15-23. 蹂躙Ⅲ
「魔王軍…………お前らは————全員、抹消する!!!」
今度はこっちの番。
……そんな気持ちを乗せた僕の叫び声が、魔王軍へと響き渡る。
「ふざけるなァ!! やれる物ならやってみろ『白衣の勇者』ァ!!!」
セットのくぐもった声が速攻で返ってくる。
……言われなくてもやってやるよ。
「弓撃部隊、次射用ォ意!!」
セットの号令が掛かり、一斉に動き出す草人形。
腰の矢筒に手を掛ける。
「もう一度斉射態勢ッ!! 次こそ奴を射貫けェ!!!」
草人形の軍勢を見回しつつ、号令を続けるセット。
……まぁ、もう一度やったところで結果は変わらないけどね。
命中確率が0じゃ、何万本矢を放とうが僕達には当たらないのだ。
————ってか、そもそも『もう一度』なんてさせないから。
改めて僕達を囲む魔王軍を流し見ながら、魔法を唱える。
「……【判別Ⅱ】」
直後、頭に浮かんでくるのは『80125』の数字。僕達の周りを囲む『魔物の数』だ。
……うわっ、兵総勢で8万も居んのかよ。
8万の敵に囲まれる、5人の子ども。
普通ならこの状況は絶望的だ。
————普通、ならね。
矢筒から矢を引き抜く草人形を眺めながら、右膝をつき。
夜明け直後のヒンヤリした砂に、両掌を突く。
「【求解Ⅱ】」
矢を弓に番える草人形を見つめ、魔法で距離を測る————
ピッ
===【求解Ⅱ】結果========
対象との距離:50m
対象の身長:1.58m
===========
と、すかさず現れるメッセージウィンドウ。
……成程。って事は、50m先で身長1mの高さを狙えば十分だな。
一次関数の傾き……『y=ax+b』でいう『a』は、どんだけ横に進むとどんだけ縦に進むか、その比だ。
今回は『50m進んで1m上昇』。ならば、その傾きは……【除法術Ⅲ】を使うと…………『1 ÷ 50』で0.02!
————さあ、準備オッケーだ。
僕達をぐるりと囲む、草人形の軍勢を。
弓を構える草人形の軍勢を、ジッと眺め。
砂に手を突く、両掌に力を込めて。
「……【一次直線Ⅳ】・y=0.02x!!!」
唱えた。
————砂削切断。
それは……砂漠に溢れる砂を高速で撃ち出し、『砂の直線』を作り出す魔法だ。
高速で飛ぶ砂は、それら1粒1粒が『刃物』。1粒1粒は小さかろうと、そのスピードで触れた物を削り取っていく。
そんな砂が集まって出来たレーザーは……もはや切れ味の鋭い『ヤスリ』。
一瞬でもレーザーに触れれば、その部分は一日中ヤスリに掛けられたかのように『削りカス』と成り果てる。
そんな、砂のレーザーが。
ザアアアァァァァァァァァァァ!!!
両掌の直ぐ傍から勢い良く飛び出し。
a=0.02に従いながら、砂漠スレスレで低空飛行しつつ。
僕から離れるのに伴って少しずつ高度を上げながら。
草人形の胸部へと、一直線に向かい……————
ブチブチブチッ!!!
繊維が断ち切れる音と共に、ツタで出来た身体を軽々貫通。
ブチブチブチッ!!!
そのまま、貫通したレーザーが後ろの草人形の首元にも貫通。
……一瞬で草人形2頭を仕留めてしまった。
「…………なァッ……!!?」
一瞬の出来事に、セットも驚きで言葉を失っている。
……けど。
こんなんで驚いてちゃまだ早い。
タカが2頭で終わりだと思うなよ。
「ぃよっ…………と!」
砂削切断に意識を向けつつ、車のハンドルの要領で両掌を左に回転させると。
ザアアアァァァァァァァァァァ!!!
……切れ味最強の砂のレーザーも、僕を中心にゆっくりと左に回転。
レーザーの射線が、ゆっくり左へと動いていき————
ブチブチブチッ!!!
ブチブチブチッ!!!
ブチブチブチッ!!!
立ち並ぶ草人形の胸元を、続々と切断していった。
物凄い勢いで量産されていく、頭部の無い草人形。
それはもう…………今の『2頭』とかいうレベルじゃなかった。
ブチブチブチッ!!!
ブチブチブチッ!!!
ブチブチブチッ!!!
射線が左へ左へと進むにつれ、続々とレーザーに呑み込まれていく草人形。
彼らの胸部が、横一直線にキレイに切り揃えられていく。
「……おぉ!」
そんな光景を眼にし、思わず歓声が漏れる。
…………コレは凄い!! 芝刈り機を掛けてるみたいな気分だ!!!
「やっ……止めろォォォォォォォ!!!」
どこかからセットの叫び声が聞こえてくるけど、全く気にならない。
……いやいやいや、止める訳ないじゃんか?
ブチブチブチッ!!!
ブチブチブチッ!!!
ブチブチブチッ!!!
そんな間にも、芝刈り機のように次々と草人形を斬り進むレーザー。
次々と餌食となっていく草人形。
防御した気なのか、弓を下ろして身構える草人形もちょくちょく居るんだけど……所詮はツタ。そんなの御構い無しだ。
そんな、量産された頭部の無い草人形は次第に力を失い、バタバタと倒れていき。
……『魔物の壁』の足元には、『サツマイモの収穫後』みたいな塊が無数に出来上がっていく。
「クソォォッ!!!」
表情は分かんないけど、セットも悔しがっているみたいだ。
……ああー、イイねーイイねー!! 爽快だね!!!
なんだか凄いスッキリするよー!!!
……だが、セットも黙っちゃいないようで。
「斉射だ!!! 撃てェェッ!!!」
そう号令を掛けるや否や、無事な草人形達はシンクロしながら矢を放つ。
……あっ、しまった。
『もう一度』させないつもりだったんだけどなぁ……。
……けどまぁ、いずれにせよ結果は同じだ。
「先生! 再び矢がッ!!」
「おぅ」
分かってる分かってる。
だからそんな心配すんなって、シン。
……さて。
この瞬間だけは砂削切断の回転が止まるけど、仕方ない。
両掌を砂に突きつつも砂のレーザーから目を離し、視線を矢の雨に向ける。
「あの『矢』が僕達に命中しませんように……【確率演算Ⅱ】!!」
だいぶ薄くなった『矢井』を見上げながら、魔法を唱える。
と同時、身体から魔力が少し抜けた感覚。……【確率演算Ⅱ】が発動した証拠だ。よしよし。
そして再び、視線を砂のレーザーに戻して……砂削切断の射線を動かすのに意識を向ける。
サクサクサクサクッ
サクサクサクッ
僕の前後左右から、弓が砂漠に刺さる音が響く。
僕の眼の前を通って行ったり、腕スレスレを通って風を感じたりする矢もあるけど……絶対に当たりはしない。
「先生スゴーい!!」
「おぅ、ありがとなコース!」
後ろからコースの歓声が掛かる。
……って事は、コース達にも矢は当たってないんだろうな。安心安心。
という事で。
大量の矢が降る中でも、気にせず僕は草刈りを続けていった。
そして。
「……クッ、何故……何故当たらない!! 何故だァァァァァッ!!!」
矢井第二弾が終わり、セットが叫んでいる頃には。
……僕達をグルリと囲んでいた草人形の左半分が、居なくなっていた。
「フゥ……」
やりきった感満載のまま、両掌を砂から離して立ち上がり。
「……【判別Ⅱ】」
パンパンと砂を払いながら、そう唱えると。
即座に頭の中に返ってくる、『75025』の数字。
成程……、魔物は残り約7万5千か。
確か、さっき8万だったから……今の砂削切断でザッと5000くらいの草人形を刈り取っちゃったのか。
……自分でもビックリだ。
一度に4000もの魔物を倒しちゃあ……スッキリもするよな。
さて。
それじゃあ……このまま、残り半分の草人形達も一層して————
「魔撃部隊!!!」
突然、セットの号令が掛けられる。
……と、同時。
ザッザッザッザッ……
ザッザッザッザッ……
蔦の山の奥から響いてくる、砂を踏みしめる足音。
……が、姿はまだ見えない。
「……魔撃…………」
「ブタイー……?」
「あぁ。そう言ってたな」
「俺にもそう聞こえたけど、よお……」
「どんな魔物……なのかしら?」
まだ見えない、蔦の山に隠れた敵に警戒する僕達。
ザッザッザッザッ
ザッザッザッザッ
段々と、その足音が大きくなり……————
蔦の山を、踏み越えて来たのは。
「さあ、出番よ! マジカル・キャッツ!!」
「アタシ達がやっつけちゃうわよぉー!」
「「「「「はぁーい!」」」」」
……猫。
とんがり帽子を被った、猫の軍勢……だった。
「うわっ、カーワイィー!」
「いやいや、そんな場合じゃ無いですよコース!」
「けど、思ってたより可愛い魔物……かな」
なんだよ。
コースもアークも、見た目で敵意喪失しないでくれよ……。
……まぁ、とにかくだ。
「……とりあえず、どんな魔物でも俺らはブッ倒しゃ良いんだよな、先生?」
「おぅ!」
さて。
第2ステージ、開幕と行こうか!




