3-5. 成果
「はいこんにちは。———って今朝の少年じゃん。依頼受けるんなら隣の列だけど」
「い…いや、買取をお願いします」
「ふーん、初日から頑張るな。じゃ、とりあえずステータスプレートかざして、机に収獲出してって」
依頼の受理と間違われた。
初日から獲物を狩ってくる冒険者ってそんなに居ないのだろうか?
…ま、まぁいい。とりあえず厳つい顔のお兄さんに言われた通り、ICカードよろしくステータスプレートを水晶にかざし、机に収獲を出していく。
全部で13匹だ。パンパンだったリュックが少しずつ小さくなっていく。
「ま〜だ出てくんのか。初日から飛ばし過ぎじゃないの?」
「もうちょいです、すんません」
10匹出した辺りでこう言われてしまった。
タンクトップでゴリゴリめちゃマッチョで、顔が超厳ついお兄さんにこう言われるのだ。少し焦る。
そして全て取り出した。
「これで全部です」
「ほー。お前、結構やるな。冒険者にしちゃ筋肉も無いヒョロヒョロで、防具もロクに付けずナイフ1本で出て行ったから死にかけて帰って来るとでも思ったが、中々な収獲だな」
…ヒョロヒョロですいやせんでしたね。職が戦士な皆様とは違ってこちとら一介の貧乏数学者やってるんで。
「チキンは全て質が良い。血抜きも完璧、羽毛も傷・汚れが無いから割と良い値が付くだろうな」
「おぉ!」
マッチョ兄さんのお墨付きを得た。
割と頑張った血抜きも褒められたぜ。
よし、これは買取金額に期待出来るぞ!
「ラットの方も爪に傷は無ぇな。皮はどれも傷が多めだが、そう値落ちはしないだろ」
…ディグラットには苦戦させられたからな。なかなか一発では行かず、何度もダメージを与えなければならなかった。
その結果が皮に残った多くの傷跡として今現れているんだな。
よし、もっとATKを上げて目指せ一発KO!
「んじゃ、ちょっと待ってろ。買取金額の計算してくるからよ」
「はい」
そう言ってマッチョ兄さんは僕の獲物を片手で抱え、奥へと入っていった。
さーて、幾らになるかなー?
ドキドキしながらカウンターで待つ。
アレか。きっと働き始めて初任給を貰う瞬間ってこんな感じなんだろうか。
ドアの奥からチャリチャリと硬貨のぶつかる音が聞こえる。聴いた感じ、少なくない枚数だ。
あーヤバい。期待と緊張で少し呼吸まで乱れてきた。
…よし、落ち着け、落ち着け僕。
そんなに焦らずともマッチョ兄さんはじき戻ってくる。
「……フゥ」
呼吸が落ち着いてきた所でマッチョ兄さんが帰ってきた。
「はいじゃあお待ちかねの買取金額です。まずはラットの方から。普通1匹銅貨50枚なんだけど、皮がダメだったので1匹銅貨30枚。これが7匹で合計銀貨2に銅貨10」
「おぉ!」
銀貨2、銅貨10なら日本円にして…幾ら分だ?
頭の中で計算するのが面倒だが、とりあえず宿代にも足りてないことは分かった。
さて、本命のチキンは一体幾らになるだろうか…?
「次にチキンの分な。1羽銀貨2枚で6匹、合計銀貨12枚」
「おおぉ!!」
すげぇ!ちょっとラットの金額が振るわなかったので心配ではあったが、チキンの金額ハンパない!余裕でポーション代も取り返せたし、宿にも2日は泊まれるな。
という事は、合計の買取金額は銀2、銅10と銀12を合わせて……
その瞬間、フッと全身に流れる脱力感と頭に浮かぶ文字列。
「という訳で買取金額は———」
「…銀14、銅10……ですか!?」
「おぉ、そうだ。1日目にしちゃ、よく頑張ってんな。明日からも頑張れ」
ふと頭の中に浮かんだ『銀14 銅10』を何気なく口にしてしまった。
そしてそれに驚くというセルフドッキリ。
暗算の苦手な僕がいきなり足し算の合計を言い当てたのだ。
無意識に発動した【加法術I】のお陰であるとはいえ、自分では内心とてもビックリしている。
まぁそれはいいとして、銀貨14枚ものお金が得られた。冒険者サイコーだな!!
硬貨が入った袋をマッチョ兄さんから受け取る。
「ありがとうございます!……うぉっ」
見た目に反して意外と重いな。手から滑り落としそうになった。
「ハッハッハ、気をつけろよ」
マッチョ兄さんに笑われてしまった。
「にしても、お前面白いな。武器はその腰の小さなナイフで、防具は無し。そのクセしてステータスは今日スタートの新人にしちゃ高い。お前、一体何者なんだ?何戦士の職を授かった?」
「あぁ、一応、僕数学者なので」
皮肉かよ。
まぁ、皮肉じゃない事は分かってるけど。
マッチョ兄さんの言ってる事は分かる。朝のステータスは加算済みだったからな。新人なら装備分のステータス込みでATKもDEFも20前後くらいだろうが、僕はナイフのみでATKが29、DEFに至っては防具無しで24だ。
ステータスが加算されている事を知らなければ、素の
ステータスが高いという認識になるだろう。
「ハッハッハ、そうだったな。学者さんだったな。しかし朝のステータス確認の時には魔法のバフとかも掛かってなかったし、随分と戦闘に特化した学者さんじゃねえか」
ちなみに、マッチョ兄さんのいうバフとは、系統魔法にあるステータス強化の魔法を指す。この種の魔法を使うと、受けた人はキラキラと光る粉みたいなモノで全身を覆われ、オーラを纏ったかのような状態になるようだ。
その粉とは火や水、風、土の魔法であり、その力を使ってステータスを強化するらしい。細かい事は分からないが、図書館の本にそう書いてあった。
それに対して僕の【演算魔法】は系統魔法みたいに魔法でステータスを上乗せする形式ではなく、加算して『上書き』するものだ。時間制限はあるが、数字を書き換えてしまうのである。
勿論、魔法のオーラも現れないのでバレない。
「バフの魔法を掛けてくれる伝も無いですしね」
「まぁしゃーない。冒険者続けてれば、いずれ仲間が出来るだろうよ。じゃあ頑張れ」
「はい。頑張ります!ありがとうございました!」
さて、話も一段落した。そろそろギルドを出るか。
ステータスプレートを引っ込め、カウンターから去ろうとした時。
「あ、あとお前に1つ言っておいてやる」
マッチョ兄さんに呼び止められた。
なんだろうか?
…え、まさかここまで来て面倒ごとに巻き込まれるとかマジで嫌だよ?
 




