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15-27. 蹂躙Ⅶ

ただ大量に魔物を狩りたい一心で僕が展開爆弾エクスパンジョン・エクスプロージョンを使い、意図せず『大量魔物目潰し事件』とかいう凄惨な状況を作り出していた頃。


乱戦状態の中で散らばったコース達も、それぞれ頑張ってたみたいだ。











「オイオイどうした嬢ちゃん! さッきから逃げテばっかりじャねぇか!」

「……うっ、うるさいー!」


順調に魔物を狩り続けていたコースだが、徐々に魔物の軍勢に押され始めていた。



「ペッシャンコになりやがれ!!」

ズゥゥン!

「うわぁっ!」


振り下ろされたハンマーをギリギリで避ける。


「魔法を使う隙さえ与えねば、魔術師など的と同義!」

「おとなしく我々に殺されるのだ!」

「いーじゃん! 私だって戦いたいんだも————

ガブっ

「うわっ! アブないー!!」



首元を狙ってきたウルフ2頭をしゃがんでやり過ごす。



「オラオラァ! 避けてばッかで良いのかァ?」

「やだッ! 私だって……!」

ブゥンッ!


後ろに飛び退き、振りぬかれたハンマーを避ける。

……だが、コースは避けるので精一杯。熊に煽られたとおり魔法を使う隙が無い。


「グラアァァァ!」

「いやァーッ!」


避けた先のコースに迫っていたのは、狼の鉤爪。

咄嗟に水色のとんがり帽子のツバを握り、ギュッと眼を瞑り————




ザシュッ!!

「いッ…………!!」


狼とコースが、交錯。






……だが。



「……チッ、外したか」


背後から聞こえるのは、狼の悔しそうな呟き。



「…………えっ?」


その言葉の通り……コースに怪我は無かった。

痛みも無かった。


だが…………とんがり帽子に鋭い爪跡が入り。

数本切られた青い長髪が、風に飛ばされていった。



「大チャンスだったじャねぇカ! 何しくじッてンだクソ雑魚犬!」

「手前ェもペッシャンコにされてェのか?! あァン?」

「……失礼。だが、次こそは仕留める!」


一撃を外した狼の意識が、コースから周囲のヤジを飛ばす熊に向く。

————隙が出来た。



「……あーもう! ウットーしい!」


そのタイミングを逃さず、一瞬で【水系統魔法】に集中するコース。



「ジイさまから貰ったお気に入りの帽子だったのにー!」

「なっ……しまった!」

「クソッ! 隙を与えちまった!!」


右手に握った、魔法の杖に青い光が溜まり————




「責任とってよねー! 【大波領域Ⅰ】(ウェーブ・リージョン)!!」

ザザザザザザザ…………!!!


直後。

コースの足元から、大量の水が湧き出し。



「まずい! 波で身動きが……ゴポゴポッ!!」

「クソッ! 全然動けねェ!」

「やべェッ……! 俺泳げねェんだよ!!」


砂が水を吸うスピードを上回る勢いで上昇する、水位。

コースの周りを囲っていた狼や熊を、1頭残らず呑み込んでいき。




「7倍INTのチカラって…………スゴーい!!」


瞬く間にコースの立っていた周囲一帯は、さながら深いプールと化していた。


砂漠の上に、円く広がるプール……その直径は、魔物の包囲網のソレの半分ほどにも達し。

普段のコースでは、決して…………プロの水系統魔術師が数人集まっても出来ない規模だった。




「それじゃー……エイッ!」

そんなプールの中心でプカプカ浮かぶコースが、杖を振るうと。



ザァァァァァァ…………


プールの中心から立つ、波。

波は、ゆっくり円状に広がっていき。



「なっ……波が来ンぞォ!!」

「おい熊! 貴殿のハンマーで奴の魔法を止めろ!!」

「無理に決まってんだろクソ雑魚犬が!」


ザッパアァァァァン!!



大波となって、溺れかけの魔物を外側へと押し流していった。






「キャアァァァァ!!! 溺れるぅー!!」



……魔法を使ったものの未だに制御しきれてない、コース自身も一緒に。











「あーぁ。靴がズブ濡れじゃんか……」


【大波領域Ⅰ】(ウェーブ・リージョン)の影響を受けたのは、勿論敵の魔物だけではなく。

コースからちょっと離れた所で戦っていた僕達も、少なからず被害を受けていた。



突然、ふくらはぎの下くらいまでが水に漬かり。

『何が起きた!?』とビックリしつつも、お足元が悪い中なんとか魔物相手に戦い続けてると。

ザパーンという波と共に、溺れてピクピクしてる魔物が次々漂着する始末。


まぁ、靴がビショビショになっちゃったのが気に食わないけど……幸い味方(コース)の魔法だって直ぐに分かったし、かなりの魔物が一斉に戦闘不能になってるし、結果オーライだ。




という事で。

残りの魔物、どれくらいになっただろうか。



【判別Ⅱ】(ディスクリミナント)!」


『戦闘不能になった魔物を除いた、僕の周囲に居る魔物の数』を【判別Ⅱ】(ディスクリミナント)でカウントする。



……ってか、そういや『ディスクリミナント』って意外と名前長いよな。

毎回毎回、読み上げるのが面倒だ。


うーん…………そうだな。確か判別式って『Ð』で表してたハズだし、今度から【判別Ⅱ】も『Ð』で良いか。

そうしちゃおう。





「……っと」


そんな事を考えてる間にも、魔物のカウントは既に終わっていたようで。

僕の頭に浮かんだ数字は…………。



「よっ……4万6千!?」。



頭の中に浮かぶのは、間違いなく『46368』だった!?

……あれ、さっきまで6万とか言ってなかったっけ……?


こんな数分の間に1万4千も戦闘不能に陥れたのかよ!?




……まぁいいや。きっと僕の『大量目潰し事件』とコースの『【大波領域Ⅰ】(ウェーブ・リージョン)』が効いてるって事だろう。


さぁ。

この調子で魔王群を壊滅させて、フーリエを守るぞ!





















「……不味い」


大変な事になった。


やはり……先程の軍団長の『一度落ち着け』という忠告に、従うべきだったのかもしれない。

頭の冷えた今になって、後悔が募る。




完全に頭に血が上っていた私は……自らが立てた作戦を無視し、数の力に任せて『白衣の勇者』を討伐するよう指揮した。


数の差は、70000対5。


たとえ常人にその何倍もの力を与える【強化魔法】であっても、その差は覆される事は無い。

たとえ奴が操る謎の【強化魔法】でも、差が覆されることは無い。

……そう思っていた。

数の力に任せてゴリ押しすれば、どう考えようと奴に負ける筈が無いと思っていた。




だが……それが今、完全に裏目に出ていた。


……侮っていた。

奴の操る謎の『強化魔法』、その強さを。

奴の魔法は、私の想像の上を行っていた。



我が軍の主力であるフォレストウルフやハンマーベアを一撃で斬り伏せ、砂漠という環境の中で見た事が無い規模の【大波領域Ⅰ】(ウェーブ・リージョン)を発動し、更には原理不明の弓矢を避ける術を操り。


弓撃部隊のアイビィ・アーチャーも、魔撃部隊のマジカルキャッツもほぼ全滅。

討伐部隊のフォレストウルフとハンマーベアも、とうに半数を切り。



8万だった筈の軍が7万、6万、4万5千、3万と減っていき…………そして今や、2万を切っている。






「…………」


このままでは……『白衣の勇者』の討伐、失敗に終わりかねない。

その上、第三軍団が全滅しようものなら…………もう魔王様には顔を向けられない。

指揮官(ナンバー3)失格どころか……死罪だ。




「……だが」


我々には、まだ希望が有る。


アーチャーも、マジカルキャッツも。

ウルフも、ベアも相当数を減らしたが。



我が軍には――――まだ、『切札』が残っている。

まだ……奴を殺す手段なら残っている。




それは…………此奴らだ。






「行け! ウッドゴーレム!!」











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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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