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16-7. 復元

って事で。

あの後、僕達はトラスホームさんと一緒に自宅の確認に向かっていた。

特に断る理由も無かったし、トラスホームさんが凄い行きたそうにしてたからね。




『トラスホームさん、ココを左です』

『ああ、西門坂に入るのですね。承知しました』


建物の被害がまぁまぁ軽めの海岸通りから左折し、壊滅状態の西門坂へ。

多少、道の上の瓦礫は除けられて歩くスペースが出来てるけど……馬車がすれ違うほどの余裕は無い。



『西門坂……、相変わらず酷い有様ですね』

『はい…………』


鋼鉄の扉がドロドロに融かされた西門から、魔物の軍勢は攻め込んで来たんだからな。

西門坂の被害が甚大なのも仕方ないだろう。



『そうですね……やはり、此処の復旧が何より最優先でしょう。西門坂が開通しないと他の街からの物資や人の流れが滞ります』


成程……。

西門坂は、東街道を通して王都や風の街・テイラーと繋がっているからな。

コレが『被害状況を確認』……、こうやって準備や作業の優先順位を決めていくんだな。


ちょっと勉強になった。






『そういえば、ケースケ様』

『はい。なんでしょう?』


瓦礫を避けて坂を上っていると、トラスホームさんから声が掛かる。



『ケースケ様方はこのフーリエにお家を持たれていたのですよね』

『はい』

(わたくし)はてっきり、宿に滞在なされているのかと』


あー……それな。

やっぱり『旅人』とか『冒険者』といえば宿、っていうイメージあるよね。



『最初は僕達もそうしようって思ってたんですけどね。5人でフーリエに滞在するなら、宿よりも借家を借りた方が安上がりだったので』

『ああ、成程。人数が多いと宿代は馬鹿になりませんからね』


そうそう。

……まぁ、今となっちゃブロー・リザードの買取強化キャンペーンのお陰でお金には全く悩んでないけどね。



『そうでなくとも、勇者であられるケースケ様方は(わたくし)の屋敷でお迎えしたのですが』

『いやいや、そんな』


勇者の肩書きを濫用するような真似しませんよ。

ちゃんと冒険者らしく、自分達の寝床ぐらいは自分達で用意するからな。











そんな話をしつつ、瓦礫まみれの西門坂をひたすら上り。

西門広場の一本手前の交差点まで来たら、ソコで右折。


空き家通りは、その日も通常通り。

普段と変わらず人気(ひとけ)は無く、ヒッソリとしていた。



『コッチです』

『はい。……それにしても、随分と中心地から外れた所に住まわれているのですね』

『そうですね』


まぁ……単にコースの『眺めが良い』って基準だけで選んだからな。



『この辺りは地価と眺望にこそ恵まれど……朝市をはじめ街の何処へ行くにも不便な、昔からの空き家多発地帯なのですよ』

『へぇー……』


成程……。

この空き家通りは、立地上もう覆しようのない状態だったのか。




……でもさ。



『けどよおトラスホームさん。基本狩りにしか行かねえ俺らからすりゃ、俺らの家は門に近くて助かってるぞ』


そうそう。ダンの言う通りだ。

狩りを生業としている僕達からすれば、朝市より門に近い方が楽なんだよね。




…… すると。


『ああ、成程。……流石は冒険者、そんな見方も有るのですね』


トラスホームさん、目を見開いて頷き。

胸ポケットから手帳を取り出し、スラスラとメモを始める。



『非戦闘職の身分では中々思いつかない視点……、勉強になります』

『あぁ……はい』


そう言われちゃうと、同じく非戦闘職の数学者が何やってんだって話だけど……トラスホームさんのお役に立てて幸いです。











……さて。



『そろそろだよー、トラスホームさん!』

『左様ですか』


そんな話をしながら緩やかな右カーブを歩いていると、家が近付いてきた。

……毎日この道を通っていれば、家への距離感もフィーリングで感じ取れるようになってくるモンだ。




『ケースケ様方の御自宅……一体、如何程の被害を被られて……』


トラスホームさんの顔がふと、真剣になり。

ギュッとビジネスリュックを握る右手にも力が入る。



そのまま、僕達は隣の隣の家を通り過ぎ……。


隣の家を通り過ぎる…………————






領主屋敷から歩く事、約30分。

ついに、僕達の家が姿を現した。






『うわあ…………』



昨日から変化は無いけど、相変わらず変わり果てた姿の家。


扉をブチ抜かれた玄関、破られたガラス窓と下に散らばる破片。

所々ブチ抜かれた壁に、ピキピキと走る大きな亀裂。


もう2回目になる僕達にはショックは無いけど、トラスホームさんは衝撃を受けているようだ。




『…………これは酷い……』


今すぐにも家自体が倒壊しそう……って訳じゃないけど、修繕してまた住めるようになるのかは分からない。

そんな光景に足を止め、呆然としながらトラスホームさんは見つめていた。






『……ケースケ様』

『なんでしょうか、トラスホームさん?』


一通り家の外見を確認し終えると…………トラスホームさんは、僕達に向かって()()した。



『これは…………建て直しが必要、かもしれませんね』

『……そうですか』


そっか。

やっぱりね……。



『建て直しってさー……1度壊さないとダメなんだよね……?』

『左様です、コース様』

『そっかぁー……』


トラスホームさんの答えに、ちょっと肩を落とすコース。



『仕方ありませんよ、コース』

『ほら、落ち込まないで……』

『うん……シン、アーク、ありがと』


たかが1ヶ月、たかが借家……とはいえ、結構この家には愛着を持ってたもんな。

コースの気持ちも分かるよ。




……すると。



『コース様。家を一度取り壊すのは避けられませんが、”そっくりに建て直す”という事なら出来ますよ』

『…………えっ……ッ!?』


トラスホームさんの口から飛び出した名案。

それを聞いたコースの表情が、光を取り戻す。



『此処は”借家”なのですよね?』

『ええ』

『ならば、家主がこの家の設計図を保管している筈。それを基にすれば、復元は容易ですよ』

『『『『『おぉ!』』』』』


コースのみならず、実はちょっと落ち込んでいた僕達の表情までパッと明るくなる。

……そうか、復元なんて手が有るのか。



『やったじゃねえか、コース!』

『うんッ! 復元(フクゲン)スゴーい!』


落ち込んでたコースの気分も一瞬で回復だ。



『では、ケースケ様。如何致しましょうか?』

『じゃあ……それでお願いします』

『承知しました。復興計画に組み込んでおきますね』






という事で。

『ヤッターヤッター!』っとコースが飛び跳ねて喜んでいる所を眺めていると。



『あっ、そうそう』


思い出したかのように呟くトラスホームさん。



『どうしたんですか?』


僕の言葉に釣られ、何事かと4人も近寄ってきた。


『あぁ、皆様。実は……復元のついでに”間取りを変えたり”、”部屋を増やしたり”という改築も可能なのを思い出しまして』

『『『『『おぉ!!』』』』』


そんなオプションが存在するのか!

そう言われちゃうと……ついつい夢が膨らむ。



『勿論、建物の高さや強度的な面等で制約は有りますし、家主の許可も要りますが……(わたくし)の旧友の設計職人に頼めば、出来る範囲で復元と改築を実現してくれるかも……』

『『『『『おぉ!!』』』』』


リフォームか……。

なんだか夢が膨らんじゃうな————






『ハイハーイ! 私お店開きたーい!』

『『『『お店……ッ!?』』』』



『お店……ですか、コース?』

『そーそー! 自分のお店を持つの、昔からの夢だったんだよねー!』

『そんな事、俺ら聞かされてなかったぞ……』

『うん、コレ今まで誰にも喋ってないもん!』


そうだったんだ……。

……でもまぁ、女の子のなりたい職業で『パン屋さん』とか『ケーキ屋さん』とかって割とメジャーだしな。

変な話でもない。



……けど、ちなみにだ。



『ところで、コース。一応聞くけど……お店って、()()()()だ?』

『えっ………………』


そう、尋ねてみると————











『………………っ』




コース、凍結(フリーズ)






『……そこは漠然としてんのな』

『………………えっ、エヘヘ』


照れ笑いで誤魔化すコース。



『そこが大事なんじゃねえか!』

『計画も無いのでは、改築も進められませんって!』

『ごめんなさーい……』


すぐさまダンとシンに突っ込まれ、ションボリするコース。




……けどまぁ、将来が漠然としてるのは仕方ないよな。

ぶっちゃけ、僕もだし。






————日本に居た頃に『なんで大学進学目指してんのか』って言われたら……僕は答えらんなかった。

『とりあえず』って言うか、黙り込むかの2択だった。


けど、そんな将来漠然系の僕にも父と母は『好きな大学に行けば良い』と言ってくれた。『大卒までの学費も出してやる』って言ってくれた。



但し……『卒業までになりたい職業を見つけ、それに就く事』っていう条件付きで。


逆に言えば……『大学という”猶予”をやるから、ちゃんとなりたい職業を見つけろ』って事だ。






そう。

あの時、父と母は……僕に『どんな職業にでも就ける()()()』を開いてくれてたんだ————






そして、今。

僕は……コースの先生をやっている。


彼女のご両親にはお会いした事は無い。

無いけど…………それってつまり、僕が両親の代わりみたいなモンだ。






『トラスホームさん』

『如何致しましたか、ケースケ様?』



だったら、さ。

コースの可能性は……僕が拓いてあげなきゃだ。



『何屋をやるかは分からない……から、”店舗スペース”って事である程度の空間を取る、っていうのは出来ますかね?』




すると。

今のやりとりを聞いていたトラスホームさんは、ニッコリと頷くと。



『無論です。頼んでみますね』


そう、言ってくれた。




『ありがとうございます』

『いえ。勇者のみならず、お優しい先生でもあるケースケ様のお願いですから……お断り出来る訳が御座いませんよ』


そんな言われちゃ恥ずかしいけど……今回はトラスホームさんの恩に着ちゃおう。











その後、トラスホームさんは再び胸ポケットから手帳を取り出すと……ボソボソ呟きながらメモし始めた。



『復興計画に……”ケースケ様方の邸宅の再建”……っと。……改築要望に、『店舗スペース』。………………()()()()()()()()()で』

『いやいやいやいや』


……流石にそれはお断りしておいた。

そこまでしなくて良いですから、トラスホームさん。






∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
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