16-4. 報Ⅰ
という事で。
なんとか壊れた家から必要物資を回収した僕達は。
「まぁ……とりあえず西門坂に行くか」
「ええ。ここに居たって何も始まらないもんね」
特に行く所も決まってないし当ても無いけど、とりあえず空き家通りを逆戻りすることにした。
まぁ……『何も無い、誰も居ない空き家通りでただ突っ立ってる』か『荒らされて何も無い、誰も居ない西門坂に行く』のどっちかと言われりゃ、とりあえず後者だよね。
動けば何か有るかもしれないし、立ち往生してるよりはマシだろう。
……って思ったんだけど。
「じゃーね、私たちのお家…………」
力の抜けた手でバイバイするコース。窓からの眺めを一番気に入ってたからか、誰よりも悲しげだ。
グウウゥゥゥゥ……
「じゃーな、俺らのマグロ…………」
腹を鳴らしながらバイバイするダン。鉄火丼の想像を壊されたからか、さっきより腹の鳴り方が一層酷い。
……いつまでマグロロス引き摺ってんだよ。
ズルズルズルズル……
「コースもダンも、そろそろ行きますよ!」
そんなコースとダンの後ろ襟をグイッと掴み、引き摺って歩くシン。
ズルズルズルズル……
「うー……」
「クソォ……」
「ほら、いつまで後ろ髪引かれてるんですかッ!」
さっきまでの弱気な心配性モードとは打って変わり、なんだかしっかりしている。
……小柄なコースはともかくガタイの良いダンまで難なく引き摺っちゃう辺り、シンの素のATKって結構凄いなって思った。
「……もうッ! しつこいですよ! いつまで未練を残してるんですか?!」
っと。
いつまでも立ち上がらないコースとダンに、シンがちょっと怒る。
「ほら2人ともいい加減立って! 前を見て歩いて下――――
「……そーゆーシンはさー、お家が壊されちゃって悲しくないの?」
「そうだ! そんなキッパリ諦めちまうとか……悔しくねえのかよ!?」
コースとダンも、シンに負けじと反抗――――
「…………」
ズルズルズッ…………
————すると、急にシンの足が止まった。
「「…………?」」
『ん?』という表情のコースとダン。
襟を掴む拳の先へ、ゆっくり視線を向けると。
2人の目に、映ったのは。
「…………っ」
黙って俯く、シンだった。
顎には力が入り、歯はグッと食いしばられ。
金色の前髪が垂れ下がって邪魔し、彼の目は見えない。
2人の後ろ襟を掴む拳も、よく見るとプルプル震えている。
「「…………」」
コースもダンも、シンの感情を知るにはそれで十分だった。
「…………勿論……悔しいですよ。、私だって」
俯いたまま小さく呟くシン。
「じゃあ————
「けど、決めましたよね? 『フーリエを復興するんだ』って」
「「…………っ」」
思わずハッと表情を変える、コースとダン。
そのままシンは言葉を続けた。
「なら……ダンもコースも、いつまでも壊れた家に執着残してないで行動しませんか? 寝床が無くなったなら宿を探す。食料が無くなったなら買う。家が無くなったなら……建て直すまで。それだけじゃないですか」
「「…………」」
俯いた頭を上げ、振り返って家に目をやるシン。
「折角5人で沢山の魔物を倒して、赤鬼も倒して、フーリエも壊滅から守って……その結果、家が壊されていた。決して見返りを求めてる訳じゃないですけど『報われないな』って思いましたよ。下心って訳じゃないですけど『良い事が有ってもいいのに』って思いましたよ。……――――けど」
ギュッと目を瞑り、首をプイッと振ると。
「起きた事は元に戻りません。報われなくても仕方ありません。……だから、2人とも」
2人と目を合わせ、告げた。
「いつまでも未練タラタラ引き摺ってないで、前に向かって行動して下さい。私だって、2人を引き摺って前に進むの結構大変なんですからね。全く」
「……シン…………」
「お……おう…………」
シンの瞳をジッと見つめる、コースとダン。
そして。
「うん、わかった」
「そうだな、シン。お前の言う通りだ」
コースとダンは、自力で立ち上がると————
「それじゃあ、コースもダンも……行きますよ!」
「うん!」
「おう!」
空き家通りを猛スピードで駆けて行ってしまった。
「ぉ、おいお前ら! 僕達を置いて行————
「みんな! ちょ、ちょっと待っ————
……僕達を置き去りにして。
「ハァ…………まーた置いてかれちゃったか……」
「今の今までズルズル引き摺られてたのに、気付いたら走って行っちゃうし……世話が焼けるわね」
「……まぁ、3人とも本当に仲良くて何よりだ」
「ええ。確かに」
上に立つ者からすりゃ、『仲の悪い部下達を纏める事』ほど辛いモンは無いからな。多少世話が焼けるのなんてドーってこと無いさ。
皆仲良しで先生は嬉しいです。
「じゃあ……わたし達も追いかけましょう、ケースケ?」
「おぅ」
そんな事を思いつつ、僕とアークもシン達の後を追って空き家通りを引き返した。
のだが。
『走ればじきに追いつくだろ』って思ってた僕がアサハカでした。
「ハァ、ハァ、……」
家を出て早々、ガス欠を起こす僕の身体。
「くぅッ…………もうダメだぁ……」
「頑張ってケースケ! シン達に追いつけないよ!」
今はアークの声援を受けてなんとか付いてってる状態です。
……やっぱ『疲労と空腹』ってダメだな。全然身体が動かない。『腹が減ってはナントヤラ』って本当良く出来た言葉だなって思うよ。
「ハァ、ハァ…………全ッ然追いつかないじゃんか……」
走っても走っても、緩い左カーブの先に消えたシン達の影は現れない。
……恐るべし彼らの体力。さっきアレほど全力で戦っときながら、まだ体力が残ってるなんて。
「彼らのスタミナ……一体どうなってんだよ」
「ね。3人ともどこまで行っちゃったのかしら?」
……そういうアークも疲れを見せる事なく走ってるけどね。普通に。
ハァ……これがコレが戦闘職と非戦闘職の差か。
改めてこの大きな隔たりを思い知らされてしまったよ。
とまぁ、今更始まった訳でもない僕の残念ステータスを恨みつつも、なんとかアークと空き家通りを引き返していると。
「……おっ!」
「居たわ!」
もうすぐで西門坂との交差点が見えてくるって所で、ついにカーブの奥から3人の後ろ姿が現れた。
ゴールが見えて少し元気を取り戻す僕。
「3人とも、あそこで待ってくれてたのかな?」
「おぅ」
道の真ん中で僕達に背中を向け、横並びで立ち止まる3人。
……良かった。アークの言う通り、僕達が追いつくのを待ってくれてたみたいだ。
「おーい! シン、コース、ダン!」
「……あっ、先生! アーク!」
「おっ、来たか!」
「待ってたよー!」
息が切れ切れになりつつも遠くから声を掛けると、シン達もすぐ気付いたようだ。
振り返ってこちらに手を振っている。
「待ってました。先生、アーク」
「2人とも遅かったじゃーん!」
「早く行こうぜ! 復興!」
「ハァ、ハァ……済まん済まん…………」
色々文句を言われながらも、無事3人と合流。
……ってか僕、謝る立場じゃないと思うんだけど。
フゥ……まぁいいや。
そんな事は置いといて――――
ザワザワザワザワ……
「……ん?」
荒い呼吸が収まって気持ちも落ち着いてくると……なんだか周囲が騒がしいことに気付く。
「……なんだ?」
さっきまで、荒らされた街はドコもカシコも静か。
人や動物も居らず、フーリエはゴーストタウン状態と化してたハズだったんだけど……今じゃ人々のザワめきがうっすら聞こえる。
……何が起きてんだろう?
そう思いながらも、ザワザワの聞こえる方向――――正面、目の前に立つシン達の肩越しに奥へ目をやると。
空き家通りの先に見えたのは。
「……なっ、なんだアレ!?」
空き家通りと、そこそこ道幅の広い西門坂がクロスする交差点。
そこを、ギッシリと埋め尽くす……無数の人。
西門坂に突如現れた、謎の人だかりだった。




