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16-6-1. 『フーリエ復興中・Step①』

ガチャッ

「あー、疲れた……」

「今日もガッツリ働いたぞ!」

「先生もダンも、復興作業お疲れ様でした」


扉の鍵を開け、ダンとシンと共に部屋に入る。



目に入るのは……復興作業へ出掛けた時のまんまの、広い部屋。

フカフカベッドが3つ並べられ、壁にはお洒落な絵画。

天井には、邪魔にならないコンパクトサイズのシャンデリア。

大きな窓からは西陽が差し込み、床の真っ赤な絨毯にはオレンジ色の窓の模様が映っている。



「フゥ……」


そんな部屋の入口で靴を脱ぎ、窓の近くに置かれた椅子に腰掛ける。




「…………」


窓から外を眺めると、そこに広がるのは大きな庭園。

植え込みに咲き誇る花々、綺麗に剪定が施された木々。

庭園の中央には、勢い良く水を噴き出して水飛沫を輝かせる噴水。


そして————庭園の様々な所に積まれた、木材や粘土、塗料といった建築資材。

そんな資材の山の間を縫って駆け回る、子ども達。


……楽しげながらも、なんだか狭苦しそうだ。




「……早く復興、終わらせないとな」


そんな光景を見ながら、窓に向かってひとり呟いた。











港町・フーリエ滞在38日目。

16:48。


『フーリエ包囲事件』があったあの日から、4日が過ぎた。

僕達は今……トラスホームさんの屋敷に部屋を借り、市民の皆と一緒に復興作業に勤しんでます。




「もう4日かぁ…………」


庭園を囲む木々へと沈んでいく夕陽を眺めながら、復興に明け暮れる日々を思い出す。











⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥






忘れもしない、4日前のあの恥ずかしいヒーローインタビュー……アレを以って僕達の『戦い』は終わりを迎え、フーリエの復興は始まった。


黒歴史とも言えるヒーローインタビューの後、僕達に取って代わって大画面モニターに映ったのは……トラスホームさんだった。




『……まさか、今のを見てトラスホームさんもヒーローインタビュー受けたくなっちゃったんですか?』

『そんな訳無いじゃないですか』


……苦笑いで返されてしまった。



まぁ、そんな冗談はさておいて。

門番さんに持たせた黒い箱に向かって深呼吸を1つすると……静まり返った市民に向かって、トラスホームさんも宣言を始めた。






『――――皆さん…………もうご存じの通り、勇者・ケースケ様をはじめシン様、コース様、ダン様……そしてアーク様。この5人がフーリエを護って下さり、危機は過ぎ去りました』

………………

………………


領主様の有り難きお言葉に、誰一人喋らずに聞き入れる市民。




『そしてこれからは……私達・フーリエの民の出番です』

ザワザワザワザワ………………

ザワザワザワザワ………………


ちょっと市民がどよめき始めた。

だけど……そんな騒めきにも負けず、トラスホームさんは言葉を続けた。




『魔物に立ち向かう事は(あた)わずとも……街を再び興す事は出来る筈。――――フーリエを護って下さったこの御恩、是非とも"復興"を以って御返ししませんか?』



ウオオォォォォォォォォ!!!

オオオォォォォォォォォ!!!


復興! 復興!

復興!! 復興!!




そして始まった『復興』の大合唱と手拍子。

西門坂に響く『復興コール』も、その後しばらく鳴り止む事は無かった。


……うん。

あの瞬間、トラスホームさんも十分ヒーローの素質有るんじゃないかなって思った。











という事で。




災害は過ぎ去った。

凱旋は終わった。

人々は西門坂から各々の家へと散り、復興が始まった。


……けど、破壊されたフーリエには、僕達みたいに家を失った人達が居る。



『衣食住』のうち『住』を失った。

『衣』もダメになってるかもしれない。

お金を持ってなければ『食』だって買えない。


ついさっきまで有ったはずの『安息の地』は、今や無い。



そんな時に必要な物――――それは、『生活を確保する事』だ。






Step①

『生活の確保』



復興する上で大事なのは、まず何より『生活の確保』。


復興と言えば、瓦礫の片付けとか建物を再建とかを真っ先に思い浮かべるだろうけど…………何より大事なのは、仮でも良いから『失われた衣食住』のシステムを復旧する事。

それさえ上手く回ればなんとかなるし、逆にそれが回らないと本末転倒なのだ。




それをしっかり弁えていた、トラスホームさんは。

バラバラと市民が解散していく中、屋敷から連れてきた使用人さん達を呼び集めると……早速、指令を下した。



『ではまず、復興の第一段階として…………寝床を失くしたフーリエの民に領主屋敷の客間の提供、それと庭園で炊き出しを行います。手分けして街中を回り、困っている民にはそのように伝えて下さい』

『『『『『承知しました、御主人様』』』』』


揃って返事し、頭を下げる使用人さん達。



『宜しく』


小さく呟いて頷く、トラスホームさん。

それを聞いた使用人さん達は、市民を追いかけるように街の四方へと散っていった。






……すると。

使用人さん達を見送り、独りになったトラスホームさんは。



『……ところで。ケースケ様、アーク様方』

『『はい』』


その様子を眺めてた僕達に、近付くと。




『皆様の御自宅も、被害を被られたのですよね?』

『……はい』

『では、どうぞ皆様も(わたくし)の屋敷へ』


……お誘いを受けてしまった。




『えっ、ホントー!?』

『俺らも良いのかよ、トラスホームさん!?』

()()()お屋敷に……またお邪魔してしまっても……!?』

『無論です』

『『『ヤッター!』』』


シン達のテンションが急上昇。



『”寝床が無い”と仰る英雄を放り置くような罰当たり、出来る訳が御座いませんから』

『……いやいや、そんな罰当たりだなんて』


僕達は決して神様とかじゃないので、別に放り置かれても何の罰も下しません。

……以降ちょっと冷たくなったりするかもしれないけど。




まぁ、そんな事はどうでも良くて。


折角、トラスホームさんから受けたお誘いなのだ。

実際、僕達ならテント泊でも十分問題ないんだけど……せっかくのお誘いだし、お邪魔させて貰っちゃおう。



『そんじゃあ……お言葉に甘えて』

『では、一緒に参りましょう』






ちなみに。



『トラスホームさん……』

『何でしょうか、シン様?』

『もし、もし私達が部屋を借りたとして……露頭に迷う市民が出たりしたら…………』


領主屋敷へ向かう途中、シンのいつものヤツ(心配性)が発動。

あー、また始まったよ……って思ってたんだけど、その後がまた衝撃だったんだよな。




『ああ、それについては御心配に及びませんよ。客間の数は正確に把握しておりませんが、およそ300はある筈ですので』


へ、へぇー……。



『……そんなに部屋が有るんですね』

『左様です』

『それなら……私達がお泊まりしても全然問題なさそうですね』

『はい』











……いや。


いやいやいやいや。

ちょっと待てよ。


……聞き間違いじゃないよな、客間の数。






『さっ————


『『『『『300!?』』』』』

『はい。左様です』



僕達、呆然。




……聞き間違いじゃなかった。


衝撃の事実。

領主屋敷の間取り、なんと300LDK超え。




『300、部屋……ですか』

『左様です』



ついつい、もう一度聞き返してしまった。


……いや、確かにこの前お邪魔した時には『随分デカい屋敷だな』とは思ったけどさ。




キャパがホテルじゃんか。






『それなら……大丈夫ですね』

『はい。御心配には及びませんよ、シン様』


……けどまぁ、シンの心配性も無事解消したので一件落着だ。

良かった良かった。












……って事で。


その後、トラスホームさんと一緒に屋敷へと向かい……通されたのが、今僕達が居るこの部屋。

5階の一番端の部屋だ。



最初は『皆様に一部屋ずつ準備致しますので、少々お待ちくださいね』って言われたんだけど……流石にそれは遠慮しといた。

5部屋も要らない。僕達男衆とアーク・コース用の女子部屋、2室あれば十分なのだ。




そう言うと……少し待たされた後に通されたのは、まさかの『最上階の角部屋』。

5階の廊下を突き当たった右が男衆。左が女子部屋って感じだった。



トラスホームさん……そんなに気を遣わなくてもいいのに。

……っとは思ったんだけど、そのくらいの贅沢なら許されるよね。











∫∫∫∫∫∫∫∫∫∫






という事で、復興の第一歩・『生活の確保』は無事完了。

僕達のフーリエ復興の歯車が、ココから回り始めたのだ。

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

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ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
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どうか、この物語が
 
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現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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