急用でも思い出したのかな?


とりあえず呼ばれたカウンターの前まで出て、そのまま待ってみる。


そして30秒程だろうか。

奥から人がやって来た。


「ん? また来たのか、マッドサイエンティスト」


……マッチョ兄さんだった。

なんか、ギルドの職員でマッチョ兄さん以外の人と話した事が無いんだが。

ってか僕のことマッドサイエンティストって呼んだな今。ってかマッチョ兄さん以外からそんな呼び方された事が無い。


「ど、どうも」

「はいじゃあ今日も買取だな。獲物机の上に出して」


相変わらず冷たい対応だ。

まぁそんな事今更なので、気にもせずにどんどんリュックから血抜き済みの魔物を出していく。


今日はディグラットも皮には傷を付けてないからな。買取金額は値落ちしないだろ。


「うわ、どんどん出てくんな。ヤバ。あなた本当に新人ですか?」

「ま、まぁ」


やる気の無い目で獲物の山を眺め、そう話すマッチョ兄さん。


そうこうしているうちに、リュックの中から全ての魔物を出し終わった。

そして机の上には山が出来ていた。


今日の収獲はディグラットが16匹、プレーリーチキンが15羽だった。


「これ査定すんの超ダルいな。でもまぁ、見た所どれも傷が無いな。お前こんな短い間によく腕あげたな」

「ありがとうございます!」


マッチョ兄さんに褒められてちょっと嬉しかった。


「はいじゃあ査定してくるんで、少しそこで待ってろ」


そう言い置いてマッチョ兄さんは魔物の山を両手で軽々抱え、奥へと持っていった。






さて、今回は果たして幾らになるだろうか。

ディグラットもプレーリーチキンもほぼ無傷で完璧だ。

まだ2日目なんだし、新人補正でオマケしてくれたりとか無いかな。


『んな事ある訳ないじゃん?』


そんな甘い事を考えてみるが、頭の中のマッチョ兄さんがそう否定する。

フフッ、本当に言いそうだな。僕が作り出した想像とは言え、少し笑えてしまった。


そんな事を考えているうちに、ギルドの奥からジャラジャラ音が聞こえてきた。


ふと顔を上げて前を見る。

そこには奥から硬貨が入っているらしき袋を持ったマッチョ兄さんが立って居た。

なんか顔をしかめてる。


「うわ、マッドサイエンティストがこっち見て笑ってる……クソ怖いんですけど」


……いかんっ!

自分の想像に自分でニヤけてたまんまだった。

慌てて笑いを噛み殺し、無表情を装うが遅かった。


ハタから見たら、血塗れの白衣姿の男が誰かを見て笑っているのだ。

怖すぎる。


「まぁいい。どうせ何か思い出し笑いでもしてたんだろ」


マッチョ兄さんは少し察しが悪いようだ。

残念ながら思い出し笑いではなかった。


「はいじゃあこれが今回の買取金額だ。魔物の傷は少なかったな、ラット2匹以外は状態良好。お前本当に一昨日始めたばかりの新人なのか?」

「ま、まぁ一応」

「ふーん。まぁ冒険者にゃ秘密の一つや二つあるしな。ってな訳で、魔物一匹あたりの価格は前と同じ。チキンは銀2枚、ラットは銅50、傷付きは銅30だ。合計が銀37枚の銅60枚だ」

「……ぇ……おおぉぉ!!」


さらっと凄い買取金額を言うマッチョ兄さん。

いや、想像以上に高い金額で驚いた。

一瞬、僕の脳が思考を中断したからな。反応か二段階になってしまった。


とりあえず、マッチョ兄さんから硬貨の入った袋を受け取る。

そしてその重さに再びビックリ。

MPポーション代が6本で銀3枚だが、余裕で黒字だ。


うわぁ……凄い大金を受け取ってしまった。

周りからすれば、この位どうって事ない稼ぎかもしれないが、僕からすればかなりの物だ。

あぁ、落ち着かない。早く宿に戻ろう。


「じゃあ、ありがとうございました。またよろしくお願いします」


そう礼を言って帰ろうとした時。


「あぁ、そういえばお前、冒険者の中で結構有名になってるぞ」

「……ぇっ」


あぁー、やっぱり?


「『白衣姿の男が草原をグルグル走り回って謎の儀式をしてる』とか、『ここ(王都東側)の草原でマッドサイエンティストが血塗れになって実験やってる』とか冒険者から沢山情報が寄せられてんだよ。不審者目撃情報が。それお前だろ?」

「……はい、多分それ全部僕です」


とりあえず肯定しておいたけどさ……。

え、僕周りから不審者扱いされてんの!?

否定はしないけど、ヤバいのは見た目だけだから。

内面は普通の高校生だよ?


「じゃあ、血の池の中で佇んで謎の呪文呟いてたってのもお前か?」

「……多分そうです」


それアレだな。何かしら【演算魔法】でステータス加算してた時だろう。


「あぁそう。完全にマッドサイエンティストへの道を歩き始めてんのな」


あぁ……マジかー。

酷い渾名で覚えられてしまった。これじゃあ悪目立ち確定じゃないか。

面倒な事にならなければ良いんだが。


「まぁ、情報を寄越してきた奴らは揃ってお前を『凄い勢いで魔物を討伐してってる強者だ』って言ってる。この調子じゃ、お前もじきに名が売れてくるな。やり手の狂科学者マッドサイエンティスト、誕生だ」


そして、『上手いこと言った』みたいな顔をするマッチョ兄さん。


……【演算魔法】のお陰とはいえ、強さを認められているってのは嬉しい。

しかしマッチョ兄さんから『名が売れる』とのお墨付きを頂いてしまった。目立つのは嫌だったんだがなー……、どうしてこうなってしまったんだ。

誰もが知る、みたいな状態になるのも不可避だ。時間の問題だろう。


——さて、もうここまで来てしまった。

こうなったらいくら目立っても構わん。

バンバン狩って金を稼ぐだけだ。






さてと。

冒険者を始めてまだ2日目なのだが、狂科学者マッドサイエンティストとかいう物騒な渾名と共に有名になりはじめてしまった。色々と面倒事が増えそうだが、まぁ、なんとかなるだろ。


現在の服装は麻の服に血塗れのロングコート。

重要物(キーアイテム)は数学の参考書。

(ジョブ)は数学者。


目的は魔王の討伐だが、まだまだ金稼ぎだ。


準備は整った。さぁ、狩りまくりますか!

これにて少しお休みに入らせて頂きますが、また帰って来ます。

第4章からもお楽しみに!

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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