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17-12. 標本調査Ⅰ

『ユークリド鉱石』依頼・日付が変わって2日目。

皆も寝静まった、深夜の2:30。




「(……じゃあ、あと頼んだぞ。先生)」

「(おぅ。ダンお疲れ様、おやすみ)」

「(おやすみ)」


そう言い、焚き火と魔物の見張りを僕に引き継いだダンはテントの中へと収まる。


モゾモゾ動く音がテントの中から鳴り止むと…………辺りは、焚き火がパチパチ言うだけの静かで真っ暗な砂漠。

満天の星の下、僕独りになった。






「(…………フゥ)」


はい。

今僕が何をやっているかといえば、テント野宿の恒例行事『見張り番』だ。

冒険者たるもの、依頼遂行中ならば夜だって気は抜けないからな。1人1時間半のローテーションで5人交代制だ。




「(……さて)」


ダンも眠りについた所で一息つく。

……まずは、周囲の魔物の有無を確認しとこう。




「(…… Ð(ディスクリミナント))」


周囲の『魔物の数』を判別し…………頭に浮かぶカウント結果は『0』。

オッケー。この辺りに魔物は居ない。



「(……【見取Ⅱ】(スケッチ))」


ついでに透視魔法も発動しておく。

コレなら地中から襲って来るリザードやスネークだって文字通り『丸見え』だもんな。対策は万全だ。




パチッ……パチパチ…………

「(……あ、そうだ。薪も足しとかなきゃ)」


そうそう。焚き火の管理も見張り番の仕事。

再着火はアークが寝てるから出来ないし、火を絶やさないように気をつけなきゃ。



「(……ほっ)」

カランッ

カランッ


薪をくべ、弱まってた火の勢いを回復する。



「(ハァ…………暖かい)」


そして少しホッコリする。

……とりあえず、コレで焚き火も暫くは大丈夫だろう。






「(よし。確認オッケー、っと)」


周囲に魔物も居ない。焚き火もオッケー。

あとは、交代の時刻まで起きていれば良いだけだ。



となると…………ココからが暇な時間なんだよねー。

2:30から4:00の1時間半、果たして何をしようか?


焚き火を眺めててもすぐ飽きるし、星を眺めるのも多分すぐ飽きるし……————




「(……アレ、やるか)」


そうだな。

いつも通り、『数学の勉強』でもやりますか。












「(……さて)」


そうと決まれば、準備は早い。

いつもの勉強3点セットを取り出し、リュックを机代わりにしてセッティングすれば準備完了。

灯りは焚き火の炎で十分だ。



「(えーと……どこまでやったっけなー……)」


参考書の目次を開き、今回の単元を確認する。



前回は……そうそう、『図形(中学)』だな。

もう散々お世話になっている【見取Ⅱ】(スケッチ)【相似Ⅱ】(シミラリティ)を習得した所だ。


となると、次は……————






「……標本調査(ヒョーホンチョーサ)………………?」




……何この難読単元。

ダメだ。もう自信を失った。



いやいやいや…………名前からしてもう、アカラサマに難しいじゃんか。

『関数』とか『方程式』とか、そういうワードが入ってればまだしも……『ヒョーホンチョーサ』じゃ内容のイメージが全く入ってこない。

単元名がまるで要塞だ。要塞単元だ。




「(……けど)」


まぁ……コレを克服しなきゃ、いつまで経っても僕の数学は中学止まりだ。

そんな甘えた事、数Ⅲを学ぶ人間が言ってらんない。




「(…………よし! やるか!)」


……覚悟は決まった。

自分自身に喝を入れ、要塞『標本調査』のページへと飛んだ。
















●標本調査

標本調査とは、多数のデータを取り扱う際において、抜き取った一部のデータから全部のデータの傾向を予測する方法である。

対となるものは、データ全てを用いて傾向を調べる『全数調査』である。




……ダメだ。

正に要塞、理解する入口が見当たらない。


データデータうるさいし、一部だの全部だの訳分からないし、そもそも数学に『予測』なんて曖昧な概念が有って良いのか?

極め付けには新キャラの『ゼンスーチョーサ』まで登場する始末。


どこから手を付けりゃ良いんだか。もう謎だ謎。




……って思ったんだけど、『参考書』はこの単元でも6個のPointでしっかり説明してくれるみたいです。


それでは……標本調査、勉強していこう。











Point①

『この世には2種類の"調査"がある!』



まず、『調査とはなんぞや?』って所から考えていこう。


調査とは『ある物事について詳しく知るために調べること』という意味だ。

皆もご存知の通り、この世界には沢山の『調査』で溢れている。



では…………あなたは『調査』と言われて、どんなモノをイメージするだろうか。

何か1つ、頭の中で思い浮かべてほしい。






王道といえば、お店によく置いてある『アンケート調()()』だろうか。『アンケートにご協力ください』って書かれた紙がよく置いてあるよな。


それとも、テレビでよく見る都会での街頭調()()

進学が近づいた時に全員に配られる、進路調()()

選挙日の夜、テレビでよく見る出口調()()


あとは世論や政党支持率を測る電話調()()や、学生ならば調()()書とかも挙がるだろう。


その他にも、色々な『調査』があると思う。



まぁ……こんな感じで、調査ってのは『様々な物を調べる』ために『様々な方法』で日々沢山行われている物なのだ。






————では、ココで問題!



今挙がった6個の調査、


『商品のアンケート調査』『テレビの街頭調査』

『進路希望調査』『選挙の出口調査』

『世論の電話調査』『調査書』


コレらをA・Bの2つのグループに分けると、次の表のようになります。

さて、このグループ分けはどんなルールで行われたでしょうか? ちょっと難しいけど、考えてみよう。



  A  │  B

─────┼─────

 進路調査│アンケート調査

  調査書│街頭調査

     │出口調査

     │電話調査






※ただし、『学校に関する物がA』とか『テレビ関係がB』といった答えは不可とします。

それ以外で答えてね!











……分かったかな?


それでは、答えだ。











Point②

『"標本調査(サンプル)"と"全数調査(コンプリート)"』



先程の問題の答え……それは、『全員か全員じゃないか』だ。

全員ならA、全員じゃないならBになっているぞ。


……って言っても意味分からないよね。

という事で詳しく解説しよう。




さっきの問題で注目すべきポイントは、『全員が調査されたかどうか』って所。


例えば、『都会での街頭調査』。とある駅前でテレビが街頭調査をやる時には、必ずしも駅前を通る人々全員に声を掛ける訳じゃないよね。この時には『調査された人』も『調査されなかった人』も居るハズだ。

『世論の電話調査』でも、日本国民全員に調査の電話が掛かってくる……なんて事は無いよね。『電話が掛かってきた人』と『掛かってこなかった人』が居るハズ。


……じゃあ、反対に『調査書』はと言うと…………コレは、生徒がもれなく皆受け取るハズだ。全員が『受け取る人』で、『受け取らない人』は0人。

『進路希望調査』も全員が調査されるハズ。「君だけは進路希望調査、免除ね」なんて例外はまず無いと思う。




————そう。

つまり、さっきの問題は『全員が調()()()()()』ならA、『必ずしも全員が調査された()()()()()』ならBに入る。


簡単に言い換えれば……『全員アンケートならA』、『一部アンケートならB』。

コレが答えだ。






そして…………コレこそが2種類の『調査』の違いにして、今回の要塞単元のキモ。



もれなく全員コンプリートしたアンケート結果が、『全数調査』(A)

英語にすれば Complete(コンプリート) survey(サーベイ)


対して、一部のサンプルだけのアンケートが『標本調査』(B)。英語にすれば Sample(サンプル) survey(サーベイ)




ぜひ、覚えておこう。
















それじゃあ、次はPoint③だ!

標本調査と全数調査を実際に使っていくぞ!

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