15-25-1. 『数の力、数学の力』
【展開Ⅱ】の白煙が、晴れると。
そこには。
「「「「「キャァァァァァッ!!!」」」」」
「「「「「痛ったぁぁぁい!」」」」」
「「「「「いつの間に……傷がぁ!?」」」」」
「「「「「な、何が起きたのぉ……?」」」」」
『一網打尽』の名の通り、シンのたった一振りで。
身体をお互いに折り重ね。
悲鳴や呻き声がこだまし。
同じ形の傷を、同じ部分に負い。
その傷から、勢い良く血を噴き出させ。
着ているローブは、鮮血で赤く染め上げられ。
それでもなお血は溢れ、身体を伝って紅い砂漠を作り出し。
ついさっきまで、4個もの巨弾を繰り出し。
一時は僕達を追い詰めていたハズの、猫の軍勢は。
今や、まさに『死屍累々』となっていた。
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先程の弓撃部隊に次いで……またしても、眼前のマジカルキャッツが地に伏した。
しかも、一瞬で。
「まっ……魔撃、まで………………」
一瞬にして、1万の兵を手負いにする……奴の魔法。
あの大魔法すら跳ね除けた……青いバリア。
……何故、そんな力を持っているのだ?
「……何故だ」
何故、私の作戦を……『白衣の勇者』は、私の完璧な作戦を尽く潰していくのだ。
「…………何故だ!」
所詮、戦闘職でもない只の『数学者』のくせに。
死ぬまで机と向かい合う、戦闘とは無縁の筈なのに。
……何故、そんなにも強いのだ!
「…………何故だァッ!」
何故……私の作戦を…………いとも簡単に壊して回るのだッ!!?
「何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だァァッ!!!」
苛立ちと怒りに任せ、仮面越しに咆哮を放つ。
軍団長が、周囲の魔物が、驚いて目を丸くする。
「……おい、セットよ! 一度落ち着け!」
頭上の軍団長から声が掛かる。
……が、こんな状況で落ち着ける訳がない!
「落ち着いてます軍団長ッ!!!」
「嘘を言え! そんな調子で指揮官が成り立つと思っているのであるか!」
「大丈夫ですッ!!!」
私自身でも興奮しているのは分かっている。
が……練りに練った作戦をこう何度も何度も崩されていては…………冷静で居られる筈が無い。
ここで強引に気持ちを落ち着けようものなら……怒りのエネルギーで身体が爆発してしまいそうだ!!
すると。
「……分かった」
軍団長は、目を瞑り。
「……ならば、貴殿に任せる」
「…………」
「責任は吾輩が取ってやるから、貴殿の好きにしろ」
「…………」
一言呟き、軍団長は元の腕組み姿勢に戻った。
……そう。それで良いんですよ、軍団長。
そうすれば……この怒りのエネルギーを『白衣の勇者』にぶつける事が出来る!!!
「……では」
もう、こうなったら作戦など不要。
奴をさっさと殺すには『軍団総攻撃』を仕掛けるまでだ。
————『人海戦術』という言葉が有る。
————『数は力なり』という言葉も有る。
————『数の暴力』という言葉も有る。
————『数に物を言わせる』という言葉も有る。
我が軍は7万弱まで数を減らしてしまったが……敵は5人。
7万弱の軍勢が、たった5人に負けるはずが無い。
我が軍の主力である『討伐部隊』、その全兵力を以って……奴を『数』で押し潰すのだァ!!!
∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇
「フゥ……なんとか作戦成功ですね、先生!!」
「おぅ!」
一網打尽作戦から、シンが凱旋。
いつの間にか耳鳴りも収まってたので、今ならシンの声も、ちゃんと聞こえる。
「シンの一撃、良かったぞ!」
「ありがとうございます。……先生の【演算魔法】も、相変わらずの『壊れ性能』と言う他有りませんね」
「黙っとけ」
まーたそうやって【演算魔法】の事を悪く言ってさー……。
良いじゃんか、壊れ性能。
僕は好きだよ————
すると。
赤鬼の足元に立つ、セットから。
「魔王軍・総員ッ!!!」
号令が、掛かった。
と、同時。
魔物の壁をなす、狼が。
熊が。
巨大ロボが。
ジワジワと、蠢き始める。
……成程な。
セットが口にした、『総員』。
そして、落ち着きを無くしソワソワし始める周囲の魔物。
コレを見ちゃあ……もう、次何が起こるか分かったも同然だ。
……ついに来た。
この瞬間が。
「やっと来たな」
「ええ。……始まる、のね」
「私達5人と、魔王軍の…………『乱戦』ですよね?」
「おぅ」
アークとシンが僕を見つめる。
……僕達の周りを大量の魔物が囲ってた時点で、いずれこうなる事は分かってた。
敵は何万という数を揃える魔物の軍勢。頭数で押し切られちゃ、僕達だってタダじゃ済まないかもしれない。
……けど、やるしかないじゃんか。
「ぃよっしゃぁ! 俺らも腕が鳴るぜ!」
「さてーっと、私たちも頑張っちゃうよー!」
戦う気満々のダンとコース。大盾を構え、魔法の杖を構える。
……相変わらずコイツらは戦闘狂だな。
「先生……私達、勝てますよね?」
「ん?」
そんな2人と裏腹に、弱気のシン。
……何だよ。ここまで来て心配性発動してんのかよ。
「勿論。あの巨弾さえ跳ね退けた『領域』が僕達には有んだぞ」
「そうよ。ケースケを信じて戦えば、わたし達なら勝てるって! シン!」
「……そうですね!」
……そんなに信頼を寄せられちゃ困っちゃうよ。
とりあえず、皆の信頼を裏切らない程度には【演算魔法】を駆使してみせるけどね。
まぁ、そんな事を話しつつも。
長剣を握り直す、シン。
魔法の杖を突き出す、コース。
大盾を構える、ダン。
両手で槍を握る、アーク。
そして……ナイフを抜く、僕。
お互いに背中を合わせ、ジワジワ動く魔物の壁に向かい合う。
「……【判別Ⅱ】」
直後、頭に浮かぶ『66708』の数字。
草人形と猫軍を倒し、残り魔物数は6万6千まで減った。
……さて、ココからが山場だ。
「敵は残り6万6千頭だ。漏れなく全員殺して、フーリエを守る。……良いな、シン、コース、ダン、アーク?」
「ええ、勿論!」
「大丈夫です、先生!」
「オッケーだよ!」
「いつでも掛かってきやがれ!」
ためらうことなく、返ってくる返事。
……よし。
「……それじゃあ」
————さて。準備は整った。
僕達を囲む、6万6千の魔物と。
まだ20歳にもなってないくらいの、たった5人の子どもとの。
「数の力を以って……『白衣の勇者』共を蹂躙せよ!!」
「数学の力で…………魔王軍、1頭残らず蹂躙するぞ!!」
「「「「「オオオォォォォォォ!!!」」」」」
「「「「おう!!!」」」」
乱戦が、始まった。




