17-21. 累乗
『ユークリド鉱石』依頼・3日目、21:38。
坑道探索1日目、夜。
旧事務所で手に入れた『地図』と『魔導ランプ付きヘルメット』のお陰で、僕達はたった半日で1、2、3階層を踏破。
キリも良かったし時間的にも丁度良かったので、今日は3階層の最奥にあるスロープの手前で野宿することにした。
明日の朝から4階層の探索だ!
テントを張り、キャンプファイヤーの火を囲んで夕食。メニューはいつも通りの缶詰だ。
その後は、火にあたりながらゴロゴロ過ごして……――――
「それじゃあ、見張りの順番はさっきのジャンケンの結果通りで」
「ええ。最初はケースケ、その次にわたしだよね」
「あいかわらず先生ジャンケン強いなー……」
「ハッハッハー。最初の座が欲しいんなら、努力して僕を倒すんだな。コース」
「くぅーッ! ぜったい倒すッ!!」
「頑張れ頑張れ」
「……ジャンケンに努力って有るんですかね?」
「無えと思うけどな」
……とまぁ、そんな感じで。
「じゃあ皆、おやすみ」
「「「「おやすみなさい!」」」」
4人はそれぞれ、自分のテントへと入っていった。
「(……フゥ)」
さて。
皆のテントも寝静まり、静かになれば……ココからは僕独りの時間。
見張りタイムだ。
「(んんー…………)」
キャンプファイヤーの前に座り、この3日間を振り返る。
――――この冒険では、なにかと【演算魔法】に不思議なコトが起きている。
『【乗法術Ⅶ】の100倍加算』や『【確率演算Ⅳ】の不調』だ。
何が原因なんだ、一体。僕に何が起きてるんだ……?
まぁ……考えても分からないから、とりあえず今は放っておこうとは思ってるんだけど…………どうしても気になって仕方ないんだよな。
皆が寝静まった今、独りになれば尚更だ。
んんー…………。
……頭から離れない。
「(……そうだな)」
うん。
こんな時は何かで気を紛らわせるのが一番だよな。
————よし、数学の勉強だ!
「(参考書と、紙と、ペンと…………)」
勉強3点セットを取り出し、机代わりのリュックの上にセッティングすれば準備完了。
いつも通りの勉強スタイルだ。
明かりはキャンプファイヤーの炎で十分。さっき薪も足しておいたから消える心配もない。
ペラッ
「(今日の単元はー……)」
早速参考書の表紙を捲り、目次を眺める。
えーと……前回は砂漠のド真ん中で勉強した『標本調査』だったよな。一昨日の事だから、さすがの僕でも覚えてる。
という事は、標本調査の次となると……今日の単元は『累乗と平方根』だな。
……出たよ出たよ平方根。かの有名な√様だ。
理解半ばのまま高3まで来ちゃったから、ルートに関するミスがしばしば起こるんだよね……。
まぁ、この機会に是非マスターさせて頂こう。
あと、ちなみにコレが中学数学のラスト単元だ。
コレをマスターすれば、その先に待ち構える単元は高校数学。……やっと追い付ける。
「(……さて! やるか!)」
『累乗と平方根』、マスターするぞ!
●累乗と平方根
累乗とは計算方法の一つで、ある数に自身と同じ数を繰り返して乗算する方法である。
平方根とは、『2乗すると元の数が得られる』という数である。
……うん。
説明を聞いた感じ、結構難しそうな気がするけど……実は、システム的にはそう複雑なモンじゃない。
そもそもこの参考書でも何度か扱ってるし、足し算と掛け算をマスターできていれば累乗だってマスターできるハズなのだ!
それじゃあ、今回も『累乗』と『平方根』について6個のPointで見て行こう!
Point①
『掛け算、Power up』
まず、皆も何気なく使っているであろう『足し算』と『掛け算』、その2つの関係について考えてみよう。
掛け算ってのは、いわば『足し算の短縮版』だったんだよな。
『3+3+3+3+3 = 15』を『3×5 = 15』に書き換えて、簡単にする方法だった。
じゃあ……もしも『3×3×3×3×3 = 243』みたいな式があった時、コレの『短縮版』って有るのか?
————答えは、有る。
その方法とは……掛ける数字の右上に、小さく回数を書く。
つまり、『3⁵ = 243』。
コレこそが『累乗』だ。
掛け算の短縮版にして上位互換……すなわち、掛け算のパワーアップ版こそが『累乗』なのだ!
Point②
『累乗は"バカでかい"』
さて。
そんな累乗だけど、文字ばっかりの説明を聞いたところでイメージはあまり浮かばないよね。
という事で、Point②では『累乗』を図的に見てみるぞ!
まずは……加算・乗算・累乗の3つの計算方法を見比べてみよう。
例として『3を5回○○する』っていう場面で比較だ。計算結果を『口』の個数で表すから、それぞれの計算方法での個数差を見てほしい。
(i) 3を5回加算する
勿論、『口』 の数は3個と5個が合わさった8個だ。
---[3+5 = 8]--------
口口口
口口口口口
--------------------
(ii)3を5回乗算する
3行の『口』が5列並んで、合計15個だ。
『加算』より少し増えたな。
---[3×5 = 15]--------
口口口口口
口口口口口
口口口口口
--------------------
(iii)3を5回累乗する
3個ペアの『口』が3行、3列に並び、更にそのグループが3行、3列に並んで……全部で243個だ!
---[3⁵ = 243]--------
品品品品品品品品品
品品品品品品品品品
品品品品品品品品品
品品品品品品品品品
品品品品品品品品品
品品品品品品品品品
品品品品品品品品品
品品品品品品品品品
品品品品品品品品品
--------------------
……突然現れた『品の塊』にビックリした人もいるんじゃないだろうか。
3+5と3×5の差はまぁまぁだけど、3×5と3⁵じゃ差は歴然。まるで大違いなのだ!
それじゃあ……どうやってこんな『品の塊』が現れたのか、その過程を図で解説していくぞ。
まずは0乗、3⁰から。
後述するけど『どんな数でも0乗すれば1になる』っていうルールがあるので、3の0乗は1だ。
---[3⁰ = 1]--------
口
--------------------
次に、3の1乗。
コレも同様、『どんな数でも1乗はそのまま』っていうルールがあるので、3の1乗はそのままの3だ。
---[3¹ = 3]--------
品
--------------------
続いて3の2乗。上の 3¹ に3を掛けた場合だ。
2乗には別名が二つあって……自らを乗算するから『自乗』、面積を表すから『平方』とも呼ばれるぞ。
---[3² = 9]--------
品品品
--------------------
次は3の3乗。 3² に3を掛けた場合。
3乗にも別名があり、体積を表すから『立方』とも呼ばれるぞ。『立方体』のリッポーだ!
---[3³ = 27]--------
品品品
品品品
品品品
--------------------
どんどん進んで3の4乗。
3³ で出来たグループを、そのまま3倍にしたぞ。
---[3⁴ = 81]--------
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
--------------------
そして、最後に3の5乗だ。
3³ で出来たグループを3倍にして、更に3倍すると『品の塊』の出来上がりだ!
---[3⁵ = 243]--------
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
品品品 品品品 品品品
--------------------
…………こうやって、このPoint②の冒頭で紹介した『品の塊』に辿り着いたってワケだ。
それじゃあ、もう1つ例を挙げてみよう。今度は掛ける数が『2』だ。
やる事は同じなので、0乗から10乗まで一気に見ていくぞ! 口がどんどん増殖していく様子をご覧あれ!
---[2⁰ = 1]--------
口
---[2¹ = 2]--------
吅
---[2² = 4]--------
㗊
---[2³ = 8]--------
㗊㗊
---[2⁴ = 16]--------
㗊㗊
㗊㗊
---[2⁵ = 32]--------
㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊
---[2⁶ = 64]--------
㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊
---[2⁷ = 128]--------
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
---[2⁸ = 256]--------
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
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㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
---[2⁹ = 512]--------
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
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㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
---[2¹⁰ = 1024]--------
㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊㗊
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2行2列の『㗊』が2行2列になり、そのグループが2行2列になり、更にそのチームが2行2列になり、更にソレが2行2列になって…………2の10乗となった、『口』の軍勢。
その数、占めて1024個。
ココまで来ると、もはや圧巻を通り越して気持ち悪くなってくるレベルだ。
集合体恐怖症の方、ごめんなさい。
…………さて。
『累乗』を図を使ったイメージでお届けしたんだけど、どうだっただろうか。
ちょっぴりでも『へぇー、成程な』って思ってくれたら幸いだ。
それでは、次のページからはPoint③に突入するぞ。
累乗の計算方法や、ついに難敵・√様のお出ましだ!




