17-14. 虫食い
ペラッ
「(さてさてー……)」
解説を読み終えた僕は、紙とペンを手繰り寄せつつページを捲る。
次の見開きで僕を待ち構えるモノといえば……勿論、毎回恒例・お待ちかねのアレだ!
「(練習問題だ!)」
今回もA問題10問、それとB問題10問の計20問構成。いつもと同じです。
パッと見たところ……A問題は、それぞれの問題文に『標本調査か全数調査か』の2択で答える問題。どっちが適してるかを答えれば良いんだな。
続くB問題は……さっき見たハンガーの例みたく、実際に標本調査で総数や平均を予測する問題。
中々やり甲斐がありそうな練習問題だ。
それと……————
「(……例の予感ッ!)」
そう。今回も左手人差し指に『いつもの感覚』が来てるのだ!
…………コレは新魔法が来るぞ……!
「(さて…………どうしようかな)」
それが分かると、『新魔法』の扱いに少し迷う。
……練習問題をやってからのお楽しみにするか? その方が良いモチベーションになるぞ。
……いやいや、それとも練習問題を解く前に習得しちゃうか? ご褒美は先払いの方がかえってやる気が出るかもしれない。
「(うーん…………)」
ご褒美に取っておくか。
先払いにするか。
究極の選択。
さぁ、どっちにしようかー……————
「(やっぱコッチだ!)」
少し考えた結果————僕は、人差し指をA問題の(1)にピトッと触れた!
やっぱりお楽しみは先だな!
「(さあ来い…………)」
いつもの事だけど、強い魔法大歓迎。チート上等、なんでもゴザレだ。
そんな事を考えつつ……ためらう事なく、指先から魔力を流した!
「(魔力……注入ッ!)」
ピッ
===========
アクティブスキル【乱数Ⅰ】を習得しました
===========
「(おぉ!!)」
目の前に現れた青透明のメッセージウィンドウに、思わず感嘆の声を上げる。
「(【乱数Ⅰ】……!)」
魔法の名前を独り呟いてみる。
ランダム……。ランダム………………うん。言葉の響きがカッコいいし、コレは良さそうだ!
それじゃあ、能力も早速確認させて貰おうか!
「(えーっと……ランダムランダムーっと…………)」
もうお気に入りになりつつある名前を口ずさみつつ、ピッピッピッとステータスプレートを操作し……【演算魔法】リストの中から【乱数Ⅰ】を探す。
「(…………あったあった)」
…………さて。一体、どんな魔法なんだろうか?
名前の通り、何か『ランダム』関係なのかな?
そんな期待に胸を躍らせつつ……一覧の中にある【乱数Ⅰ】の文字に触れた。
ピッ
===【乱数Ⅰ】========
選択行為時において、魔力を消費して自身や他者に依らない無作為抽出ができる。
※【状態操作Ⅲ】との併用による効果
任意の事象を無作為状態にさせることが出来る。
但し、作為性の非常に高い場合等では、これを著しく妨げられる事がある。
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「(成程)」
うん。魔法名にそのまま倣った感じの能力だ。
……ぶっちゃけ、想像の域を大きく超えるような事は無かったかな。
だけど、コレはコレで十分!
新たな【演算魔法】の一員として、きっとコイツも僕達の力になってくれるだろう!
「(【乱数Ⅰ】、これからよろしくな!)」
…………って事で。
コレで新魔法の習得はお終い。
「(となると……ココからは練習問題だな)」
『ご褒美の先払い』の約束通り、ちゃんと練習問題もやらなきゃ。
コースとの見張り交代まであと1時間あるし、20問くらいなら余裕で解き切れるだろう。
「(さて……いっちょ頑張りますか!)」
新魔法ゲットの『やる気ブースト』に背中を押されながらペンを持ち……真っ暗な砂漠の中、僕は練習問題Aの(1)へと取り掛かった。
――――この新たな【演算魔法】……【乱数Ⅰ】が、とある『事態』を引き起こすとも知らずに。
『ユークリド鉱石』依頼・2日目。
午前10:00。
あの後、僕達は陽が昇ると同時に起床。
ササッと朝食をとり、野宿の片付けを済ませて出発。
アークが持つ魔道コンパスの赤針を頼りに、旧フーリエ鉱床地帯へと進んでいた。
「…………ねーねー先生?」
「ん?」
出発して2時間ぐらい歩いた所で、ふとコースが声を掛けてくる。
「なんかあったのー?」
「なんかって……何が?」
「なんか今日の先生のキゲン、スゴくいーから」
「あー……」
マジか。
特に感情を表に出してた訳でもなかったんだけど。
「その反応、何か良い事でもあったのね? ケースケ」
「まぁな、アーク。……実は昨日、新しい魔法をゲットして」
「「「おぉー!」」」
そう言うなり、目を輝かせるコース、ダン、アークの3人。
「またですか……」
……シンにはいつも通り呆れられてしまった。
「…………ちなみに聞きますが、今回はどんな魔法だったんですか?」
そのクセして尋ねてくるシン。
「……なんだよ。呆れたような表情しときながら、なんだかんだシンも気になってるじゃんか」
「いえ違います。自軍の戦力を把握するためですから」
頑なに即刻否定されてしまった。
……まぁ、それならそれで別に良いけどさ。
「分かった分かった。…………で、新しい【演算魔法】の話だよな?」
「そーそー!」
「どんな魔法だったんだよ、先生?!」
「おぅ」
話を戻し、喰い付きの強いコースとダンに新魔法を紹介だ。
…………さぁ、彼らはどんな反応をするかな。
「それは…………名前を【乱数Ⅰ】。色々なモノを『無作為状態』にすることが出来る魔法、なんだってさ」
「「「「へぇー…………」」」」
……あれ?
反応がイマイチ悪い。
「ねーねーダン、ムサクイってなにー?」
「んー……俺も聞いた事ねえな。穴の空いた葉っぱとかじゃねえのか?」
「それは虫食いです」
「じゃあムサクイって何だよ、シン?」
「……実は私も知りません…………」
あぁ、成程。
3人とも『無作為』を知らなかったのか。だから反応が微妙だったワケだ。
「ケースケ、無作為は『ランダム』って意味よね?」
「そうそう」
……さすがは元領主のご令嬢様。アークは知ってたみたいだ。
「ほぉー。ランダムッつー意味だったのか」
「知らなかったー」
「勉強になります」
「……で、その【乱数Ⅰ】ってどんなことが出来る魔法なの?」
「えっ、えーと…………」
そっ、それを聞かれちゃ……困るんだよな。
「実は僕にも分からないんだよねー」
「「「「なっ!?」」」」
もう、開き直ってそう言うしか無かった。
「用途不明魔法じゃねえか!」
「使えなーい!」
「呆れるほどチート揃いの【演算魔法】にしては珍しいですね」
「ケースケにも分からないんじゃ、もうどうしようもない……のかな?」
散々に言われてしまった。
「しょうがないじゃんかッ! 僕だって使う機会が思いつかないんだもん!」
「……となりゃ、先生。折角の新魔法だが……もうお蔵入りじゃねえのか?」
お蔵入り、ねぇ……。
確かに、超チート級な魔法がズラリズラリと並んでる【演算魔法】だもんな。そんな中に残念魔法の1つや2つ転がっててもおかしくないし、そうなっても仕方ないか。
「……けどまぁ、要は試しだ。とりあえず試用期間って事にしよう」
……本格的にお蔵にするかどうかは、まず使い勝手を見てからだな。
そう言うと、皆も頷いた。
「はい。そうですね」
「何か良い用途が見つかりゃ良いな、先生」
「ええ。わたしもそう思う————
————その時。
ザバァァァッ!!
突如……眼の前の砂漠が、コンモリと盛り上がり。
砂の中から……巨大な紫色の鋏脚が姿を現すと。
「「「「「……なッ!?」」」」」
巨大な鋏脚は、反応が遅れた僕達へと突き出され————
「うっ、うそ————
大きく開いた2本の爪が————棒立ちのアークを、襲った。
「「「「アークゥゥゥ!!!」」」」




