表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
342/548

16-17. 即答

狩りを始めてから、2時間が経った。


現在時刻は11:36。もうちょい狩りをしたら昼食休憩、って所だ。




いやー……それにしてもやっぱり凄いよ。【見取Ⅰ】(スケッチ)

『透視』能力を使うと使わないとじゃ、狩りスピードが段違いなんだよね。



リザードの御家芸にして一番の脅威だったハズの奇襲(トラップ)は、僕達にはもう通用しなくなってしまった。

地中のリザードの影が()()()僕達なら、避けるのも簡単。もはや奇襲でもなんでもなくなってしまった。


それどころか……シンとアークに至っちゃ、逆に仕掛ける側に回ってしまった。

さっきの僕の一撃が相当気に入ったのか、今度は彼らが長剣やら長槍やらで実践。得物をブスブス砂に突き刺し、罠師リザードを次々と串刺しの刑に処していってるのだ。

……なんか、2人がまるで(モリ)でウツボを突く漁師さんみたいだった。カッコよかったです。




そんなリザード達だけど……結構ドライな性格してるみたいで、勝機が無いと分かった途端に一目散だ。

仲間も見捨てて我先にと地中に潜り、逃げて行っちゃうんだよね。


……まぁ、逃げたとしても待ってるのは剣槍の串刺し刑。僕達の追撃からは逃れる事は出来ないんだけどさ。



とにかく、【見取Ⅰ】(スケッチ)のお陰で狩りも高速で回ってるし獲物を逃す数も減った。

伝説の100頭狩りも夢じゃないペースだ。











っとまぁ、1時間ほどサクサクとリザード狩りを楽しんでた僕達————なんだけど。


物事は、必ずしもそう上手く行くモンじゃないみたいです。






「ぜんぜん見当たらないよー…………」

「……こっちにも居なさそうかな」

「おいシン、そっちの方はどうだ?」

「……駄目です。居ませんね」


僕達は今、リザード・ロスに陥っています。

5組15体を倒してからココ1時間、遭遇すら出来ないでいるんだよね……。



「全然見当たらないじゃんか……」


砂漠のド真ん中に立ち止まり、左右・前後・足元まで眺めるけど……居ない。

この辺をしばらくウロウロしてるんだけど……一向にリザードと出逢えない。


折角の【見取Ⅰ】(スケッチ)も、獲物が居ないんじゃどうしようもないって感じだ。




「先生の探知魔法ではどうでしょうか……?」

「おぅ。……【判別Ⅲ】(ディスクリミナント)


シンに促され、付近の魔物の数をカウントする。

————けど、頭に浮かぶのは『黒字の0』。



「……ダメだ」

「やっぱりそうですか…………」

「じゃあ、ケースケの【確率演算Ⅳ】プロバビリティ・カルキュレーションでリザードとの遭遇確率を上げれば————

「それも多分無理だな」


近くにリザードが居れば遭遇確率をいじるのも有効なんだろうけど……リザードがこの辺に全く居ないんじゃ、【確率演算Ⅳ】プロバビリティ・カルキュレーションも働いてくれないハズだ。




「つまり……わたし達がこの一帯のリザードを狩り尽くしちゃった、って事かな」

「まぁそうだろうな」


もしそうじゃないとすれば…………リザード達が僕達から全力で逃げてるか、さっきのヤツで絶滅したか、ぐらいだと思う。

まぁ、どっちも無いと思うけど————




「ねぇぇぇねぇぇぇ!」


突然、コースが両手をメガホンにして砂漠に叫ぶ。

……いきなりどうしたコース!?



「リザードさぁぁぁん! 出てきてよー!」


……いや、そんな呼び掛けで出て来るんなら僕達困ってないって。



「……出て来ねえな」

「うーん……聞こえてないのかなー……?」

「それなら、声の大きいダンが呼び掛ければ良いんじゃないでしょうか?」

「おう任せろ!!」


そう言い、ダンが一度深呼吸。




「…………オオオォォォイッ!!! 俺ら悪い奴じゃねえからよおォォォ!!!」


……いやいやダン、その呼び掛けって悪い奴が使うヤツじゃんか!

ますます出てこなくなっちゃうだろ!



「これでバッチリだね!」

「ですね!」


いやいやいや何がバッチリなんだよ。




「そもそもリザードが居ない所で声掛けたって意味ないじゃんか」

「「「…………あっ」」」












……という事で。



「はい移動だ移動。もうガッツリ狩り場を変えよう」

「ええ。そうしましょう」

「うん! そーしよそーしよ!」


結局、場所替えする事で落ち着いた。

【演算魔法】で何か画策するでもなく、無駄に声を掛けるでもなく、コレが最良の選択だろう。

急がば回れってヤツだ。




「街から離れる方向にしようか」

「そうね。……その分、帰りは遅くなっちゃうけど」


あー……確かに。

フーリエ砂漠の夜って結構暗いし、なにより陽が落ちると急に寒くなるんだよな。



「……その時はアークの炎に助けて貰おうかな」

「もちろん! ケースケのためなら!」


おっ。

そう言ってくれると有難いな。




「それではダン、狩ったリザードをお願いします」

「分かってるって! ……ぃよっこらせっと!」


地面に降ろしてた【因数分解Ⅲ】ファクタライゼーションで15体を一纏めのリザードを、ダンが勢い良く肩に担ぐ。



「オッケーだぞ!」

「それじゃ出発(しゅっぱーつ)!」






————…………の前に」

「「「「……前に?」」」」


……ん?

コース、何か有ったのか?




「ねーダン! カタグルマして!」

「「「「えっ」」」」


なんで急に肩車!?

ってか、たった今リザードを担いだ人にお願いする事じゃなくない?




「えっ……俺!?」

「うん!」

「……マジで言ってんのかよ?」

「うん!」


ダンが何度聞き返そうと、全然折れる気のないコース。



「……まぁ別に良いけどよお」

「やったー!」


……良いんかい。




「けど……なんで今になって急に肩車なんだよ、コース?」


嫌がるシンにリザードを押しつけつつ、ダンが尋ねる。

……それそれ。なんで突然肩車なのか、僕も気になったんだよね。



「えーっと、それは…………私って、この3人の中では一番のチビじゃん?」

「そうだな」

「だけど……ダンにカタグルマしてもらえば、ダンより背が高くなれるじゃーん?」


なんだその理論は。



「そうしたらダンに『やーいチービチービ!!』って言えるじゃん!」


なんだその幼稚な罵りは。




「もう肩車しねえ」

「待ってよ待ってよー! 冗談(ジョーダン)だってー!」

「知らねえよチビ」

「ひどいッ!」


コース、ダンに突き放される。



「シンー! 助けてよぉ————

「知りません」

「えぇぇ…………」


……そしてコースは孤立してしまった。











……まぁ、しょーもないケンカは良いとしてっと。



「でだ、コース。何でダンに肩車をお願いしたんだ?」


気を取り直して、さっきの本題に戻る。



「それは…………ダンにカタグルマしてもらえば、ダンより背が高くなれるじゃん?」

「そうだな」


ちょっと元気を失くしつつ、僕を見上げて答えるコース。




「そうすれば……もっと砂漠を遠くまで見て、リザード探せるかなーって思って」

「成程」


あぁ…………そういう事か。



「その考え方、悪くないじゃんか」

「でしょでしょー!」


それなら……丁度良いタイミングだし、()()を試してみようか。




「それじゃあ、コース。ダンより背高くなりた————

「なりたいッ!」


即答。

まだ質問も言い切ってないのに。




「……えっ、先生。そんな事出来んのかよ?」


コースに身長を抜かれるのが心配になったのか、心配そうな表情で尋ねるダン。



「実はね」

「……本当に?」

「本当に」

「…………マジで?」

「マジで」

「………………先生がコースを肩車するとか無しだぞ?」

「しないよ」


……どんだけ身長抜かれるのが嫌なんだよ。











「よし」


って事で。

()()を試す時が来た。



「皆より大きくなって、見返してやるんだもんッ!」


砂漠の上に独り立つ、鼻息荒めのコース。




「僕もこの魔法使うの初めてだから、皆あまり期待すんなよ」

「先生の【演算魔法】……お手並み拝見ですね」

「どんな魔法なのかしら?」

「…………頼む、しくじってくれ……」


そんなコースと少し距離をとり、立ち並ぶ僕達。

……ダンが何か呟いてるけど、気持ち分からなくもないから許しといてやろう。



「……ところでケースケ」

「ん?」

「その魔法、どんな効果なの?」


効果かー。


「秘密だな。見てのお楽しみ、って事で」

「……いずれにせよ、またよく分からないチート魔法なんですよね?」

「おぅ」

「…………ハァ」


いやいやいや、良いじゃんかチート魔法。

最高だよ。





……まぁ、そんな呆れるシンは良いとしてっと。


そろそろ皆も秘策が気になってきたみたいだ。

ダンとアーク、それとなんだかんだシンもコースをジッと眺めている。




「まぁ……それじゃ、行くぞコース」

「うん! いつでもこーいっ!」


おっ、威勢の良いこと。

じゃあお言葉に甘えて『効率狩猟の秘策・その2』、試させてもらおうか!




【相似Ⅰ】(コングルーエンス)!!」











その、直後。




「えっ」


ビクッとコースの身体が動き。




「きゃぁぁ————

ザァァァァ…………


突然の悲鳴と共に…………灰色のノイズに包まれていく、コースの身体。





「「「っ!?」」」


そんな光景に慌てる3人。




「えっ、ケースケ! コース大丈夫なの!?」

「何が起きてんだよ!?」

「まさか……コースが…………ッ!?」

「まぁまぁ……大丈夫、落ち着けって」


……未だ変わらないコースの状態に、宥めても全く落ち着かない3人。




「ねえケースケ! その魔法、どんな効果なの?」

「教えてくれよ先生!」

「このままだとコースが…………」

「大丈夫、だから『見てのお楽しみ』だって」


そんな3人に問い詰められる。






————けど。

その時が、来た。



「……おっ、来たぞ!!」

「「「……っ?」」」




ノイズに包まれたままのコースを指差す。

3人も釣られて振り向くと————











……ザァァァァァァアアアア!!


「「「なっ!?」」」



まさに今……むくむくと、コースだったモノが大きくなり。

背丈も幅も、丁度2倍ほどの大きさになる所だった。




「でっ……デカくなった……!?」

「大きくなっちゃった、の……?」

「まさか……この魔法って…………」


見上げる程の背丈になっちゃったノイズ人形に、口がアングリの3人。

……そろそろネタばらしと行くか。




「この魔法の能力————【相似Ⅰ】(コングルーエンス)の能力は……『巨大化』だ」



そう告げると同時……コースの全身を覆っていたノイズが、パッと晴れ————


「おー!!! おっきくなっちゃったー!!!」



巨大化コースが、姿を現した。




「……うわ、マジかよ」


【相似Ⅰ】(コングルーエンス)、本当に正真正銘の『巨大化』じゃんか……!!




「……嘘……ですよね?」

「…………すごい……」

「身長負けちまった…………」


勿論、驚いてるのは僕だけじゃない。

非現実的な現象を前に、3人も半ば放心状態だ。




「わー、皆小さーい!!!」


そんな3人を見下ろすコース。



「シンもダンもアークも、やーいチービチービ!!!」

「「「…………」」」


……残念ながら、コースの幼稚な罵りは叶ったものの————3人の心には届いていませんでした。











けど、僕達が求めてるのは『冗談の方』じゃない。

【相似Ⅰ】(コングルーエンス)で、やりたかった事といえば……————



「おっ、先生(せんせー)!!!」

「……どうしたコース?」


そう……『メインの方』、魔物探しだ!!




「あの辺にリザード発見(はっけーん)!!!」

「「「「おぉ!」」」」


そして魔物探し……どうやら上手くいったみたいだ!



「よくやったぞコース!」

「うん!」


今や身長が3メートルくらいのコースならば、視程は僕達の比にならないもんな!




……それじゃあ。


「行くぞ! リザード狩り再開だ!」

「「「「おう!!!!」」」」




効率狩猟の秘策・【見取Ⅰ】(スケッチ)【相似Ⅰ】(コングルーエンス)で……目指せ100頭狩り!!
















さてと。


突然の魔王軍の襲撃からフーリエをなんとか守ったものの、荒らされてしまった街。だけど、復興への道は見えた。色々と大変だけど、きっと僕達なら出来るハズだ!


現在の服装は、麻の服にボロボロの白衣。

重要物(キーアイテム)は数学の参考書。

(ジョブ)は数学者。


目的は魔王の討伐……だけど、まずはフーリエの復興からだ。



準備は整った。さぁ、元のフーリエを取り戻しますか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ