15-29. 蹂躙Ⅸ
という事で。
あの後、僕はアークを呼び戻し。
着々と包囲の輪を狭めて来るゴーレムを倒すため、アークに協力をお願いしていた。
「こんな感じなんだけど……お願いできるか、アーク?」
「……ええ。多分、大丈夫」
僕の考えを伝えると、少し間を置いて頷くアーク。
「オッケー。じゃあ、頼んだ」
「うん。初めてだけど、出来る限りやってみるね」
「おぅ」
……さすがアークだ。頼りにしてます。
そう心の中で思いつつ、ゴーレム軍団に目を向ける。
このゴーレム軍団……僕の中では、間違いなく今日一番の強敵だと思っている。
ゴーレムの足取りは、そこまで速くない。
ズシン、ズシンとゆっくり包囲網を詰めてくるものの……完全に取り囲まれるまでは、まだ多少時間が有る。
けど……奴らの厄介な所は『タフさ』だ。
狼や熊は、首とかの急所を狙えば一撃で沈められたんだけど……ゴーレムは四肢を全部切り落とすまで、止まらない。
残った手足でゾンビの如くやって来るのだ。
身体が大きいから狙いやすいとはいえ、1頭倒すのに4回も攻撃を仕掛けなきゃいけないとか……面倒極まりない。
これを5人全員でやったとしても、結果はタカが知れてる。
『完全に取り囲まれたら終了』のタイムリミット付きの僕達にとっちゃ、詰みだ。
単なる『詰みゲー』でしかなかった。
「はァァァァッ!」
そんな『詰みゲー』感が一層実感できてしまうのが、今まさにゴーレム軍団に立ち向かっているシンの姿だ。
「ほッ!」
パアァァァンッ!!
ゴーレムの掌叩きつけをスッと躱すと、シンの居た砂地がクレーターに作り変えられる。
……見てるだけでも鳥肌が立つ。
「【強斬Ⅷ】ッ!!」
その隙にもシンはゴーレムの懐に入り込み、長剣を振り抜き。
スパァァン!
右太腿を鮮やかに一刀両断。
ズゥゥゥゥン!!!
片足を斬り落とされたゴーレムはバランスを崩し、そのままうつ伏せに倒れる。
……のだが、それでもゴーレムは動きを止めず。
ホフク前進でシンへと迫る。
「……もう! やってられませんッ!」
結局、両肩と左足を切り落とすまで動きは止まらず。
その間にも、他のゴーレムは包囲網を狭めており。
倒れたゴーレムの所には、新たに後ろからゴーレムが補充され。
ゴーレムを倒せど倒せど、一向に減った気配は無く。
代わりに減るのは、タイムリミットまでの残り時間。
正に、『詰みゲー』のド真ん中だった。
このままだと……何も出来ないまま、タイムリミットまで一直線だ。
あの威力の『爆烈叩きつけ』は……僕のDEFじゃ、7倍したところで意味が無い。多分。
ダンの7倍DEFなら耐えられるかもしれないけど、いずれにせよステータス加算の効果が切れたらお終いだ。
何千というゴーレムに取り囲まれ……さっきみたいな『爆烈叩きつけ』を絶え間なく喰らい続け……無残に殺されるのがオチだった。
……普段の僕、だったらね。
普段の僕だったら、この辺で『ヤバいヤバいヤバい』とか言って慌てふためいた後に……とりあえずゴーレムを倒して回ってたな。
そして詰みゲーのクライマックスへと一直線にひた走り……爆烈叩きつけ。
絶対そんなシナリオになってた自信がある。
けど……冷静になって落ち着いて考えれば、話は別だ。
僕の頭は、さっきのアークとぶつかるハプニング……アレのお陰で今じゃスッキリ冷えている。
そして……思い付いちゃったのだ。
『必死の抵抗も虚しくゴーレム包囲からの永久爆裂叩きつけで死亡エンド』、その最悪シナリオを……回避する方法を。
「それじゃ……行くわ、ケースケ」
「おぅ」
一段と近づいてきたゴーレム軍団を前に、アークが呟くと。
「…………」
両手で握ったミスリルの槍を、彼女自身の顔の前に持ち上げ。
「はッ」
ボォゥッ!!!
短い掛け声と共に、槍全体に炎を纏わせる。
……ココまでは特に何の変哲もない。アークがいつもやってる『魔法戦士スタイル』だ。
――――だけど、違うのはココから。
「うーん………………」
ボウゥゥゥ!!
鋭い眼つきで槍を見つめながら、槍の火力を調整する。
「くぅッ…………」
ボゥゥゥ……
……なかなか上手く火力が操れず、歯を食いしばって集中するアーク。
すると。
「こっ…………こんな感じかな!?」
ポフッ……
かわいい音と共に、槍の中央部の火が消え。
ミスリルの槍がむき出しになった、握り拳一つ分のスペースが現れる。
「おぉ!! 凄い!!」
そう! コレだよコレ!
正に僕が想像してた通りの状態になり、思わず声が零れる。
「ケースケ…………掴める?」
「おぅ!」
アークに促され、ちょっと興奮しつつも恐る恐る槍に右手を伸ばし――――
「…………っ」
ミスリルの槍を、掴んだ。
槍の表面は……じんわりと温かい。
それと……なんか、しっくりくる感覚。
アレだ。[数学の参考書]でよくある『魔力が吸い付けられる』感覚みたいだ。
右手の手首が時々炎に炙られて熱いけど……そんなのは我慢だ。
アークも【火系統魔法】の制御を頑張ってるんだし、甘い事は言ってらんない。
「……熱くない? 大丈夫?」
「大丈夫」
心配げな顔で尋ねるアークに、手首の熱さを押し殺して答える。
「…………炎、まだ完全には制御しきれてないんだけど……」
「いや、そんな事ないって」
それどころか逆だよ逆。
「むしろ、一発で成功したじゃんか」
「……え?」
僕はさっき、アークに……『一緒に炎の槍を握らせて欲しい』ってお願いをしたのだ。
今まで『槍全体を炎で纏わせる』事しかしていなかったアークには『部分的に火を消す』なんてのは初めてだった。……ってか、そんな経験ある方がが珍しい。
だから……無理を承知でそうお願いした。
けど……アークは一発で大成功させちゃったのだ。
「十分制御できてるよ、アーク」
「そんなに言われちゃうと……フフッ」
ボゥッ!!!
アークの照れ笑いと同時、火力調節が乱れ。
「熱ッ!!?」
槍を握ってた指の間から炎が溢れ出し、思わず手を放す。
……右掌が軽く炙られてしまった。
「あッ、ごめん!」
「……おぅ」
さて。
気を取り直して、っと。
アークの火力調整も、一度出来たら慣れたようで。
僕達は今、再びミスリルの槍を2人で握っている。
「そんじゃあ……準備は良いか、アーク?」
「ええ。いつでも」
オッケー。
……タイムリミットも刻一刻と迫ってるし、さっさと本題に移ろう。
「「…………」」
アークが両手で、僕が右手で握る炎の槍……その矛先には、徐々に迫ってくるゴーレム。
そんなゴーレムの軍団を前にして、2人黙って集中する。
……冷静になった僕が、思い付いた作戦。
……火傷の危険を冒し、アークの炎の槍を握ってまで僕がやりたかった事。
それは————
「わたしの【火系統魔法】と……————
炎の槍の先端に現れる、燃えるような赤に輝く球。
「僕の【演算魔法】の複合魔法……――――
その球が、次第に大きくなり。
「「その名も……————
一際大きく輝いた、その瞬間。
「「火系統・演算複合魔法――――火炎放射!!!」」
球から勢い良く飛び出す、豪炎。
その豪炎は……y=0.5xの軌跡を描きながら、ウッドゴーレムの軍団に襲い掛かり。
たちまち、ウッドゴーレムをキャンプファイヤーの如く、焼き尽くした。




