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16-15. 色

翌朝。



港町・フーリエ滞在40日目。

7:35。






いつも通りの時間で起床した僕達男衆は、部屋着から軽装に着替えて部屋を出発。

丁度同じタイミングで女子部屋から出てきたコースとアークと一緒に、屋敷5階の廊下を歩いている。


行先は2階の食堂。

屋敷に泊まってるフーリエの人々と一緒に朝食だ。






……けど。




「「ふわあぁぁ……」」


廊下を歩きながら大欠伸する、僕とシン。



「ケースケもシンも、すごく眠そうだけど……何かあったの?」

「んん、まぁ……中々寝付けなくってね」

「私もです……」


心配してくれるアークに、2人して目を擦りながら答える。

……そうそう。昨晩は予想通り、胡椒トラップのせいで眠りにつけなくてね……。









『巨大化だッ!』


【相似Ⅰ】(シミラリティ)の説明に、つい興奮して大声を上げちゃった僕。

しまったッ、って思ったのも束の間――――




『(んっ…………何ですか……?)』


小さな唸りと共にムクッと起き上がるシン。

案の定、寝ていたシンを起こしちゃったようだった。



『(……あぁゴメン。起こしちゃった?)』

『(はい…………ビックリしました……)』




って事で。

ちょっと反省した僕は、お楽しみの【相似Ⅰ】(シミラリティ)の試しをやむなく延期。

練習問題をパパッと終わらせてベッドに入った。






……んだけど。

ドッサリ胡椒の効果は、日付が変わっても切れることがなく。



『(…………寝れない)』

『(……私も寝れません…………)』


一度目を覚ましたっきり眠れなくなったシンをも巻き添えにして、2人で眠れぬ夜を過ごしたのでした。









「まぁ、昨日は色々あってな…………」

「ハハハ……」


何が有ったかまでは言わないけど……昨晩の事を思い出しながら、シンと一緒に苦笑い。



「ふぅーん、そっか……」


軽く流しつつも、心配げに見つめるアーク。

……僕からすれば睡眠不足なんて日常茶飯事なのに、心配掛けちゃってごめんね。



「そんな事が起こってたのか。全然気づかなかったぞ俺」

「「……」」


だろうね。

昨晩の騒動の中でも、ダンは終始イビキをかきながら寝てたもんな。

羨ましいよ。




先生(せんせー)もシンも、朝からシャキッとだよシャキッとー!」

「「…………」」


なんだコイツ。

普段はメチャクチャ寝起き悪いクセに、こういう日に限って他人事かよ。




「まあまあ……2人とも、無理しないでね」

「……おぅ」

「……ありがとうございます、アーク」


結局、アークの優しい言葉にちょっと元気を取り戻す僕とシンだった。











まぁ……朝からそんな話を交わしつつ、僕達は5階の廊下から階段へ。

窓から差し込む朝陽に照らされながら階段を下り、2階へと向かう。




————その途中。



「おや」

「おっ」


3階まで下りたところで、階段を上がって来たトラスホームさんとバッタリだ。



「「「「「おはようございます」」」」」

「おはようございます、皆様。これから御朝食ですか?」

「ええ。今から」

「ココの料理、めちゃくちゃ旨えもんな!」

「うんうん! 今日も楽しみー!」

「そう言って頂けると、うちの料理人もきっと喜びます」


ダンとコースの言葉を聞いて、トラスホームさんもニッコリだ。




「今日もご馳走になります」

「礼には及びませんよ、ケースケ様。どうぞ沢山食べて下さいね」


いやいやそんな……。

客間を貸してもらってる上に美味しい食事まで頂いちゃって……トラスホームさんにはもう頭が上がらないよ。






「……あっ、そうそう」


すると、思い出したように呟くトラスホームさん。



「ところで皆様、ちょっと宜しいでしょうか?」

「はい?」

「何かしら……?」


……どうしたんだろう?




「皆様は本日の御予定、何か決まっていますか?」

「あー……」

「今日の予定、ですか…………」


トラスホームさんに尋ねられ、5人揃って考え込む。




…………けど、その答えは出なかった。



「……そういえば私達、何も予定立ててませんね」

「たしかにー……」


西門坂を開通させたっきり、この先の事は全然考えてなかったもんね。



……けどまぁ、用事が無いなら街の復興に協力するまでだ。

街に出れば人手が足りなくて困ってる人が沢山居るだろうし————






「ならば丁度良い。……皆様、本日は『狩り』なんて如何でしょう?」

「「狩りッ!!?」」


コースとダンが脊椎反射の勢いで目を輝かせる。




「良いな狩り! 久し振りに行こうぜ!」

「やりたいやりたーい!」


……滅茶苦茶ノリノリじゃんか。



「丁度身体から『狩リウム』が抜けてた所なんだよな!」

「そーそー! そろそろ補給(ほきゅー)しないと!」

「「「「…………」」」」


何だよ『狩リウム』って。栄養素みたいに言うな。

この戦闘狂どもが。




……とは言いつつ、実は僕も賛成だったりするんだよね。

例の『フーリエ包囲事件』以降、狩りは5日くらいやってない。野生の勘を取り戻すって訳じゃないけど、久し振りに身体を動かすのもアリだな。



「ねーねー、シンも先生(せんせー)もアークも行こーよ!」

「おぅ、行くか」

「ええ、わたしも! そろそろ槍を振らないと、なんか身体が鈍っちゃいそうだしね」

「えぇっ…………」


……ん?

アークも乗り気だってのに、シン行かないのか?




「フーリエの皆さんが協力して復興してるのに、私達だけ()()()()()()狩りに興じるってのも…………ちょっと気が引けるような……」


『狩りに興じる』って言い方が微妙に戦闘狂くさくて引っ掛かるけど、うーん…………まぁ、確かにシンの言う事も分からなくない。




「でたでた、シンの悪いクセー!」

「考え過ぎだぞシン!」

「そうでしょうか……?」


シン、狩り推進派の2人に囲まれる。



「1日くらい休みを貰ったって問題ねえって!」

「ダイジョーブダイジョーブ! 昨日まで西門坂頑張ったじゃーん!」

「シェブのおじさんもきっと『行ってきやがれ金髪!』って送り出してくれるぞ!」

「えぇっ……、でも………………」


妙に上手いダンのモノマネに苦しくなったシン、子犬のような視線でトラスホームさんに助けを求める。




「シン様、少々()()されているようですね」

「……えぇっ」


まさかのトラスホームさんからも見放される展開。

味方の居なくなったシン、心がグラつき始める。



「…………と言いますと?」

「シン様は『復興をお休みする』と仰っていました。勿論、狩りを楽しまれるのも結構ですが……正しくは『狩り』も歴とした復興の一部です」

「……そうなんですか?」

「左様です」


まだ首を傾げて納得いかないシンに、トラスホームさんが話を続ける。



「……これは飽くまで(わたくし)の推測に過ぎないのですが————この後まもなく、『ブローリザードの革』の入用が著しく増えて品薄になります」


そりゃ大変だ。

……けど、ブローリザードなら『包囲事件』の前に僕達がメチャクチャ狩ってギルドの買取に出したよな。

まだ残ってないのかな?



「ギルドの『買取強化キャンペーン』と皆様のお陰で、今の在庫はそれなりに有ると聞いております。…………が、恐らく一瞬で無くなります」

「「「「「えっ」」」」」


……マジかよ!?

1日だいたい20頭、それを週6レベルで納めてたんだぞ僕達。

それすらも上回る需要って、一体……————




「西門坂が復旧し、馬車が街の中心まで入れるようになった今……次に復興を進めるのは『朝市』です。フーリエのみならず、王都中の海魚の拠点になっていますから」


……うん、そうだな。

『港町・フーリエ』って呼ばれるくらいだもんね。



「そんな朝市ですが、魔物の襲撃によって屋台は軒並みズタボロ。最近の朝市も、かなり小さい規模で開かざるを得ません」

「そうですね」

「はい。そして…………破られた屋台の天幕の修理に、大量の『ブローリザードの革』が必要なのです」


……そういう事か。

確かに、あのズラァーっと並ぶ屋台の天井を修理するとなれば相当量の革が要りそうだもんな。











……まぁ、状況は分かった。

ただ狩りを楽しむだけかと思いきや、結構な裏事情があるじゃんか。




「……そこまで言われたら、もう断れないじゃない?」

「そもそも断る理由(リユー)がないってー!」

「ああ! 俺らも楽しめるし、フーリエにも貢献できるし……一石二鳥だ! マスマス燃えてきたぞ俺!」


割と大掛かりだった事実を知り、更にやる気に満ち溢れる3人。



「コレならシンも一緒に行くよねー?」

「……そうですね! やるしかありません!」


コースに触発され、心配性が発症してたシンも気持ちが変わったみたいだ。

良かった良かった。




「それじゃあ、今日は狩りで」

「有難うございます、ケースケ様」


そう決めると、トラスホームさんが頭を下げる。

……いえいえ。こちらこそ、いつも親切にしてもらってるからね。




「では……皆様の朝食の間に、(わたくし)名義・ケースケ様方宛ての指名依頼としてギルドに依頼票を出しておきますね。後程、ギルドで依頼をお受け下さい」

「分かりました」

「……僅かばかりですが、感謝の気持ちとして報酬に少し色を」


……いやいやいやッ、そんな気を遣わなくて良いから!
















って事で。


その後トラスホームさんと別れ、2階の食堂へ向かった僕達は……。



猛スピードでガツガツ食べるダンとコースに急かされながら、朝食を取り。

猛スピードで支度を済ませるダンとコースに急かされながら、着替えと装備を整え。

そして……猛スピードで庭園を駆けるダンとコースの背中を追いかけながら、屋敷を出発し。




「ハァ、ハァ……、着いたぁ…………」

「もーッ! 先生(せんせー)もシンもアークも遅いよー!」


史上最速記録を叩き出しながら、開通したての西門坂沿いに建つ冒険者ギルドに到着したのでした。






「さて、依頼票ボードは……」


まだ朝も早いからか閑散気味のギルドに入り、依頼票の沢山貼られたボードへと向かう。

……確か、トラスホームさんからの指名依頼を受けるんだったよな————




「おっ、来たな勇者様御一行!」

「……ん?」


っと、どこからともなく声が掛かる。

……誰だ?



「待ってたぜ!」


……あっ、なんだ。マッチョ兄さんか。

誰の声か分からなかったけど、依頼カウンターに座ってコッチに手を振ってたから一発で分かったよ。




「「「「「おはようございます!」」」」」

「はいおはよう」


カウンターの行列もゼロだったので、直接マッチョ兄さんの所へと向かう。

……そういや、最近じゃ僕達にとって『マッチョ兄さんの呪い』なんて感覚は完全に無くなってきた。もう『マッチョ兄さんありきの冒険者生活』が当たり前になりつつあるんだよね。


マッチョ兄さん、恐ろしや。




……まぁ、そんな事は置いといて。



「来てんぞ、お前ら宛の指名依頼。コレだろ?」


そう言い、1枚の紙をピラッと取り出すマッチョ兄さん。



「はい。それです」

「オッケーオッケー。じゃもう受理しとくわ」


そう言うと、特に何の確認もせずサッサと受理を始めるマッチョ兄さん。

……最近じゃステータスプレートの青結晶スキャンとかはもう求められない。

顔パスなのだ。




「ついさっき、領主さんトコの使いが持って来てな。…………ふんふんふふーん」

「「「「「…………」」」」」


そんな事を呟きながら、鼻歌交じりにポンポン判子を押していくマッチョ兄さん。



「未だにフーリエは冒険者不足。その上、少ない冒険者も『復興の手伝い』に引き抜かれちまってな……」

「成程」


そっか。

フーリエのギルドも大変なんだね。



「お前らが頼みの綱だからな。……って事でハイこれ」


そんな間にもパパッとマッチョ兄さんは手早く作業を終え、スッと依頼票が手渡される。




「宜しくな、リザード」

「はい。ありがとうございま————


……その時。




「…………えっ」


手渡された依頼票を見た僕達は————絶句した。











---依頼票--------

依頼番号:指000-724-902

依頼内容:ブローリザード100頭の納品

依頼者 :トラスホーム・フーリエ

報酬  :金貨50枚

条件  :

備考  :依頼完了の早さ、および100頭を超える納品量よって別途報酬有り

-----------






「依頼内容、ブローリザード…………ひゃっ————

「「「「「100頭!?」」」」」

「らしいな」


いやいや、おかしいでしょ!?

特訓の時でも1日平均20頭、マックス27頭だからね?




「それより報酬だ報酬。金貨50枚とか、領主様の野郎も相当報酬に色付けやがったな」


……うん、報酬も破格だけどさ。



トラスホームさん、報酬だけじゃなくて依頼内容にも色を付け間違えちゃったんじゃないの?







……『狩り』だって、そこまで行けば最早とんだ苦行だよ。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
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