16-17. 即答
狩りを始めてから、2時間が経った。
現在時刻は11:36。もうちょい狩りをしたら昼食休憩、って所だ。
いやー……それにしてもやっぱり凄いよ。【見取Ⅰ】。
『透視』能力を使うと使わないとじゃ、狩りスピードが段違いなんだよね。
リザードの御家芸にして一番の脅威だったハズの奇襲罠は、僕達にはもう通用しなくなってしまった。
地中のリザードの影が視える僕達なら、避けるのも簡単。もはや奇襲でもなんでもなくなってしまった。
それどころか……シンとアークに至っちゃ、逆に仕掛ける側に回ってしまった。
さっきの僕の一撃が相当気に入ったのか、今度は彼らが長剣やら長槍やらで実践。得物をブスブス砂に突き刺し、罠師リザードを次々と串刺しの刑に処していってるのだ。
……なんか、2人がまるで銛でウツボを突く漁師さんみたいだった。カッコよかったです。
そんなリザード達だけど……結構ドライな性格してるみたいで、勝機が無いと分かった途端に一目散だ。
仲間も見捨てて我先にと地中に潜り、逃げて行っちゃうんだよね。
……まぁ、逃げたとしても待ってるのは剣槍の串刺し刑。僕達の追撃からは逃れる事は出来ないんだけどさ。
とにかく、【見取Ⅰ】のお陰で狩りも高速で回ってるし獲物を逃す数も減った。
伝説の100頭狩りも夢じゃないペースだ。
っとまぁ、1時間ほどサクサクとリザード狩りを楽しんでた僕達————なんだけど。
物事は、必ずしもそう上手く行くモンじゃないみたいです。
「ぜんぜん見当たらないよー…………」
「……こっちにも居なさそうかな」
「おいシン、そっちの方はどうだ?」
「……駄目です。居ませんね」
僕達は今、リザード・ロスに陥っています。
5組15体を倒してからココ1時間、遭遇すら出来ないでいるんだよね……。
「全然見当たらないじゃんか……」
砂漠のド真ん中に立ち止まり、左右・前後・足元まで眺めるけど……居ない。
この辺をしばらくウロウロしてるんだけど……一向にリザードと出逢えない。
折角の【見取Ⅰ】も、獲物が居ないんじゃどうしようもないって感じだ。
「先生の探知魔法ではどうでしょうか……?」
「おぅ。……【判別Ⅲ】」
シンに促され、付近の魔物の数をカウントする。
————けど、頭に浮かぶのは『黒字の0』。
「……ダメだ」
「やっぱりそうですか…………」
「じゃあ、ケースケの【確率演算Ⅳ】でリザードとの遭遇確率を上げれば————
「それも多分無理だな」
近くにリザードが居れば遭遇確率をいじるのも有効なんだろうけど……リザードがこの辺に全く居ないんじゃ、【確率演算Ⅳ】も働いてくれないハズだ。
「つまり……わたし達がこの一帯のリザードを狩り尽くしちゃった、って事かな」
「まぁそうだろうな」
もしそうじゃないとすれば…………リザード達が僕達から全力で逃げてるか、さっきのヤツで絶滅したか、ぐらいだと思う。
まぁ、どっちも無いと思うけど————
「ねぇぇぇねぇぇぇ!」
突然、コースが両手をメガホンにして砂漠に叫ぶ。
……いきなりどうしたコース!?
「リザードさぁぁぁん! 出てきてよー!」
……いや、そんな呼び掛けで出て来るんなら僕達困ってないって。
「……出て来ねえな」
「うーん……聞こえてないのかなー……?」
「それなら、声の大きいダンが呼び掛ければ良いんじゃないでしょうか?」
「おう任せろ!!」
そう言い、ダンが一度深呼吸。
「…………オオオォォォイッ!!! 俺ら悪い奴じゃねえからよおォォォ!!!」
……いやいやダン、その呼び掛けって悪い奴が使うヤツじゃんか!
ますます出てこなくなっちゃうだろ!
「これでバッチリだね!」
「ですね!」
いやいやいや何がバッチリなんだよ。
「そもそもリザードが居ない所で声掛けたって意味ないじゃんか」
「「「…………あっ」」」
……という事で。
「はい移動だ移動。もうガッツリ狩り場を変えよう」
「ええ。そうしましょう」
「うん! そーしよそーしよ!」
結局、場所替えする事で落ち着いた。
【演算魔法】で何か画策するでもなく、無駄に声を掛けるでもなく、コレが最良の選択だろう。
急がば回れってヤツだ。
「街から離れる方向にしようか」
「そうね。……その分、帰りは遅くなっちゃうけど」
あー……確かに。
フーリエ砂漠の夜って結構暗いし、なにより陽が落ちると急に寒くなるんだよな。
「……その時はアークの炎に助けて貰おうかな」
「もちろん! ケースケのためなら!」
おっ。
そう言ってくれると有難いな。
「それではダン、狩ったリザードをお願いします」
「分かってるって! ……ぃよっこらせっと!」
地面に降ろしてた【因数分解Ⅲ】で15体を一纏めのリザードを、ダンが勢い良く肩に担ぐ。
「オッケーだぞ!」
「それじゃ出発!」
————…………の前に」
「「「「……前に?」」」」
……ん?
コース、何か有ったのか?
「ねーダン! カタグルマして!」
「「「「えっ」」」」
なんで急に肩車!?
ってか、たった今リザードを担いだ人にお願いする事じゃなくない?
「えっ……俺!?」
「うん!」
「……マジで言ってんのかよ?」
「うん!」
ダンが何度聞き返そうと、全然折れる気のないコース。
「……まぁ別に良いけどよお」
「やったー!」
……良いんかい。
「けど……なんで今になって急に肩車なんだよ、コース?」
嫌がるシンにリザードを押しつけつつ、ダンが尋ねる。
……それそれ。なんで突然肩車なのか、僕も気になったんだよね。
「えーっと、それは…………私って、この3人の中では一番のチビじゃん?」
「そうだな」
「だけど……ダンにカタグルマしてもらえば、ダンより背が高くなれるじゃーん?」
なんだその理論は。
「そうしたらダンに『やーいチービチービ!!』って言えるじゃん!」
なんだその幼稚な罵りは。
「もう肩車しねえ」
「待ってよ待ってよー! 冗談だってー!」
「知らねえよチビ」
「ひどいッ!」
コース、ダンに突き放される。
「シンー! 助けてよぉ————
「知りません」
「えぇぇ…………」
……そしてコースは孤立してしまった。
……まぁ、しょーもないケンカは良いとしてっと。
「でだ、コース。何でダンに肩車をお願いしたんだ?」
気を取り直して、さっきの本題に戻る。
「それは…………ダンにカタグルマしてもらえば、ダンより背が高くなれるじゃん?」
「そうだな」
ちょっと元気を失くしつつ、僕を見上げて答えるコース。
「そうすれば……もっと砂漠を遠くまで見て、リザード探せるかなーって思って」
「成程」
あぁ…………そういう事か。
「その考え方、悪くないじゃんか」
「でしょでしょー!」
それなら……丁度良いタイミングだし、アレを試してみようか。
「それじゃあ、コース。ダンより背高くなりた————
「なりたいッ!」
即答。
まだ質問も言い切ってないのに。
「……えっ、先生。そんな事出来んのかよ?」
コースに身長を抜かれるのが心配になったのか、心配そうな表情で尋ねるダン。
「実はね」
「……本当に?」
「本当に」
「…………マジで?」
「マジで」
「………………先生がコースを肩車するとか無しだぞ?」
「しないよ」
……どんだけ身長抜かれるのが嫌なんだよ。
「よし」
って事で。
アレを試す時が来た。
「皆より大きくなって、見返してやるんだもんッ!」
砂漠の上に独り立つ、鼻息荒めのコース。
「僕もこの魔法使うの初めてだから、皆あまり期待すんなよ」
「先生の【演算魔法】……お手並み拝見ですね」
「どんな魔法なのかしら?」
「…………頼む、しくじってくれ……」
そんなコースと少し距離をとり、立ち並ぶ僕達。
……ダンが何か呟いてるけど、気持ち分からなくもないから許しといてやろう。
「……ところでケースケ」
「ん?」
「その魔法、どんな効果なの?」
効果かー。
「秘密だな。見てのお楽しみ、って事で」
「……いずれにせよ、またよく分からないチート魔法なんですよね?」
「おぅ」
「…………ハァ」
いやいやいや、良いじゃんかチート魔法。
最高だよ。
……まぁ、そんな呆れるシンは良いとしてっと。
そろそろ皆も秘策が気になってきたみたいだ。
ダンとアーク、それとなんだかんだシンもコースをジッと眺めている。
「まぁ……それじゃ、行くぞコース」
「うん! いつでもこーいっ!」
おっ、威勢の良いこと。
じゃあお言葉に甘えて『効率狩猟の秘策・その2』、試させてもらおうか!
「【相似Ⅰ】!!」
その、直後。
「えっ」
ビクッとコースの身体が動き。
「きゃぁぁ————
ザァァァァ…………
突然の悲鳴と共に…………灰色のノイズに包まれていく、コースの身体。
「「「っ!?」」」
そんな光景に慌てる3人。
「えっ、ケースケ! コース大丈夫なの!?」
「何が起きてんだよ!?」
「まさか……コースが…………ッ!?」
「まぁまぁ……大丈夫、落ち着けって」
……未だ変わらないコースの状態に、宥めても全く落ち着かない3人。
「ねえケースケ! その魔法、どんな効果なの?」
「教えてくれよ先生!」
「このままだとコースが…………」
「大丈夫、だから『見てのお楽しみ』だって」
そんな3人に問い詰められる。
————けど。
その時が、来た。
「……おっ、来たぞ!!」
「「「……っ?」」」
ノイズに包まれたままのコースを指差す。
3人も釣られて振り向くと————
……ザァァァァァァアアアア!!
「「「なっ!?」」」
まさに今……むくむくと、コースだったモノが大きくなり。
背丈も幅も、丁度2倍ほどの大きさになる所だった。
「でっ……デカくなった……!?」
「大きくなっちゃった、の……?」
「まさか……この魔法って…………」
見上げる程の背丈になっちゃったノイズ人形に、口がアングリの3人。
……そろそろネタばらしと行くか。
「この魔法の能力————【相似Ⅰ】の能力は……『巨大化』だ」
そう告げると同時……コースの全身を覆っていたノイズが、パッと晴れ————
「おー!!! おっきくなっちゃったー!!!」
巨大化コースが、姿を現した。
「……うわ、マジかよ」
【相似Ⅰ】、本当に正真正銘の『巨大化』じゃんか……!!
「……嘘……ですよね?」
「…………すごい……」
「身長負けちまった…………」
勿論、驚いてるのは僕だけじゃない。
非現実的な現象を前に、3人も半ば放心状態だ。
「わー、皆小さーい!!!」
そんな3人を見下ろすコース。
「シンもダンもアークも、やーいチービチービ!!!」
「「「…………」」」
……残念ながら、コースの幼稚な罵りは叶ったものの————3人の心には届いていませんでした。
けど、僕達が求めてるのは『冗談の方』じゃない。
【相似Ⅰ】で、やりたかった事といえば……————
「おっ、先生!!!」
「……どうしたコース?」
そう……『メインの方』、魔物探しだ!!
「あの辺にリザード発見!!!」
「「「「おぉ!」」」」
そして魔物探し……どうやら上手くいったみたいだ!
「よくやったぞコース!」
「うん!」
今や身長が3メートルくらいのコースならば、視程は僕達の比にならないもんな!
……それじゃあ。
「行くぞ! リザード狩り再開だ!」
「「「「おう!!!!」」」」
効率狩猟の秘策・【見取Ⅰ】と 【相似Ⅰ】で……目指せ100頭狩り!!
さてと。
突然の魔王軍の襲撃からフーリエをなんとか守ったものの、荒らされてしまった街。だけど、復興への道は見えた。色々と大変だけど、きっと僕達なら出来るハズだ!
現在の服装は、麻の服にボロボロの白衣。
重要物は数学の参考書。
職は数学者。
目的は魔王の討伐……だけど、まずはフーリエの復興からだ。
準備は整った。さぁ、元のフーリエを取り戻しますか!




