17-18. 事務所
『大サソリ事件』の後……僕達は、遅れた時間を取り戻すべく砂漠を進み続けた。
陽が完全に沈む直前まで移動を続け、昨日と同様にテントを張って野宿。
夕食をとり、見張りのローテーションを組んで一泊。
翌朝も、陽の出と共に片付けを始め、すぐさま移動を再開。
時折現れるブローリザードの群れを蹴散らしつつ、カースドスネークに咬まれつつ、砂漠を進み続け……————
————そして、今。
『ユークリド鉱石』依頼・3日目、午前11:52。
陽も頭上に昇り、正午が近づいてきた頃。
ついに……その時は来た。
「……あっ、アレは?」
シンの掌の上に置かれた魔導コンパス。
その赤針が指し示す先に、現れたのは。
「何だありゃ……柵?」
「……そうみたいね」
広大な砂漠の中、何かを囲むかのように立てられた柵。
針金を網々に編んだ柵が、左右にズラリと並んでいた。
「という事は……」
————こんなダダッ広い砂漠の中に突如現れた、明らかな人工物。
それを見た僕達は……もう、確信した。
「……間違い無い」
あの柵の中に在るモノ、それこそが……僕達の『目的地』だ。
「行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
そう察すると同時、早歩きだった足のペースが自然と駆け足になる。
……採掘依頼の義務感というよりは、どちらかといえば『好奇心』。
未知へのワクワク感に惹きつけられるように、柵へと身体が吸い寄せられる。
カシャンッ
「…………」
あっという間に柵の下まで到着。
頑丈な金網に手をかけ、ギリギリまで顔を近づけて中を眺めると。
そこに、広がっていたのは————
「「「「「おおぉ……!!」」」」」
「でっ、デケえ……」
————ソレはまるで、息を呑むほどに巨大なアリジゴクの巣。
サッカーのスタジアムもスッポリ入りそうな位の、巨大なすり鉢状の窪みが……ポッカリと口を開いていた。
窪みの斜面には、底へとグルグル下る道路が敷いてあり……その道沿いには、真っ暗な地下の世界へと誘う無数のトンネル————坑口。
それと……すり鉢の中腹に所々、ポツポツと建てられた————ボロボロの建物。
その見た目は、明らかに————廃坑。
「……やっと着いた」
フーリエの街を出てから、3日目。
ようやく、辿り着いた。
「ココが……旧フーリエ鉱床地帯だ!!」
という事で。
「ココで眺めてても始まらないし……とりあえず入ろうか」
少しばかり、圧巻の光景に見とれた後……僕達は早速、鉱床地帯に入ることした。
「ですが、この柵……どうやって越えましょうか?」
「そうね……近くにゲートも見えないし」
「乗り越えちまおうぜ? もういっその事」
「アリだな。この高さなら……僕でもギリ乗り越えられそうだし」
「ですけど……なんだか気まずくないですか? まるで盗賊やってるみたいで」
「心配いらねえってシン! 廃坑なんだし誰も見てねえって」
「そうそう。わたし達には時間も無いんだし、ね?」
「……そうですか――――
「ねーみんなー! ココ、穴空いてるよー!」
いつの間にか居なくなったコースが、遠くで足元を指差して叫ぶ。
その指の先には……金網が破れ、人ひとり通れるくらいの穴が出来ていた。
「おぉ! やるなコース!」
という事で、僕達はその穴を潜って旧フーリエ鉱床地帯に侵入することにした。
「……結局、盗賊みたいな入り方をしてしまいました……」
そうブツブツ言いつつも、なんだかんだ穴を抜けて侵入するシン。
……シンの強い正義感も分かるけど、僕達には時間が無いのです。今回は犠牲になってもらった。
「もしかしたらー……ホンモノの盗賊とかいたりしてねー!」
「ハハハッ、有り得るな!」
「ちょちょっ、怖い事言わないで下さいよ! コースもダンも!」
まぁ……もし盗賊に出くわしても、僕達なら負けないと思うけどね。
そんな事を言いつつ、無事に僕達は柵を抜け……すり鉢の中に足を踏み入れ。
「まずは情報収集だな。鉱床地帯の地図とかが有ればなー……」
「それなら、どこかの建物にあるかもしれませんね」
という事で……シンの言う通り、近くにあった斜面の建物に入ってみる事にした。
「この建物……割とキレイだな」
斜面に建てられた建物の中では、コレが一番健在めな建物だ。
壁には多少のヒビが入ってるものの……穴は空いてないようだし、窓ガラスも割れていない。
……こう言っちゃなんだけど、ブッ壊された僕達の借家よりも余程マシだった。
その正面に回り、玄関の扉を見れば……『フーリエ鉱床地帯 管理事務所』の看板が。
『旧』っていう字が付いていない辺りに、鉱床が現役時代だった頃の歴史を感じる。
「事務所だったんだな。この建物」
「という事は……それこそ、先生の仰ってた『地図』とかも有りそうですね」
確かに。
それじゃあ……なおさら、建物の中にお邪魔してみるしかないな。
「それじゃあ開けんぞ、皆…………」
そう言い、ダンが扉のドアノブに手を掛けると。
ガチャッ……
「……開きましたね」
「……鍵は掛かってなかったみてえだな」
すんなりと開く、旧事務所の扉。
「邪魔すんぞー……」
恐る恐る扉を開き、盾を構えたダンが隙間から中の様子を窺う。
その後ろから僕達4人も顔を出し、中を窺う。
「…………誰も居なさそうだな」
「居たら怖いです」
「……盗賊いないみたいだねー。ザンネン」
「残念じゃないです」
3人の茶番はともかく……建物の中は、荒らされた形跡も生活痕も無い。
まだ鉱床が現役だった頃の状態のまま、時が止まったようだった。
……それじゃあ。
「「「「「お邪魔しまーす……」」」」」
という事で、僕達は旧事務所の中に潜入した。
旧事務所の玄関を入ってすぐに広がるのは、まるで学校の職員室みたいな感じの事務室。
沢山の机と椅子が並び、壁際には沢山の本が並べられた本棚が立てられている。
スイッチを押しても照明は点かなかったけど……窓から陽の光が入ってくるから暗くはない。物色には十分な明るさだ。
「ケホッケホッ、すっごいホコリっぽーい……」
「床もジャリジャリしてますね……」
けど……本棚も椅子も机も、靴箱も床も分厚いホコリと砂まみれ。
盗賊には荒らされずとも、時間の経過には逆らえなかったみたいだな。
…………そんな感じで、旧事務所内を物色していると。
「おい先生! 『資料棚』なんてモンが有るぞ!」
「鉱床地帯の地図、発見しました!」
「ケースケ、こっちには『倉庫』も有るわ!」
「なんか面白そーなモン見っけたよ!」
「おぅ!」
棚から分厚い本を取り出す、ダン。
新聞紙みたいに大きな紙を広げる、シン。
部屋の奥にある扉の前に立つ、アーク。
机の中を勝手に漁り、何かを取り出すコース。
事務室の至る所から、色々なモノがどんどん見つかったみたいだ。
それじゃあ……情報収集といきますか。




