17-1. 祭Ⅰ
前代未聞の『1日でリザード100頭狩り』を達成したあの日から、3日が経った。
西門坂の開通を皮切りに、港町・フーリエの復興は着々と進行中だ。
街中に溢れてたハズの壊された建物は、徐々に再建されていき。
漁船の修理にも手が回り始め、海へと出ていく船も日に日に増えていき。
それに併せ、領主屋敷の庭園に山積みされてた建築資材も減っていき。
少しずつ少しずつ、フーリエは元の姿を取り戻しつつあった。
そんな中、トラスホームさんが懸念していた『リザードの皮の品薄』も起こったけど……なんとか回避できたみたいだ。僕達の大量納品が功を奏したのかな。
そのお陰か、壊滅状態だった朝市の屋台も猛スピードで修繕されていき————
ついに、昨晩。
フーリエ市民の台所にして、街の代名詞でもある……『朝市』が、完全復活した。
……という事で。
その翌朝。
港町・テイラー滞在43日目、朝7:00。
目覚めるや否やイソイソと身支度を済ませた僕達は、朝食も取らずに領主屋敷を出発。
お腹も空かせたまま、朝早くから5人揃ってフーリエの街へと繰り出し。
右手に早朝の凪いだ海を見ながら、海岸通りを歩いていた。
……ん、なんでそんな急いでるのかって?
それは————
「シン、コース、ダン、アーク、着いたぞ! 朝市だ!」
「ヤッター! お祭りだー!」
「はい! 一杯楽しみましょう!」
そう!
今日は朝市復活を記念して、フーリエ総出の『お祭り』が開催されるからだ!
そんな催し物、行かない訳にはいかないじゃんか!
「こんな朝早くからすごい人ね……!」
「もうメチャクチャ賑わってんな!」
海岸通りの左右には、所狭しと軒を連ねる無数の屋台。
そんな通りの間を、いつもの朝市以上の人がワラワラと動いている。
……コレ中に入ったら身動き取れんのかな。
いつもの朝市だって、動くのすら大変ってレベルなのに。
「早く行こーよ! お祭りに乗り遅れちゃうよー!」
「おう! 行こうぜコース!」
「ちょ待て待て待て」
今にも駆け出しそうなコースとダンを、ギリギリの所で引き止める。
「いつも言ってるけど、こんな混み混みの所で勝手に動くなって。はぐれちゃうぞ」
……いつも言ってるけど。
「先生ごめんなさーい……」
「済まねえ先生」
「分かったならよろしい。ちゃんと迷子にならないように気を付————
「……あっ! 鉄火丼だー!」
「おっマジかよ! 行くぞコース!」
「うん!」
話の途中にも関わらず、僕の目の前から走り去るコースとダン。
……いつも通り。
「あっ! コースもダンも待ってください!」
そして、それを追いかけるシン。
……いつも通り。
「「…………」」
いつも通り……朝から元気な3人組は、僕とアークを置いて祭りの波に呑まれていってしまった。
「……ケースケ、3人とも行っちゃったけど」
「おぅ」
「止めなくて良かったの?」
「良いよ。こうなるの知ってたし」
『迷子になるなよ』って声を掛けた矢先に颯爽と駆け出す、ココまでが彼らの『いつも通り』だからな。
止めたって止まらないさ、どうせ。
「万一何か有っても、【共有Ⅲ】を使えば居場所も分かるし。会話もできるからさ」
「…………なるほど。さすがはケースケの【演算魔法】、どうりで余裕だったのね」
「おぅ」
……まぁ、あの3人はなんとか上手くやるだろうから放置だ放置。
比較的常識的なシンも付いてるんだし、心配ないだろう。
となれば……置いて行かれた側も、コッチはコッチでお祭りを楽しまなきゃだ。
「……じゃ、僕達も行くか」
「ええ。もちろん!」
そう、アークと2人で一緒に屋台巡りだ!
「……凄い人だな」
「本当ね」
3人に後れを取りつつ、僕とアークも朝市に突入。
左右に立ち並ぶ屋台を流し見ながら、人の流れに乗ってゆっくり進む。
「生魚はもちろん、刺身に焼き魚に貝類に干物にフライに……やっぱ凄いわね、朝市は」
「おぅ。まるで日本の市場を見てるみたいだ」
沢山の屋台が並んでるだけに、品物も屋台によって様々。
魚を焼く香ばしい匂いや、ジュクジュク油で揚げる音にも気を引かれ……屋台を見て回るだけでも十分楽しい。
「……そういや、こうやってノンビリ朝市を見るの久し振りだよな」
「そうね。……せっかく朝市に来たって、コースはずぅっと『早く狩りに行こーよ!』だし」
「ダンは鮪買ったら『腹減ったぞ!』って直ぐ帰りたがるし」
「フフッ。……それからの『アーク、今日も鉄火丼つくってくれよ!』だよね?」
「そうそう。…………アイツら、本当に忙しないからなー」
「うん。……けど、元気で良いじゃない。わたしはそう思うけど」
「まぁ……そうだな。元気無いよりはマシか」
「ええ」
「そんな皆と一緒にいるお陰で……わたしは毎日毎日がすごく楽しいな」
「おぅ」
「始まりはカーキウルフに囲まれて殺されかけてて……それからはみんなと一緒に旅をして、『草原の首領』と戦って、牢屋にも入れられて、お父様とは半ば絶縁状態になっちゃって、あげく軍団相手にたった5人で立ち向かって————
「1個1個が凄く重い」
まるで『トラブル続き』みたいに言うなよ。
「でも仕方ないじゃない? 全部事実なんだし。…………もしかして、勇者様がものすごいトラブルメーカーだったとか?」
「…………うっ」
あながち間違ってなさそうな辺り、『トラブルメーカー』の言葉がが心に突き刺さる。
「だって、そもそもケースケはこの世界に勝手に勇者召喚させられちゃったレベルだもんね」
「…………がはッ」
説得力が有り過ぎて否定できない。
「ケースケ、これはもう…………全部、あなたの所為よね————
「なんかごめんなさい」
「……フフフッ、冗談よ冗談」
……もう冗談になってないよ。
「トラブルメーカー、ねぇ……」
そっか…………。
確かに、言われてみればアークの言う通りかもしれない。
今までトラブルは避ける主義で生きてきたんだけどなぁ……。
「僕……トラブルメーカーだったのか……」
「…………ちょっとケースケのこと、煽りすぎちゃったかな?」
そんな軽く落ち込む僕と、それを見てテヘペロ苦笑いのアークでした。
まぁ、そんな事は置いといてだ。
「……なんか良い匂いがしてきたな」
人混みの中の僕達を美味しい匂いが襲う。
焼き魚やフライとも違う……懐かしい。
「この香り……アレね、きっと?」
「だろうな」
ちょっと背伸びして人混みの中から顔を出し、周囲の屋台をキョロキョロ。
アレの屋台を探す————
「おッ、有った有った!」
「どこ?」
「あの左奥の赤い屋台だよ」
そうそう。やっぱりお祭りといえばコレだよね。
香ばしいソースに鰹節、青海苔といえば……————
「赤い屋台…………あっ、見つけた!」
「「たこ焼き!」」
そう!
お祭り名物、たこ焼きだ!
「そろそろお腹も減ってきたし、食べようか」
「ええ! もちろん!」
という事で。
朝食代わりのお祭り1発目は『たこ焼き』だ。
たこ焼き屋の前で人の流れから抜け出した僕とアークは、アツアツのたこ焼きをゲット。
勿論、代金は僕持ちです。
「お待ちどぉさん!」
「「ありがとうございます」」
船皿にゴロゴロ乗っかった8個入り。
大玉のたこ焼きからは、ピョコッとタコの足が飛び出している。港町らしさ全開のたこ焼きだな。
「……おっ、あそこに座っちゃおうか」
「ナイスタイミング!」
偶々近くのベンチが空いたので、そのまま2人ベンチに腰掛ける。
「はい」
「ありがと」
爪楊枝を2本刺してくれた屋台のおっちゃんに感謝しつつ、1本をアークに。
「これにしようかな」
「じゃ、僕はコレ」
2人で湯気ホカホカのたこ焼きにプスッと突き刺し。
「……それじゃ」
「「いっただっきまーす!」」
一緒に出来立てのたこ焼きをパクリ。
「んーッ…………うまッ」
「ふぁぁ……おいひぃぃ……」
そしてハフハフ。
んーッ……メチャクチャおいしい。
獲れたてのタコでつくった焼き立てのたこ焼き、最高だ。
「次いただきまーす!」
「はい」
「……んんー。おいひぃぃ」
…………やっぱり、お祭りっていいな。




