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17-7. 柵

という事で。




「……んじゃ、そろそろお祭りに戻りますか」

「そうだな。俺もまだまだ見足りねぇし」

「わたしも」


罰ゲームという名の勉強会を終えた僕達は、疲れもそこそこ取れたところでお祭り巡りを再開。


空のポテトの入れ物を回収してテーブルを去り、混雑のピークも過ぎたお昼前の人混みに合流した。




「さーて……次はドコに行こうか」


人混みの流れに乗ったは良いけど、僕達には用事もアテも無い。

……まぁ、このまま流れに流されて復興祭をブラブラするのも悪くないか————




「……おい、計介。アークさん」


そんな事を思ってた矢先、アキに呼ばれる。

……なんだろう?



「ん?」

「……もし行く所が特に無ぇんなら、ちょっと俺の用事に付き合ってくんねぇか?」

「おぅ。良いけど」

「もちろん、わたしも」


時間はたっぷり有るし、全然構わないよ。

……そもそもアキのお願いなら断れるハズが無いじゃんか。



「アキさん、何か用事でも有ったの?」

「あぁ、えーと……用事ッつーよりは完全に俺の私用なんだけど」

「良いよ良いよ全然。で、どんな内容なんだ?」

「それはー…………ちょっと鮪を仕入れようと思ってな」

「「成程(なるほど)!」」


おぉ、マグロか!

良いね良いねー!



「もしかしてアキ、1尾丸ごと行っちゃう?」

「んな訳ねぇだろ計介。お目当ては柵だ柵、鮪の刺身ブロックみてぇな奴だ」


……やっぱそうですよね。



「王都への土産に、デケぇ鮪を沢山買って帰ろうと思ってな。そうすりゃアッチでもしばらく海の幸を堪能できんだろ?」


確かに。

王都でも生魚は手に入るけど、アッチで買うと輸送費のお陰でかなり割高だもんな。



「あと、世話になってる商会の先輩方に土産ついでで振舞っても良い。休日に神谷達を誘って寿司でも振る舞ってやれば、日々訓練でボロボロの奴らも元気づけられる、っと思ってな」

「「おぉ!」」


なんという心遣いだ……。

流石はうちのアキさん、本当もう『お優しい』の一言に尽きるよ————




「……計介お前、今変な事考えたろ」

「えっ」


……なんでバレた?



「い、いや別に……何も?」

「どうせ『うちのアキさんだ』とかだろ?」

「ななっ……なんで分かったんだよ」

「目を見りゃ分かるわ。計介お前、俺が何年一緒に居ると思ってんだ」

「……はい」



……さっ、流石はうちのアキさんだ。

彼にはもう、僕の挙動が手に取るよう分かってるのかもしれない————



「だからソレやめろ」

「…………はい」











ってな訳で。


目的が決まった僕達3人は、マグロを探して復興祭をグルグル。

屋台に並ぶマグロ柵の質や大きさ・価格を吟味するアキと一緒にお昼の時間帯を過ごしたのでした。




……そして、段々と人も減って混雑も一段落したころ。

昼過ぎ、13:49。




「どうだアキ。良いトコ有ったか?」

「そうだなー……まぁ、やっぱ最初の屋台だわ」

「おぅ」


やっぱりそうか。

僕達がいつもマグロを仕入れている屋台。僕とアークでオススメした所だ。



「じゃあ、例の屋台に戻ってお買い物だな」

「あぁ。…………ところでだ、計介」

「ん?」

「ちょっとお願いが有るんだけど……良いか?」


……アキにしては珍しい。

基本何でも1人でこなしちゃうアキから2個もお願いを受けるなんて。



「勿論。何々?」

「突然の休暇だったから金持ち合わせてなくてよぉ。金貸してくれ」

「あぁ良いよ。幾ら?」


リュックから財布を取り出す。



「そうだな、銀貨50…………いや、金貨1枚なんて大金……持ってたりしねぇよな?」

「持ってるよ」


恐る恐る尋ねるアキに即答。



「……マジ?」

「持ってる持ってる。……はいコレ」


財布から金貨を1枚取り出し、アキに手渡す。



「こんな大金をアッサリ…………良いのかよ本当に?」

「大丈夫大丈夫」


僕だってそれなりに稼いでるから貸す余裕は有るし、相手がアキなら踏み倒される心配も無い。

踏み倒されたとしてもアキが相手なら構わない。



「……そうか」


それに……今の所持金は金貨2枚強しか無いけど、屋敷の部屋に戻れば金庫に十数枚残っている。

ブローリザードのお陰で資金は潤沢なのだ。




「……いつの間にそんな金持ちになってやがった」

「ハッハッハ。まぁね」


流石のアキでも、僕の持ち金合計にはビックリしたみたいだ。




「……一時は『宿賃すらギリギリ』とかほざくニートだったクセに」


……バカにされた。



「数学者舐めんな。僕だってやる時はやるんだよ」

「あぁあぁ、そうでしたね。血に塗れし狂科学者ブラッディ・マッドサイエンティストさんよぉ」

「なっ」


……またバカにされた。



「そんな事言うんだったら返してもらおうかなー」

「済まんかった済まんかった、計介」


両手を合わせて頭を下げるアキ。

……マグロのためなのか、久し振りにアキの真面目な謝罪を見てしまった。



「冗談だよ冗談。遠慮なく借りちゃって下さい」

「……分かった。サンキュー計介、今度絶対(ぜってぇ)返すぜ」

「おぅ」











その後……現金を手に入れたアキは、水を得た魚のごとく屋台でマグロを爆買いを開始。

屋台の品物を買い占める勢いでマグロの柵を手に入れていったのでした。


『爆買い』って単語、テレビではよく聞いてたけど……生まれて初めてナマの爆買いを見てしまった気がする。

一瞬のうちに大量の金とマグロが行き来するのを間近で見て、『コレが爆買いってヤツなのか……』と実感していました。




……そして、今。

復興祭の14:30。


僕達3人は大量のマグロを持ったまま復興祭を出て、近くに停めてあるディバイズ商会の馬車に到着した。




ドサッ

「うおぉぉ……死ぬ程買ったぜ…………」

「おっ、重かった…………」


馬車の荷台にマグロの入った袋を下ろし、そのまま座り込む僕とアキ。


……なにせ僕もアキも非戦闘職。タカが知れてる程のステータスじゃ、大量のマグロ運びも一苦労だ。



「だから『わたし持つよ』って言ったのに……」

「「いやいやいや」」

「気持ちはありがてぇけど、レディに荷物持ちなんて男が廃るぜ。アークさん」


そんなアークは、マグロを持ってもスイスイ歩いていたのでした。

……火系統魔術師とはいえど、彼女は魔法戦士。日頃から槍を振ってるだけの事はあったみたいだ。


クーッ、羨ましいよ戦闘職……。






とまぁ、そんな事は置いといて。



「済まねぇな、計介、アークさん。2人にも鮪運ばせちまって」

「おぅ」

「いえいえ。気にしないで」


よいしょよいしょとアークも荷台にマグロを並べ終えると、荷台の上はマグロの袋だらけに。



「……ところで、アキさん」

「ん?」

「こんな沢山のマグロ、どうやって王都まで持ってくの? このままじゃ王都まで保たないと思うけど……」

「……確かに。途中で悪くなっちゃうだろ」


見たところ馬車にはクーラーボックスみたいなのは置いてないし、冷蔵庫も冷凍庫も勿論無い。

いくら速達馬車でも、王都への道中でダメになっちゃうぞ————






それを聞いたアキは、ニヤッと笑うと。



「あぁ。確かに、()()()()だったらな」


心配そうな僕とアークを見ると、後ろに振り返り。




「だが、俺だってそこは対策済みだ」

「「対策済み……?」

「おぅ」


そう言って、背後から『あるモノ』を取り出した!






「テッテレー!キャリーケースー!!!」

「「なッ!」」



おおっ、コレは!!


「アレか! アキの重要物(キーアイテム)!」

「おぅ。日本から持ってきた、旅の必需品セットだ」


そういやそんなモンも有ったな!

完全に忘れてたよ。




……ん?

だけど、さ……。



「ちなみにそのキャリーケース、保冷機能有るの?」

「無ぇ」

「じゃあ結局腐っておしまいじゃない?」

「問題無ぇよ」

「……ってかそもそも、この大きさじゃせいぜいマグロ3個で限界じゃんか。この20袋弱のマグロに対してキャパ足りなくない?」

「そこも問題無ぇよ」


……えっ、じゃあどういう事なんだ――――






「……見せてやんよ。このキャリーケースの力をなぁ!」


すると……中々信じない僕を前に、アキは徐にキャリーケースを開き始めた。




…………えっ。まさか、この流れって……。


「中身がブラックホール……とか?」

「違ぇよ」



そう言いながら開かれたキャリーケースは…………空っぽだった。

……着替えとかも何も入ってないみたいだ。




「……あれ、着替えとか持って来てないの?」

「まぁまぁ。とりあえず見とけ」

「……うす」



アキに言われた通り、とりあえず黙って見てると……アキは近くにあったマグロ入りの袋を2個、持ち上げ。



「……いよっと」


空っぽのキャリーケースの中に、そのまま入れ。




「じゃあ、見とけ」

「「はい…………」」


そう言い、パカッと開いていた蓋を閉じた。

そして開いた。




すると、そこには————






「なっ!?」

「えぇっ!?」


キャリーケースの中は、再び空っぽに。

……マグロ2個が、どういう訳か一瞬にして消えて無くなってしまった。




「……どうして!?」

「まさか突然のマジック!?」

「違ぇわ」


そう言いながらも、僕とアークの反応に満足したようで……アキの種明かしが始まった。




「実はこのキャリーケース……寸法的に収まるモンなら何でも、幾らでも、時間停止状態で入れられるみてぇでな。その挙句、いつでも取り出せる。————いわば『アイテムボックス』になっちまった」

「「えええぇぇぇぇ!!!」」


……マジかよ!

良いなー、アイテムボックス!!




「で、こう閉じて開きゃ……取り出せるぜ」


そう言いながら、もう一度キャリーケースの蓋をパカパカと閉じて開くと……そこには無くなったハズのマグロが復活。

ついでに水色のパジャマも復活していた。




「凄っ!!」

「どうだ、羨ましいか? 計介?」

「羨ましい!!!」

「欲しいか?」

「欲しい!!」

「やらねーよ」

「クソッ!」


くぅぅぅ、バカにしやがって……!






「でも、そういえばケースケも持ってるよね? 似たやつ」

「……あぁ、アレか」


確かに。

言われてみれば、そんな魔法が有ったなぁ。




「えっ、嘘だろ!? マジで!?」

「そうそう、【因数分解Ⅲ】ファクタライゼーションって言ってな。『複数個を1個に纏める』って能力だ」


まぁ……完全なる"アイテムボックス"のキャリーケースに比べたら【因数分解Ⅲ】ファクタライゼーションなんて下位互換だけど。




「止めてくれ。俺のキャリーケースが霞む」


そして、ドヤ顔だったアキの勢いはどこへやら。

ションボリしたまま、無言でひたすらひたすらキャリーケースにマグロを入れていくアキなのでした。



……な、なんかゴメンね。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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