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17-5. 復習

という事で。




「まさか……あの計介が魔王軍を退ける程まで強くなっちまうとは、想像もつかなかったぜ」

「おぅ」


僕の言った事を疑ってやまなかったアキも、なんとか信じてくれたみたいだし。


久し振りに出会ったアキにも、まぁまぁ良い所見せられたかな。




うん。良かった良かった。











————って、思ったのも束の間。

そう簡単には終わらなかった。






「……ならよぉ、計介。お前の【演算魔法】もどんどん強くなってんだろうな?」

「勿論」


こう言っちゃなんだけど、僕の異世界生活は【演算魔法】ありきで成り立ってるのでね。



「ッつー事は……お前の数学の勉強も進んでんだろうな?」

「勿論じゃんか」


そのお陰で【演算魔法】も着々と充実してってるからな。



「どこまで進んだ?」

「えーと……あ、そうそう。中学の図形分野かな」


この前も【見取Ⅰ】(スケッチ)【相似Ⅰ】(シミラリティ)をゲットした所だし。



「あー……、扇形とか錐とかの辺りか。結構進んだじゃねぇか」

「でしょでしょ?」


アキにちょっと胸を張ってみる。

……数学者だってそれなりに頑張ってんだぞ。




「じゃあ…………復習だってちゃんとやってるよな?」

「ゲッ」


ふっ……復習!?




「ん、まっ、まあ…………うん。ソコソコかな」

「嘘つけ」

速攻バレてしまった。



「死ぬほど目が泳いでんぞ」

「うっ…………」

「ならお前……勉強した内容、ちゃんと憶えてんのか?」

「……おぅ、大丈夫大丈夫」

「ホントかよ?」

「復習はしてないけど、それなりに憶えてるハズだから。……多分」

「ほぅ…………言ったな」






すると————突然、アキがピシッと背筋を伸ばして改まる。




「……ど、どうしたよ?」


……嫌な予感。

冷や汗が背中を伝う。




「…………フッ」


そんな僕を見たアキは、ニヤッと笑い————






案の定、僕の嫌な予感は的中した。




「それでは、ココで数原計介くんに数学抜き打ちテストを行いまーす!」

「うわああぁぁァァァァァァァッ!!!」


思わず頭を抱え、絶叫した。











————抜き打ちテスト。



日程や出題範囲を予め発表しておく定期テストとは異なり、日程や範囲を突発的、またはごく短期間で予告される試験の事である。


その突発性ゆえに所謂『一夜漬け』といった対応がとれず、日頃からの積み上げが無い者には足掻く事すら許さない。

定期テストで高得点を叩き出している者でさえも、日々の努力を怠っていてはただ撃沈を待つのみ。


学業を本分とする者に真の『日頃の努力』を試す門————それが抜き打ちテストである。




そして。


僕からすれば……そんな抜き打ちテストは『単なる詰みゲー』でしかなかった。




「……最悪だ」

「『最悪だ』じゃねぇよ。復習しなかった自分を恨め」


そうなんだよ。ごもっともだよ。

だけどさ……。



「そんじゃあ、今から出す問題に口頭で答えろよ」

「おぅ……」


そんな頭を抱える僕を気にも留めず、アキは非情にも抜き打ちテストを始めてしまった。




「ちなみにだが、不正解の数だけ罰ゲームも用意してっから本気で答えろ」

「ゲゲッ!!」


ばッ、罰ゲーム…………ッ!?

クソッ、マジかよ! 途端にヤバい状況になったぞ……!



「ケースケ、頑張って!」

「……お、おぅ。頑張る」


アークからの応援は凄い嬉しいんだけど、この状況じゃただのプレッシャーでしかない。

尚更間違えられなくなってしまった。




けどまぁ…………ココまで来たらやるしかないじゃんか!



「……よし! 何でも来い!」

「ほぅ……その意気や良し。行くぜ!」











では、第一問。




「半径rの円の面積Sを求めよ」

「んん…………」


円の面積、か。

やったやった。前にやった憶えがあるぞ。確かー…………



とりあえず、円関係だからπは確定じゃんか。

あっ、πと言えばー……アレだ!



「2πあ————

「ん?」


アキの表情が一瞬で曇る。



……ん? なんかヤバい気がする。

もしかして、『2πr』は違う?




…………あ、そうだ! 2πrって円周じゃんか!

とすれば……『π』が入るもう1つの方といえば……。



「……πr²?」

「正解」

「よしっ」


……たっ、助かった。

いきなりミスる所だったぞ。



「危ねー危ねー。ギリギリだった————

「ギリギリッつーか最早アウトだからアレは」


……やっぱり?



「いきなり間違えてくれんなマジで、計介。俺そうゆーの求めてねぇから」

「……ごめんなさい」


とりあえず謝っとく。



「…………けどまぁ、計介が自力で正解を導いた訳だし。次だ次」






続いて、第二問。



「2次方程式『ax²+bx+c = 0』の判別式Ðを求めよ」

「ん?」


おっ、Ð?

それなら憶えてるぞ!



「アレだアレ! あのー……『b²-4ac』!」

「おっ。正解」


ヨッシャァァァァァ!

すんなり正解してやったぜ!



「意外とアッサリだな。やるじゃねぇか」

「数学者舐めんな!」

「……1問目から怪しかった奴が言う事かよ」

「…………うっ」


何も言えなくなってしまった。






……てな訳で、そのまま第三問。




「底面積S、高さhの四角錐の体積Vを求めよ」

「えー…………四角柱じゃなくて?」

「四角錐」



そっか、四角錐か……。


確かアレだよな。四角錐は『四角柱』の体積をあぁしてこぅすれば計算出来るってヤツだった気がするんだけど……。


なんだっけな…………。



「んー……当てずっぽうでも良い?」

「あぁ良いよ。その時点で憶えてねぇの確定だけど」

「うっ……」


……確かに。

だけどさ、当てずっぽうを使ってでも罰ゲームだけは回避しなきゃいけないんだよ!



って事で……もう良い! あとは神頼みだ!

頼む、当たってくれ……ッ!!




「んんー…………にっ、2分の1ッ! (1/2)Sh!!」

「ブブーッ」


駄目だった。




「うわぁぁぁァァァッ!!!」

「ハッハッハ、惜しかったな計介。柱体の体積を割るッつー所までは良かったんだが」

「……ちなみに正解は?」

「3分の1。(1/3)Shだよ」


うーっ、クソッ!

2じゃなくて3だったかー……————




「はい。残念ながら、計介の罰ゲームカウントに1ptが追加されました」

「ああぁぁァァァ……」






ついに罰ゲームが確定してしまった所で、最後の第四問。




「2次方程式『ax²+bx+c = 0』の解の公式を求めよ」

「かっ、解の公式…………」


あー、アレだ。あの難しいヤツだ。

なんだったっけー……。




「あ、あのー……±(プラスマイナス)のヤツだよな?」

「おっ。よく憶えてんじゃねぇか」


そうそう。そこだけは頭に残ってるんだよね。

()()()()は。



「えーと…………あとデカい分数のヤツ?」

「そうそう。良い線行ってんぜ」


んー…………あっ、アレか?




「たしか………… 2a 分の……分子なんだっけ」

「おっ?」


呆れていたアキの表情に、うっすら希望が見える。



「分子は b …………あっ、-b か?」

「俺の顔を窺うんじゃねぇ」

「じゃあ -b で」

「何だよその決め方?」


-b って言ったらアキの表情がピクッと動いたから、多分 -b だろう。



「-b からの…………あ、あとアレだ。±√ だ」

「よく憶えてたな。√ の中身は?」

「………………」

「………………」

「…………忘れた」

「何でだよッ!! 答えはもう直ぐそこだッつーのに!」


ガッカリのアキ、右手で顔を覆う。



「お前さっき正解したろソコ!」

「……えっ?」

「…………もう良い。最初からもう一回答えろ、ラストチャンスだ」

「オッケー!」


最初からな。

折角もらった最後のチャンス、絶対無駄にしないぞ!



「えーと…… 『2a 分の -b+√ ………………忘れた」

「はいブブー。罰ゲーム2ptな」

「ああぁぁぁぁァァァァッ!!!」






じゃあ、答えの確認だ。



「まず、お前のさっき言ってた ± は何処行ったよ」


……あっ、忘れてた。



「次に √ の中身。コレは珍しくお前がすんなり答えたヤツだろうが。Ðを正解して何故コレが出てこない」


すんなり答えた……って…………まさか!?



「え、Ð?」

「そうだよ」

「さっきのヤツそのまま?」

「そうだよ」


あー……マジか。やっちまった。




「はい、それを踏まえて答えをどうぞ」


オッケーオッケー。

Ð と ± だよな。だから…………。



「x イコール 2a 分の -b ± √b²-4ac(________)

「はい正解」


おぉ!

そうそう、思い出した。解の公式ってこんな感じだったな……。




「そっか。解の公式の√の中身、アレってÐだったんだな」

「んまぁ……そうだな。因果関係を無視すりゃ」


…………インガカンケーについては良く分からなかったけど、つまり √ の中身は Ðと同じって事らしい。

へー。勉強になりました。











「まぁ……抜き打ちテストはこんなモンで良いか。他にも V=(4/3)πr³ とか S=(a+b)h/2 とか色々聞きたかったけど、とりあえず終いだ」

「えっ、もう終わり?」

「おぅ」


なんだ、たったの4問か。

思ったより少なかったな。



「まぁ、たった4問でもお前の勉強不足が死ぬ程伝わってきたから十分だわ」

「…………はい」


『それなりに憶えてるから』とか言った僕が間違いでした。

大変申し訳ございませんでした。




————すると。

テーブルを挟んで僕を見るアキ、ニヤッと笑い……。



「という事で、罰ゲーム執行!!」

「あああぁぁぁァァァァ!!」


ああそうだった!

結局2問ミスっちゃったんだった!



「嫌だ! 死にたくないッ!! 止めてくれぇ!!!」

「……そこまで酷ぇ事はしねぇから。大体罰ゲームが何だと思ったんだよ?」

「…………殺されるとか?」

「する訳ねぇだろうが!」


……いや、分からないからとりあえず反応してみただけだけど。



「じゃ……じゃあ、罰ゲームは一体……?」

「それはだな……————
















「今日から2日間、『暗唱』の刑だ」

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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