17-23. ルート
Point⑥
『それは√ ̄』
という事で。
物語の最後ででもう語っちゃったけど……本単元の最後のポイントは、僕達の前に立ちはだかる壁。
その名も――――『√ ̄』についてだ。
数学の中でも結構有名だから、聞いた事はあるんじゃないかな。
それじゃあ、√ ̄について見て行こう。
数学では、足し算の計算結果を『和』、掛け算の計算結果は『積』って呼んだよな。
逆に引き算の結果は『差』、割り算なら『商』だ。
同じように、累乗の計算結果は『冪』とか『冪乗』とも呼ばれている。
それじゃあ…………冪の反対語は何だ?
その答えは……『根』。根っこの根だ。
3を2乗した冪は9、3乗の冪は27、4乗の冪は81。
コレらを逆に言い換えれば……『3は9の2乗根』であり、『27の3乗根』でもあり、『81の4乗根』でもある。
同様に、5は25の2乗根。6は36の2乗根。
『2乗は平方とも呼ぶ』っていうルールを思い出せば、7は『49の平方根』。
10は100の平方根だし、4は16の平方根。
このように、『何乗したら元の数になる』というモノこそが『根』なのだ。
さて。
ココまでが『根』についての単なる紹介だ。そこまで難しいコトでも無いんじゃないかな。
だけど――――ココで緊急事態発生。緊急事態発生。
僕達が『根』を知った事で、大きな大きな2つの問題が発生してしまった。
問題その1。『9の平方根って本当に3だけ?』
問題その2。『7の平方根って一体何だ?』
コレらだ。至急解決していこう。
それでは問題その1。『9の平方根は3だけ?』事件について。
9の2乗根、つまり『2乗すれば9になる数』といえば勿論3だよな。
しかし……実はそれだけじゃない。『3』一択じゃ不正解なのだ。
鍵となるのは『マイナスとマイナスの掛け算はプラス』。コレを踏まえると……『-3』が浮上する。
コイツも2乗すれば、 (-3)² で9になるよな。
————そう。
実は、9の平方根は2個あって『3と-3』。正の平方根と負の平方根、2つがペアになって正解なのだ。
だから例えば『9の平方根はなーに?』と問われた時には、『3と-3』とか『±3』と正負の平方根をしっかりペアにして答えよう。じゃないと解答がバツにされちゃうぞ!
同じように、25の平方根は ±5 。
81の平方根は ±9 。121の平方根は ±11 。
0の平方根だけは『0の一個のみ』になるけど、0以外の平方根の答えは必ずペアになるのだ!
コレにて『9の平方根は3だけ?』事件、無事解決!
続いて問題その2。『7の平方根って何?』事件、行ってみよう。
4の平方根は±2、9の平方根は±3っていう風に整数で表せるけどさ。
5、6、7、8の平方根は……どんな小数を使っても、分数を使っても表せないんだよね。
同じように、10から15の平方根も表せない。17から24も、26から35もだ。
じゃあ……コイツらの平方根は一体何なんだ?
そんな悩みに対して……人類は、負数でもなく小数や分数とも異なる、新たな記号を作る事で対抗した。
『根』を示す数学記号――――それが√ ̄なのだ!
使い方は、平方根を表したい数字に『√ ̄』を被せるだけ。
正の平方根は √7 、負の平方根は -√7 。
7の平方根は ±√7 っていう風に表すぞ。
√ ̄に数字を掛け割りする時は、√ ̄を丸ごと文字のように扱おう。√7を2倍する時には、文字式の表し方に従って 2√7《___》 とすればオーケーだ。
√ ̄ 同士で掛け割りしたければ、√ ̄の中で計算すればオーケー。√7×√2=√14、√6÷√2=√3となる。
この記号を使えば、どんな平方根でも表せる。ってな訳で問題その2も無事解決だ!
ただ……こんな便利な記号・√ ̄なんだけど、使うのには3つ制限が有るのだ。
制限1、『√ ̄が不要の時は使っちゃいけない』。
0、1、4、9、16の平方根は、普通に整数で表せるよな。だから√ ̄は使っちゃダメなのだ。
制限2、『√ ̄の中身はマイナスじゃいけない』。
掛け算においては『マイナスのマイナスはプラス』だし、『プラスのプラスはプラス』。
どんな数字を2乗してもマイナスになる事は無いから、√ ̄の中身はマイナス禁止なのだ。
最後に制限3、『√ ̄の中身は出来る限り小さくなければならない』。
例えば『12の正の平方根』 √12 だけど、コレって次のように変形できるよな。
√12
= √4×3
= √4 × √3
この時、制限1が発動! √4は2となるから、最終的に『√12 = 2√3』となる。
このように、√ ̄の中身は出来る限り小さくしなきゃダメなのだ。
この3つの制限さえクリアすれば、晴れて√ ̄も使い放題だ!
「(うゎっ……難しっ…………)」
最初はルートの苦手克服を目指して意気込んでたけど…………流石にちょっと疲れたな。
けど、コレでお終い! あとはコラムを読んだら練習問題だ!
Column
『計算順序』
加減乗除の四則が入り混じった式の計算では、『乗除を先に、加減を後に』っていう計算順序が有った。
単純に左から順で計算していくのはダメだったんだよな。
それじゃあ……『累乗』と『ルート』が入った今、計算順番はどうすれば良いのか?
答えは――――至って簡単。上位の計算から順番に、だ。
『累乗・ルート』→『乗除』→『加減』だな。
それじゃあ……次の例題の計算式を使って、実際に計算順序を確認してみよう。
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(例5)
(11-2×3)√7+1-(5-1)³÷8
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はい。面倒な式が現れました。
+-×÷に³、さらに√ ̄が混ざり合ったカオスな式だ。
ちょっとやり過ぎ感は否めないけど……計算順は一緒。()の内側で上位から順をやって、その後もう一度上位から順だ。
それじゃあ、計算していくぞ。どの順で計算しているのか見てみてほしい。
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(解5)
(11-2×3)√7 +1 -(5-1)³ ÷8
= (11-6)√7 +1 -(5-1)³ ÷8
= 5√7 +1 -4³ ÷8
= 5√7 +1 -64 ÷8
= 5√7 +1 -8
= 5√7 -7
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という事で、答えは『5√7 -7』だ。
ルートはそれ以上計算できないから、そのまま残しておこう。
こんな感じだ。どうだったかな?
累乗とルートを使いこなして計算順序まで完璧にすれば……ついに僕達も『累乗マスター』だ!!
「(うぉぉぉぉ…………長かったぁぁぁぁ…………)」
無事コラムまで読み終えたところで、両手を挙げて地面に寝っ転がる。
「(あぁ………………)」
猫背気味だったからか、背筋が伸ばされて気持ちいい……。
キャンプファイヤーの炎が、これまた心地よいんだよな……。
あぁー……、コレは寝れる。
今直ぐ寝れるぅ………………。
「………………はッ」
駄目だ駄目だ。
ちゃんと練習問題までやりきらないと。
……って言うか、そもそもココで寝たら見張りサボりだ。
練習問題どうこうの以前に職務怠慢じゃんか。
よし。
なんとかココは練習問題で目を覚ましつつ、見張りの職務を全うするか。
「(……紙とペンとー…………)」
なんとか起き上がり、紙とペンを手繰り寄せる。
参考書のページを捲り、練習問題のページを開く。
「(えーと……)」
今回もA問題10問、B問題10問の全20問だ。
さて、サッサとやって済ませちゃおう。
「(1問目はーっと…………)」
左手の人差し指をA問題の1問目に近付ける――――
ビタッ!!!
「ぅうぉッ!?」
気を抜いていた指に掛かる、異常なまでの引力。
一瞬で指が問題文に持っていかれる。
「なッ……勝手に?!」
それどころか、指から魔力が勝手に吸い出されていく。
ちょちょちょっと……そんな突然ッ――――
その、直後。
ピッ
「(…………はっ!)」
僕の眼前に――――新たな【演算魔法】を載せた、青いメッセージウィンドウが映し出された。




