3-10. 弱体化
休憩を挟んでからも、魔物はちょくちょくやって来てくれた。
やはり、血の池が大きくなればなる程魔物が襲って来るペースは速まるようだ。
あ、それとスキルレベルがアップした【加法術II】だが、最大20まで加算できた。
試しに『【加法術II】・DEF20』を発動した所、僕のDEFはなんと34まで上昇した。
この数字は一人前の冒険者にしては高く、中堅冒険者といった辺りのステータスである。
試しにチキンの嘴突きを受けてみたんだが、殆ど痛くなかった。HPも3くらいしか減っていなかった。はっきり言ってオーバースペックだ。
……うわ、改めて思ったが【演算魔法】凄ぇな。
まだ冒険者2日目という人間には釣り合わない高さのステータスをもたらしてくれる。
【加法術I】なら最大ステータス加算は10だった。
【加法術II】なら最大ステータス加算は20だ。
と言う事は、【加法術Ⅲ】なら30、って感じで【加法術Ⅹ】なら100も足せる!
これは期待できるな。一介の数学者がベテランの冒険者に並ぶ強さを手に入れられるかもしれない。
そうなれば金にも困らなくなるだろう。
……そう思った時もあった。しかし消費MPを考えると、40以上のステータス加算は使えないのだ。
僕の最大MPは40であり、この先増える見込みがあまりない。
【加法術Ⅳ】を手に入れても、最大のステータス加算40を使った途端にぶっ倒れるとかシャレにならないぞ。
まぁ、アレだな。スキルレベルのアップは日常生活で大きな数字の暗算も楽々になるってことにしておけば良いな。
そーんな事を考えつつディグラットの入った穴をグルグル回る。
最早作業プレイと化してしまっているな。
……あ、出て来た。
すかさず首元をナイフで狙う。
そして赤いスプラッシュと共にディグラットは足下に広がる血の池に頭を沈めた。
…ふぅ。これで今日11匹目。
そして暫しの休息。
しっかし、そういえば【減法術I】って全く使わないな。
いや、勿論日常生活には使えるんだけれどさ。
なんか折角手に入れた【演算魔法】なのに戦闘に使えないってのが勿体なく感じてしまうんだよねー……。
自分には使えないからなー。
あ、いや自分自身のステータスに対して発動不可な訳ではなく、使う事は出来る。
けれど使った所で自分の弱体化にしかならないからな。自分が弱くなってしまっては意味が無い。
弱体化……、弱体化かぁ。
じゃあ自分じゃなく、相手を弱体化させられれば良いな。
相手のステータスを【減法術I】で引き算出来ればいいのか。
……なんだか疲れた脳みそが作り出した単なる思いつきではあるのだが、意外とナイスアイデアじゃないか。
相手のステータスプレートを見ることさえ出来れば、【減法術I】で引き算出来るな。
え、これアリじゃん。ちょっとやってみよう。
ふと気付けば、プレーリーチキンが遠くからこちらへとやって来る。
コイツに弱体化の実験台となってもらおう。
って思ったんだが。
ここでまた壁が立ちはだかる。
どうやって相手のステータスプレートを表示させようか……。
いや、一応アイデアはある。
異世界モノのテンプレスキル、『鑑定』だ。
大体の転生・転移・召喚モノにはこれが付いてるよな。
よし。今や僕も召喚された身。
地球からこちらの世界へと喚び出された勇者だ。
僕もきっと持ってる筈だ。そう願いつつ、近づいて来たプレーリーチキンに向かって叫んだ。
「鑑定っ!」
はい、そう上手くはいかないようですね。
結構な大声を出した割に、何にも起こらなかった。
周りにはチキンを除いて誰も居ないとはいえ、ちょっと恥ずかしい。
よし、こういう時は適当に魔法名の改造作戦だ。
『【加法術I】・DEF10』と同じような感じで、それっぽい名前を唱えれば割といけるかもしれない。
そーんな訳で、何と唱えるか軽く考えた後、その辺を当てもなく歩き回るチキンに向かって再び叫んだ。
「オープン・エネミー・ステータスッ!」
名前は適当だ。『エネミー』、つまり敵ってのを挟んだだけのお粗末様な安直ネームだ。
普段から使ってる『オープン・ステータス』なら、チキンのステータスプレートを開くようなイメージもしやすいかなって思って———
ピッ
「え?」
どこからともなく発生する軽い電子音。
そして僕の目の前にはステータスプレートが現れた。
===Status========
プレーリーチキン 0歳 雄 Lv.2
状態:普通
HP 12/12
MP 7/7
ATK 28
DEF 17
INT 6
MND 12
=============
はぁ……マジですか。
ステータスプレート、開けちゃった。
いや、開くためにやってたんだけど、まさか本当に開けるとは思ってもいなかった。
あんな安直な呼び方だったが、多分、相手のステータスを開くっていう『イメージ』が大切なんだよなきっと。
そんな事を考えていると、新たに横長なメッセージウィンドウが現れた。
ピッ
===========
アクティブスキル【解析】を習得しました
===========
どうやらこのスキルは『鑑定』ではないようだが、同じような効果なのだろう。
しかし、解析と書いてアナライズと読むのか。なんかカッコいい。
名前からして如何にも数学者らしいスキルだ。
……意外と『オープン・エネミー・ステータス」は気に入ったんだが、【解析】の方が数学者っぽいのでまぁ良しとしよう。
という訳で、僕の目の前にはプレーリーチキンの ステータスプレートがある。
さて、じゃあまずはATKを減らしてみますか。これが成功すれば、嘴突きがノーダメージになるかもな。
アレだ。デバフってやつだ。
まぁ、早速やってみよう。
チキンのステータスプレートに表示されたATKに指をかざし、計算式を頭の中で立てつつ呟く。
「【減法術I】・ATK10」
呟いたのと同時に、全身に倦怠感を感じ、ATKの数字がノイズに隠れる。
そして数秒後であろうか。
ノイズが晴れ、チキンのステータスプレートはこうなっていた。
===Status========
プレーリーチキン 0歳 雄 Lv.2
状態:普通
HP 12/12
MP 7/7
ATK 18
DEF 17
INT 6
MND 12
=============
「よし!」
ATKが10減った。
よっしゃあ、大成功だ!




