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16-12. 中学図形Ⅰ

港町・フーリエ滞在、39日目。

21:07。




「…………」

スー……スー……

ググゥゥッ……ググゥゥッ……


部屋に響くシンの寝息とダンのイビキを聞きながら、電気の消えた部屋を静かに歩く。

向かう先は……青白い月明かりに照らされた、窓際のティーテーブルだ。



「(…………ぃよっと)」


2人を起こさないよう、静かに椅子に腰掛ける。




「…………」


ふと窓を眺めると、もう外は真っ暗。


夜の9時も過ぎれば、庭園には誰も居ない。

庭園の園路をポツポツと照らしてたライトもついさっき消された。噴水のライトアップも一緒に終わり、今見えるのは月光にキラキラ輝く水しぶきだけ。



「(……キレイだ)」


庭園から空に視線を上げれば……欠け始めたお月様と、日本じゃ見られないような満天の星。



日中の騒がしくも賑やかなフーリエとは、まさに真逆。

静かな夜が、僕の心を落ち着かせてくれる。




「(……さて)」


……眠くなるまで、もうちょっとこうして居よう。











西門坂を開通させ、オジサンことシェブさんとお別れした、あの後。

領主屋敷へと戻った僕達は、部屋に戻ってシャワーを浴びたり、僕達と同じく屋敷に泊まってる人達と夕食を食べたりして楽しんだ。


で、その後。

僕達男衆はアーク、コースと別れ、男子部屋に戻って来たんだけど。




…………扉を開けて中に入った、その瞬間だった。



シンとダンの、心に張ってた糸がプッツリ。

そのままベッドに倒れ込み……2人揃ってオヤスミナサイ。泥のように眠り込んでしまった。


まぁ……2人とも戦士とはいえ、慣れない力仕事を4日もやったんだもんな。その疲れは相当なモンだろう。

再び起こすのも可哀想だし、今日の男子部屋は早めに消灯。


で、今に至るって感じだ。





ちなみに、僕は今まだ眠くない。

全然眠くない。もう眠気がブッ飛んじゃって寝れないんだよな……――――






∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴




アレは、今日の夕食の時間。

同じく屋敷に泊ってるフーリエの人々と一緒に、食堂で夕食を食べてた頃の話なんだけど。



料理から目を離してる隙に誰かがイタズラしたみたいで、僕のシチューには胡椒をドッサリ入れられてたんだよな。


まぁ、犯人は一瞬で分かった。

気付かずに食べて『ぅゎ辛っ』って呟いた途端にニヤッとした、一緒に席に着く悪ガキ共だった。




けどまぁ…………残念だったな、悪ガキ共。

狙う相手を間違えたようだ。


僕は結構辛い物でもイケる方なんでね。山盛り胡椒ぐらいの辛さなら難なくゴチソウサマなのだ。



その後、何事もなかったかのようにシチューを平らげる僕。胡椒ドッサリのシチューは着々と減り、ペロッと平らげてしまった。

期待していたであろう僕が辛さに苦しむ様子を見れず、落ち込む悪ガキ共。それどころか彼ら、親御さんにイタズラがバレて叱られる始末。



ハッハッハ。

ざまぁ見やがれだ。




∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂






ただ……辛い物は得意な方なんだけど、実は僕にはちょっと副作用が有ってね。

辛い物を食べると目が醒めちゃって夜寝れなくなるんだよ。


そして、その翌日は大体睡眠不足。

辛い物を食べると眠気に悩まされる明日が待ってるっていう、最悪の副作用だ。



なので僕は、基本的に辛い物は控えてるんだけど……て今、数か月ぶりにこの感覚。

この世界に来てからは辛い物を食べてなかったから、久し振りの副作用に苦しめられている今日この晩だ。



「(ハァ…………困った)」


……眠気に苛まれる1日を想像し、思わず溜め息が零れる。

あー……明日の事を考えると憂鬱だ。




……けどまぁ、もう仕方ない。辛い物を食べちゃったんだから、自然に眠気が帰って来るのを待つしか手は無いのだ。






こうなりゃ、逆にこの目が醒めてる時間をなんとかして有効活用するまでだ。




「(……となれば)」


久し振りに数学者らしく、『本業』でも…………数学の勉強でもやろうかな!











って事で。

面倒臭がりの僕でも、一度決めたらその先は早い。



椅子から静かに立ち上がると、グッスリ眠るシンとダンを横目にリュックへと向かい。

リュックから紙とペン、それから青い表紙の参考書を取り出し。

再び椅子に戻り、勉強セットをティーテーブルに置いたら準備完了。


部屋の電気は点いてないけど、月光が手元を照らしてくれるから大丈夫だ。

シンの寝息はともかくダンのイビキがちょっと耳に障るけど、敢えて気にしない。『多少の騒音が有る方がかえって集中しやすいんだぜ』ってアキが前に言ってたから、それを信じよう。




「(…………さて)」


参考書の表紙を開き、目次を眺める。




「(えーっと……この前は…………)」


1ヶ月くらい前の記憶を遡り、前回の勉強の記憶を思い出す。




確か、範囲的には中3まで進んでるハズだ。

『因数分解・展開』はー……やったやった。

日々お世話になってるインベントリ魔法、【因数分解Ⅰ】ファクタライゼーション【展開Ⅰ】(エクスパンジョン)が何よりの証拠だ。

その次は……『二次関数』。これもやった。

【二次直線Ⅱ】パラボリック・ファンクション【判別Ⅱ】(ディスクリミナント)【共有】(コモン)と大漁だった単元だ。


その次はー……『図形(中学)』。やってない。

今日はこの単元だな。




白衣の袖を捲り上げてペンを持ち、『図形(中学)』のページへと向かう。




……よし。



「(それじゃあ)」


中学図形の勉強、始めますか!
















●図形(中学)


数字やら記号やらアルファベットやらギリシャ文字やらをバンバン使って式を立て、ひたすら計算するみたいな『ザ・数学』とはちょっと異なる分野……図形。

勿論計算だって必要だけど、単なる計算能力だけじゃ突破できない『図形』分野は、中学校の各学年でも勉強する。



そんな中学の図形分野も、小学図形と同じく中学3年間で学ぶ図形分野の内容をココに纏めている。

大事なポイントも6項目、『角の関係』『扇形』『錐』『三角形の合同証明』『相似』『三角形の相似証明』に絞ってある。

後半には中学数学の中でも屈指の難所、『証明』が待っているぞ。




それじゃあ、ポイントの1つ目から読んでいこう。











Point①

『同じ角度の"ペア"』



最初のポイントでは、図形の単元を学ぶ上では重要な『(かく)』についての数学用語から学ぶぞ。

この後のポイントで物事を述べるうえでは欠かせないモンになるから、一通り覚えて欲しい。


まぁ、『数学用語』って言っても心配は御無用だ。日常生活で例えれば『隣』とか『向かい』とか『(はす)向かい』とか、そういった感じの基本的な物だからな。

『へぇー、そんな名前なんだー。』って感じで覚えて欲しい。



それじゃあ、始めよう。






さて。それでは突然ですが問題です。


問1。アルファベットの『X』について、クロス部分の上と下の鋭角はどっちが大きいでしょうか?

問2。アルファベットの『Z』について、右上の鋭角と左下の鋭角の角度はどっちが大きいでしょうか?

問3。数学の記号『(ノットイコール)』について、上の横棒と下の横棒、それぞれが斜め棒とクロスする角度はどっちが大きいでしょうか?




さあ。

正解発表だ。



正解は……問1から問3まで、全部『角度は同じ』だ。

深い意味は有りません。もし考え過ぎちゃった人が居たらゴメンナサイ。


なんでそんな答えになるのか、その理由は『同じ角度になる、"角度のペア"』で説明できるぞ。




数学の世界には、『こんな条件だと、この角度とあの角度は同じ』と見極められる条件……『角度のペア』が、3つ存在する。

で、上の3つの問題が挙げてた『2つの角』は、どれもそのペアに該当するからなのだ。


その名も『対頂角』『同位角』『錯角』。


対頂角とは『2本の線がクロスする場所で、お向かいさん同士の角』。『X』なら上と下、左と右だな。

同位角とは『平行な2本の線に直線がブッ刺さる時、同じ場所同士にいる角』。右上と右上とか、左下と左下、みたいな感じだ。

で、錯覚とは『平行な2本の線に直線がブッ刺さる時、内側の角と内側の角』。正しく『Z形』だ。同位角の対頂角とも言えるぞ。


この関係のどれか1つにでも当てはまれば、2つの角度は『一緒』と断言できる。

誰が何と言おうと『同じ角度』が確定するのだ。




という事で。

この『角度のペア』を踏まえれば、問1は『対頂角』、問2は『錯覚』、問3は『同位角』のペア。

だから、いずれも答えは『角度は同じ』になる、って訳だ。



ちなみにコレ、後でやる『証明』って所で死ぬほど重要になるからな。

よく覚えておこう。











Point②

『扇形は、半径と半径に囲まれた"円の切れ端"』



Pointの②と③では、ユニークな図形についてのお話だ。

四角形や三角形、立方体や円柱とは違う、ちょっと変わった形について説明するぞ。




――――皆さんは、『扇形』という図形をご存知だろうか?


ウチワや扇風機、中にはUSBに繋いで使うハンディファンなんかが蔓延ってた日本じゃ、もう『(おうぎ)』なんて物は淘汰されつつあった。お目に掛かれる機会も減ってたよな。

けど……それでもあの日本に『扇』の名が朽ちる事無く遺っているのは、『扇形』というユニークで便利な図形に自身の名を継いでいたからなのかもしれない。




……って事で、Point②では『扇形』についての説明だ。


扇形とは、『円のうち、2本の半径とその間に挟まれた曲線、この3本の線によって囲まれた平面図形』。

簡単に言えば『カットしたピザ』みたいなモンだな。




で、この曲線の事を『弧』、2本の半径に挟まれた角を特別に『中心角』と言うぞ。



例えば、ホールピザを6人で等分する時を想像してみよう。

ピッタリ6分割するとなれば、ピザに入れる切り込みは『(アスタリスク)』みたいな形が多いよな。

そんな時、1人前のピザの形は『扇形』になる。手で持つ部分が『弧』にあたり、『中心角』は60°になるハズだ。


3人でピザを等分する時には『Y』の字型に切り込みを入れるけど、その時も『扇形』。手で持つ部分が『弧』で、中心角は120°だ。

2人で分ける時は真っ直ぐに切って『半円』形にするけど、ぶっちゃけこの時も中心角が180°の『扇形』だ。

更に言えば、『L』字の切り込みを入れて大きい方を兄が、小さい方を弟が取った時だってどちらも『扇形』と言って問題ない。それぞれ中心角は270°と90°だ。


極論、切ってないホールピザだって360°の扇形だし。


……まぁ、扇形とはそんな感じだ。






それでは、ココからが扇形についての本題。


円の円周とか面積を求める時には、『2πr(ニーパイアール)』『πr²(パイアールニジョー)』という偉大な呪文が有ったんだよな。

それじゃあ、円の一部である『扇形』の『弧の長さ』『面積』を求めるための呪文も、数学の世界には存在するのだろうか?




答えは、『ある』。

ちょっと長いから人によっては憶えづらいかもしれないんだけど……『半径の長さ:r』と『中心角の角度:θ(シータ)』さえ分かれば、呪文に当てはめて求めることが出来るぞ。



まず『弧の長さ』の公式は……コレだ。


2πr(ニーパイアール) × (カケル)(θ / 360°サンビャクロクジュードブンノシータ)




続いて『面積』の公式は……コレだ。


πr²(パイアールニジョー) × (カケル)(θ / 360°サンビャクロクジュードブンノシータ)




……パッと見、『コレって見た事が有る?』って思った人も多いかもしれないけど、まさしくその通りだ。

実はコレ、円の円周と面積を求める式に(θ / 360°サンビャクロクジュードブンノシータ)を掛けただけなんだよね。


言ってみれば、(θ / 360°)ってのは『全体()に対する部分(扇形)()()』。

小学校の算数でやった『割合』を付け足しただけの、単なる手抜き呪文なのだ。




ユニークな形だからと言って、『難しい』と思う必要は無い。

扇形の『弧の長さ』も『面積』も、結構簡単に求められちゃうのだ。











Point③

『”錐”ときたら1/3』



さて。それじゃあ、次はユニークな立体図形、『錐体(すいたい)』についてだ。


錐体とは、いわゆる『先っぽのとんがった立体図形』。

イメージするなら『工事現場によくあるコーン』とか、『ピラミッド』とか、そんな感じだな。


円柱や角柱を削って、とんがらせた形。

コレが錐だ。




『柱』な立体には種類があり、底面の形によって円柱や三角柱、四角柱みたいに名前があったよな。

『錐』にも同様に種類があって、同じく底面の形によって円錐や四角錐、三角錐みたいに呼ぶぞ。



……ちょっと図形が複雑になってきたから、『イマイチ錐体を頭の中で想像できない!』ってが居るかもしれない。

そんな時には、錐体の『見取り図』を描いてみよう。


立体の辺が直接見える辺を普通の線で、隠れて見えない辺を点線で描くっていうスタイルの図で、コレを見れば頭の中で図形の形をパッとイメージしやすくなるかもしれない。


お試しあれ。






さて。

それじゃあ、本題・錐体の体積に移るぞ。




……っと言っても、ぶっちゃけコレも『手抜き呪文』なんだよね。

もう最初に言っちゃう。コレも手抜き呪文だ。



円錐や角錐と言った錐体は、円柱や角柱の親戚。

なので、錐体の体積も角柱や円柱の体積の公式の付け足しバージョンなんだよね。



って事で。

錐体の体積の公式が……コレだ。



(1/3)(サンブンノイチ)×(カケル)底面積×高さテーメンセキンカケルタカサ



底面積をS、高さをhに置き換えて『(1/3(サンブンノイチ))Sh(エスエイチ)』って書く事も出来るぞ。




……そう。


つまり、錐体の体積は円柱や角柱の式に1/3(3分の1)を掛けただけ。

レッキとした手抜き呪文だ。



難しい事は言わない。

体積は、『錐といえば1/3』。


それさえ覚えとけば、錐体の体積だって簡単に求められちゃうのだ。




……なんで『1/3』なのかは、今度時間が有った時に語ろう。











……さて。

それじゃあ、次はPoint④だ!


中学数学の一大難所、『証明』がついに姿を現すぞ!

※Point①の問2、問3について


小説の全体的な流れを考慮した結果、本文からは削除しましたが、『Zおよび≠の横線はそれぞれ平行である』という前提の下で解答および話を進めております。

深く考え過ぎてしまった方には、大変なご迷惑をお掛けした事をお詫びするとともに、こんな拙作を熱心に読んで頂き深謝申し上げたいと思います。

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

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ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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